カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Race Gurram】 (Telugu)

<<   作成日時 : 2014/04/17 22:41   >>

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 テルグのスレンダル・レッディ監督については、一風変わったアクション映画の作り手という認識を持っているが、とにかくセンスにずれたところがあるので、【Athidhi】(07)で初めて観たときは苦労した。しかし、【Kick】(09)、【Oosaravelli】(11)と観ていくうちに、アクションやコメディーなどの見せ方に鋭いものを感じ、「もしや、天才?」と思うようにもなった。
 そんなスレンダル・レッディ監督の新作がこの【Race Gurram】。【Oosaravelli】(日本でも上映された)は、私は面白いと思ったが、現地でのウケはいまいちだったので、アッル・アルジュンとシュルティ・ハーサンを起用した本作で巻き返しを図りたいところだ。

【Race Gurram】 (2014 : Telugu)
脚本・監督 : Surender Reddy
出演 : Allu Arjun, Shruti Haasan, Shaam, Ravi Kishan, Saloni, Prakash Raj, Brahmanandam, Posani Krishna Murali, M.S. Narayana, Ali, Mukesh Rishi, Kota Srinivasa Rao, Tanikella Bharani, Pavitra Lokesh, Pragathi, Jayaprakash Reddy, Sayaji Shinde, Raghu Babu, Paruchuri Venkateswara Rao, Rajiv Kanakala, Duvvasi Mohan, Srinivasa Reddy, Tagubothu Ramesh, Raghu Karumanchi, Narsing Yadav, Debi Dutta(アイテム出演)
音楽 : S.S. Thaman
撮影 : Manoj Paramahamsa
編集 : Goutham Raju
制作 : Nallamalapu Srinivas (Bujji), Dr. Venkateswara Rao

題名の意味 : 競走馬
映倫認証 : U/A
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : アクション・コメディー
公 開 日 : 4月11日(金)
上映時間 : 2時間43分

◆ あらすじ
 ラーム(Shaam)とラッキー(ラクシュマン:Allu Arjun)は性格が正反対の兄弟で、子供の時から反目してばかり。真面目な兄のラームは正義感の強い警官になっていたが、ラッキーのほうは自由気ままな無職者で、両親(Tanikella Bharani & Pavitra Lokesh)も頭を痛めていた。
 ある日、ラッキーはスパンダナ(Shruti Haasan)という女性と出会う。彼女は乗ったエレベーターに異常が起きても、入った銀行で強盗に遭っても、顔色一つ変えなかった。それもそのはず、スパンダナの父(Prakash Raj)は平和と静寂を愛する人物で、家人には如何なることが起きても平穏を保つよう教育していたからである。ラッキーはそんな不気味なスパンダナを愛するようになり、スパンダナもラッキーを愛し、自由に感情を表現できるようになる。
 ラッキーはまたある日、懇意にしていたチャイ屋のオヤジ、バーバーイ(M.S. Narayana)の息子が交通事故に遭った際に、通りがかりの車に乗せて、病院へ運ぶ。ラッキーはアメリカ行きのために用意していたお金を治療費としてバーバーイに差し出す。おかげで息子は助かる。ところが、その通りがかりの車というのが内務大臣ゴーヴァルダン(Posani Krishna Murali)の乗っていた車だったため、この件は内務大臣の美談としてニュースで報道される。
 ときに、シヴァ・レッディ(Ravi Kishan)という悪漢が政界入りを狙っており、AP州の政治家たちは戦々恐々としていた。警官ラームは、この極悪非道の男の政界入りを阻止するため、捜査を進め、犯罪の有力証拠を得ていた。ちょうど選挙候補者届出の日に、ラームはその証拠を検察庁に運ぼうとするが、彼の乗る予定の警察車が何者かによって盗難されてしまう。それはラッキーの仕業だった。以前、ラームがスパンダナの父にラッキーの悪口を言ったため、ラッキーは兄を懲らしめようとしたわけである。ところが、ラッキーの運転する警察車はシヴァ・レッディの手の者に襲撃され、ラッキーは危うく命を落としそうになる。しかし、これが実は兄を狙ったものだということを知り、ラッキーはシヴァ・レッディを捕え、木に吊し上げ、散々痛めつける。ためにシヴァ・レッディは入院し、選挙に立候補もできなくなる。
 退院したシヴァ・レッディは復讐を開始する。彼はまずセクハラ事件をでっち上げ、警官ラームを停職に追い込む。さらに、違法住居の廉でラッキーの家族を追い出し、家屋を取り壊す。その上で、シヴァ・レッディはラッキーに、24時間以内にお前の家族を皆殺しにすると脅迫する。
 待ったなしの状況に追い込まれたラッキーだが、ある奇策で反撃に出る、、、。

・その他の登場人物 : シュウェータ(Saloni),ペッディ・レッディ(Mukesh Rishi),政党党首(Kota Srinivasa Rao),州首相(Sayaji Shinde),偽医者(Ali),キル・ビル・パーンデーイ(Brahmanandam)

◆ ざっくりしたコメント
・面白い。インドの庶民がどのくらい忙しいかは知らないが、私のような雇用ビザで滞在している者にとって、基本的に暇ということはなく、忙しいときにアホくさい映画を見せられると、「こんな映画を見せられてもなぁ、、」と頭に来ることがある。しかし本作は、アホくささという点ではかなりのレベルなのに、頭に来るどころか、いい脳ミソのリセットになった。大衆向けの作品だが、意外に教養層のウケもよく、彼らもおつむをリフレッシュしたかったのかもしれない。

・別にインド映画をサッカーに喩えなくてもいいが、好きなので喩えさせていただくと、本作はリーガ・エスパニョーラのノリだ。むだにスペクタクルで、超美技もあるかと思えばミスも多く、80分まで0対2で負けていても、気が付いたら3対2で勝っていた、みたいな展開の映画だった。

・言っておくが、ストーリーはない。あっても、非常に凡庸なもので、監督は筋運びより、個々のネタで勝負に出たようだ。そのネタがスレンダル・レッディ印のぶっ飛びネタで、何度もいすからずり落ちた。

・ストーリーの仕掛けが遅いのもスレンダル・レッディ監督の特徴で、やっとインターバル前後から本格的に動き出す。この辺はマイナスポイントになるかもしれないが、終盤30分の「奇策」で、ブラフマーナンダム演じる「キル・ビル・パーンデーイ」が登場してからの展開にはのけ反る。この序破急の感覚は【Kick】や【Oosaravelli】でも見られたもので、これも同監督作品の特徴だろう。

・しかし、上でストーリーはないと書いたが、これはなにもスレンダル・レッディ監督が手抜きをしたということを意味せず、むしろ同監督は非常に頭を使ったのではないかと私は見ている。そう思う根拠は、本作の発しているスプーフ映画的色彩だ。おそらくスレンダル・レッディ監督にはスプーフ映画を撮ろうなんて意図はなかったと思う。にもかかわらず、本作は全編でパロディー精神に満ちている。

・3つの相でそう。1つ目は「インドの現実社会システム(警察機構や政治家など)に対する茶化し」。近ごろのテルグ映画やタミル映画は、いかに警察と政治家をバカにしくさるか、というテーマで腕比べしている感があるが、本作はこの点でかなり上位に食い込む。

・スプーフ精神の2つめは「テルグ映画そのものに対するパロディー」。3つ目は「スレンダル・レッディ監督作品のセルフパロディー」(例えば、アリー演じる偽医者は【Kick】からのキャラクターだった)。

・重要なのは2つ目で、本作はテルグ映画と言うより、「テルグ映画のテルグ映画」と言うべきものだった。これにも2つの相があって、1つ目はテルグ映画がこれまで培ってきたモチーフ(ファクショニストやテロ、結婚式場からの新婦誘拐など)を本作が面白おかしゅうパロっていること(これは最近の他のテルグ映画にも見られる傾向)。2つ目は、適語かどうか分からないが、「フォーメーション・チェンジ」と呼べるようなもの。

・テルグのアクション映画というのは、安定した表現様式を誇っているせいで、革新的な作品を作りにくい。しかも、タミル映画のように、テーマの取り方や表現スタイルを根本的に変えてしまうような手法を取りたくないテルグ映画としては、ルーティーンの中にも新鮮さを出すために微妙なテクニックが必要となり、S・S・ラージャマウリもトリヴィクラムもシュリーヌ・ヴァイトラもその点で腐心している。そのテクニックの1つが「フォーメーション・チェンジ」だと思う。

・またまたサッカーの喩えで申し訳ないが、4バックから3バックに変えるとか、ボランチの選手をトップ下に上げるとかで、同じ11人がボールを蹴っていても、サッカーががらりと変わることがある。そうしたフォーメーションのチェンジが最近のテルグ映画にも起きているのではないか、というのが私の観察だが、それが本作には端的に見てとれる。

・従来のテルグ・アクションでは、ヒーローと悪役が主軸で、コメディアンは主に息抜きとして登場するだけだったが、最近はヒーローとコメディアンが主軸となり、悪役はストーリーを動かす方便でしかなくなっている作品が見られる。つまり、ヒーローとツートップを組むのは、以前は悪役やヒロインだったのに、最近ではコメディアンになっているのである。

・例えば、最近ブラフマーナンダムの突出した活躍が目立つが、これをブラフミーの「芸の円熟」のみに帰してはならない。要は、テルグ・アクション映画がストーリー内のスーパーサブとして、優秀なコメディアンを必要とするトレンドになっているということだ(相対的に、悪役系のアジャイやスッバラージュらの影が薄くなっているのも偶然ではない)。

・本作でスレンダル・レッディ監督はそれを明確に意図しているようで、主役のアッル・アルジュンにはブラフマーナンダムやポーサーニ・クリシュナ・ムラリ、アリーらと気持ちよくパス交換させている(代わって、かつてブラフマーナンダムがやっていたような役回りを本作ではプラカーシュ・ラージが担っているのに注目!)。そして、最後の必殺スルーパスの受け手も意外な人物で、意表を突かれる。

・このように、本作は一見普通のテルグ・アクション映画のように見えるが、実はかなり入念に差異化されており、この「ズレ」の感覚に観客は笑ったりずっこけたりできるのだと思う。

・ただし、こうしたパロディー的なズレの面白さは「知っていなきゃ、分からない」といった類のことなので、本作を観て本当に笑ったりずっこけたりできるのは、結局はテルグ人か、外国人ならまとまった本数のテルグ映画を観た人になってしまう。この辺がローカル映画鑑賞の難しい(また、奥深い)ところだ。(例えば、テルグ映画を観たことのない人が本作を観ても、「キル・ビル・パーンデーイ」がどうして面白いのか理解できないだろう。)

◆ 演技陣へのコメント
・アッル・アルジュン(ラッキー役) ★★★☆☆
 らしさが出ていて、良かった。「デーウダー!」(神さま〜!)のセリフが小学児童を中心に流行りそう。難を言えば(スタイリッシュ・スター自身の問題ではないが)、少年時代のラッキーを演じた子役が男前すぎた(アッル・アルジュンの子供時代はもっとアホヅラだったぞ)。ダンスは、控えめな振り付けだったが、カッコよかった。

・シュルティ・ハーサン(スパンダナ役) ★★★☆☆
 無感情、無反応の登場のし方が、私がシュルティに対して抱いているイメージに合致し、良かった。スレンダル・レッディ監督は女優の使い方、見せ方が上手いほうだが、本作でもまずまず。ただし、【Oosaravelli】のタマンナーとパヤル・ゴーシュほどのマジックはなかった。

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・シャーム(ラーム役) ★★★☆☆
 スレンダル・レッディ監督のお気に入り? 良い俳優だと思うのだが、いっこうにキャリアがぱっとしないのはなぜ?

・ラヴィ・キシャン(シヴァ・レッディ役) ★★★☆☆
 主にボージプリー映画で活躍する俳優だが、ヒンディー映画のヒット作やマニ・ラトナム監督作品、シャーム・ベネガル監督作品にも出演しているので、南でもある程度は知られている。本作でのパフォーマンスは、評価はいまいち低いようだが、私はまずまずだったと見ている。それにしても、彼が「ボージプリーのアミターブ・バッチャン」と呼ばれているなんて、まったく知らなかった。

・サローニ(シュウェータ役)
 ま、シュルティには悪いけど、私ゃ、こっち目当てで見に行ったんですけどね。出番が短く、なんてことない役柄でも、文句は言いません。三十路アイドル、さすがに体の線がオバサンっぽくなってきたが(前からか)、それも問題なし。どこまでも着いて行くよ。

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 ちなみに、サローニは今夏に【Maryada Ramanna】(10:邦題【スニールの敷居跨ぎ危機一髪!】、もとい、【あなたがいてこそ】)で日本でもお目見えするので、応援してあげてね。

・その他、ブラフマーナンダム、プラカーシュ・ラージ、ポーサーニ・クリシュナ・ムラリ、等々のオヤジ軍団についても書くべきことが山ほどあるが、長くなるので、とにかく「見てくれ」とだけ言っておく。

◆ テクニカル面・その他(覚書)
・音楽 : S・S・タマン ★★★☆☆
 ぶタマンくんの音楽はいつもどおりのノリで、ビックリはなかったが、音楽シーンはどれもリッチに面白く作られている。
 1曲目のアイテム・ダンサー(Debi Dutta)がスリムなのに巨乳で良かった(こりゃ、良いダンサーだ)。

・ところで、本作は音楽シーンの挿入タイミングが悪く(特に後半の2曲)、あちこちのレビューで批判されている。確かに、「事実として」挿入のタイミングは悪い。しかし、これについても私はどうも臭うものを感じる。というのも、本当にタイミングがおかしすぎるので、これはもうミスと呼べるレベルではなく、そうなると、スレンダル・レッディ監督の経験を考慮すると、ミスったというより、「わざと」目茶目茶な入れ方をしたのではないか、とも思えるからある。
 英語でレビューを書いているような批評家、特に北インド系の評者などは、南インド映画の音楽シーンに対する目線が冷たく、何かあると鬼の首を取ったかのように、「ムダに音楽シーンが多い」、「唐突に始まる」と書きたがるが、しかし、よく考えてみると、音楽シーンが必然的に始まろうが、唐突に始まろうが、それがその映画のヒット/フロップに直結するわけではないのである(その証拠に、南インド映画をリメイクして100カロール・クラブ入りしたヒンディー映画は少なからずあるが、それらが音楽シーンの作り方/入れ方という点で向上/改善が見られたわけではない)。つまりは、音楽シーンのタイミングがどうであれ、ヒットするものはヒットするし、フロップに沈むものはそうなるのである。そうすると、批評家が音楽シーンについて弄している言説は、興行サイドからすれば「ムダな営み」ということになり、そういうことをはっきり認識している聡明なスレンダル・レッディ監督は、批評家をおちょくるためにこんな「悪戯」をしたのではないか、とも思えるのである。
 もっとも、この「故意説」は私の憶測だが、スレンダル・レッディ監督ならやりかねないのである。

・撮影 : Manoj Paramahamsa ★★★☆☆

◆ 完成度 : ★★★☆☆
◆ 満足度 : ★★★★☆
◆ 必見度 : ★★★★☆

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 4月13日(日),公開第1週目
・映画館 : Gopalan Cinema (RR Nagar),13:00のショー
・満席率 : 満席
 

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