カーヴェリ川長治の南インド映画日記

アクセスカウンタ

zoom RSS 【Ulidavaru Kandante】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2014/04/03 02:16   >>

ナイス ブログ気持玉 1 / トラックバック 8 / コメント 0

画像

 ほぼニューカマーによる【Simpallag Ond Love Story】(13)は都市部ヤング層の熱い支持を得て、【Mungaru Male】(06)以来のサンダルウッドのマイルストーン的作品となった。そこで飄々とした主人公を演じ、観客に強い印象を残したラクシト・シェッティが今度は監督をすると知って、驚いた。それが本作【Ulidavaru Kandante】であるが、かなり前に公開されたトレイラーが面白く、タランティーノばりの「パルプフィクション映画」を期待させるものだった。ところが、最近流れていた音楽シーンのクリップなどを見ると、ぐっとシリアスな内容を示唆するものだったので、??? とにかく、注目の1作には違いなかった。

【Ulidavaru Kandante】 (2014 : Kannada)
脚本・監督 : Rakshit Shetty
出演 : Rakshith Shetty, Rishab Shetty, Kishore, Tara, Achyuth Kumar, Sheethal Shetty, Yagna Shetty, Dinesh Mangalore, Suhaan, その他
音楽 : B. Ajaneesh Loknath
撮影 : Karm Chawla
編集 : Sachin
制作 : Hemanth, Suni, Abhi

題名の意味 : 他者が見ていたもの
映倫認証 : U/A
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : スリラー/ドラマ
公 開 日 : 3月28日(金)
上映時間 : 2時間35分

◆ あらすじ (ネタバレ警報)
 時は1990年代初め。ジャーナリストのレジナ(Sheethal Shetty)はウドゥピの漁村で起きた3件の殺人事件を調査するため、当地にやって来る。被害者の一人のリッチー(リチャード・アントニー:Rakshith Shetty)が彼女の子供時代からの顔見知りだったからである。レジナは各被害者の関係者から聴き取りを始める。
 ・・・
 リッチーとラグは幼馴染みの少年だった。ある日、リッチーは誤って村の男を殺してしまう。リッチーはそれで8年間少年院に入ることになるが、ラグは逃走し、ムンバイの暗黒街で育つ。リッチーも出所後、ヤクザになっていた。
 ラグ(Rishab Shetty)は15年ぶりに故郷に戻って来、母のラトナッカ(Tara)と涙の再会を果たす。彼は母と一緒にドバイに移住しようと考えていた。そのためにはまとまった金が必要であった。そんなラグの所にリッチーが現れ、ラグを連行して、漁船に乗せる。
 漁師のバール(Achyuth Kumar)はある日、海から光り輝く「ブツ」を引き上げる。彼はそれを売ってひと儲けしようと、ムンバイのマフィアに話を持ちかける。だが、それを知ったウドゥピのドン、シャンカル・プージャーリ(Dinesh Mangalore)は、バールを殺して「ブツ」を横取りするよう、リッチーに依頼する。リッチーは、クリシュナ・ジャンマーシュタミー(クリシュナ誕生祭)の日にフリウェーシャ(虎の舞踊)をしているバールを襲い、漁船へと運ぶ。
 漁船の修理工をしているムンナー(Kishore)は、他所の土地から移住して来た男で、助手で「デモクラシー」というあだ名の小僧(Suhaan)がいる以外、身寄りはなかった。そんなムンナーの慰めはシャーラダー(Yagna Shetty)という名の女性で、彼は彼女に強く惚れていた。シャーラダーはバールの妹だったため、ムンナーはバールとも懇意にしていた。ところが、バールがリッチーに襲われ、漁船に運ばれたという知らせを受ける。ムンナーはリッチーの漁船で弾丸を見つけ、バールが射殺されたと思い、復讐を考える。
 しかし、リッチーはバールを射殺していなかった。実は、その前にラグがバールから「ブツ」を盗んでいたため、リッチーはラグを撃ち殺したのであった。
 だが、そうとは知らず、ムンナーはクリシュナ・ジャンマーシュタミーの晩にリッチーを撃ち殺す。そして、彼自身もリッチーの片腕に撃ち殺される。
 ・・・
 レジナは獄中にいるリッチーの片腕に話を聴くが、彼はリッチーはラグを射殺していないと証言したため、謎が深まるばかりだった。彼女は「Ulidavaru Kandante(他者から見たら)」という題名で記事を書く。

◆ ざっくりしたコメント
・すかっすかのクライム・コメディーを期待したが、かなり丁寧に作り込まれたシリアス・トーンの作品で、ほとんどアートフィルムと言ってもいいほどだった。

・上で記したとおり、題名の「Ulidavaru Kandante」は「他者から見られるもの」、「他者はどんなふうに見たか」という意味。映画の題名としては風変わりなものだが、これが示唆するとおり、本作は単一の「事件」を複数の登場人物の異なった視点から再構成するという、いわゆるハイパーリンク・シネマで、5つ(+1つ)のチャプター立てになっていた。(しかし、複雑すぎるので、上のあらすじでは映画の構成から離れて、事実関係を中心に単純化して書いた。)

・そんなわけで、先行類似作品としては黒澤明の【羅生門】(50)、タランティーノの【Pulp Fiction】(94)、マニ・ラトナムの【Aaytha Ezhuthu】(04)、ウペンドラの【Upendra】(99)などが思い浮かぶ。本作はこれらのそれぞれから影響を受けているように思われるが(加えて、ラクシト・シェッティ監督はマラヤーラム映画【Kutty Srank】(10)なんかも参考にしているような気もする)、しかし、具体的な脚本の構成やテーマはそのいずれとも違っている。

・本作のテーマを言うのは難しい。難しいが、一つには物語中のリッチー(Rakshith Shetty)の口を通して語られた「キューバの子供の比喩」が参考になるだろう。これは、ムンバイの子供とキューバの子供が喧嘩をしていて、キューバの子供はムンバイの子供を殴るべき理由があり、その理由を表明しながら殴るのだが、それがスペイン語で発せられたため、ムンバイの子供はどうして自分が殴られているのか分からない、というもの。そのように、本作の登場人物はすべて然るべき理由があってある行為(例えば、殺人)を行うのだが、その行為を受けた(例えば、殺された)当の本人は自分がどうしてそうされた(殺された)のか分からない、というふうになっている。

・この「比喩」を通してラクシト・シェッティ監督が何を言わんとしているかは定かでないが、これを敷衍すると、愛したり愛されたり、憎んだり憎まれたり、殺したり殺されたりといった「出来事」には必ず理由があり、その理由は当事者さえ知らないことがあるが、必ず誰かが知っている、、、じゃ、その理由の一切を知っている者は誰か?、、、というところまで突き詰めると、もはや哲学の領域になる。そんなふうにぼんやり考えながら本作を観ていると、門前町ウドゥピでクリシュナ誕生際の日に起きた愛憎劇が、ほんのちっぽけな、あまりにも人間的な出来事のように思われて、私ゃ、悟りに近いものを感じたよ。

・しかし、本作は本当に分からない点が多い。そもそも「事件の真相」というのは明らかにされなかったし、隠喩として使われた「金色に輝く『ブツ』」や「バールを悩ます『カラス』」、「『デモクラシー』という名の少年」など、謎だ。もっとも、本作で言っているのは「人それぞれで見方が違う」ということだから、作品全体をどう見るかも各鑑賞者にゆだねられているということだろう。それはそれで構わないが、どうも落ち着かない。こういう難しいことをインド娯楽映画の枠内でやるのはどうかと思った。

・かといって、小難しいばかりの映画というわけではなく、「ラグと母のセンチメント」や「ムンナーのシャーラダーへの想い」など、突出して南インド的な情緒が盛り込まれている。監督自身が演じるリッチーのシーンには軽みもあった。

・本作はカルナータカ州のウドゥピとマルペ浜に絞った超ローカル映画となっている。カンナダ映画でも西海岸を舞台にした作品は多くない。ラクシト・シェッティ監督がウドゥピ出身なので、処女作の舞台を彼の地にしたのは分かるが、どうして時代を1990年代初めにしなければならなかったのかは謎だ。しかし、監督は当時幼い少年だったはずなので、彼はまず自身の原風景を映像化しておきたくて、20年前のウドゥピを選んだのかもしれない。

・カルナータカ州西海岸のウドゥピ県からダクシナ・カンナダ県、ケーララ州のカーサラゴード県北部にかけては「トゥル・ナードゥ」と呼ばれ、トゥル語話者が多く、独特な文化・風習を持っている。映画界にもアイシュワリヤー・ラーイやディーピカー・パドゥコーネ、ローヒト・シェッティ、アヌシュカ・シェッティ、プラカーシュ・ラージ、ウペンドラ、ヨーガラージ・バット、サンディープ・チャウター、グル・キランなど、当地と関連付けられる著名人がけっこういる。わけてもバント族の本拠地として知られているが、ラクシト・シェッティ監督も「姓」からしてバント族だろう。本作でもラクシト以外に、リシャブ・シェッティ、ヤジュナー・シェッティ、シータル・シェッティと「シェッティ姓」を4人も並べている。これはローカル色をリアルに出すために、現地の方言が話せる人を選んだということかもしれない。

・本作の言語はカンナダ語だが、マンガロール方言が使われ、トゥル語やコンカニ語の部分にはカンナダ語字幕が付いていた。マンガロール方言のカンナダ語がどういうふうに聞こえるかはさっぱり分からないが、カンナダ人は口を揃えてマンガロールのカンナダ語はきれいだと言う(ちなみに、バンガロールのカンナダ語は乱れているらしい)。もしかすると、日本語の場合でいくと、京都弁のように聞こえるのかもしれない(京都弁がきれいだと前提しての話だが)。

・本作で扱われたウドゥピの風習としては、やっぱり「Hulivesha(虎のダンス)」が圧巻。一度は見たいと思いつつも、お祭りシーズンにお寺参りはしたくない私としては、映画で見られて有り難かった。

画像

・新人の割には、込み入った脚本は面白くできているし、俳優に対する演出も上手くやっている。さらに、映像と音楽、BGMのコンビネーションがかなり良かった。ただし、ムラがあったように思う。非常に緻密に作られている部分といまいち工夫のない部分があった。全体的にスローテンポで、あくびも何度か出たので、完成度は低めに星付けした。

◆ 演技陣へのコメント
・ラクシト・シェッティ(リッチー役) ★★★☆☆
 本作でのパフォーマンスもかなり高く評価されているようだが、私の見た限りでは、もっとはじけることができたはずだと思う。よって、3ツ星。

画像

 なお、この人は【Simpallag Ond Love Story】の成功で「シンプル・スター」と呼ばれることもあるので、「気楽な奴」という意味を込めて、私は彼に「楽人」という和名を捧げたい(「らくしと」と読んでください)。

・リシャブ・シェッティ(ラグ役) ★★★☆☆
 落ち着いた感じで、好い味を出していた。【Lucia】(13)にも警官役で出演していた。

画像

・ターラー(ラトナッカ役) ★★★★☆
 上でも触れたが、息子ラグとの再会のシーンや、フィッシュ・カリーを作ってラグを待つシーンは本当に上手く、じーんと来た。

画像

・キショール(ムンナー役) ★★★★☆
 演技云々というより、この男の存在自体がドラマだった。

画像

・アチュート・クマール(バール役) ★★★★☆
 このお方も【Lucia】以降、いよいよ本領発揮か? 虎ダンスのメイクの凄み。

画像

・ヤジュナー・シェッティ(シャーラダー役) ★★★☆☆
 出番が短く、セリフは一言もなかったが、好印象。

画像

・シータル・シェッティ(レジナ役) ★★★☆☆
 黒縁メガネがお似合いの、知的な可愛いお方だった。実際にTV9のジャーナリストらしい。

画像

・ディネーシュ・マンガロール(シャンカル・プージャーリ役) ★★★☆☆
 特にコメントはないが、このお方の典型的なドン像があったればこそ、リッチーの型破りなヤクザ像が映えたのかも。

◆ テクニカル面・その他(覚書)
・音楽 : アジャニーシュ・ロークナート ★★★★☆
 このお方の名前も初めて聞いたが、ソングシーンもBGMもかなり良い。いわゆるダンスシーンはないが、曲数は今どき多いほうで、音がふんだんに溢れているような映画だった。

・撮影 : カルム・チャウラー ★★★★☆
 困ったことに、このお方の名前も初めて聞いたと思う。デジタルカメラでの撮影だが、かなりきれいな映像で、多くの場面で大胆なカメラワークを見せている。インド南西海岸の匂いや湿度まで感じ取られるような映像は4ツ星に値する。
 (写真下のお方。利発そうなお兄さんだ。)

画像

◆ 完成度 : ★★★☆☆
◆ 満足度 : ★★★★☆
◆ 必見度 : ★★★★☆

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 3月29日(土),公開第1週目
・映画館 : Eshwari,11:15のショー
・満席率 : 6割
 

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
ナイス

トラックバック(8件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
【Chaali Polilu】 (Tulu)
 先週末は日頃馴染みのない言語の映画を2つ観て来た。1つはトゥル語の【Chaali Polilu】、もう1つはベンガル語の【Chotushkone】。後者は非常に良い映画だったが、南インド映画ではなく、本ブログで紹介する理由がないので、今回は前者のみ鑑賞記を書く。 ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2014/11/19 01:45
【Love in Mandya】 (Kannada)
 インド映画にはマクロ的なものとミクロ的なものがあると思う。インド全域を(あるいは海外も)マーケットとするために、汎インド的なテーマ(例えば、テロ問題)を扱っていたり、どことは特定できない場所(あるいはムンバイやデリーなどのような中核的都市)を物語の舞台にしていたりするのがマクロ的。対して、マーケットを絞り、特定の地方/地区を舞台にし、その土地に固有の性質(例えば、ある方言を話す人々)を描き出すのがミクロ的。一概には言えないが、ボリウッド映画は前者の傾向を持ち、地方映画は後者が多いと考えて... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2014/12/05 02:08
【Vaastu Prakaara】 (Kannada)
 ヨーガラージ・バット監督の久々の新作。  ヨーガラージ・バット監督は、【Dyavre】(13)で俳優として出演したり、いくつかの映画でナレーターを務めたりして、サンダルウッドで話題の途切れることがなかったため、新作を発表するのが【Drama】(12)以来2年半ぶりというのは意外な気もする。  今回は「演技の達人」ジャッゲーシュと「シンプルスター」ラクシト・シェッティのツイン・ヒーローのようだし、ヒロインもパルル・ヤーダヴとアイシャーニ・シェッティのツインのようで、賑やかなドラマに... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2015/04/08 21:33
【Rangi Taranga】 (Kannada)
 本作はスタッフもキャストもほぼ知らない人ばかりだし、ポスターも奇をてらった感じだし、観る予定にはしていなかったが、業界人からも一般人からも高く評価する声が相次いだので、観ることにした。  監督のアヌープ・バンダーリという人は短編映画作家で、【Words】(10)という作品で評価されたらしい。長編商業映画では本作がデビュー作となる。 ・【Words】: https://youtu.be/-WrN3v7Aw-E ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2015/07/08 20:50
【Kendasampige】 (Kannada)
 カンナダのスーリ監督は好きな監督で、期待もしているが、個人的に最近はやや不満を感じていた。それというのも、【Jackie】(10)や【Kaddipudi】(13)のような大スターを起用した娯楽映画を撮り始めると(これらも良かったのだが)、デビュー作【Duniya】(07)と第2作【Inthi Ninna Preethiya】(08)で見せた強烈な個性、ぶっきらぼうな作風が希薄になってしまったからである。インドの商業映画というのは結局そういうものだし、仕方ないのかなぁ、と思っていたが、... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2015/10/02 18:21
【Ricky】 (Kannada)
 スタイルが古くさいと言われるカンナダ映画にあって、【Lucia】(13)と【Ulidavaru Kandante】(14)は特筆すべき新趣向映画の秀作だが、その両作品に表向き地味に参画していた人物がリシャブ・シェッティだ。この度そのリシャブ氏が監督デビューする運びとなり、友達でもないのに妙に感慨深いものを感じる。  主演は【Ulidavaru Kandante】、【Simpallag Ond Love Story】(13)のラクシト・シェッティ。日本でも【Vaastu Prakaa... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2016/02/09 21:28
【Mummy】 (Kannada)
 インド映画界における「Priyanka」と言えばChopraさんが圧倒的に有名だが、私にとってPriyankaとは「Priyanka Upendra」、すなわちウペンドラの奥方のことになる。テルグ映画の【Raa】(01)を観てめちゃめちゃ好きになり、以来、【Kotigobba】(01)、【H2O】(02)、【Malla】(04)と順々に観て、愛を確かめた。ウペンドラと結婚して、二児の出産と、銀幕活動のほうは疎遠になってしまったのは残念だったが、【Pancharangi】(10)でカンナダ... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2016/12/14 20:11
【Kirik Party】 (Kannada)
 この【Kirik Party】は観たい映画、楽しみな映画ではあったが、もうかなり前からSNSで過剰なぐらい宣伝がされていたので、いい加減うんざりしていたところで公開となった。  監督はリシャブ・シェッティ、主演はラクシト・シェッティという、【Ricky】(16)と同じくシェッティ&シェッティによる映画。  題名の「Kirik」は他人に悪戯したり、イライラさせたり、怒らせたりする厄介な存在のことで、「Party」は宴会のことではなく、仲間とかグループとかのほう。訳しにくいが、「悪戯... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2017/01/04 21:27

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
【Ulidavaru Kandante】 (Kannada) カーヴェリ川長治の南インド映画日記/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる