カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Jigarthanda】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2014/08/05 21:36   >>

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 タミル映画の【Pizza】(12)はセンショーナルなヒット作品となり、カンナダ語版、ヒンディー語版、ベンガル語版にリメイクされただけでなく、タミル映画内においても【Pizza II: Villa】(直接的な続編ではないが)が作られ、【Pizza 3】も準備中だと聞く。監督したカールティク・スッバラージはデビュー作でいきなり時の人となった形だが、そんな彼の第2作【Jigarthanda】がついに発表された。彼に2作目のジンクスはあるか?
 (写真下:カールティク・スッバラージ監督近影。この人は映画界入りする前にエンジニアとして日本で働いたこともあるらしい。)

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 題名の「Jigarthanda」は「冷たい心」という意味だが、タミル・ナードゥ州のマドゥライ(本作の舞台)でよく飲まれている冷たい飲み物の名前でもある(写真下)。この題名に「A Musical Gangster Story」という副題が付いている。

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【Jigarthanda】 (2014 : Tamil)
脚本・監督 : Karthik Subbaraj
出演 : Siddharth, Lakshmi Menon, Bobby Simha, Karunakaran, Aadukalam Naren, Guru Somasundaram, Sangili Murugan, Ramachandran Durairaj, Soundara Raja, Ambika, Vinodhini, Nasser, Vijay Sethupathi(特別出演)
音楽 : Santhosh Narayanan
撮影 : Gavemic U Ary
編集 : Vivek Harshan
制作 : Kathiresan

題名の意味 : 冷たい心
映倫認証 : U/A
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : ?
公 開 日 : 8月1日(金)
上映時間 : 2時間51分

◆ あらすじ
 映画監督志望のカールティク・スブラマニヤム(Siddharth)は有望な新人監督を発掘するテレビ番組に出演するが、審査員である高名な映画監督(Nasser)からエントリー作品をけなされ、落選する。しかし、他の審査員であるプロデューサー(Aadukalam Naren)がカールティクの才能を評価し、支援を約束する。
 カールティクは早速そのプロデューサーに会いに行く。しかしプロデューサーは、プロデュースする代わりに「ギャング映画を撮ること」を条件とする。カールティクは脚本を書くためにギャングに関する資料を読み漁るが、決め手に欠く。そこで実在のギャングを調査しようと、マドゥライで恐れられているドン、セードゥ(Bobby Simha)に狙いを定める。
 カールティクはマドゥライに行き、現地の友人ウールニ(Karunakaran)と共にセードゥの行動を観察し始める。二人はセードゥの部下や関係者にも近付き、情報を集めようとする。そんな時にカールティクはカヤル(Lakshmi Menon)という女性と出会う。カヤルは母(Ambika)と共にイドゥリを作り、セードゥの家にも仕出ししていた。そこでカールティクはカヤルに惚れているふりをして接近し、彼女からセードゥに関する情報を得ようとする。
 そんな中で、カールティクとウールニはセードゥの部下サウンダラ(Soundara Raja)と親しくなる。情報収集に行き詰っていたカールティクは、電子機器に隠しマイクを仕掛け、サウンダラにプレゼントする。それでセードゥ一味の会話を盗聴し始めるが、驚いたことに、サウンダラは敵のギャングと内通し、セードゥを暗殺する計画に加担していたことが分かる。その暗殺計画は失敗に終わり、サウンダラはセードゥに射殺される。その際に電子機器に仕込まれたマイクも発覚し、カールティクとウールニはセードゥらに捕えられる。折しもセードゥは自分に対する警察の射殺計画の情報を得ていた時だけに、二人を警官だと誤解する。しかし、なんてことはない、カールティクが本当にギャング映画を撮りたい映画監督だと分かり、逆にセードゥは自分をヒーローにした映画を撮れと要求する、、、。

◆ ざっくりしたコメント
・どうやらカールティク・スッバラージ監督に2作目の壁はなかったようだ(実のところ、脚本としては本作のほうが【Pizza】より先にできていたらしいが)。【Pizza】同様、この人の映画的センスには素晴らしいものを感じる。敬意を表するために、名前をもじって「カールティク・スッバラシー」とお呼びしてもいいですか?

・【Pizza】でも大胆なヒネリが用意されていたが、本作でもそう。上のあらすじは前半をちょっと過ぎた所までで、ここまででも十分面白かったが、ここからどかどかっとヒネリがあり、えらく方向展開する。どういうオチになるのか、先が読めなかった。

・総体的に面白かったと言える。ただ、ヒネリが多い分、あちこち振り回された感があり、単純に「よしっ!」といったオチの鮮やかさがなかった(要は、映画が終わっても、まだ何かあるのでは?という踏ん切りの悪さを感じた)。これが悔やまれる。

・複雑な構造を持つ映画で、ストーリーの進行も一直線じゃない。実のところ、一回観ただけでは把握できないものがあり、この記事を書きながらも、まだ頭の中が整理できていないことを告白しておく。

・まず、本作は「メタ映画」だというのがある(ここでは単に「映画を作る映画」という意味でこの言葉を使っている)。具体的には「ギャング映画を作る映画」なのだが、インドのギャング(ラウディー、またはヤクザ)はギャング映画好きというのがあるし、映画界もギャングを好んで題材にしている。つまり、インド映画とギャングというのには共犯関係があるわけで、ギャング映画を撮る映画となると、この設定からしてすでに映画界とギャング界に対して風刺、パロディーが可能となることを意味している(実際にカールティク・スッバラージ監督はその可能性を駆使している)。

・しかし本作は、物語中のカールティク・スブラマニヤム監督(Siddharth)がヤクザのセードゥ(Bobby Simha)に自分をヒーローにした映画を撮ることを強要されることにより、「ギャングにギャング映画を作らされる映画」に方向展開し、さらに、それに反撃したカールティク・スブラマニヤム監督が実際に発表したのは撮影中のクリップを使ったほとんどNG集といった代物だったわけで、つまりは本作は「ギャング映画を作っている映画を作る映画」といった多層な入れ子構造に至り着くのである。

・しかも、ここにヴィジャイ・セードゥパーティがカメオ出演(本人役)するのだが、彼がメインストーリーの時系列の中にも回想シーンの中にもひょっこり現れるものだから、もうどこまでが現実で、どこまでが虚構だか分からなくなる(まぁ、映画なんだから、すべて虚構なのだが)。

・しかし、この層構造や線的流れの複雑さも、俯瞰してみて、要するにすべてはカールティク・スッバラージ監督(スブラマニヤムではない)の自由な想像の産物なんだと思い直せば、実に単純に収まりがつく。要は、本作はカールティク・スッバラージ監督が映画的な表現手法を用いて映画独自の面白さを追求したピュアな映画だったのだ。(注:これはあくまでも私個人の見方。本作は多面的な映画なので、鑑賞者ごとに全く違った見方/楽しみ方があるはずだ。)

・とはいっても、本作はこうした形式的な面白さ以上に、内容的に血も肉もある、「旨み」のある映画だと思う。特にマドゥライのギャング、セードゥとその一味の描き方に味があり、もちろん風刺の対象なのだが、カールティク・スッバラージ監督には彼らを「非人間」として斥ける考えはないようだった。

・カールティク(Siddharth)とカヤル(Lakshmi Menon)の展開も、門前町マドゥライの横丁を舞台とした庶民的な味わいのあるものだった。この二人の展開が後半に尻すぼみになってしまったのが悔やまれる。
 (写真下:やはり絵になるマドゥライの風景。)

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・ところで、このカヤルがサウラーシュトラ人と設定されていたのが珍しい。「サウラーシュトラ人」とは、元々グジャラートにいたサウラーシュトラ語を使う人々で、現在ではマドゥライを中心とした南タミルに住んでおり、絹織物などに携わっているらしい。カヤルをサウラーシュトラ人と設定する必然性はなかったと思うが、マドゥライ出身のカールティク・スッバラージ監督としては、「ギャング」、「ジガルタンダー」、「サウラーシュトラ人」と、郷土マドゥライの名物を揃えたかったのかもしれない。

◆ 演技陣へのコメント
・シッダールタ(カールティク・スブラマニヤム役) ★★★☆☆
 役割に応じて、自分の持ち味を発揮しつつ、しっかりと演じている。好感が持てたが、セードゥ役のボビー・シンハーに食われてしまったのが苦しい。

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・ボビー・シンハー(セードゥ役) ★★★★☆
 そのとおり、本作で最もインパクトのあったのがこのお方。観る前は、体も小さい俳優だし、マドゥライのヤクザの親分ができるのかと懐疑的だったが、最終的には適役だったことが分かった。【Pizza】、【Soodhu Kavvum】(13)、【Neram】(13)と、作品ごとに存在感を増している。

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・ラクシュミ・メーノーン(カヤル役) ★★★☆☆
 重要な役回りを与えられなかったが、マドゥライの田舎娘の素朴な(しかし、したたかな)感じはナチュラルに出せていた。重宝するね、この子は。ちなみに、彼女はバラタナティヤムができるらしい。
 (写真下:何気に膝の上に置いている黄色のサリーは盗品です。)

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・カルナカラン(ウールニ役) ★★★☆☆
 ま、のっそりとした感じで、面白いよ、こいつは。

・グル・ソーマスンダラム(演技指導者役) ★★★★☆
 ずぶの素人のヤクザたちに演技指導するスパルタ・コーチの役。このお方に4ツ星を付けるのは持ち上げすぎとも思うが、【Aaranya Kaandam】(11)と同様、スーパー脇役としてインパクトがあった。

・【Pizza】で本格ブレイクしたヴィジャイ・セードゥパーティがサービス出演している。また、映画監督のヴェトリマーランもちらっと出ている。

・本作でこの脇役女優の名がヴィノーディニだということを知った。ささやかな収穫。

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◆ テクニカル面・その他(覚書)
・音楽 : サントーシュ・ナーラーヤナン ★★★★☆
 【Pizza】と同じ音楽監督。【Pizza】では気付かなかったが、すごく良いセンスをしている。ジャズ風のBGMを入れているかと思えば、イライヤラージャーの曲を踏まえたものもあったりと、多様な音環境を作っている。(といって、なぜ本作が「Musical Gangster Story」なのかは分からなかったが。)

・撮影 : Gavemic U Ary ★★★★☆
 聞いたことのない名前だったが(というより、発音さえ分からない)、新人で、サントーシュ・シヴァンの助手をやっていた人らしい。

◆ 完成度 : ★★★★☆
◆ 満足度 : ★★★☆☆
◆ 必見度 : ★★★★☆

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 8月2日(土),公開第1週目
・映画館 : Vision Cinemas,13:15のショー
・満席率 : 7割
 

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
プロデューサが監督に相談もせず勝手に封切りを先延ばしにしたというのでシッドゥ君が狼狽してましたが、僅かな遅延でバンガロールでも公開されたのですね。

一安心です。
メタ坊
2014/08/05 21:45
ダヌシュの新作がヒットしていましたから、先延ばしは悪くない判断だったと思いますが、「勝手に」というのは問題ですね。
シッドゥくんは自信があったのでしょう。
 
カーヴェリ
2014/08/06 09:57

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