【Ko】 (Tamil)

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 K・V・アーナンド監督、ジーヴァ主演のタミル映画。
 K・V・アーナンド監督は、そもそも撮影監督として名を馳せていた人だが、監督としてもこれまで【Kana Kandaen】(05)と【Ayan】(09)を発表し、高い評価を得ている(特に【Ayan】はブロックバスターとなった)。比較的リアルなタッチの社会派娯楽映画を作りたい人のようで、ガウタム・メノン監督などとの同時代性が感じられる。
 他方、主演のジーヴァは、有名な映画プロデューサー、R.B. Choudryの息子ということで、親のコネで俳優になったような人だが、自分の背丈をよく認識しており、これまで巧みに業界を渡り歩いて、B級娯楽映画からアート系作品まで、ある程度の結果を残している。タミル映画界を背負う大スターになるとはとても思えないが、しかし現地人の評価は思ったより好意的で、もう少し経験を積めば良い俳優になるだろうとの意見も聞く。
 ヒロインはテルグ映画【Josh】(09)でデビューしたカールティカ・ナーイル。かなり個性的なルックスを持つ女優さんで、例えば上に挙げた本作のスチルを初めて見たとき、まず彼女の特異な風貌が目に入り、「ありゃ、宇宙人か?」と思った。ところが、隣にいるジーヴァも彼女に負けず劣らず宇宙人っぽく、「もしや『Ko』って、『アバター』のタミル映画リメイク?」と思ったほどだ。
 この2人に加えて、私のお気に入りのピヤーちゃんや、ケーララ出身の悩める若手実力俳優アジマル・アミールくんも重要な役で出演している。

【Ko】 (2011 : Tamil)
物語・脚本 : K.V. Anand, Subha
監督 : K.V. Anand
出演 : Jeeva, Karthika Nair, Piaa Bajpai, Ajmal Ameer, Prakash Raj, Kota Srinivasa Rao, Bose Venkat, Jegan, Sona, その他
音楽 : Harris Jayaraj
撮影 : Richard M. Nathan
編集 : Anthony
制作 : Kumar & Jayaraman

《あらすじ》
 アシュウィン(Jeeva)は有力タミル語新聞社「Dina Anjal」に勤める報道写真家。センセーショナルな出来事を的確に捉えた彼の写真は「Dina Anjal」紙の1面を飾ることが多く、社内での評価も高かった。ある時、アシュウィンは銀行強盗団が逃走する決定的瞬間をカメラに収め、おかげでリーダーを除く犯人グループ(ナクサライト)は逮捕、州首相のヨーゲーシュワラン(Prakash Raj)も謝辞を贈るほどだった。
 アシュウィンは同僚の芸能部記者サロー(サラスワティ:Piaa Bajpai)と仲が良かったが、ここの社会部に新たにレヌー(レーヌカー:Karthika Nair)という女性記者が加入する。アシュウィンとサローとレヌーは微妙に三角関係になりながらも、なんとか仲良くやっていた。
 タミル・ナードゥ州の州議員選挙の時期がやって来る。例によって州首相ヨーゲーシュワラン率いる与党とアーラヴァンダン(Kota Srinivasa Rao)率いる最大野党の間で激しい、また不正も厭わない選挙戦が繰り広げられる。ここに若き政治家ワサンタン(Ajmal Ameer)率いる小政党も選挙戦に加わる。ワサンタンは元ソフトウェア技術者で、汚職のないクリーンな政治を公約に掲げていた。彼の政党は医者やエンジニアなど高学歴者が中心だった。アシュウィンとレヌーは、有力2大政党への批判から、ワサンタン支持へと自然に傾いていく。
 まず糾弾されたのはアーラヴァンダンだった。彼は、選挙に勝つための方策として占星術師より未成年少女と結婚するよう勧められていたので、ある13歳の少女と結婚するためにその母を脅迫していた。それをレヌーが取材し、「Dina Anjal」紙の1面で報道する。この記事に対してアーラヴァンダンは猛然と抗議し、またアーラヴァンダンを恐れた母が記事の内容を否定したため、レヌーは危機に陥る。だがアシュウィンは、実際にアーラヴァンダンが少女と結婚する現場をカメラに収め、トップ記事で報じたため、アーラヴァンダンは逮捕される。
 また、ヨーゲーシュワランも批判にさらされる。アシュウィンは、ヨーゲーシュワランの政党のメンバーがワサンタンの党員に暴行を加えたり、またヨーゲーシュワラン自身が報道陣に対して暴力を振るったりした場面を撮影し、報道する。
 ワサンタンの政党は、インテリ層の支持は集めていたが、大衆的な基盤が弱く、また活動資金も乏しかった。しかし、いくつかの活動を通して徐々に追い風が吹き始め、また2大政党への失望感もあって、急速に支持率を伸ばす。
 そして、決定的な出来事が起きる。ワサンタンの党が集会を開いていたとき、会場で爆弾テロが起き、党員や聴衆が犠牲に遭う。「Dina Anjal」紙のサローもこれで死亡してしまう。アシュウィンは、他紙のレポーターが撮影したビデオ映像から、死んだサローの背後に挙動不審の男が映っているのに気付き、爆弾事件の疑問点として報道する。
 こうした経緯もあって、同情票を集めたワサンタンの政党が第1党となり、ワサンタンはタミル・ナードゥ州史上最も若い州首相となる。
 アシュウィンはその後も爆弾事件とサローの死の背後を追求するが、それは思わぬ方向に展開していく、、、。

   *    *    *    *

 政治の世界の愚かさとジャーナリズムの使命を扱った社会派スリラーだった。社会ドラマとして見た場合、うるさいインテリ層をうならせるほどの高度な内容・完成度ではないが、家族や友人たちと気軽に観るには十分よくできた作品だった。

 K・V・アーナンド監督作品の特徴として「リアルさ」というのがあり、また最近のタミル映画のキーワードも「リアルさ」なのだが、本作もそうした意図が感じられる。例えば、冒頭の銀行強盗のシーンや、政治家たちの選挙キャンペーンの手法など、なかなか興味深く撮られている。K・V・アーナンド監督は、撮影監督として映画界入りする前はフォトジャーナリストだったらしく、本作ではその時代の監督自身の体験が反映されていると言う。
 本作はまたイギリス/アメリカ映画【State of Play】(09:邦題「消されたヘッドライン」)から着想を得ているとも言われている。なるほど大枠は似ているようだが、中身はまったく異なっている。しかし、核心的な部分は借りているかもしれない。(【State of Play】は観ていないので、比較ができない。)

 K・V・アーナンド監督作品らしい、娯楽性に富んだ社会派スリラーだったが、難を言えば、作品としての統一感に欠けるものを感じた。例えば、ジーヴァ演じる主人公のアシュウィンは、明らかに等身大の普通の男なのだが、折々に超人的なヒーロー的活躍を見せたりする。リアルに徹したスリラーを作りたいのか、20世紀型タミル映画風の荒唐無稽な要素を残したいのか、監督自身に迷いがあるようだった。また、サロー(Piaa)が死んだ後、レヌー(Karthika)の部屋に怪しい男が忍び込み、レヌーが怯えるというシーンがあったが、ここだけ近ごろのインド版ホラー映画のようになっていて、全体から浮いているように感じた。

 リアルといっても、そこはまた徹し切れていないものがあり、筋運びにずいぶんご都合主義的な部分があった。
 また不自然な部分も多く、例えば冒頭の銀行強盗のシーンでは、強盗団が手袋をしていなかったが、こんなことはあり得ないだろう。(もっとも、彼らが手袋をし忘れるほどどん臭いというのは、後々の伏線だった可能性もある。)
 その他、舞台となった新聞社だが、社会部のレヌーと芸能部のサローがほぼ机を並べて仕事をしているといった感じだったが、タミル語新聞社は大手でもこんなふうなのだろうか?

 後半からクライマックスにかけてのヒネリは面白いものだったが、十分予測可能でもある。
 結末(結論)は、インド娯楽映画らしいものだとも言えるが、私は疑問に感じた。この終わり方だと、爆弾事件の真相が闇に葬られたことになってしまう。もし本作が社会悪に対するジャーナリズムの勝利を描きたいのなら、政治にまつわる悪を断固として糾弾したほうがよかったのでは、と思う。

◆ 演技者たち
 主人公アシュウィン役のジーヴァだが、十分評価できる。上手いとか下手とか言うより、ひたすらカメラと足を使って行動する報道写真家という設定がうまく彼のキャラクターに合っていた。この役は当初カールティにオファーが行き、その後シンブを経てジーヴァに落ち着いたものらしいが、監督自身はジーヴァのパフォーマンスに満足しているようだ(こちら)。
 (写真下:当たりだったジーヴァ。)

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 ヒロイン、レヌー役のカールティカだが、ふうむ、やはりコメントに困る娘さんだ。可愛いのかねぇ、、、いや、可愛くないだろう。美人というのではさらさらないし、それほどお色気もないし、、、しかし、「何か」持ってるぞ、こいつは!
 本作での演技は特に語るほどのものはないが、デビュー2作目とは思えない堂々とした(というか、ふてぶてしい)プレゼンスは評価できる。ちなみに、吹き替えはチンマイさんが担当しているようだ。

 対して、セカンド・ヒロインのピヤーちゃんは、可愛ゆうございました。(「ピーヤー」が正しい発音だと思うが。)
 本作にはいわゆるコメディアンがおらず、代わりにコメディーを担当していたのが彼女で、しかも中盤で殺されたりと、踏んだり蹴ったりの役回りだったのだが、それでも腐らず活き活きと演じていて、その健気な姿に私は感涙した。
 (写真下:左よりカールティカ、ジーヴァ、ピヤー。)

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 特筆すべきは、野心的な若き政治家ワサンタンを演じたアジマル・アミール。【Anjathey】(08)では情けないドロップアウト青年を演じてしまった彼だが、本作で飛躍のきっかけとなるか?(下)

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 脇役陣では、大物政治家を演じたプラカーシュ・ラージとコータ・シュリーニヴァーサ・ラーオはさすがに上手かった。もう一人、爆弾事件の実行犯を演じたボース・ウェンカットも印象に残る。さらにアシュウィンやレヌーの上司(編集長)を演じた男優は、なかなか味のある演技をしていたが、カンナダ俳優のアチュユタ・クマールだと思う。

◆ 音楽・撮影・その他
 音楽はハリス・ジャヤラージの担当で、まずまずの出来。
 音楽シーンは、1曲目は主にタミル映画界で活躍するスターが多数カメオ出演するという豪華な趣向だったが、残念ながら盛り上がらなかった。しかし、後の2曲ほどで、すごくロケ地に凝ったものがあり、これは見ものだ。(例えば写真下。これ、どこ?)

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 音楽シーンの出来そのものは悪くはないが、挿入のタイミングが悪いという指摘があり、私もそれに同意する。実は、本作は主人公とヒロインのロマンス展開が弱く、にもかかわらずジーヴァとカールティカのロマンスソングを2曲ほど用意したため、無理やりといった感が否めない。

 撮影監督は【Angaadi Theru】(10)や【Baana Kaathadi】(10)を担当したリチャード・M・ナダンで、本作の評価ポイントになっている。

◆ 結語
 【Ko】は、緊張感に満ち満ちたスリラーというよりは、ピクニック気分で楽しめる社会派娯楽映画。最近のタミル映画らしい特徴を備えており、タミル映画ファンなら観ておいても損はない作品だ。

・満足度 : 3.5 / 5
 

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この記事へのコメント

メタ坊
2011年05月01日 01:28
サントーシュ・シヴァン「主演」のMakaramanjuの予告編見てたら、この映画にもカールティカが出てるのに気がつきました。むろん儂はニティヤの姿を求めてこれを見てたんですが、笑。

http://www.youtube.com/watch?v=KuqCuX8Q5zA&NR=1
カーヴェリ
2011年05月01日 14:10
コメント、ありがとうございます。

はい、カールティカさん、どんな役だか知りませんが、出てますね。
ニティヤより彼女のほうが主役に近いんでしょうかね。
とにかくMakaramanju、観たいですが、ベンガルールじゃ、やらんと思います。
 
2011年11月14日 09:57
お久し振りです。
久し振りな上に今更こんなところにコメントで申し訳ありません。実は挿入歌撮影場所がノルウェーのBergenという場所だという情報を見つけ興奮したので、知らせたかったのです。…もうご存知でしたか。
カーヴェリ
2011年11月14日 22:41
いえいえ、知りませんでした。
情報、ありがとうございます。
毎度、寒い所まで大変ですね、インド映画ロケも。
 
めぐみ
2012年01月19日 18:57
はじめまして。
出張の飛行機の中で、たまたまこの映画を観ました。
正直全く期待してなかったのですが、おもしろかったです。
社会派な面と超展開の同居した、なんとも不思議な世界。
挿入歌のロケにノルウェイまで行っちゃうんですか…。
すごい力が入っているんですね。
ちょっとタミル映画にはまりそうです。
どうぞよろしくお願いします。
カーヴェリ
2012年01月20日 22:51
コメント、ありがとうございます。
飛行機の機内映画も、けっこう話題作が上がっていたり、しかも英語字幕付きだったりして、いいですよね。(私は眠っていることのほうが多いですが。)
近ごろのタミル映画、けっこう面白い動きを見せているので、ぜひはまってください。
 

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