カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【I】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2015/01/27 20:52   >>

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 世に「ラジニ映画」というのがあって、説明の必要はないと思うが、これは数多あるタミル映画の中でラジニカーント仕様に作られた一群の作品を指すにすぎないのに、タミル映画の代名詞みたいに見なされている。それと同じような位置付けなのがシャンカル監督による「シャンカル映画」で、これまたシャンカルという極めて個性的な映像作家の作品(しかも10作程度しかない)を指すにすぎないのに、タミル映画の決定版みたいになっている。ラジニ映画もシャンカル映画も個という限定を越えて、タミル人全体に愛され、逆にタミル人の嗜好を決定付けさえしている。

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 そんなパワフルなシャンカル映画の新作が、言わずもがな、この【I】。奇想天外なトレイラーからして、シャンカル・ワールドが炸裂していた。

【I】 (2015 : Tamil)
脚本 : Shankar, Subha
監督 : Shankar
出演 : Vikram, Amy Jackson, Santhanam, Suresh Gopi, Upen Patel, Ramkumar Ganesan, Ojas Rajani, M. Kamaraj, Mohan Kapoor, Sarath Kumar(特別出演), その他
音楽 : A.R. Rahman
撮影 : P.C. Sreeram
編集 : Anthony
制作 : V. Ravichandran, D. Ramesh Babu

題名の意味 : 美(または、ウィルスの名前)
映倫認証 : U/A
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : ロマンティック・スリラー
公 開 日 : 1月14日(水)
上映時間 : 3時間9分

《 あらすじ 》
 チェンナイのKKナガルに暮らすリンゲーサン(Vikram)はボディービルダーで、ミスター・インディア目指して励んでいた。彼はまずミスター・タミルのコンテストに出場し、優勝するが、結果、ライバルのラヴィ(M. Kamaraj)に恨まれることになる。
 リンゲーサンはまたトップモデルのディヤー(Amy Jackson)の大ファンだった。もちろん高嶺の花だったが、ある日、彼女の撮影を見学に行った際に、何とか名刺を渡す。
 ディヤーは同僚のトップモデル、ジョン(Upen Patel)からセクハラを受けており、彼に対して拒絶的な態度を取っていた。面白くないジョンは広告業界に圧力をかけ、ディヤーの仕事をキャンセルしてしまう。困惑したディヤーは、一度会っただけの風変わりなリンゲーサンのことを思い出し、彼を広告の相手役に起用することにする。リンゲーサンはディヤーの申し出に躊躇するが、結局は引き受け、撮影のため、中国に飛ぶ。
 撮影はリンゲーサンがこちこちに緊張したため、うまくいかない。それで監督(Mohan Kapoor)はディヤーに、リンゲーサンを愛しているふりをして、彼の緊張を解けとアドバイスする。この作戦はうまく行き、順調に撮影が進む。この過程で、ディヤーも本当にリンゲーサンを愛するようになる。ところが、リンゲーサンのスタイリスト、オカマのオースマ・ジャスミン(Ojas Rajani)もリンゲーサンを愛していたが、リンゲーサンに拒絶されたため、オースマは彼を憎むようになる。
 リンゲーサンとディヤーのペアによる広告はヒットし、リンゲーサンは一躍トップモデルになる。しかし、代わってジョンがB級モデルに転落したため、彼はリンゲーサンに強い恨みを抱くようになる。
 また、リンゲーサンは大手飲料メーカーの広告に出演していたが、そこの製品が有害であることが分かったため、広告出演を拒否し、マスコミにそのメーカーの問題をチクってしまう。そのため、損失を負った広告会社のオーナー、インドラ・クマール(Ramkumar Ganesan)からも恨まれることになる。
 リンゲーサンとディヤーの婚約が発表された日に、ジョンとオースマとインドラ・クマールとラヴィは手を結び、リンゲーサンに復讐しようと企む。
 その頃からリンゲーサンの体に異変が現れる。髪と歯が抜け、体中に瘤ができ、背中がせむしのように曲がってしまった。彼は懇意にしていた医者ワースデーワン(Suresh Gopi)の診察を受けるが、結果、遺伝性の不治の難病だと告げられる。もはやディヤーとの結婚を諦めたリンゲーサンは、ワースデーワン(ディヤーのファミリードクターでもあった)にディヤーと結婚するよう懇願し、自分は自動車事故死を偽装して、隠遁することにする。
 ところが、ディヤーとワースデーワンの結婚式前夜にリンゲーサンはとんでもない事実を知ることになる、、、。

・その他の登場人物 : リンゲーサンの友人バーブ(Santhanam)

   *    *    *    *

◎ テーマ : ★★★★☆
◎ 物 語 : ★★☆☆☆
◎ 脚 本 : ★★★☆☆
・ワロタ。映画を観たというより、まるでワンダーボーイ・シャンカルの設計によるテーマパークに遊びに来たような感じだった。

・すると、そのテーマというのが何なのか気になるが、それは本作の題名「I」がまさにそれかもしれない。「I(アイ)」という言葉は物語中ではリンゲーサン(Vikram)を醜い「せむし男」に変えてしまったウィルスの名前(I-Virus)として現れるが、この1文字のタミル語「ஐ」は(いろいろな意味があるようだが)「美」という意味らしい。すると、その対立概念である「醜」も含めて、「美と醜」が本作のテーマかな、と考えられる。

・「美と醜」といっても、ヒロインのディヤー(Amy Jackson)が「美」で、主人公の「せむし男」リンゲーサン(Vikram)が「醜」ということではなく、シャンカル監督は「I」という語に英語の意味、つまり「私(自己)」という意味合いも考えていたのではないか。つまり、一個の人間において「外見は美しくても、中身は醜いということもあり得るし、逆も然り」といった、「外見と中身」の齟齬をテーマにしているのではないか。(こんなふうに単純にまとめてしまうと面白くないが、シャンカル映画というのはいつも子供でも分かる単純なテーマを独特のイメージの中で表現したものだと思う。)

・テーマがそうだとすると、本作は実にしっかりと考えて作られていることが分かる。まず、物語の主な舞台となった「広告業界」というのが、外見の良さを第一に追及する世界だし、登場人物の設定も、ボディービルダー(リンゲーサンとラヴィ)、モデル(ディヤー、ジョン、リンゲーサン)、スタイリスト(オースマ)というのは外見にのみ関わるものだし、実業家(インドラ・クマール)と医者(ワースデーワン)は外見(社会的地位や名声)で内面の醜さを覆い隠す。

・で、リンゲーサンに恨みを抱く悪者たちは、自分たちの醜い内面(憎しみや嫉妬)からリンゲーサンを潰そうとするが、彼らの取った手段は殺害よりも残酷なこと、つまり、リンゲーサンの外見(筋肉)を壊すことだった。彼らはこれでリンゲーサンを実質的に葬り去れると思っていたし、実際にリンゲーサン自身も自分は死んだと思っていた。しかし、ディヤーは全く違った考えを持っていた。

・このテーマとプロットは音楽シーンの流れにも見事に凝縮されている。1曲目は広告業界の虚飾(虚色と言ったほうが適当か)がけばけばしい色彩で描かれている。次の携帯電話やバイクなどが次々ディヤーにトランスフォームする音楽シーンは、外見は中身そのものを表しているわけではないという、外見の相対化が行われている。そして、リンゲーサンとディヤーの仲が親密になるにつれ、歌は自然(山河草木)の色をモチーフとした優しいものに移行する。「美女と野獣」をテーマにした歌は、ディヤーはリンゲーサンの外見を愛していたわけではなかったというエンディングの伏線となっている。音楽シーンではないが、エンディングの草原の美しさは、「虚色」とは無関係な花々の自然な色(つまり、赤い花は赤く、白い花は白くとしか咲きようがない)に託して、素直な人間の心の在り方を示しているように感じられた。(こんなふうに見ると、本作の音楽シーンは「突然歌って踊りだす」どころか、かなり計算ずくで作られ、配置されていることが分かる。)

・で、自分を「せむし男」に変えた悪者たちに復讐するためにリンゲーサンが取った手段は、目には目をで、やはり殺害という手は取らず、彼らの内面の醜さにふさわしい醜い外見を彼らに与えるというもので、これはえげつない。私の母の実家は京都の清水五条で、子供のころ、夏休みに遊びに行ったとき、ちょうどお盆で六波羅蜜寺の夏祭りをやっていた。そこには「地獄絵図」があって、お祖母ちゃんに「ええか、悪いことしたらなぁ、こんなふうに罰が当たるんやで」と言われ、正直怖かった思い出がある。私はどうもシャンカル映画のモラルというのは(【Nanban】を除いて)、この「悪いことしたらなぁ、罰が当たるでぇ」に相通ずるものがあるように思う。単純な発想のようだが、極めてインド的だと思う。

・そんな訳で、閻魔大王のシャンカルとしては、悪者たちが改心したのかどうかを見せる必要があった。それで、サンターナムが記者に扮して登場し、醜い外見になった悪者たち一人一人を訪れ、以前の写真を見せてインタビューするというのは、非常に理に適ったものだと思う。この辺の脚本も上手い。

・以上に書いたことから(もっとも、シャンカル監督がこんなふうに考えて本作を撮ったかどうか知らないが)、私は本作を支持したいのだが、率直な感想を言うと、シャンカルの作品としてはつまらない部類に入るだろう。想像力ばかり肥大して、語り口に引き締まったところがない(といって、シャンカル監督の肥大妄想は誰にも止められないと思うが)。

・また、やはり回想シーンの構成は悪い。冒頭でせむし男が花嫁ディヤーを誘拐する場面を見せるのは良いとして、後は時系列で物語を走らせ、復讐の場面は一気に見せるべきだったと思う。

◎ 配 役 : ★★★★★
◎ 演 技
・ヴィクラム(リンゲーサン役) ★★★★★
 ボディービルダー、トップモデル、せむし男と、相変わらず忙しい変容だった。それぞれ、あまり演技力は必要なかったかもしれないが、完璧に役になり切っていたとは言える。せむし男になってもヴィクラムに見えるし、ハンサムに見えた。

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・エイミー・ジャクソン(ディヤー役) ★★★★☆
 チェンナイ訛りのタミル語を話すタミル男に惚れるチェンナイ訛りのタミル語を話すタミル娘の役を、イギリス人に演じさせるという発想が凄いが、驚いたことに、エイミーは合格点以上にこなしていた。
 (写真下:鱗姫ですぅ。)

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・悪役/脇役も適材適所だった。トップモデルのジョン役にボリウッド俳優のウペーン・パテール、広告会社オーナーのインドラ・クマール役にでっぷり太ったラームクマール・ガネーサンを持ってきたのは当たっている。医者のワースデーワン役のスレーシュ・ゴーピは意外だった。スタイリストのオースマ役にトランスジェンダーのOjas Rajaniを起用したのは、アイデアは面白いが、映画中ではデリカシーを欠く扱いだった(今やインドでもトランスジェンダーの扱いには注意が必要だ)。

◎ 音 楽 : ★★★★☆
◎ BGM : ★★★★☆
◎ ダンス : ★★★☆☆
・最近見た【Kaaviya Thalaivan】【Lingaa】では「ラフマーン、どうしちゃったの?」という印象だったが、本作は良かった。

・音楽シーンの出来はすべて良い。中国ロケの歌で、緑や赤をテーマに色を統一したものがあって、こういうのは鮮やかな反面、嫌味に見えることもあるが、きれいにまとめていた。(と、わざわざこんなことを指摘するのは、下のようなカンナダ映画のキモい失敗例があるからじゃ!)

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◎ アクション : ★★★★☆
◎ 美 術 : ★★★★★
◎ 衣 装 : ★★★★☆
◎ 撮 影 : ★★★★☆
◎ 特殊効果 : ★★★★★
◎ 編 集 : ★★☆☆☆
・(これらの項目は書くネタが多すぎて、面倒なのですべて割愛。)

◎ その他(覚書)
・中国の遼寧省に「パンジン・レッドビーチ(盤錦紅海灘)」というきれいな所があるなんて、知らなかった。シャンカル映画は良い観光案内にもなる。

◆ 完成度 : ★★★★☆
◆ 満足度 : ★★★☆☆
◆ 必見度 : ★★★★☆

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 1月24日(土),公開第2週目
・映画館 : Gopalan Cinemas (RR Nagar),12:50のショー
・満席率 : 8割
・場内沸き度 : ★★☆☆☆ (意外に静かだった。)
 

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
個人的にはサンターナムが異形に返信した悪漢どもを確認して回るという挿話は全く不要だと思いました。というか別の描き方があった筈で、こういうところがサウスは泥くさい田舎くさいと陰口叩かれるゆえんだと感じました。まあそういう垢抜けないところを含めてサウスを支持してるわけですが。
メタ坊
2015/01/28 10:52
そうかなぁ、実に面白いと思いましたけどねぇ。
別の描き方の可能性はあるとしても、不要という意見は受け入れがたいです。
 
カーヴェリ
2015/01/28 17:21
日本人的感覚からいうと重症患者の病床にメディアが入りこんで剰え病状を揶揄の対象にするというのはあり得ないことなのでリアリティに欠けます。そういうガイジン的視点が不要と感じさせた要因かもしれません。
メタ坊
2015/01/28 20:51
なるほど、考えもしませんでした。私、インド人と一緒にげらげら笑っていましたが、もはや重度のインド脳になってしまったのかもしれませんね(困
 
カーヴェリ
2015/01/28 21:02
こんばんはカーヴェリーさん

公開が遅れたので予告編をずっと見て楽しみにしてました、「あの背むし男が復讐のために進化して狼男になるんやろか」「バイクが走りながらお姉ちゃんに変形するのはどういう流れなんやろう」と話の予想のつかなさに期待しまくって見ました。
本編を見ると気合の入った特撮シーンが全部、イメージダンスの場面でコケました。
ロード・オブ・リングスの特撮の人に頼んだとか書いてあり、監督の妄想を開放しまくった怪作ですが、一般の方にはエンティランの方がお薦めかなとは思います。
通りすがり
2015/02/25 00:46
特撮がロード・オブ・ザ・リングの人だというのは気がつきませんでした。ご教示、ありがとうございます。
私も、確かにエンディランのほうが日本人にはお勧めだと思います。本作に違和感を感じている日本人鑑賞者もすでにいるようです。
 
カーヴェリ
2015/02/26 21:29

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