【Lage Raho Munnabhai】 (Hindi)

 私はサンジャイ・ダットのファンである。
 かつて【Daag】や【Vaastav】、【Mission Kashmir】などを観て、その存在感にただならぬものを感じていた。
 長身に長い腕、その長い腕をフルに使って、敵役の頭の上から銃を突きつけるポーズなど、なかなか他の俳優には出せない迫力だった。
 常々私は、俳優たるもの「きわどさ」「あやうさ」がないと大俳優とは言えないと考えていたが、その点、銀幕外でも問題の絶えないサンジャイ・ダットは合格である。
 第一、彼の出る映画は分かりやすく、ヒンディー語が分からない私にも十分楽しめた。
 それほどサンジャイ・ダット好きでありながら、なぜか長い間、彼の映画はご無沙汰だった。恥ずかしながら【Munnabhai M.B.B.S.】も観ていない。インド映画ファンの間では常識となっている「ムンナーとサーキット」の黄金コンビのことも知らなかった。それで、なにか後ろめたい気持ちでこの【Lage Raho Munnabhai】を観た。

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【Lage Raho Munnabhai】 (2006 : Hindi)
脚本・監督 : Rajkumar Hirani
出演 : Sanjay Dutt, Vidya Balan, Boman Irani, Arshad Warsi, Dilip Prabhavalkar, Diya Mirza, Jimmy Shergill
音楽 : Shantanu Moitra
制作 : Vidhu Vinod Chopra

《あらすじ》
 ムンバイのマフィアのボス、ムンナー(Sanjay Dutt)は、ラジオジョッキーのジャンヴィ(Vidya Balan)に恋をしていた。彼は成り行きで彼女に、自分は歴史学の教授だとウソをついてしまう。ムンナーのことを信じたジャンヴィは、彼を家に招待し、祖父とその友人の老人たちのためにマハトマ・ガンディーについて講義をしてくれと依頼する。

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 だがムンナーは、ガンディーのことなどお札に印刷されているオッサンぐらいの認識しかなかった。図書館に閉じこもり、ガンディーについて猛勉強を始めるムンナー。その過程で彼はガンディーの幻覚(Dilip Prabhavalkar)を見始め、言葉を交わすようになる。そして講義も、この幻覚ガンディーのおかげでうまくいった。
 ジャンヴィの家は‘2nd Innings’と呼ばれ、老人たちが集まる憩いの場のようになっていた。だがある時、悪徳不動産屋のラッキー・シン(Boman Irani)によって差し押さえられてしまい、ジャンヴィの祖父やその友人たちも追い出しを食らってしまう。ラッキー・シンは娘の結婚のために‘2nd Innings’をダウリ代わりに使おうとしていたのである。
 ムンナーは愛しいジャンヴィと老人たちのために‘2nd Innings’を取り戻そうと、ラッキー・シンと闘う決意をする。だが、銃を使ってではない。幻覚ガンディーの忠告に従って、それは非暴力的な方法であった、、、。

   *    *    *    *

 いやぁ、サンジャイ・ダットの可愛いこと!
 冒頭シーン近く、海岸でラジオから聞こえるジャンヴィの声を聞きながら、まだ見ぬ女性に思いを馳せ、胸ときめかせるヤクザのボス。私はもうこのシーンだけでチケット代の元は取れたと確信した。
 笑いあり涙ありのコメディー映画だが、内容的にとてもシリアスで、バランスの取れた良い映画だった。

 最近、【Bose:The Forgotten Hero】、【Mangal Pandey】、【Rang De Basanti】など、インド独立前夜の英雄を扱った映画が多い。これは最近に限ったことではないのだけれど、このところよく目にするような気がする。
 インドが独立して半世紀が過ぎ、もうすぐ60周年になる。しかしインドの現状を見てみると、相変らず貧困問題や政治腐敗は片付かず、パキスタンとの国境紛争、頻発するテロリズムなど、問題山積のインドの姿がある。こんな姿を見て、インド人たちが「はて、独立時に我々が作ろうとした国家とはこんなものだったのか、独立運動の闘士たちが夢見たインドとはこんなものだったのか」と自問し、もう一度歴史的英雄の精神と向かい合おうとしたとしても不思議ではない。こうした傾向が映画界にも反映されているのかもしれない。

 この【Lage Raho Munnabhai】もそうした流れの一つだと思う。
 取り上げられたのはマハトマ・ガンディーの非暴力主義(アヒンサー)。
 例えば【Rang De Basanti】は、政治腐敗を憎むあまりテロ的行為に走り、破滅してしまった若者たちの話だった。だが、【Lage Raho Munnabhai】では暴力という手段は取らない。(ついでに【Rang De Basanti】との比較では、どちらも自分たちの主張を宣伝する場として「ラジオ局」が選ばれていたが、【Rang...】では死に場所となったのに対し、【Lage Raho...】では問題解決の場として機能していたのが面白かった。)

 もっとも、ガンディージーのアヒンサーはインド人なら誰でも知っているはずなのに、実際にはインドは様々な戦争と関係してきたし、世界でも有数のテロ多発地域になっている。ガンディーの思想もずいぶん頼りなくなったものだ。しかし、「やられたら、やり返せ」という態度が平和を生み出さない限り、やはり彼の非暴力主義は顧みる価値のある思想だと思う。

 もともとアヒンサーは、ガンディーが忽然と編み出した思想ではなく、インドの長い宗教的伝統の中にそのルーツを持っているものだ。なので、インド人の心の中にもその「種」は宿っているはずだ。映画でも、敵役のラッキー・シンも最後にはガンディーの姿を見た。「あなたの内にガンディーを見出せ、内なるガンディーの声を聞け。」そんなメッセージをこの映画から感じ取った。

 人は笑っている限り、殺し合おうとは思わないはずだ。ガンディーのアヒンサーとコメディー、これは意外と相性の良い組み合わせなのかもしれない。
 非常に健全な映画だと思った。

・満足度 : 4.0 / 5
 

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