カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Thithi】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2016/06/10 21:35   >>

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 このカンナダ映画【Thithi】は、昨年(第68回)のロカルノ国際映画祭で「Golden Leopard - Filmmakers of the Present」を獲得し、国内でも国家映画賞(第63回)を始めとする複数の賞に輝いた話題作。本来ならすんなり観ておくべきなのに、トレイラーを一見して、あまりの色気のなさに触手が動かず、無視を決め込んでいた。ところが、先月の一般公開以来、話題がいよいよ高まる一方で、興業的にもヒットし、カルナータカ州だけでなく他州でも公開されるに及んで、さすがに無視できなくなった。
 監督はラーム・レッディというまだお若い新人で、2011年の【Ika】という短編映画(テルグ語)で注目された人らしい(下)。

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【Thithi】 (2016 : Kannada)
物語・監督 : Raam Reddy
脚本 : Eregowda, Raam Reddy
出演 : Channe Gowda, Thamme Gowda, Abhishek H. N., Pooja S. M., Singri Gowda, 他
音楽 : Nithin Lukose (Sound Design)
撮影 : Doron Tempert
編集 : John Zimmerman, Raam Reddy
制作 : Pratap Reddy, Sunmin Park

題名の意味 : ティティ(故人の死後11日目に行う儀式)
映倫認証 : U/A
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : コメディー/ドラマ
公 開 日 : 5月6日(金)
上映時間 : 2時間3分

《 あらすじ 》
 マンディヤ県ノーデコッパル村に暮らす「センチュリー」ガウダ(Singri Gowda)は101歳にして臨終を迎える。「センチュリー」ガウダの長男ガッダッパ(Channe Gowda)は社会的責任を放棄したような老人で、日がな一日村を彷徨し、煙草を吹かしているか、酒を飲んでいるかだった。ガッダッパの長男タンマンナ(Thamme Gowda)は、父とは対照的に社会観念のしっかりした中年男だが、お金にうるさすぎるところがあった。タンマンナの長男アビ(Abhishek H. N.)は怠け者で、女に対して好奇心満々な青年だった。彼はフブリからやって来た羊飼いの娘カーヴェーリ(Pooja S. M.)に目を付けていた。
 さて、「センチュリー」ガウダの葬式は長男のガッダッパが執り行うべきであるが、どこにいるか分からない。タンマンナはやっとこさ父ガッダッパを探し出し、葬式を終える。
 タンマンナは「センチュリー」ガウダの所有していた5エーカーの土地を売却したいと考えるが、祖父が他界した今、土地の名義は自動的に父ガッダッパのものとなっていた。ガッダッパは土地の相続などてんから関心がなく、従って名義を息子に譲ることにも関心がなかった。やむなくタンマンナは村の会計士シャンボーガに相談するが、シャンボーガは裕福な木材商のセートゥに土地売却を斡旋してもらうよう提案する。
 タンマンナはセートゥに会って話すが、土地の名義がガッダッパになっている以上、どうしようもない。それで「父ガッダッパはすでに死亡している」と嘘をついてしまう。そうすると死亡証明書を提出しなければならなくなり、タンマンナは役人のラーマリングに会い、2万5千ルピーの賄賂で虚偽の証明書を作成してもらう。条件は「村人にガッダッパの姿を見られないこと」だった。タンマンナはその死亡証明書と土地の譲渡証明書をセートゥに渡す。セートゥは200万ルピーでその土地を買い上げる約束をする。
 さて、「センチュリー」ガウダのティティ(死後11日目に行う儀式)を行う資金やラーマリングへの賄賂を用立てするために、タンマンナは高利貸しのカマラに20万ルピーを借りる。タンマンナはその現金の一部をガッダッパに渡し、しばらく村を離れて旅に出るようにと、父をバスに乗せる。だが、ガッダッパはすぐにバスを降りてしまい、近くにいた羊飼いの集団(カーヴェーリが属する)と寝食を共にすることにする。
 アビは父のタンマンナからティティで振る舞う料理に使う羊を2頭買って来るよう言われるが、お金を賭けポーカーで失くしてしまう。やむなく羊飼いの羊を盗むが、それはカーヴェーリとガッダッパがいる集団の羊だった。翌朝、この羊盗難事件を受けて、羊飼いの集団は別所に移動することに決める。
 いよいよ「センチュリー」ガウダのティティの日となるが、ガッダッパがいないため、タンマンナが執行することにする。ちょうどこの時、セートゥが土地のバイヤーを連れて村にやって来る。しかし、ここで思いがけないことが起きる。村を離れるために羊飼いたちと移動中だったガッダッパが家族に見つかり、ティティの場まで運ばれて来たのである。セートゥと土地バイヤーにとっては死んだはずのガッダッパの出現で、タンマンナの計画は水泡に帰す。

   *    *    *    *

◎ テーマ : ★★★★☆
◎ 物 語 : ★★★☆☆
◎ 脚 本 : ★★★☆☆
・「歌って踊って」のインド映画に馴染んでいない日本人がインド映画を観て、その良さが分からず、とんちんかんなコメントをしているのをよく見かけるが、逆に、ほとんど「歌って踊って」しか観ていない私は、この【Thithi】を鑑賞した今、すごく当惑している。良さが分からない。現地人が面白いと言っているほどには、面白いとも感じなかった。(比較的読みやすい英語字幕が付いていたので、ストーリーと台詞はほぼ理解できたのだが。)

・否、面白くなかったわけではないし、良い映画じゃないとも思わない。しかし、私の持っているインド映画評価法の尺度では、どこをどう評していいか分からないのである。というわけで、独断で言うが、これはインド映画ではない。もちろん、インドのとある地域の風習をリアリスティックに描き、見た目は純粋なインドなのであるが、インド臭がほとんどしないのである(似たような印象はヒンディー映画【The Lunchbox】でも受けた)。苦手な映画だな。

・私が当惑した一番の理由は、本作の超リアルさだ。通常のインド娯楽映画のガジェットは全くない。「歌って踊って」はなんのその、歌どころかBGMさえない。音といえば、生活上で耳に入って来る自然音のみ。演技者もプロの俳優を使わず、ほぼすべて素人の村人たち。ストーリーや台詞も作為的な部分が少なく、101歳の老人が死んでからの11日間が淡々と描かれている。まるでドキュメンタリー映画のよう。しかしアートフィルムにありがちな、強いメッセージとか風刺とかもない。

・しかし、本作がドキュメンタリー寄りの、インドの(特に村落部の)リアリティーをほぼそのまま伝えたい映画かというと、どうもそうでなく、私の印象ではかなり虚構性の強い、一幅の夢物語ではないかとさえ感じられるものだった。言いにくいが、本作を観終わった後の、ふわ〜っとした不思議な感覚が私にそう思わせる。

・その感覚を引き起こす源は、やはり主要登場人物の一人、ガッダッパ(「センチュリー」ガウダの息子/タンマンナの父)だ。このオヤジがすごくカッコいい。もう70代だろうから、働く必要もないわけだが、働きもせず、ぶらぶらと煙草を吸って酒を飲み、子供たちとゲームをやるだけの日々を送っている。そして酒代、煙草代のためには小銭を平気で盗むようなアカン爺なのだが、かといって下卑た感じもなく、不思議と敬意を抱きたくなる。(ちなみに「ガッダッパ」というのは「鬚オヤジ」という意味で、羊飼いたちから名前を聞かれて「ガッダッパ」答えたとき、「生まれたときから髭があったんかい」と茶化されていた。)

・このガッダッパの単純さ、素直さ、自然な気負いのなさを見ていると、まさに自然(ニワトリやヤギ、田んぼ、サトウキビ畑、小川など)の一部といった感じで、これが人間の到達すべき理想型の一つなのかなと、哲学的な深みを感じた。息子のタンマンナが「社会」という毒に汚染された人物像だっただけに、余計にガッダッパのキャラが引き立った。

・このガッダッパが羊飼いたちに自分の若い時の結婚と妻のエピソードを語って聞かせた後で、「あんまり古いことなので、本当に起きた出来事か、夢で見た物語か、ワシにも分からんよ」という台詞があるが、これが本作そのものの性格かなと。この映画の物語は、現実なのか、夢なのか、分からんよ。(否、一見リアルに見える村のエピソードも、ラーム・レッディ監督の夢なんです。)

・それはさて置き、「Thithi」というのは誰かの死後、葬儀が終わってから何日か後に行う儀式のことらしく、日本では「初七日」に当たるものかもしれない。もしかしたら、これはマンディヤ地方の固有の慣習かもしれない。また、映画では11日後としていたが、これも必ず11日後なのか、占星術を見て適切な日を決めるのか、私は知らない。ちなみに、これはあまり厳しい儀式ではないようで、客人用の料理に羊肉を振る舞っていた。

・本作は他愛のない農村の物語なのに映倫認証は「U/A」で、なぜかしらと思っていたら、ちゃんとその訳があった。

◎ 演 技
・演技陣は素人らしいので、星印を付けるのは控える。みんな上手いとは言えなかったが、それも味のうち。

・まず、「センチュリー」ガウダを演じたのはシングリー・ガウダさん。実は私の父方の祖父もこんな感じだった。

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・次はこのお方、ガッダッパ役のチャンネー・ガウダさん。素晴らしい風貌だが、やっぱりオーディションで選んだのだろうか。

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・お次は「センチュリー」の孫タンマンナ役のタンメー・ガウダさん。この人の演技はなかなか様になっていた。

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・これは田舎のクソガキ、「センチュリー」の曾孫アビ役のアビシェーク・H・Nくん。

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・最後はカーヴェーリ役のプージャー・S・Mさん。うちの会社の近くのビル建設現場に2,3人いそうな娘だった。(羊飼いという設定だったけど。)

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◎ 撮 影 : ★★★☆☆
◎ 編 集 : ★★★☆☆

◎ その他(覚書)
・ガッダッパがやっていた虎と羊の碁盤ゲームは本当にあるゲームらしい。

◆ 完成度 : ★★★☆☆
◆ 満足度 : ★★☆☆☆
◆ 必見度 : ★★☆☆☆

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 6月5日(日),公開第5週目
・映画館 : INOX (Jayanagar),18:50のショー
・満席率 : ほぼ満席
・場内沸き度 : ★★★☆☆
・備 考 : 英語字幕付き

 

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
多分なんの関係もないと思いますが、川縁さんの説明を読んでるとジェイムス・ジョイスの『フィネガンズ・ウィエク』を思い出してしまいました。葬礼がストーリーの中心になっていること、風刺の効いた喜劇が基本的な色調であること、リアリステッィクでありながら(あるいはそれを突き抜けて)幻想的であること、象徴の機能が分散しすぎてて不可解な部分が多いこと。これらに重複があるのなら、もしかして監督がジョイスを読んでるか、少なくとも聞きかじっていた可能性はゼロではないかもしれません。インドの知識人はけっこう英文学の造詣深いですからね。
メタ坊
2016/06/12 23:10
なるほど。この監督は村落部の非教養層を描きましたが、彼自身はすごいインテリだという印象を受けました。ジョイスのその作品を読んだかどうかは分かりませんが、可能性はありますね。
 
カーヴェリ
2016/06/13 09:42

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