カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Velaiilla Pattathari】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2014/07/23 18:30   >>

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 タミル・スターのダヌシュは、ここ2,3年の際立った活躍にもかかわらず、私的にはも一つ関心が低いのだが、本作は彼の主演25本目記念作で、自らプロデュースした作品ということなので、観ておくことにした。
 監督のヴェールラージはこれまで撮影監督として優れた業績のある人で、本作が監督デビュー作となる。【Polladhavan】(07)や【Aadukalam】(11)、【3】(12)など、ダヌシュとの相性も良い。「撮影監督が監督に」という例は、南インドでは、超有名なサントーシュ・シヴァンに加え、K・V・アーナンド、シーヴァ(故人)、アマル・ニーラド、サミール・ターヒル、ラジーヴ・ラヴィ、S・クリシュナなどがいるが、抜群の映像センスを武器に、意外に印象的な作品をものにしている。ヴェールラージの監督としての腕前にも注目したい。

【Velaiilla Pattathari】 (2014 : Tamil)
脚本・監督 : Velraj
出演 : Dhanush, Amala Paul, Saranya Ponvannan, Samuthirakani, Surabhi, Amitesh, Hrishikesh, Vivek, Cell Murugan, Vignesh Shivan, その他
音楽 : Anirudh Ravichander
撮影 : Velraj
編集 : M.V. Rajesh Kumar
制作 : Dhanush

題名の意味 : 職なし学士
映倫認証 : U
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : ドラマ
公 開 日 : 7月18日(金)
上映時間 : 2時間13分

◆ あらすじ
 ラグワラン(Dhanush)は大学で土木工学を専攻したものの、卒業以来4年間、就職できないでいた。かといって、土木建設業以外の職に就くのも潔しとしなかった。対して、弟のカールティク(Hrishikesh)はIT企業に就職し、高収入を得ていた。こんな状況下、父(Samuthirakani)はラグワランに厳しく接していたが、母(Saranya Ponvannan)は長男を可愛がり、必ずや出世してくれると信じていた。
 ある晩、酒を飲んで帰宅する途中で、ラグワランは車にぶつかられる。運転していたのは先日隣家に引っ越して来たシャリニ(Amala Paul)だった。これをきっかけに二人は親しくなる。歯科医のシャリニは月20万ルピーの収入があり、無職のラグワランとは不釣合いだったが、彼の人柄と考え方を理解し、愛するようになる。
 そんな中、ラグワランの母が急死する。家庭内での擁護者を失い、独り屋上でテント暮らしをするラグワランだが、しかしここに思わぬ救いが現れる。とある大手建設会社の社長が娘のアニター(Surabhi)を伴いラグワランの家にやって来たのである。アニターは喫煙から肺癌になり、肺の移植手術を受けて、助かっていた。その臓器の提供者だったのがラグワランの母だったわけである。社長はラグワランの窮状を知り、彼を自分の会社の社員にする。
 ラグワランは早速プロジェクトの担当者となる。それは政府の公団住宅建設のプロジェクトだったが、ラグワランのチームはうまく入札で勝ち取る。ところが、請負に失敗したライバル建設会社の御曹司アルン・スブラマニヤム(Amitesh)は面白くない。彼は過去に就職面接にやって来たラグワランを歯牙にもかけなかった経緯があったからである。アルンはラグワランの仕事を失敗させようと、いろいろな妨害工作を開始する、、、。

・その他の登場人物 : ラグワランの部下アラグスンダラム(Vivek)

◆ ざっくりしたコメント
・さすがダヌシュのプロデュースによるダヌシュの25本目記念作品だけあって、鮮やかにダヌシュの「俺様」映画になっている。何から何まで注文どおり、ダヌシュ・ファン納得の一作。ヒットは間違いなし(すでにブロックバスター宣言が出されているが)。

・ただ、ダヌシュを離れても、本作は面白い。撮影が本業のヴェールラージ監督とあって、映像優先、中身の薄っぺらな作品になるのでは、と心配したが、なんのなんの、あちこちで気の利いたことをやっており、また、実にタミル映画らしい味わいも保持した佳作だった。私は気に入っている。

・まず、テーマの取り方が良い。「就職できない大卒者」の意地の逆転劇というプロットが面白い。ここ20年の高度経済成長で、なるほどインドは豊かになったが、富が全般に行き渡ったとは言いがたく、特にリーマンショックで景気が鈍化して以来、「勝ち組」と「負け組」の差が目立つようになっている。本作でもその差を、勝ち組が弟カールティク(ITエンジニア)とシャリニ(歯科医)、負け組がラグワラン(土木技師)と、きちんと線引きされている。その負け組連中が集まってひと仕事をなそうという展開には、これまで負け組街道を歩み続けてきた私も共感を覚えずにはいられなかった。

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・もっとも、本作が登場したからといって、インドの失業率が改善されるわけではないのだが、偏った産業人口構成や、親の偏見による子への不当な期待(例えば、男子ならIT技術者、女子なら医者になることを期待するとか、経済力が許せば子をイングリッシュ・ミディアムの私立校に入れたがるとか)に対する的を得た風刺にはなっている。

・大体、インドの娯楽映画が負け組サイドに立たないわけがないのだが、本作の場合、主人公ラグワランのキャラクター造形とダヌシュの演技スタイルが嵌りすぎていて、「負け犬、転じてヒーロー」の哲学がうまく映画化されている。この辺がタミルの大衆映画の味わいだと思うのだが、さらにヴェールラージ監督の目は優しくて、ラグワランと母の「母子センティメント」が効いているし、庶民的な小道具の使い方も上手い(例えば、モペットや屋上に隠された安ウイスキー等)。

・ヴェールラージ監督が意外に気の利いたことをやっていると感じたのはラグワランとシャリニのロマンス展開で、ハートタッチングな演出が良かったし、小道具として使われた「望遠鏡」のアイデアも面白い(ただし、この二人の物語も結果的には大きなうねりにはなっていない)。アクションの見せ方も一風変えている。

・ヘビースモーカーのラグワランはキメ台詞を吐くときも煙草ぷかぷかで、いちいち出される禁煙キャンペーンの字幕が徒に見えるほどだった。かといって喫煙を奨励しているわけではなく、本作にはアニターの喫煙による肺癌という話が背景にあり、大きな禁煙のメッセージとなっている。
 (写真下:この吸いっぷりはお義父さまへのオマージュか?)

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・本作の題名は「Velaiilla Pattathari」だが、現地人はたいてい「VIP」と呼んでおり、そう表記しているレビューも多い。インド映画の題名を各単語のアルファベット頭文字を取って呼ぶのは珍しくないが、本作のこれは実際に日常的な場面で使われる言い方らしい。例えば、「オレ、1年仕事がなくってさぁ、VIP(失業学士)になってるよ」みたいな。

◆ 演技陣へのコメント
・ダヌシュ(ラグワラン役) ★★★☆☆
 ダヌシュは、ラジニやスーリヤにはなれないという自分の背丈をよく理解し、ユニークな役柄を選択している。そういった意味で賢い俳優だと言えるが、毎回、こうも似たような役をやっていて、いつまで通用するか?

・アマラ・ポール(シャリニ役) ★★★☆☆
 月20万ルピー稼いでいる割には庶民的で、母性的で優しく、まさに冴えないタミル男子の妄想が現れ出たようなキャラクターだった。その点でセルワラーガヴァン監督(ダヌシュの兄)の傑作【7G Rainbow Colony】(04)のヒロイン「アニター」に重なるところがある。ちょっと色黒のナチュラルっぽいメイクが良かった。【Kadhalil Sodhappuvadhu Yeppadi】(12)でも感じたが、どうもアマラさんはオレンジ/褐色系の衣装が似合うようだ。

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・サランニャ・ポンワンナン(ラグワランの母役) ★★★★☆
 芝居としては凄いことはやっていないが、この母親の存在が本作では重要で、うまくキーパーソンの役割を果たしている。おかげで、私も本作鑑賞中に実家の老母のことを思い出した。

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・サムディラッカニ(ラグワランの父役) ★★★☆☆
 悪くはない。監督業でアイデアが枯渇しても、性格俳優としてやって行けそうだ。

・スラビ(アニター役) ★★★☆☆
 上で書いたとおり、アマラ・ポールのシャリニ役を「7G Rainbow Colonyのアニターみたい」と思いながら鑑賞していたら、セカンドヒロインに「アニター」が出て来たので、あれ?と思った(無関係だと思うが、どうも本作はセルワラーガヴァン監督作品の影を感じる部分が多い)。この役回りにここまでの美女を使う必要はなかったと思うし、実際、ラグワランと積極的な展開があったわけでもない(というのも、母の肺を持つアニターをラグワランは母のように見なしていたから)。しかし、本作のぷっつりとした終わり方からすると、もしかしてパート2もあり?と予想しないこともない。
 (写真下:スラビさん。本作のスチルではありません。)

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・アミテーシュ(アルン・スブラマニヤム役) ★★☆☆☆
 この人は新人かな? 情けないタイプの悪役で、物語中「アムール・ベイビー」と呼ばれていた。アムール・ベイビーというのは大手乳製品メーカー「Amul」のマスコットキャラクターだが、本作では「大人になっても未熟な、お金持ちの過保護な子」という意味で使われていた。
 (写真下:ラーフル・ガーンディーがよくこんな風にバカにされていた。)

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・ラグワランの弟カールティクの役をやったのはリシケーシュという新人だが、本作音楽監督アニルドの従弟らしい。ラグワランの協力者(同じく無職の土木技師)ヴィグネーシュの役をやったのは、実は【Podaa Podi】(12)を撮ったヴィグネーシュ・シヴァン監督(ヘルメットの似合う男だった)。

◆ テクニカル面・その他(覚書)
・音楽 : アニルド ★★★☆☆
 ダヌシュのセンセーショナルヒットとなった"Why This Kolaveri Di"の作曲者。本作では、歌は良かったが、BGMは賑やかすぎたと感じた。歌のうち3曲でダヌシュが歌っているらしい。

・撮影 : ヴェールラージ ★★★☆☆
 レビューによっては撮影監督としてArunbabuの名が挙がっている。事情は分からないが、本作のクレジットではVelrajになっていたと思うので、こちらにしておく。

◆ 完成度 : ★★★☆☆
◆ 満足度 : ★★★★☆
◆ 必見度 : ★★★★☆

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 2月19日(土),公開第1週目
・映画館 : Gopalan Cinemas (Sirsi Circle),13:00のショー
・満席率 : 7割
 

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【Kaththi】 (Tamil)
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