カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Bhairavi】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2013/07/20 02:59   >>

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 先日、マーラーシュリー主演のカンナダ映画【Election】鑑賞記の中で、カンナダ映画界では強き女性をヒーローとした「女傑物」がコンスタントに作られている、ということを書いたが、そう言ったものの、実際の映画作品としてはマーラーシュリーのもの以外観ていなかった。それではいかんと思い、ディスクを集めて、プリヤー・ハーサンの【Jambada Hudugi】(07)と【Bindaas Hudugi】(10)、アーイーシャの【Jayahe】(10)、【Bete】(11)、【Lady Boss】(12)を鑑賞した。これは頭の痛くなる作業であったが、同時に、インドの大衆映画/B級映画の面白さも再確認でき、改めてインド映画を鑑賞するには目が2つでは足りないということを認識した。
 で、ディスクではなく、映画館の大画面で「女傑」を見たいなぁ、と思っていたら、ひょっこりアーイーシャ主演の新作が封切りされたので、外さず観て来た。

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 アーイーシャは「Lady Bruce Lee」の異名をとる本格アクション女優で、売りは「空手黒帯保持者」と言われる武術の腕前。今のところカンナダ作品に出演しているが、こちらの記事によると、どうやら彼女はティルパティ出身のようで、子供時代に子役でテルグ映画にも出演していたらしい(こちら)。どういう経緯でカンナダ映画デビューしたのかは知らないが、とにかくデビュー作の【Jayahe】は100日ロングランとなり、監督のスリラー・マンジュも彼女の才能を称賛している(こちら)。
 本作はそのアーイーシャが女警官の役をやるというもので、折しも前日に【Singam II】を観たばかりだったので、ちょうど良い見比べとなった。

【Bhairavi】 (2013 : Kannada)
脚本・監督 : Ha. Su. Rajashekhar
出演 : Ayesha, Mico Nagaraj, Suchendra Prasad, Neenasam Ashwath, Ramesh Bhat, Dilip Raj, M.S. Umesh
音楽 : Veer Samarth
撮影 : Gauri Venkatesh
制作 : Vijay Surana

題名の意味 : バイラヴィ(女ヒーローの名前)
映倫認証 : U/A
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : アクション
公 開 日 : 7月12日(金)
上映時間 : 2時間5分

◆ あらすじ
 バイラヴィ(Ayesha)は曲がったことの嫌いな、悪や不正が赦せない婦人警官だった。彼女の管区には大物政治家のアッパージー・ガウダ(Mico Nagaraj)がいたが、政治家の仮面の下で数々の悪行を行っていた。バイラヴィはそれを取り締まろうとしたため、警察署の同僚デーヴィッド(Neenasam Ashwath)や警察副本部長(Suchendra Prasad)から疎まれる。彼ら二人はアッパージーの支持者だったからである。
 バイラヴィの存在を鬱陶しく思ったアッパージーは副本部長に苦言を呈する。副本部長はバイラヴィに警告を発するが、彼女がまったくそれを受け入れなかったため、彼女を停職処分にする。
 停職期間中にバイラヴィはアッパージーの手の者に絡まれ、大乱闘となる。そして、運悪くこの乱闘に巻き込まれたバイラヴィの父(Ramesh Bhat)が死亡してしまう。しかし、この死亡はバイラヴィのせいにされ、彼女はデーヴィッドにより殺人の廉で逮捕される。
 バイラヴィの兄(Dilip Raj)とバイラヴィを支持する同僚警官のヴィクラムは対策を相談する。そして、バイラヴィの兄がアッパージーに謝罪し、懇願したため、裁判でバイラヴィは無罪となり、釈放される。
 しかし、それで大人しくなるバイラヴィではない。彼女はなおアッパージーの圧力に屈しなかったため、彼女の兄夫婦が悪漢に襲われそうになったり、同僚のヴィクラムが刺されて重傷を負ったりする。バイラヴィはヴィクラムに鼓舞され、アッパージー、警察副本部長、デーヴィッドの3名を掃討する決意をする。まず、停職中でありながら、警官の制服に身を包み、デーヴィッドを警察署内で射殺する。さらに、アッパージーを拘束して、マスコミを集め、アッパージー自身に自分や副本部長の悪行を公表させる。その上で、アッパージーを射殺する。

◆ アナリシス
・まず始めに手っ取り早く総評を書いておくと、作品の出来は非常にプアで、良いところなしだった。ラニングタイムが2時間強と短いにもかかわらず、それでも最後まで見通すのに忍耐が必要だった。上で【Singam II】と「見比べ」になったと書いたが、比べるのが失礼なぐらいで、とても同じ時期、同じ地域(南インド)で作られた映画だとは思えない。今や私にはスーリヤやハリ監督が雲の上人に見えるよ。

・ただし、アーイーシャ主演の映画は、デビュー作の【Jayahe】を除いて、どれもこの程度のレベル。大衆娯楽映画なのに、娯楽的要素が(アクションを除いて)乏しく、素っ気ない作りで、いくらなんでもこれでは大衆も喜ばないだろう。予算の制限とかいろいろあるにせよ、作り手ももう少し何とかしてくれないと。

・期待のアクション・シーンも、私が観たアーイーシャの作品の中では落ちる。

・しかし、だからと言って、本作がまったく無視できる作品かというと、そうでもなく、私的に非常に興味深い点もあった。それは、クライマックスで女警官のバイラヴィを「バイラヴィ女神」の姿とオーバーラップさせていることだ。「Bhairavi」はカーリー女神の異名で、悪魔を殺戮する恐ろしい女神として知られている。私はカンナダ映画【Saarathee】(11)やテルグ映画【Krishnam Vande Jagadgurum】(12)の鑑賞記の中で、南インドのアクション映画のヒーローは神の似姿(化現)となっている、と書いたが、本作でもぴったりと女ヒーローが女神になぞらえられている。傑作駄作の差はあっても、総体としてのインド映画が体系的な文化たりえるのはこういう点で、ここを無視することはできないだろう。
 (写真下:このバイラヴィの2相の比較は図像学的にも面白い。)

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・しかも、これは単にクライマックスで視覚的に提示しただけでなく、監督はこれを本作のテーマとしていたようだ。物語の前半で、非番のバイラヴィが父と一緒にお寺参りしているときに、同僚の警官がやって来て仕事(捜査)の話をするのだが、バイラヴィはそれをさえぎり、「私がお寺参りしているときに仕事の話はするな。政府の仕事と神様の仕事は別物だ」と言うセリフが効いている。これはつまり、人間が作った世俗的な社会制度(法律等)と神が維持している摂理は別次元であり、後者のほうが前者より先立つ、という考え方だ。この言葉どおり、バイラヴィは政府(警察)の仕事としては成し遂げられなかったこと(アッパージーら3人の懲罰)を神様の仕事として実現している。停職の身でありながら警察の制服を着て、署内でデーヴィッドを射殺し、誰の許可もなく大物政治家を射殺するというバイラヴィの行為は違法中の違法なのだが、それでも神の摂理という観点からは是とされるわけである。こういう考え方が現実的に認められるなら、近代民主主義的法治国家であるインドとしてはまずいので、あくまでも大衆娯楽映画の枠内に留めるべきだが、「政治家は泥棒、警察は泥棒の始まり」と言われる行政司法に対して失望しているインド大衆が、映画にこういう倫理観を期待したとしても無理はないだろう。

◆ パフォーマンス面
・アーイーシャについてもう少し書いておくと、さすが「黒帯」と自称するだけあって、身体能力は高く、アクションの切れは女離れしている。しかし、女優として見た場合、演技的にはそれほど上手くない。また、できないのか、したくないのか、彼女は全くダンスをしない。今のところあくまでも「硬派アクション女ヒーロー」で売りたいらしく、険しい仏頂面をしていることが多い。しかし、この路線だけだと、観衆もじきに飽きてしまうだろう。私の見たところ、彼女は容姿的にもまずまずなので、もっと愛嬌とかお色気とかも出せるようになるべきだと思う。

・本作はコメディー・トラックのない作りだが、悪役アッパージーのミコ・ナーガラージが同時にコミカルな雰囲気も出していた。

・スチンドラ・プラサードが悪徳警官の役で出ている。実はこの警官の肩書は「Deputy Superintendent of Police (DSP)」で(訳語が分からなかったので「警察副本部長」としておいた)、【Singam II】でスーリヤが演じたシンガムと同じ肩書き。片や正義を体現した理想的な警官で、片や政治家マフィアをサポートする悪徳警官だった。
 同じく悪徳警官デーヴィッドを演じたニーナーサム・アシュワトも持ち味の嫌らしさを発揮していた。

◆ テクニカル面・その他
・音楽、撮影、アクションなど、技術面で本作は語る点なし。

◆ 満足度 : ★☆☆☆☆
◆ 必見度 : ★☆☆☆☆

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 7月14日(日),公開第1週目
・映画館 : Venkateshwara,14:30のショー
・満席率 : 2割
 (下:鑑賞したウェンカテーシュワラ劇場。こういう映画はやっぱり単館で。)

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
持っている銃は何
にゃにゃにゃ
2015/08/15 18:02
すみません。分からないですね。
撮影用に適当なおもちゃを使ってると思いますが。
 
カーヴェリ
2015/08/16 10:00
今インド軍や警察の拳銃調べてるだよ軍は少数トカレフを購入しているしブローニングHPが主力で特殊部隊はベレッタM92使っているし警察は特殊部隊がグロックやシグP220使っていて一部エンフィールド拳銃も使用しているはずあと民間にニルビークとかいう女性用リボルバー拳銃もあったはず?
にゃにゃにゃ
2015/08/16 10:33
なるほど。ただ、このクラスのカンナダ映画はどうかなぁ。そんな考証なしに、テキトーに小道具さんが持たせてると思いますよ。
 
カーヴェリ
2015/08/18 09:43

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