カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Dyavre】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2013/12/13 10:22   >>

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 我が街バンガロールのご当地映画産業といえばカンナダ映画だが、残念ながらカンナダ映画は、年間製作本数こそ100本を超え、インドの主要映画産業の地位を保っているとはいえ、質的には南印4州の中でも低いとされ、「野暮ったい」だの「古くさい」だの「説教くさい」だの「リメイク王国」だのとボロクソに言われている(ほとんど私が言っているのだが)。
 そんな中でも、オリジナリティーのある秀作、意欲作を発表してきた監督にヨーガラージ・バットとスーリ(この二人は親友関係)がいるが、最近ではこの二人の弟子、または彼らの影響を受けた若手監督が台頭し、カンナダ映画界をフレッシュなものにしつつある。その代表は【Lifeu Ishtene】(11)と【Lucia】(13)を発表したパワン・クマール監督だが、【Govindaya Namaha】(12)と【Googly】(13)のパワン・ワーディヤール監督、それに【Simpallag Ond Love Story】(13)のスニ監督と【Jatta】(13)のギリラージャ監督もこの系列に並ぶだろう。

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 そして、ここにもう1人加わるのが本作【Dyavre】でデビューを果たしたガッダ・ヴィジー監督。ヨーガラージ・バット監督の弟子だが、面白いことに、本作では師匠のヨーガラージ・バットが俳優としてデビューを飾っている(しかも主役!)。
 なお、題名の「Dyavre」は「ディヤーウレー」と発音する。

【Dyavre】 (2013 : Kannada)
物語・脚本・台詞・監督 : Gadda Viji
出演 : Yogaraj Bhat, Sonu Gowda, Neenasam Satish, Rajesh, Chetan Gandarva, Sruthi Hariharan, Arasu, Mico Nagaraj, Sathya, Sonia Gowda, Petrol Prasanna, その他
音楽 : Veera Samarth
撮影 : Guruprashanth Rai
制作 : Jayanna, Bhogendra

題名の意味 : 神よ!
映倫認証 : U/A
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : ドラマ
公 開 日 : 12月6日(金)
上映時間 : 2時間20分

◆ あらすじ
 ジャーナリストのシュルティ(Sonu Gowda)は犯罪者に関するドキュメンタリー・ビデオを製作するために、スタッフと共にカルナータカ州のとある刑務所を訪れる。そこで彼女はまず看守のビームセーン(Yogaraj Bhat)に会う。ビームセーンは人格者で、囚人を罪ゆえに見下すことなく、一人の人間として尊重していた。ために彼は囚人たちから慕われ、尊敬されていた。
 インタビューが進むにつれ、シュルティは、ここにいる服役者のうちの何人かは決定的な罪人ではなく、中にはちょっとした誤解や濡れ衣で収監された者もいることを知る。また、ビームセーンからは、この刑務所が非常に老朽化しているにもかかわらず、政府は何らの措置も講じていない事実を知らされる。
 その問題は現実となって現れる。ある雨季の晩に大雨が降り、刑務所の壁が崩れ落ちるという事件が起きる。ほとんどの囚人はこれ幸いと脱走してしまう。ビームセーンは彼らの身の安全を確保するために探索に出るが、なかなか足取りがつかめない。
 ときに、州内務大臣(Mico Nagaraj)は酒浸り、クスリ漬けのとんでもない人物だったが、この事件についてマスコミからの追及を受け、苦し紛れに、市民の安全を確保するという名目で、脱走者全員の射殺を表明する。速やかに内務大臣の腹心である警官のサーワント(Sathya)が脱獄者狩りを開始する、、、。

◆ アナリシス
・本作の印象をひと言で言うなら、情念がびっちり詰まって、ぐるぐる渦巻いているような映画。上のあらすじを読む限り、本作はテーマもストーリーも異色で、メッセージ本位のアート系フィルムと想像されるかもしれない。確かにそういった性格はあるが、決してインテリ的視点の頭でっかち映画ではないし、奇を衒った映画でもない。むしろ、ガッダ・ヴィジー監督のスタンスと感情の込め方が真摯一徹なものだったので、心底感動できた。重いといえば重い映画だが、不思議に爽やかな気分で劇場を後にできる。暑いときに熱いサウナに入って、気持ちがさばさばするようなものだろう。

・刑務所に服役中の面々を描いているとはいえ、当然のことながら、彼らを極悪非道の悪人だと断罪したいわけではない。むしろ、本作で主に描かれている数人のキャラクターは、ちょっとした運命のいたずらや不可避な状況、または冤罪で刑務所入りした人たちで、看守ビームセーン(Yogaraj Bhat)の視点と同様、愛情のこもった眼差しが向けられている。

・その数人とは、森に暮らす部族民で、(たぶん)ナクサライトのチンカラ(Neenasam Satish)。妻の死亡の責任を問われ、幼い娘を置いて刑務所入りしたジャッグ(Rajesh)。シャバに妊娠中の新妻(Sruthi Hariharan)がいるコソ泥(Chetan Gandarva)。ローカルの政治家志望の男(Arasu)。30年間牢獄暮らしの後、晴れて出所するのだが、シャバの変わり様に怯える老人。等々。

・クリシュ監督のテルグ映画【Vedam】(10)を観たときにも思ったが、こういう群像物の場合、それぞれのエピソードによってリアル度にむらが出るのが難点だ。本作でも、部族民チンカラと出所老人のエピソードはリアルだったが、ジャッグの父娘のセンチメントは従来のカンナダ・ドラマだし、コソ泥と新妻のエピソードもありきたりな感じだった。

・ただし、本作の真の狙いは、この数名の一人一人のドラマを見せたかったというより、こういう悪人でもない人間が牢獄に入らなければならないという状況を生み出すインドの社会的現実を呪うことにあったのだと思う。

・周知のとおり、全国レベルではコングレスの現政権がとみに評判が悪く、来年の総選挙では敗北は必至、というより、ソニア・ガーンディーはさっさと失せろ、という罵詈雑言をあちこちで聞く。目を我がカルナータカ州内に転じても、政治家と称する連中に碌な人物がおらず、政治的低迷に憤る声をよく聞く。数年前までは好景気で不満も起きにくかったが、今では経済成長率も下がり、ひどいインフレと物価高で、市民の不満もふつふつと圧力を増しているように見える。なのに、政治家は汚職を止めず、無益な権力争いに忙しく、社会システムを改善しようという動きに乏しい。本作の囚人というのは、そういう欠陥のある社会システム(法制度や警察の治安維持システム)の犠牲者となった人を代表しているのだ。こんな状況が今後も続くなら、どこかで爆発しても不思議ではなく、本作の「刑務所の壁が崩れる」というのは、そういった爆発を予言しているとも考えられるのだ。

・さて、本作はやや複雑な回想形式で語られる。映画全体は元看守で今や囚人となってしまった(!)ビームセーンの回想という形なのだが、そのビームセーンが看守だった時に、ジャーナリストのシュルティ(Sonu Gowda)がやって来るというところから物語がスタートする。そして、シュルティのインタビュー等を通して、各囚人の過去が回想される、という形式になっている。

・一見、救いのないドラマのように見えるが、生き証人のビームセーンの「人間性」によって、救いが感じられるものとなっている。

◆ パフォーマンス面
・注目の映画監督ヨーガラージ・バットの俳優デビューだが、まさに当人を当て込んで書かれたような脚本なので、まったく問題なく見えた。もともと言葉を愛する人であり、いくつかの映画で味のあるナレーションを聞かせていたほどなので、ある程度やることは予想できたが。きっとこれからも気が向いたら俳優出演することだろう。

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・最もインパクトがあったのは、部族民チンカラを演じたサティーシュ。私はこの人のことを「永遠の主人公の友人役俳優」だと思っていたが、【Lucia】でブレイクして以来、重要な主演級俳優になってしまった。マラヤーラム映画界のファハド・ファーシルみたいな位置になるのかもしれない。

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・ジャーナリストのシュルティを演じたのはソーヌー・ガウダ。【Inthi Ninna Preethiya】(08)が印象的で、私的には応援していたが、さっさと結婚引退してしまった。本作は3年ぶりの銀幕カムバックらしい。

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・下のスチルのお二方はコソ泥役のチェータン・ガンダルヴァと、その妻役のシュルティ・ハリハラン。シュルティ・ハリハランも【Lucia】の好演で注目された人だが、けっこう良い女。

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・驚きの腐敗内務大臣を演じたのはミコー・ナーガラージ。おそらく現実のカルナータカ州の大物政治家を想定してのキャラクター設定だと思われる。その腹心の警官サーワントを演じたのはサティヤ。こちらもワルさが光っていた。

◆ テクニカル面・その他
・音楽はヴィーラ・サマルタという人の担当。歌って踊ってといった映画ではないが、歌も音楽シーンも胸を打つものがあった。
 (写真下:こんな楽しそうな刑務所ソングも。)

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・物語の舞台となった刑務所の名前は確定できなかった。おそらく架空のものだと思われる。

◆ 満足度 : ★★★★☆
◆ 必見度 : ★★★★☆

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 12月8日(日),公開第1週目
・映画館 : Eshwari,11:15のショー
・満席率 : 2割
 

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