カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Thalaivaa】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2013/08/29 03:04   >>

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 タミルのA・L・ヴィジャイ監督については、【Madrasapattinam】(10)を観て感銘を受け、また、【Deiva Thirumagal】(11)が去年「大阪アジアン映画祭」で上映された際にお目に掛かった縁もあって、注目したい監督に数えている。だが、これまでの作品のほとんどはリメイクかハリウッド映画の翻案だし、前作の【Thaandavam】(12)もいまいちな出来だっただけに、才能にはやや疑問が残る。
 本作はそのA・L・ヴィジャイ監督がヴィジャイと組んだ期待の1作。ヴィジャイがムンバイの大スラム地区、ダーラーヴィーの一画を仕切る「ゴッドファーザー」を演じるということで、これは見もの。
 しかし、本作は不運な運命を辿ったようだ。物語中の登場人物が実在する人物を想定して描かれ、しかもその人物を歪曲しているということで、脅迫や訴訟問題が起こり、他所では8月9日に公開されたものが、ホームのタミル・ナードゥ州では20日まで上映許可が下りなかった、ということだ。これはいよいよ見もの。

【Thalaivaa】 (2013 : Tamil)
脚本・監督 : A.L. Vijay
出演 : Vijay, Amala Paul, Sathyaraj, Abhimanyu Singh, Santhanam, Ponvannan, Nasser, Ragini Nandwani, Suresh, Ravi Prakash, Y.Gee. Mahendra, Manobala, Udhaya, Rekha, Sam Anderson, その他
音楽 : G.V. Prakash Kumar
撮影 : Nirav Shah
編集 : Anthony
制作 : S. Chandraprakash Jain

題名の意味 : リーダー
映倫認証 : U
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : ドラマ
公 開 日 : 8月9日(金)
上映時間 : 約3時間

◆ あらすじ
 1988年のボンベイ(ムンバイ)。スラム地区のダーラーヴィーはインド各州からの移民が集住し、「異州民のるつぼ」となっていた。必然、異州民同士の衝突も多く、折しもタミル人コミュニティーのリーダーがネイティブのマハーラーシュトラ人に殺害され、大暴動が起きていた。そんな中でタミル人のラーマドゥライ(Sathyaraj)は果敢にマハーラーシュトラ人に対抗したため、妻のガンガー(Rekha)が殺されてしまう。ラーマドゥライは復讐のため、マハーラーシュトラ人のリーダー、バードラを殺害する。そして、自身はタミル人コミュニティーの新たなリーダーとなり、ボンベイのアンダーワールドを取り仕切ることになる。しかし、ラーマドゥライは赤子の息子ヴィシュワには平和な人生を送らせようと、ボンベイを脱出する友人のラトナム(Nasser)にヴィシュワを託す。
 その後、ラーマドゥライが殺害したバードラの息子ビーマー・バーイ(Abhimanyu Singh)が成人し、ラーマドゥライに復讐を誓う。ビーマー・バーイは政治家や警官を抱き込み、数々の事件をでっち上げてラーマドゥライのせいにする。ラーマドゥライはやむなく姿を隠すことにする。
 ・・・
 2013年のオーストラリアはシドニー。成人したヴィシュワ(Vijay)はラトナムの息子ローグ(Santhanam)とボトルウォーターの製造販売会社を経営していた。彼はまたダンス・グループ「タミル・パサンガ(タミル・キッズ)」のリーダーで、大きなダンス競技会に臨むところだった。
 ある日、ヴィシュワは路上で可愛い女性を見かけ、後を追う。それはミーラー(Amala Paul)という名で、父(Suresh)はインド・レストランのオーナーだった。ヴィシュワはミーラーに惚れるが、ミーラーもヴィシュワのことが気に掛かるらしく、彼女はヴィシュワのダンス・グループに加わることにする。そして、「タミル・パサンガ」は見事ダンス競技会で優勝する。また、ミーラーの父のレストランは不味くて評判が悪かったが、これもヴィシュワらが協力して味を変え、人気店にする。
 そんなこんながあって、ヴィシュワとミーラーは結婚を決意する。ミーラーの父も結婚に賛成し、ヴィシュワの父に会いたいと申し出る。ヴィシュワは父と電話では話していたが、会ったことがなかった。しかも、父の仕事は、ムンバイのアンダーワールドのドンではなく、ビジネスマンだと聞かされていた。
 3人はムンバイの空港に降り立つ。そこにはヴィシュワの父ラーマドゥライは姿を見せず、腹心のランガ(Ponvannan)が出迎えに来る。
 ランガはヴィシュワを連れて、ラーマドゥライに会わせる。ヴィシュワはその時初めて父の素性とこれまでの経緯を知り、驚く。
 ラーマドゥライはヴィシュワのためにミーラーとその父に会いに行く。しかし、ここでとんでもないことが起きる。実はミーラーとその父は警官で、ムンバイのドン、ラーマドゥライを逮捕するために、ヴィシュワに接近していたのであった。ラーマドゥライは呆気なく逮捕される。しかも、警察に搬送される車が爆破され、彼はあえなく爆死する。ビーマー・バーイの仕業であった。
 一連の出来事にショックを受けたヴィシュワは、ランガの説得を聞かず、ムンバイに残る。そして、ビーマー・バーイと闘い、ダーラーヴィーのタミル人コミュニティーを守る決意をする。

・その他の登場人物 : ケーシャヴ(Ravi Prakash),ガウリー(Ragini Nandwani),ビデオ・クマール(Udhaya),悪徳警官ランジーヴ・ヴァルマー,悪徳大臣クリシュナ,スリのラージュ,その仲間ナンドゥ

◆ アナリシス
・上のあらすじは、長めに書いた割には、実は前半をちょっと越えたところまで。ここからムンバイのスラムを舞台にしたヴィシュワ(Vijay)とビーマー・バーイ(Abhimanyu Singh)の押し合いへし合いの格闘が展開され、裏切りやプチ・ロマンスなども挿入されて、実にリッチな内容。久々に3時間を超える長尺映画だった。

・レビューをざっと見渡したところ、評価はあまり芳しくないようだが、私的には十分面白かった。前半のシドニー編と後半のムンバイ編でがらっと雰囲気が変わり、しかもラブコメ風の前半とアンダーワールド物の後半がそれぞれ上手くまとめられ、3時間という長さが全然苦痛にならなかった。

・とはいえ、レビューの評価に加え、私の周りにいるタミル人、カンナダ人、テルグ人の中でも本作を褒めている者は一人もおらず、また、興業的にも苦戦しているらしいということなので、要するに本作は現地人にとってはつまらないものなのだろう。これを観て「面白い」と感じた私の感性のほうがおかしいのかもしれない。

・周りの人間が口を揃えて言っているのが「新鮮味がない」ということ、つまり、本作はマニ・ラトナム監督の【Nayakan】(87)やラーム・ゴーパール・ヴァルマ監督の【Sarkar】(05)と同じような「ゴッドファーザー物」で、かつ、設定やストーリー展開がありふれていて、特に目を見張るものがない、ということだった。

・これは私も賛同できる。南インドの映画人はいまだに「ゴッドファーザー・ネタ」が好きなようで、上の2作に加え、最近では【Billa II】(12)もある。これらの作品を、こと「【ゴッドファーザー】をインドで作ってみたら?」という観点で比べると、本作は【Nayakan】や【Sarkar】より落ちる。(本作のメイン・モチーフが後半の「ゴッドファーザー編」にあるのは明らかなので、前半の「シドニー・ダンス編」は遠大な遠回りだと言える。もっとも、こういうストーリー・バランスの悪さがインド映画の面白さでもあるのだが。)

・ただ、私は、本作はそれなりに面白かったものの、もう一つ映えないものを感じた理由は別のところにあると見ている。それは「2つのミスキャスト」と「弱いクライマックス」に集約される。

・「2つのミスキャスト」のうちの1つは、言いにくいことだが、ヴィジャイくん、きみだ! いかに「Ilayatharapathi」と呼ばれ、タミル・ナードゥ州で絶大な大衆的人気を誇るヴィジャイといえども、「カリスマ性」という点では疑問が残る。【Thuppakki】(12)のようなあっさりした覆面捜査官の役なら問題なくできても、本作のような「ゴッドファーザー・イメージ」は無理だということが分かった。下のスチルを見ても分かるとおり、いかにも貫録がない。だから、作品全体に深みが出ない。「リーダー」になっていく過程の描写(これが重要なのだが)にも無理があり、【Cameraman Gangatho Rambabu】(12)のパワン・カリヤーンと似たような印象を受けた。

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 比べてみると、【Nayakan】のカマル・ハーサンは当時若干33歳だったが、もっと貫録があったぞ(参考に、ヴィジャイは39歳)。

・しかしながら、ゴッドファーザーができるようなツラ構えを持つ若手俳優は今のタミル映画界にはいない。この辺がタミル映画界の泣きどころだろう。そういった意味で、根本的ミスは、この脚本をタミル映画で撮ろうとしたA・L・ヴィジャイ監督にあると言える。インドに俳優多しといえども、この脚本のヒーローを演じられる男優は1人しかいない、、、それはカンナダのシヴァラージクマールだ、、、なんて言うとディスプレイの向こうで読者がずっこけている様が目に浮かぶが、、、冗談はさておき、この脚本に最もふさわしいのは、テルグ映画界のNTRジュニアだろう(もちろん、マヘーシュ・バーブもできるが、彼がわざわざムンバイのスラムのリーダーを演じる必要なはい)。

・もう1つのミスキャストは、これまた言いにくいことだが、アマラ・ポールくん、きみだ! まず、ダンスがからっきしできないアマラがダンス上手で、ヴィシュワのダンス・チームに参加するという設定には笑った。さらに、せいぜい女子大生役ぐらいしかできないアマラが実は犯罪捜査局の警官で、しかも「ACP」だという設定にも笑った(実は、アホらしすぎて笑うに笑えなかったのだが)。しかし、アマラ・ポールに罪はない。ミスはA・L・ヴィジャイ監督にある。「意外性」を狙ったのかもしれないが、決めるところが決まらないと意外性も出ない。あれでは単なる「ミスキャスト」。テルグ映画【Iddarammayilatho】(13)を見ても思ったが、アマラに銃を持たせるのはやめたほうがいい。

・ダンスができないアマラをダンス・グループに入れて、競技会に出場、、、って、どうなるの?とハラハラしながら見ていたが、ここはA・L・ヴィジャイ監督はうまく処理している。もしかして、本作最大のツイスト?

・「弱いクライマックス」については、特に説明する必要もないと思う。最後の最後まで来て、ネタ切れになった感じだ。クライマックスだけでなく、本作は全体的に堅実な作りで、優等生のA・L・ヴィジャイ監督は上手に作っているとは思うのだが、何と言うか、テルグ映画のような「意外感」とか「脱線感」とか「ぶっ飛び感」が乏しい。で、結局、強いカタルシスとか万感胸に迫るものとかがないので、まぁ、1回観たらいいかな、で終わってしまう。【Thaandavam】と同じ失敗(というより、ヴィジャイ監督はこういう映画しか撮れないのだと思う)。

・モチーフが「リーダー」ということで、映画の冒頭に歴史上の「リーダー」たちの肖像が紹介されていたが、ガーンディーや毛沢東、カール・マルクス、レーニン、チェ・ゲバラ、ホー・チ・ミン、リー・クアンユー、ネルソン・マンデラ、マルコム・X、ダライ・ラマなど、ヴィジャイ監督の趣味なのか何なのか、とにかく面白いラインナップだった。

◆ パフォーマンス面
・上で「カリスマ性」のないヴィジャイと書いたが、パフォーマンスという面ではそれなりに健闘している。特に前半の「シドニー編」はパーフェクト。サンターナムとの息も合っていた。後半の病院のシーンでの長台詞も気合いが入っていて、十分説得力があった。ダンスは相変わらずのキレとノリの良さに加え、緩急もあり、表情豊かなものだった。

・アマラ・ポールについては、【Iddarammayilatho】ではちょっと良い表情を見せていたので期待したが、本作のほうがパフォーマンスは落ちる。まぁ、「可愛すぎるACP」ということで、アマラの警官姿を見るのも一興だが、あまり制服が似合わんなぁ。ダンス・シーンはさすがにダメで、背中がかゆいのかと思った。

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・重要な登場人物、ラーマドゥライ役のサティヤラージは、腰の据わった演技で非常に良かった。驚きはラーマドゥライの「若き日」のシーンで、サティヤラージにごわごわの頭髪があったことだ(もちろん、ヅラだが)。「サンパット・ラージ? ラヴィ・テージャ? もしやケーララのランジット監督?」と、サティヤラージだと気付くのにずいぶん時間がかかった。

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・敵役のビーマー・バーイはアビマンニュ・シン。相変わらず業の深そうな悪役像が良い。

・短い出番ながら好印象だったのは、後半に登場し、ヴィシュワに惚れるダンサー、ガウリー役のラーギニ・ナンドゥワーニ(カタカナ表記はあてずっぽう)。この人はヒンディー語のテレビドラマで注目されたようだ。笑顔が良かった。

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・ほとんど重要ではないが、ニュースカメラマンのビデオ・クマール役をやったウダヤという人はA・L・ヴィジャイ監督の兄弟らしい。

◆ テクニカル面・その他
・G・V・プラカーシュ・クマールの音楽は平凡。

・ニーラヴ・シャーの撮影はかなり良い。シドニー編もムンバイ・スラム編も上手く撮れている。

◆ 満足度 : ★★★☆☆
◆ 必見度 : ★★★☆☆

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 8月16日(金),公開第2週目
・映画館 : INOX (Jayanagar),13:35のショー
・満席率 : 3割
 

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