カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Attahaasa】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2013/02/22 22:36   >>

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 しばらく前から公開を楽しみにしていたのがこの【Attahaasa】。楽しみの理由は本作がヴィーラッパンの伝記映画であるということ。
 インド通の方には知られていると思うが、ヴィーラッパンといえば、カルナータカ州、タミル・ナードゥ州、ケーララ州の3州にまたがる森林地帯で悪名を馳せたダコイトで、象牙やサンダルウッド(白檀)の密輸を事とし、2004年10月に特別機動部隊により射殺されるまで、200人近い人の殺害、及び要人の誘拐などを行った人物。彼はとりわけカルナータカ州では評判が悪いが、それというのも、カンナダ映画界のカリスマ的映画俳優だったラージクマールを誘拐し、3ヶ月以上に亘って人質としたからである。そんな男を性格俳優のキショールが本物そっくりに扮している。
 (写真下:左がヴィーラッパン本人、右が映画中のキショール。)

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 監督は【Cyanide】(06)で評価されたA・M・R・ラメーシュ。【Cyanide】と同じく、やはりセミドキュメンタリー・タッチの作品だと予想された。

【Attahaasa】 (2013 : Kannada)
脚本・監督 : A.M.R. Ramesh
出演 : Kishore, Arjun Sarja, Vijayalakshmi, Ravi Kale, Suresh Oberoi, Suchendra Prasad, Adukalam Jayabalan, Sampath Ram, Lakshmi Rai, Yogi Devaraj, Bhavana Rao, Dinesh Mangalore, A.M.R. Ramesh, その他
音楽 : Sandeep Chowta
撮影 : Vijay Milton
編集 : Anthony
制作 : A.M.R. Ramesh, V. Srinivas, Jagadeesh

題名の意味 : (人を殺したときなどに感じる快感)
映倫認証 : U/A
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : 伝記
公 開 日 : 2月14日(木)
上映時間 : 2時間50分

◆ あらすじ
 ヴィーラッパンは1952年1月18日、タミル・ナードゥ州との州境にあるカルナータカ州ゴーピナータム村に生まれ、すでに少年の頃より象牙密輸の一団に加わる。成人したヴィーラッパン(Kishore)は山賊の中でぐんぐん頭角を現す。
 1986年11月15日、武器を所持していたヴィーラッパンは町の食堂で逮捕される。その時、副森林保護官のシュリーニワース(Suchendra Prasad)に出会う。シュリーニワースはヴィーラッパンに更生するよう諭すが、その声を聞き入れず、彼は拘置されていた警察署を脱走する。その頃からヴィーラッパンはより過激に武力で対立者を制圧するようになる。
 サンダルウッドの違法伐採・密輸に本格的に乗り出していたヴィーラッパンは、1987年8月4日、森林保護官のチダンバラムを殺害する。
 1990年、ヴィーラッパンはムットゥラクシュミ(Vijayalakshmi)と出会い、結婚する。その後、ヴィーラッパンの妹が自殺するという事件が起きるが、その原因となった人物として、彼は副森林保護官のシュリーニワースを惨殺する。
 ヴィーラッパンの所業を重く見たカルナータカ警察は、1992年2月、チャンディニ(Bhavana Rao)という女性を利用し、ヴィーラッパンの腹心グルナータン(A.M.R. Ramesh)を射殺する。だが、ヴィーラッパン一味はその報復として、同年5月、コッレーガールのラーマプラ警察署を襲撃する。
 さらにヴィーラッパンは、1992年8月14日、特別機動部隊の2人の警官(ハリクリシュナとシャキール・アハメド)を殺害、翌年4月には警官隊の車列を爆破する。
 1993年5月4日、ヴィーラッパンは反撃に出た特別機動部隊に襲撃され、自分の子供の命を失う。さらにこの機に妻のムットゥラクシュミが警察に拘束される。
 1994年から1999年まで、ヴィーラッパンと警察との間で綱引き状態となる。
 2000年7月30日、ヴィーラッパンはガジャヌール村でカンナダ映画俳優のラージクマール(Suresh Oberoi)とその知人を誘拐する。同年11月14日、巨額の身代金と引き換えにラージクマールが解放される。
 その後、ヴィーラッパンは2002年8月25日、カルナータカ州の元大臣H・ナーガッパ(Dinesh Mangalore)を誘拐し、同年12月8日に殺害する。
 タミル・ナードゥ州首相のジャヤラリターは特別機動部隊の長にヴィジャイ・クマール(Arjun Sarja)を任命する。ヴィジャイ・クマールは部下のカンナン(Ravi Kale)と共にヴィーラッパン討伐のための「オペレーション・コクーン」を開始する。二人はヴィーラッパンと関係のあるミリタリー・ペリヤワル(Jayabalan)という男を買収し、スパイ活動に当たらせる。
 ミリタリー・ペリヤワルの情報を基に、ヴィジャイ・クマールらはヴィーラッパンをセーラムの病院に運ぶための救急車を準備する。2004年10月18日、その救急車にヴィーラッパンと2人の手下を乗せ、運転手に扮した警官に運転さる。そして、同日の午後9時50分、タミル・ナードゥ州ダルマプリ県パッパラパッティ村で待ち構えていた特別機動部隊がヴィーラッパンらを射殺する。

・その他の登場人物 : ヴィーラッパンの父(Yogi Devaraj),ニュースキャスターのウィジェータ(Lakshmi Rai)

◆ アナリシス
・私が本作に関心を持った理由は、A・M・R・ラメーシュ監督がヴィーラッパンという人物をどのように捉えているか、つまり「ヴィーラッパンの評価」を知りたかったからである。実は、私自身はヴィーラッパンにまったく思い入れがなく、「厄介な悪党」、「無慈悲な犯罪者」ぐらいにしか考えていない。私がマニ・ラトナム監督の【Raavanan】(10)を評価できなかったのも、同監督がヴィーラッパンとも比定できる主人公の「ヴィーラ」を肯定的に描きすぎているように見え、それに強い抵抗を感じたからである(もっとも、マニ・ラトナム監督はヴィーラッパンの伝記映画を作ったなんて言っていないが)。

・しかし、私のヴィーラッパン像は単に一般新聞やテレビニュース、周りのカンナダ人からの口コミ情報などを基にでき上がったものなので、「ヴィーラッパン、悪し」という単純なイメージで固まってしまった可能性はある。実際のところ、ヴィーラッパンは「義賊」だったという声も聞く。バンガロール在住の私の知人にサンダルウッド・ビジネスに関わっていた邦人がいるが、その人は生前のヴィーラッパンに一度会っており、彼のことを「立派な人物だった」と証言している(少なくとも、ヴィーラッパン存命時はサンダルウッドの価格は安定していたらしい)。なので、もしや「悪党にも理あり」なのではないかと、本作のヴィーラッパン像が気に掛かった。

・ところが、ラメーシュ監督のヴィーラッパン像はまったくの「悪者」として一面的に描かれており、私がニュースなどから得たイメージとほとんど変わらず、拍子抜けした(ポスターからして「the brigand」と書かれてあった)。「義賊」とか「ナクサライト」とかいう位置付けはなかったし、彼が笑顔を見せるのはムットゥラクシュミとの結婚の場面だけ、泣くのは娘が死んだ場面だけという、かなり血も涙もない悪党だった。

・片や、警察のほうはクライマックスでカッコよく描かれていた。その警官隊が首尾よくヴィーラッパンを蜂の巣にした後で、地元の村人たちが安堵の胸をなで下ろすという結末になっており、結局は正義の味方が悪を退治するという、娯楽アクション映画のフォーマットになっていた。

・脚本的には、ヴィーラッパンの生い立ちが時系列的に並ぶという単純な構成で、かなり細かく日時と場所の字幕が入り、彼の所業をドキュメンタリー的に描こうという強い意思が感じられた。しかし、上映時間が2時間50分もありながら、ヴィーラッパンという男の人物像の深い掘り下げはなく、彼を悪行へと駆り立てた動機や社会的背景の分析なども特になかった。

・もっとも、ラメーシュ監督が調査した結果、ヴィーラッパンは「結局はこういう人物だった」ということなら、それはそれで構わない。ただ、本作は伝記作品として、内容の信憑性にも疑問が残る。例えば、ヴィーラッパンはすでに癌で死亡しており、その遺体を救急車で運ぶ際に、時のジャヤラリター政権と警察が体面を保つためにその救急車を襲撃し、警察の武勇談に仕立て上げた、という噂もある。この話の真偽はさておき、公開されたヴィーラッパンの遺体写真(下)からすると、彼は確かに左眼を失っていた(癌の影響と言われている)ようだが、映画ではそうは描かれていなかった。

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・それで、当時ヴィーラッパン討伐の任に当たっていたカルナータカ警察のシャンカル・ビダリが、本作は「事実を伝えていない」とクレームを付けているらしい。実は、本作はカンナダ映画でありながら、カンナダ人にはまったく受けが悪い。というのも、ヴィーラッパン掃討に大きく貢献したのはカルナータカ・サイドの2人の警官、すなわちシャンカル・ビダリとアショーク・クマールであり、彼らの活躍で200人からいたヴィーラッパンの一団がわずか数名にまで弱体化したということなのだが、映画ではそれがクローズアップされていなかったからである。

・そんな訳で、シャンカル・ビダリは「真説・ヴィーラッパン伝」のストーリーをラーム・ゴーパール・ヴァルマ監督に売り、同監督が目下製作中ということらしい。こちらもRGV監督の趣味性の強い映画になりそうで、怪しいのだが、とにかく本当に完成・公開されたなら、観比べてみたいと思う。

◆ パフォーマンス面
・ヴィーラッパン役のキショールは、とにかく似ていたし、演技的にも文句はない。強烈なキャラクターなのだが、演じるのはそう難しくなかっただろう。
 (写真下:素のキショール氏。こうやって見ると、髭だけでなく頭部も増毛しての熱演だったことが分かる。)

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【Kadal】(13)では悪役にも旨味を見せていたアルジュン・サルジャーだが、本作では彼らしいヒロイックな役柄。さすがにカッコよく決めていた。

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・ヴィーラッパンの妻ムットゥラクシュミを演じたのはヴィジャヤラクシュミ。出番が少なかった上に、出番の半分ぐらいで「全身モザイク」がかかり、姿が見えないという損な役回りだった。(このモザイク処理は、どうやらムットゥラクシュミの抗議を受けての処置らしい。)
 (写真下:左がヴィジャヤラクシュミ。右はムットゥラクシュミ本人。)

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・私的に注目だったのは、ラージクマールを演じたスレーシュ・オベロイ。自信はないが、ラージクマールを俳優が演じるというのは初めてのことじゃないだろうか。私の目には十分エレガントに演じているように見えたが、カンナダ人(特に、ラージクマール・ファン)にはまったく納得できないものらしい。

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・ラクシュミ・ライの名前がクレジットにあったので、一体どんな役をやるのか楽しみだったが、ラージクマール誘拐事件を報道するニュースキャスターの役だった。残念ながら、まったく見るべきところはなかった。

◆ テクニカル面・その他
・音楽はサンディープ・チャウターの担当だが、いわゆる音楽シーンはない。BGMと効果音は良かった。

・ヴィジャイ・ミルトンの撮影も良い。【Raavanan】(10)のサントシュ・シヴァンのような芸術的な映像ではないが、南インドの森林地帯の光景は上手く捉えられている。撮影の多くは、ゴーピナータム村を始めとして、実際にヴィーラッパンが活動した所で行われたらしい。

◆ 満足度 : ★★☆☆☆
◆ 必見度 : ★★☆☆☆

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 2月16日(土),公開第1週目
・映画館 : Gopalan Cinemas (Sirsi Circle),10:00のショー
・満席率 : 1割
 

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ジャヤ様は誰が演じたのですか?
メタ坊
2013/02/28 09:37
気になるところですね。WikipadiaにはJayachitraの名前が載っているので、きっとそうなのだと思いますが、実際の映像では、ジャヤラリター役は手のアップとか、後姿とか、ピントぼかしとかしかなく、誰と特定できるものではありませんでした(理由は分かりません)。
カーヴェリ
2013/02/28 09:58

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