カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Kaaviya Thalaivan】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2014/12/03 21:19   >>

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 詳しい話はしないが、私は学生時代には映画より演劇のほうに強い関心を持っていた。今となっては演劇に対する情熱もそこそこに冷めたが、それでも、インドに来てからも、面白そうな芝居があれば観に出かけるようにしているし、伝統的な舞台パフォーマンス(例えば、カルナータカ州ならヤクシャガーナ等)もできるだけ観るようにしている。

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 そんな次第なので、ネットに上のようなスチルが出回り、何やらプリトヴィラージとシッダールトが演劇をモチーフにした映画に出るらしいぞ、と知ったときは胸が躍ったし、さらに監督がヴァサンタバーラン、音楽がA・R・ラフマーンだと分かったときは興奮した。
 ところが、待てよ、そういう映画に限って(少なくとも私の感性で)大すべりすることはまま経験してきたことなので、公開前は期待感より心配のほうが大きかった。
 本作が取り上げた演劇は、20世紀初頭の映画が登場する以前の時代に、タミル・ナードゥを中心に大衆に親しまれた「カンパニー・ドラマ」というスタイルの演劇らしい。(「カンパニー・ドラマ」と本作の簡潔なプレビューについてはPeriploさんのこちらの記事を参照のこと。)
 題名の「Kaaviya Thalaivan」は、「kaaviya」が叙事詩や物語、歴史、「thalaivan」がリーダーという意味らしいので、どう解釈すべきか迷ったが、下では「叙事詩の主役」にした。

【Kaaviya Thalaivan】 (2014 : Tamil)
脚本 : Vasanthabalan, Jeyamohan
台詞 : Jeyamohan
監督 : Vasanthabalan
出演 : Siddharth, Prithviraj, Vedhicka, Nasser, Anaika Soti, Thambi Ramaiah, Ponvannan, Singampuli, Mansoor Ali Khan, Babu Antony, Kuyili
音楽 : A.R. Rahman
撮影 : Nirav Shah
編集 : Praveen K.L., N.B. Srikanth
制作 : Varun Manian, S. Sashikanth

題名の意味 : 叙事詩の主役
映倫認証 : U
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : ドラマ(時代物)
公 開 日 : 11月28日(金)
上映時間 : 2時間31分

◆ あらすじ
 インド独立前の南タミル。シヴァダース(タヴァティル・シヴァダース・スワミガル:Nasser)は民衆演劇の人気劇団の座長をしていた。彼は2人の貧しい少年、ゴーマティとカーリを劇団に引き取り、役者として育てる。長じて、ゴーマティ(メーラチーヴァルペーリ・ゴーマティ・ナーヤガム・ピッライ:Prithviraj)は保守的で努力家の役者に、カーリ(タライヴァンコッタイ・カーリヤッパー・バーガヴァタル:Siddharth)は自由奔放で芝居にも画期的なアイデアを求める役者に育っていた。
 ある日、ヴァディウ(ニャーナコーキラム・ヴァディヴァーンパーリ:Vedhicka)という娘が母(Kuyili)と共にやって来、劇団で働きたい旨を伝える。この劇団は男のみの劇団だったため、座長のシヴァダースは一旦は断るが、ヴァディウの歌と踊りの才能に感心し、母娘を劇団に加えることにする。
 地元の大地主(Babu Antony)とその娘ランガンマ(Anaika Soti)がこの劇団の観覧にやって来る。アンガンマはカーリをいたく気に入り、褒美を与える。その後、カーリもアンガンマに惚れ、二人は深い仲になる。
 この劇団にはバイラヴァン(Ponvannan)という主役俳優がいたが、座長と衝突し、劇団を去ってしまう。シヴァダースは新たな主役俳優を決めるためにゴーマティとカーリを試す。結果、シヴァダースはカーリの創造的な芝居を評価し、主役俳優とする。先輩のゴーマティは、以前よりカーリに嫉妬心を抱いていたが、その気持ちをさらに増幅させる。
 ある夜、ゴーマティはカーリがアンガンマと逢引しているところを見つけ、その事実をシヴァダースに告げる。激怒したシヴァダースはカーリに謹慎を命じ、ゴーマティに主役の座を与え、劇団自体もこの町を引き上げることにする。
 この一件は尾を引き、まずアンガンマが自殺する。憤ったカーリはシヴァダースを呪詛するが、ショックを受けたシヴァダースは急死してしまう。結果、カーリは劇団を去ることになり、ゴーマティが新たな座長となる。
 ゴーマティとヴァディウを主役とした神話劇は大受けし、彼らの一座は海外公演まで行うほどになる。ところが、ゴーマティは体調を崩してしまい、公演を行うのも危うくなる。そんな時にカーリが戻って来る。ゴーマティはカーリと共に舞台に立つが、カーリの芝居は観客に強くアピールする。
 折りしもインドでは対英独立運動の機運が高まっており、カーリの演じる芝居も愛国的政治色が強くなる。ために、カーリは警察によって投獄されるが、それには彼を遠ざけようとするゴーマティの企みも働いていた。
 釈放されたカーリは、自らの劇団で独立運動に連帯した愛国劇を演じ、大衆から熱烈な指示を受ける。ヴァディウもカーリと行動を共にする。他方、神話劇を演じるゴーマティの劇団は客が来なくなり、経済的にも苦しくなる。そこへカーリが救いの手を差し伸べ、ゴーマティはカーリの劇団で芝居を続けることになる。だが、独立運動への取締りが厳しくなる中、カーリには落とし穴が待っていた、、、。

◆ ざっくりしたコメント
・本作は11月30日に千葉県市川市で1回こっきりの上映会が行われ、少なからぬ日本人ファンも鑑賞したようである。評判は、ツイッター等のコメントを見る限り、概ね好評で、そうなると、私も気が楽になり、一人ぐらいケチをつけるヤツがいてもいいだろうという気になっている。私の本作に対する全体的な評価は、そこそこ良い映画だったし、面白かったとも言えるのだが、期待に届いたかと言うと、そうではなく、完成度としてもいまいちだと見ている。

・何が一番期待はずれだったかと言うと、南インドの一時代の娯楽を形作り、インド映画にも大きな影響を与えた(らしい)「カンパニー・ドラマ」というものについて、上でリンク付けしたPeriploさんの記述以上の知識、イメージを私に与えてくれなかったことである。もちろん、ヴァサンタバーラン監督はカンパニー・ドラマについて解説する教育映画を作ろうとしたわけではないのだが、わざわざこれを素材とするのなら、もっと深みのある描き方をしてほしかった。

・つまり、リアリティーがない。民衆演劇の劇団(特に移動を前提とする巡回劇団)が持っているはずの香りが全くしなかった。映画とは視覚と聴覚のみの表現手段だが、私の信念では、良い映画というのは他の感覚、つまり、匂い、味、温度や湿度や痛みなどの皮膚感覚も喚起してくれるものであるべきだ。しかし、本作の劇団のイメージはいかにも清潔で、無臭だった。劇団の現場というのは、そうじゃないだろう。

・例えば、当時の大衆劇団というのは、役者も裏方として舞台設営をせねばならなかっただろうし、それに伴う肉体疲労、さて芝居を始めるに当たって、ドーランの匂い、汗くさく、黴くさい衣装、南インドなので、むせ返るような暑気、オイルランプの重く煤けた匂い、芝居が跳ねた後の酒盛り(やったかどうか分からないが)のどんちゃん騒ぎ、芝居道具一式を積み込み、自分たちも乗り込んだ移動のための馬車の揺れ、軋む音、劇団員同士の性的交渉(ボーイズ・カンパニーなら男色も普通にあったろう)、等々をちょっとでも想像してみたら、本作がいかに「劇団」について描いていなかったかが分かるだろう。

・もっとも、本作の製作チームはあえてリアリズムを離れ、現代風のコマーシャル映画にチューニングしたかったに違いない。ただ、【Angaadi Theru】(10)や【Aravaan】(12)で私の知らない世界をありありと見せてくれたヴァサンタバーラン監督からはそんなものは期待しない。(私と同じような印象を持った鑑賞者もいるようで、こちらのレビューでは「本作の芝居のシーンは今の時代の学芸会みたいだ」と言っている。)

・2つ目の不満点は、本作があまりにも【Amadeus】(84)に似すぎていること。もっとも、私の考えではリメイクや翻案が直ちにダメだというわけではなく、例えばボリウッドのヴィシャール・バルドワージ監督の一連のシェークスピア翻案物などは評価している。しかし、ヴィシャール・バルドワージ監督の場合は、翻案は彼の「お家芸」みたいに見なされているし、はっきりとシェークスピアだと公表しているし、実際に首尾よく翻案している。だが、本作の場合はこっそりパクった感じが強い。(ヴァサンタバーラン監督がよもや【Amadeus】を観ていないことはあるまい。)

・もし【Amadeus】がなかったなら、ヴァサンタバーランもジャヤモーハンも本作の脚本は書けなかったと思う。私は、本作の感動ポイントはゴーマティ(Prithviraj)のカーリに対する嫉妬心とクライマックス(結末)以外にはないと見ている。その核心的な部分が【Amadeus】に負っているわけで、そうすると、本作を褒め上げることはできなくなる。(通俗的な娯楽映画の監督ならOKだが、国際的な映画賞を窺おうかというヴァサンタバーランなら、これは認められない。)

・3つめの不満点は、シッダールトのカリスマ性のなさだ。本作はシッダールトとプリトヴィラージのツイン・ヒーローで、どちらが主役とは言いにくいが、どちらも等しく存在感が必要とされる。プリトヴィラージのゴーマティは非常に良かった。シッダールトも良かったし、合格点は楽に超えていたと思うが、さて、彼の演じるカーリがゴーマティの激しい嫉妬心を買うほどの「天才役者」に見えたかと言うと、私にはそうは見えなかった。

・脚本のせいもあるかもしれない。いくつかのレビューで指摘されているように、カーリのキャラクター付けは丁寧さを欠き、インド独立運動に身を投じる動機などがよく分からない。どんな人間的成長をしたかが分からないので、舞台で演技をしても相変わらず素人のようだし、「ヴァンデーマータラム!」と叫んでも、オーラが漂わないのである。

・脚本ということなら、私はこの映画が何を一番言いたかったのか分からなかった。稀代の舞台俳優の一生を描きたかったのか、インド独立闘争か、「嫉妬」という人間の本性か? 最も効果的だったのは「嫉妬」のモチーフだと思うが、それを描きたいなら、大金を投じて大掛かりな時代劇にしなくとも、【Aadukalam】(11)みたいに主人公にルンギをはかせて、鶏を持たせれば済む。

◆ 演技陣へのコメント
・シッダールト(カーリ役) ★★★☆☆
 シッダールトという俳優は、実力はあるし、プロフェッショナルだし、イケメンなのだが、なにせオーラが出ないので、上で書いたとおり、天才舞台役者というには足りなかった。そもそも彼がコスチューム物をやったらダメなのは、テルグ映画【Anaganaga O Dheerudu】(11)で証明済み。ただし、本作のクライマックスのシッダはすごく美しかった。

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・プリトヴィラージ(ゴーマティ役) ★★★★★
 オーラが出ないといえば、このお方もそうなのだが、本作では素晴らしく、何かが出ていた。それが何かは分からないが、とにかく、闇は光の否定ではなく、光と同等のエナジーを持つということを(特に心の闇は)、この人の演技から悟った。

・ヴェーディカ―(役) ★★★☆☆
 カンナダ映画【Sangama】(08)で見たときは、ダンススキルがあるのでは、と感じたが、本作でもそれが窺える。【Paradesi】(13)と並んで印象的な役を好演しているが、カーリとゴーマティの関係に重点が置かれたせいで、可愛そうに、弾き出された感がある。

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・アナイカー・ソーティー(役) ★★☆☆☆
 グラマーな新進美人女優ということで、期待したが、残念ながら光っているようには見えなかった。何と言うか、こういう時代劇のざっくりした衣装と装飾品を身に付けた際に、似合う顔と似合わない顔があるものだが、監督は似合う顔を呼んで来るべきだった。

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・その他、脇役陣も好演しているが、目から鱗的な凄みを見せていたのは看板役者バイラヴァン役のポンワンナンだった(写真トップの真ん中)。

◆ テクニカル面・その他(覚書)
・音楽 : A・R・ラフマーン ★★★☆☆
 コメントに困る。さすがラフマーン、と言いたいところだが、率直に言って、あまり感銘は受けなかった。聴く人が聴けば、良い音楽なのだろう。

・撮影 : ニーラヴ・シャー ★★★☆☆
 映像は美しく、複数の鏡を使った技巧的なショットも印象的だったが、きれいだったら良いというものではない。

◆ 完成度 : ★★★☆☆
◆ 満足度 : ★★★☆☆
◆ 必見度 : ★★★☆☆

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 11月29日(土),公開第1週目
・映画館 : INOX (Malleshwaram),13:10のショー
・満席率 : 1割
 

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【I】 (Tamil)
 世に「ラジニ映画」というのがあって、説明の必要はないと思うが、これは数多あるタミル映画の中でラジニカーント仕様に作られた一群の作品を指すにすぎないのに、タミル映画の代名詞みたいに見なされている。それと同じような位置付けなのがシャンカル監督による「シャンカル映画」で、これまたシャンカルという極めて個性的な映像作家の作品(しかも10作程度しかない)を指すにすぎないのに、タミル映画の決定版みたいになっている。ラジニ映画もシャンカル映画も個という限定を越えて、タミル人全体に愛され、逆にタミル人の... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2015/01/27 20:52

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