カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Aayirathil Oruvan】 (1965/2014 : Tamil)

<<   作成日時 : 2014/03/19 22:16   >>

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 インド映画の古典的名作をデジタル・リマスタリングして再公開する企画が時々現れる。私はすべて観たわけではないが、ヒンディーの【Mughal-e-Azam】(1960/2004)、カンナダの【Satya Harischandra】(1965/2008)、テルグの【Mayabazar】(1957/2010)は映画館で観ることができたので、幸せなインド映画体験をしているほうだと言えるだろう。
 今回紹介するのはタミル映画での企画で、1965年公開、MGR主演の【Aayirathil Oruvan】。実はタミルでの同種の試みは【Karnan】(1964/2012)と【Pasamalar】(1961/2013)があったのだが、残念ながら鑑賞できなかった。今回は巡り合わせた良かったので、すかさず観て来た。

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 本作はジャンル分けすると「フォークロア」になるらしい。フォークロアとはいかなるものかは、説明は難しいし、私もよく知らないので、こちらの試論を読んでいただくとして、ここでは便宜的に「現実的な場所や時代の制約から自由な時代活劇」といったものを想像していただきたい(もちろん、正確な定義ではない)。
 本作のモチーフとなったのは「海賊」で、モデルとしてエロール・フリンの【Captain Blood】(35)、ダグラス・フェアバンクスの【The Black Pirate】(26)、バート・ランカスターの【The Crimson Pirate】(52)の名前が挙げられている。こうした映画のインド版となると、興味を引かないわけがない。
 ヒロインはキュートな娘時代のジャヤラリター(現タミル・ナードゥ州首相)、悪役がM・N・ナンビヤールというのも見どころだ。
 監督はB・R・パントゥルで、本来カンナダ映画界の人だが、タミルやテルグ、ヒンディーでも活躍していたということを今回知って、驚いた(前出の【Karnan】も同監督の作品)。
 今回のデジタル版は「Divya Films」が手がけ、リマスタリングの作業は「Prasad EFX」という会社が担当したらしい。

【Aayirathil Oruvan】 (1965/2014 : Tamil)
監督 : B.R. Panthulu
出演 : M.G. Ramachandran, Jayalalithaa, M.N. Nambiar, Nagesh, Madhavi, R.S. Manohar, S.V. Ramadoss, L. Vijayalakshmi, その他
音楽 : M.S. Viswanathan, T.K. Ramamoorthy
制作 : B.R. Panthulu / Divya Films (Restored Version)

題名の意味 : 千人の中の一人
映倫認証 : U
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : フォークロア
公 開 日 : 3月14日(金)
上映時間 : 約2時間50分

◆ あらすじ
 ネイダル国では残酷な独裁者(R.S. Manohar)が民を苦しめていたため、それに対して反逆する者たちもいた。医師のマニマーラン(M.G. Ramachandran)は、反逆者たちを支援したという濡れ衣で逮捕され、弟子のアラガー(Nagesh)や反逆者たちと共に奴隷としてカンニ島へと流されてしまう。
 カンニ島はセンガッパン(S.V. Ramadoss)という領主が統治していた。センガッパンの娘プーンゴディ(Jayalalithaa)はマニマーランに一目惚れしたため、奴隷の彼を自由にしようと申し出るが、マニマーランは寄せ付けない。他方、弟子のアラガーはプーンゴディの侍女テーンモリ(Madhavi)に色目を使う。
 時に、この島に海賊が来襲して来たため、センガッパンはマニマーランに海賊撃退を依頼する。マニマーランは自分たちを解放してくれることを条件に、引き受ける。結果、マニマーランらは見事に海賊を退けるが、センガッパンは約束を反故にし、マニマーランらを牢獄に閉じ込めてしまう。マニマーランらは一計を案じ、牢獄を集団脱走し、自分たちが撃退した海賊船に乗り込む。海賊の首領(M.N. Nambiar)はマニマーランの知恵と勇気に目を付ける。
 首領はマニマーランらを自分が支配する島へと連れて帰る。そして、マニマーランに海賊として協力するよう命ずる。マニマーランはこれを拒否するが、一緒に連れて来られた同胞の命が危うかったので、やむなく引き受ける。マニマーランは、海賊船のみを襲う海賊として、手柄を上げる。
 一方、プーンゴディはマニマーランのことが忘れられないでいた。彼女は父に反抗し、島を離れるために船で旅立つことにする。だが、偶然マニマーランの海賊船がプーンゴディの乗った船を襲撃し、彼女は海賊島へと連れて来られ、奴隷の競売に掛けられる。海賊の首領はプーンゴディの魅力に惹かれ、大金で買い取るよう腹心のナンジャッパに指示を出す。だが、それを上回る金額でマニマーランがプーンゴディを競り落とす。
 プーンゴディはマニマーランの家で保護されるが、卑しい海賊に成り下がったマニマーランに失望し、反抗する。だが、首領がプーンゴディを得ようとマニマーランと決闘になったため、やむなく彼女はマニマーランと夫婦になったと首領に嘘を付く。この島の掟では、結婚した夫婦は首領といえども引き離すことができなかったからである。
 プーンゴディは、当初はマニマーランの妻のふりをしていただけだが、ある時、マニマーランが海賊をしている理由が同胞の命を守るためだと知り、彼に対する考えを改める。そして、二人は本当の夫婦となる。
 そんな時に、故郷ネイダル国の独裁者が船に乗って外遊するという情報が得られる。暴君を倒す千載一遇のチャンスとばかりに、マニマーランらは計画を立てる。他方、海賊首領はマニマーランを海上で亡き者にし、寡婦のとなったプーンゴディを得る作戦を立てていた。首領はマニマーランに出航を命じる。マニマーランらはこの船に密かにプーンゴディも乗せようするが、首領にばれてしまい、二人の間で激しい格闘が始まる。勝負はマニマーランの勝ちとなるが、首領の妻チェルワラーニー(L. Vijayalakshmi)の命乞いもあって、マニマーランは首領を生かす。首領はマニマーランの目的を知り、協力を申し出る。
 かくて、マニマーランの仲間たちは海賊団と共に、独裁者討伐のために船出する、、、。

◆ アナリシス
・いつもの鑑賞記とは勝手が違って、今回は以前に英語字幕付きDVDで観ていたものを改めて映画館で観、感想を書くということのなので、ずいぶん違和感を感じる。しかも、相手が半世紀の長きに亘ってタミル人らに愛され、語られてきた作品なので、今さら私が何を書いていいのやら。まさか、「あんまり面白くもなかったなぁ」とも言えないし、、、というのは冗談で、DVDで観ても、リマスター版を劇場で観ても、実に面白い映画だった。

・上述した「フォークロア」という点では、映画開始早々から「ここはどこ、時代はいつ?」というくらくらする感覚で始まり、エキゾチックな無国籍風衣装(それでいて、やっぱりインド的だったり)、欧風フェンシングの剣戟など、いかにもそれらしい(しかし、宗教的/超自然的なモチーフはほぼなかった)。上で元ネタとして3つの海賊映画の名前を挙げたが、それはWikipediaにあったのをそのまま引用しただけで、考証したわけではない。タミルの地に(または、インドのどこかに)こういう海賊が実在し、その物語が語り継がれていた可能性は排除できないが、まず外国の海賊映画、またはそれに触発された大衆小説を元ネタにしているのだろう(おそらく本作ぐらい有名な映画なら誰かが考証していると思うが)。

・インド映画は突っ込みどころ満載とよく言われるが、本作のような古典的名作はその点でも横綱級。物語の始めから終わりまで「なんでやねん!」、「そう来るか!」、「誰やねん、お前?」と、「リアル」というスケールに慣れた日本人には忙しい映画となる。しかし、インド人にはこうした飛んだイメージ/展開が不自然でも奇異でもないようで、実に当たり前の表現として楽しんでいるようだ。こういう想像力の伝統が今でもマサラ西部劇やソシオ・ファンタジーといった映画に脈々と生きているのは興味深い。

・しかしまぁ、本作の隅々から感じ取られる「単純さ」にはおったまげる。ストーリー自体も単純なものだが、登場人物の感情や行動が実にシンプルで、いやらしい裏表がない。ある登場人物はよく嘘を付くが、それはすぐに分かるような単純な嘘で、しかも相手がその嘘に簡単に引っ掛かったりする。悪役も最後にはあっさりと「善人」に転じていたりする(この悪役観は興味深い)。それと関連するが、本作はどこまでも明るくて、ニヒリスティックなところがない。この2点のおかげで、本作を観た後には実に爽やかな感覚が残る(これは本作に限ったことではなく、本来インド映画が持っていたテイストなのだが)。

・また、本作では意外に「法」を守ることの大切さが繰り返し表明されているのも面白い。海賊の首領も、自分の利益に反する場合でさえ、法に従おうとしている。知恵や勇気に加えて、「法(ダルマ)」を守るということが人の徳目として強調されているようだ。50年前の(またはこの物語の時代の)インド人がどんなだったかは知らないが、これは現代のインド人に100回でも200回でも見せてやりたい映画だ。

・題名は「千人の中の一人」という意味だが、これは「単に千人の中の一人(=凡人)」と「千人の中の特別な一人(=英雄)」という、2つの意味合いで使われているのが面白い。

・旧版(私が持っているMoser Baer製のDVDだが)と今回のリマスター版には少し異同がある。まず、オープニング・クレジットの部分がデザイン一新している。また、旧版にあった「アラガー(Nagesh)と髑髏」のコメディー・シーンがカットされていた。にもかかわらず、ラニングタイムはDVDは2時間45分だが、リマスター版は約2時間50分と、若干長い。DVDになかったシーンが新版にあった可能性があるが、どこがどうかはさっぱり分からない。

◆ パフォーマンス面
・MGR(マニマーラン役)
 私からコメントすることはない。もう、男前! 千両役者!

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 ところで、今回改めてバイオグラフィーとか見てみたら、MGRがスリランカのナワラピティヤ(Nawalapitiya)出身だと分かり、驚いた。

・ジャヤラリター(プーンゴディ役)
 単純で、気ままで、芯の強いお姫様をそれはそれは可愛ゆう演じている。当時まだ17歳だったという事実にも驚く。

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 ただ、ジャヤラリターについてはいつも複雑な気持ちになる。カルナータカ州出身で、マイソールのマハーラージャーに仕えた家系の出でありながら、タミル・ナードゥ州首相に転身したということで、カンナダ人からは甚だ評判が悪い。私としても、カーヴェーリ川問題が起きるたびに彼女の人形やポスターが焼かれるのを何度も目撃して来た身として、口が裂けても「ジャヤ様」と言えないものを感じる。しかし、銀幕上の「お姫様」とニュースで見る「アンマー」は別人だと考えるようにしているよ。

・M・N・ナンビヤール(海賊首領役)
 美味すぎるなぁ、この男。やっぱ悪役というのは、この俳優みたいに確信犯的に喜々として演じなければダメだ。悪役だが、怖いというより、可愛い。ヒーローやコメディアンと同様、悪役も庶民から愛され続けるというのがインド映画の伝統だったが、そういう悪役俳優が少なくなった(または、悪役に価値が置かれなくなった)というのが、インド映画が痩せてしまった一因かと思う。

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・ナーゲーシュ(アラガー役)
 本作を観て、もしやMGR以上に記憶に残るのはこのコメディアンかもしれない。「インドのジェリー・ルイス」と呼ばれていたらしいが、表情といい、ちょこまかした動作といい、実に面白い。
 (写真下:侍女テーンモリ役のしゃくれ顔マーダヴィさんと。)

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・R・S・マノーハル(ネイダル国の独裁者役)
 昔のインド映画の俳優といえば、MGRもそうだが、堂々とした歌舞伎顔が多い。歌舞伎顔といえば、この俳優もインパクトあるよなぁ。

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・S・V・ラーマダース(センガッパン役)
 上の男優陣に比べるとインパクトが落ちるし、ストーリー内の役回りも可愛そうなものだったが、このお方もなかなか良い顔をしている。実年齢が何歳なのか見当が付かなかった。

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・L・ヴィジャヤラクシュミ(チェルワラーニー役)
 きれいどころでは、海賊首領の妻役のこのお方。夫を愛するあまり、かえってマニマーランとプーンゴディをサポートしてしまうという、複雑な立ち位置が効いていた。このお方はバラタナーティヤムの名手なのだが、本作ではまったく踊らないというのが残念。

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・その他、必ず外す「アイデア」を考え出す腹心ナンジャッパ役のこのお方や、

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殴られ役の黒ブタくんや、

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煙草ぷかぷかなパンチャーヤトのおじさんなど、

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おもろ顔が記憶に残る。

◆ テクニカル面・その他
・音楽 : M.S. Viswanathan & T.K. Ramamoorthy
 挿入歌はすべて良かった。私はタミル語が話せないので、口ずさむことはできないが、2,3曲が脳内ヘビーローテしている。

・ところで、2010年公開のセルワラーガヴァン監督作品に【Aayirathil Oruvan】という同名のものがあるが、本作のリメイクというわけではない。ただ、同作品の主人公(カールティ演じる)が強度のMGRファンと設定され、船のシーンでは本作の音楽シーンも借用されている。参考にその場面の動画を上げておく。



・肝心のリマスタリングの出来だが、私が観た映画館(サンギート劇場)はプロジェクターもサウンドシステムも貧弱なものなので、よく分からなかった。

◆ 完成度 : (採点せず)
◆ 満足度 : ★★★★☆
◆ 必見度 : ★★★★★

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 3月15日(土),公開第1週目
・映画館 : Sangeeth,13:45のショー
・満席率 : 1割以下
 

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
L・ヴィジャヤラクシュミ可愛いですよね。

ところでMGRの出身地に関しては諸説あり、それに本人が州首相在任当時にAIADMKが意図的に流した立身出世譚が混じって益々紛糾してますが、少なくとも生まれたのはタミルナードゥ州境に近いケーララ州の僻村であるのは確かなようです。

そこからどうやって、また何故セイロンへ行ったのかはよく分っていませんが、セイロンには昔からマラヤーリーのコミュニティがあり、それを頼って働きに行ったのだろうという説が有力です。
メタ坊
2014/03/19 22:46
>L・ヴィジャヤラクシュミ可愛いですよね。

はい。
実はカンナダの「Satya Harischandra」でメーナカのダンスをしているダンサーが誰だか分からなかったのですが、今回、それがL・ヴィジャヤラクシュミだと分かり、すっきりしました。

>ところでMGRの出身地に関しては諸説あり、、、

なるほど。ご教示ありがとうございます。
セイロンのマラヤーリー・コミュというのは、どんな職業集団だったのでしょうか。やっぱり茶園労働者でしょうか?
 
カーヴェリ
2014/03/19 23:34
横レスですが、スリランカのマラヤーリー移民はほとんどプランテーションには入らず、コロンボなどの都市で非熟練労働者となった人が多かったようです。シンハラ・ナショナリズムの高まりで、1930年から各地で反マラヤーリー運動&暴動が起きたといいます。MGRの引き揚げの事情については分かりませんが。

反マラヤーリー運動については、この本でかなりのボリュームを割いて解説されています。
http://www.akashi.co.jp/book/b65249.html
Periplo
2014/03/20 02:43
なるほど。ありがとうございます。
とにかく、MGR(というか、その家族)が一時期スリランカにいたというのは確かなようだけど、今となっては考証は難しい、ということでいいでしょうか。
あと、MGRが芸能の世界に入ったのはインドに戻ってから、ということでいいでしょうか。
 
カーヴェリ
2014/03/20 10:30
諸説あるのでしょうが、MGRは幼年期に司法関係者だった父が亡くなり、母と共にタミルナードゥのクンバコーナムに引き揚げたそうです。その後、カンダサーミ・ムダリヤール(Kanthasamy Mudaliar、初期の映画製作にもかかわっていた)が率いる劇団に加わったのは7歳のときであると、手持ちの通俗的な伝記には書いてありました。
http://www.amazon.co.jp/M-Ramachandran-Jewel-The-Masses-ebook/dp/B00DBTN99G

父との死別&引き揚げが何歳のときなのか分かりませんが、おそらく芸能に係わるようになったのはインドに移ってからではないかと推測します。
Periplo
2014/03/21 13:27
なるほど。
すでに子供の頃から芝居の世界にいたと考えてよさそうですね。
ありがとうございます。
 
カーヴェリ
2014/03/21 23:08

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