【Chaarulatha】 (Kannada)

 プリヤーマニといえば、南印4言語に加えヒンディー語映画でも、つまり、5言語の映画産業界で幅広く活躍している稀有な女優だが、幅が広いのは演技面でも然り、つまり、グラマーなヒロインから芸術系の難しい役柄まで器用にこなし、映画賞をさらったりしている。人間的にも、スターでありながらスターを気取るところの全くない率直な性格で、私は大好きなのだが、しかし、私の周りのインド人に「好きな女優は?」と聞いてみても、プリヤーマニの名前が真っ先に上がることはまずない。回答としては、アイシュワリヤだのカトリーナ・カイフだの、南印映画界系ではタマンナーやカージャルなどの名前が来る。要は色白・スレンダーが好まれるようで、プリヤーマニのような、やや黒く、肉付きの良い女優はトレンド外なのかもしれない。

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 しかし、そんな彼女がやってくれそうな作品が登場した。プリヤーマニ「主演」の本作【Chaarulatha】は、【Alone】(07)というタイ映画の翻案ということで、彼女は「結合双生児」の役に挑戦する。【Alone】は観ていないのだが、ホラー映画らしい。映画館でも、この【Chaarulatha】の凄まじい予告編が流されていて、期待が持てるものだった。
 監督はP・クマーランで、カンナダ映画のヒット作【Only Vishnuvardhana】(11)でデビューした人。目下のところカンナダで活動しているが、タミル系の人のようで、バーギャラージ監督やK・S・ラヴィクマール監督のアシスタントをやっていたらしい。ちなみに、【Only Vishnuvardhana】にはプリヤーマニも出演しており、プロデューサーも同じドゥワーラキーシュだった。
 なお、私はカンナダ版を観たが、本作は南印4言語版が製作されたマルチリンガル映画。真偽は未確認だが、Wikipediaの記述によると、まずカンナダ版とタミル版が製作されて、マラヤーラム版はカンナダ版から、テルグ版はタミル版からそれぞれダビングされたらしい。

【Chaarulatha】 (2012 : Kannada)
脚本・監督 : Pon Kumaran
出演 : Priyamani, Skanda, Saranya Ponvannan, Seetha, Ravishankar, Sudarshan, Sunethra, Master Manjunath
音楽 : Sundar C. Babu
撮影 : Panneer Selvam
編集 : V. Don Maax
制作 : B.S. Dwarakish

《あらすじ》
 ラヴィ(Skanda)との結婚を間近に控えたチャール(Priyamani)は、ある時、母(Saranya Ponvannan)が深刻な病で入院したとの知らせを受け、滞在地のシュリーナガルから2年ぶりに故郷のマンガロールに戻る。チャールは早速病院に見舞いに行く。しかし、呼吸器を付けられて会話のできない母は、娘を見るなり、何故か怯えた表情になる。
 チャールは生まれ育った実家に滞在する。実は彼女は結合双生児として生まれたが、2年前に分離手術をした際に、片方のラターが死亡したため、一個の人間として生活していた。実家にはラターの愛用していた眼鏡やバイオリンも残されており、チャールは懐かしい気分に浸る。
 だが、その夜からチャールの周りで怪現象が起きる。どうもこの屋敷にはなおラターがいるようで、常にラターに見られているようで、また、チャールの身に危険が及ぶような出来事も起きた。
 チャールはそんな時にやって来た婚約者のラヴィに事情を話す。ラヴィは精神科医の叔母スワルーパ(Seetha)を紹介する。3人のやり取りから、チャールとラターの過去が再現される。
 ・・・
 結合双生児として生まれたチャールとラターは大の仲良しで、子供の時に「ずっと一緒」という誓いを交わす。二人は腹の一部がわずかに結合している以外、まったく健常者と変わらなかった。チャールは内気で大人しい性格だったが、ラターのほうは勝気な女性に育つ。
 二人はバイオリンが趣味だったため、地元の音楽教室に入る。ラヴィはここで学ぶ生徒だったが、彼はチャールのほうを愛するようになる。チャールもラヴィのことが好きだった。それに気付いたラター(Priyamani)は激しく嫉妬し、もう音楽教室に行かないことに決め、ラヴィとチャールを会わせないようにした。ラヴィが海外留学のため旅立つ日にも、ラターは二人を会せなかった。しかし、チャールが強く希望したため、二人の分離手術が行われることになる、、、。
 ・・・
 屋敷ではなお怪現象が続いた。苛ついたチャールはラターの写真などを焼こうとするが、この時、ものすごい悪霊が現れて暴れ回る。これを見た使用人のマンジャ(Master Manjunath)は、近所の呪術師(Ravishankar)を呼び寄せる。呪術師はなんとか悪霊を竹筒に封じ込める。
 チャールの母を見舞ったラヴィは、しかしその母より驚くべき「事実」を聞かされる。自らも事実を確かめたラヴィは、チャールに事の「真相」を問い詰める、、、。

   *    *    *    *

 ふう、「プリヤーマニ以外見るとこなしの駄作ホラー」と、一文でレビューが書けてしまうような作品だった。
 予告編は凄かったのになぁ、、、もしや突然変異的な傑作カンナダ映画の出現か?とも期待したのだが、、、(涙)。これなら大々的に4言語版を製作することもなかったろうに。近ごろインド映画もトレイラーの作り方が進歩し、本編より予告編のほうが面白いという点ではハリウッド映画と肩を並べた感があるが、今回を以って予告編を見て徒に期待するのはやめるべしと肝に銘じた。

 前半と後半でがらりと変わり、前半はまったく評価すべき点はない。要はホラー映画でありながらホラー・エレメントが弱く、怖くない。怖くないから、下のスチルのようなコメディー・トラックも緊張緩和の役割を担えず、邪魔なだけ。音楽シーンの挿入も信じがたいほど拙い。

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 しかし、後半は、プリヤーマニのえげつないパフォーマンスのおかげで、前半の不首尾をかなりのところまで挽回している。エンディングはあっけないものだったが、それに至るクライマックスには、プリヤちゃんが相方を椅子に縛り付け、バイオリンで頭を殴るといったシーンもあったりして、彼女のファンなら間違いなく楽しめる。インド映画には前半は面白いが後半にだれるといったパターンが多いが、本作のような「後半追い上げ型」は歓迎できる。

 駄作だと言ったが、ストーリー展開は面白い(はず)。回想シーンの挿入タイミングが良く、双子の姉妹を巡るサスペンスが一応最後まで持続する。これは評価ポイントだ。しかし、本作は【Alone】の翻案なので、どうせオリジナルの構成をそのまま持ってきたものなのだろう。
 ただ、Wikipediaのデータによると、【Alone】の上映時間は95分らしいが、このカンナダ版は128分もある。これほど差があると、ずいぶん改変が加えられているとも考えられるので、オリジナルも一見して、この東南アジアのホラー映画がどんなふうにインド化されているかチェックするのも面白いと思う。

 また、本作はホラー映画として失格だとしても、嫉妬に狂った女、絶望から暴走する女はかくも怖いものか、ということを実感させた点では、立派な「恐怖映画」だった。映画の根底に教訓めいたものがあるのがカンナダ映画らしかったが、タイのオリジナルもそうなのか、気に掛かる。(本作は4言語版があるといっても、質からすると、やはりカンナダ映画だと言える。)

◆ 演技者たち
 本作はとにかくプリヤーマニしかいない映画。
 さすがにプリヤちゃん、チャールとラターは、チャールが内気で髪を結っているのに対し、ラターは勝気で髪は結わず、眼鏡着用と、ステレオタイプ的に差異を強調した役柄設定だったが、その陳腐な枠組みを優に超え出るほど巧みに演じ分けていた。特にボイス・モジュレーションが良かった。カンナダ版では、プリヤーマニはラターのパートでは確実にセルフ・ダビングしているが(つまり、ドスの利いた声)、チャールのほうはどうだろう?
 それにしても、プリヤーマニといえばショッキングな作品に出演して親を泣かせたこともあるお方だが、今回の役も嫁入り前の娘さんがやるようなものではなかろうて。彼女の結婚に支障が出ないことを願うばかりだ。(まぁ、もらい手がなかったら、私がもらったげますけどね。)
 ちなみに、「Charulatha」という名前を「チャール」と「ラター」に分けるというのはタミル映画【Muppozhudhum Un Karpanaigal】(12)でも使われたアイデア。

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 以下はついでだが、チャール/ラターの恋のお相手ラヴィを演じたのはスカンダという俳優らしい。(下)

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 呪術師役のラヴィシャンカルは凄まじい形相がイケていたが、出番自体は短かった。

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 まったく小さい役だったが、スダルシャンが音楽教室の校長役で出ていた(なかなかスチルの上がらない人なので、今回紹介しておく)。この人はだんだん少なくなっていくラージクマール世代の俳優だが、この人の顔を見るたびに、「昔はこういう堂々たる『役者顔』を持った俳優さんはたくさんいたものだが」と、変な感慨に耽ってしまう。

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◆ 音楽・撮影・その他
 音楽はスンダル・C・バーブの担当ということで、期待したが、期待に応えるものだった。音楽シーンは、1つを除いて大したことないのだが、バイオリンがモチーフとなっているため、バイオリンを主とした流麗な楽曲構成のものが多く、通常のインド映画とは違う趣がある。これも外国映画のリメイクということの影響か?

 グラフィックスの技術水準は低いが、プリヤーマニの二役の合成は上手く行っている。

◆ 結語
 期待はずれの1作だと言える。しかし、プリヤーマニのファンなら観たいところだ。

・満足度 : 2.0 / 5
 

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この記事へのコメント

メタ坊
2012年10月13日 07:48
>期待はずれの1作だと言える。しかし、プリヤーマニのファンなら観たいところだ。

はい、私に見ろということですね。たぶん次の渡印までは常設館では持たないでしょうから光碟になったら見ます。

ところでタミルで昨日封切りになったスーリヤの新作Maattrraanというのもシャム双生児のダブルロールでホラーということで、流行ってるんですかねシャム双生児?
カーヴェリ
2012年10月13日 14:57
>はい、私に見ろということですね。

なんだ、プリヤちゃんの日本人ファンは我々2人だけですか(泣)

>流行ってるんですかねシャム双生児?

流行っているとは言えないと思いますが、新奇なネタを求めて、というインド映画界のトレンドからすると、単なる偶然で片付けられないかもしれませんね。
ちなみにMaattrraanは、例のカーヴェーリ川水問題に対する抗議行動の一環として、目下タミル映画ボイコット期間中なので、カルナータカ州では見られません!
 
ともみ
2012年12月26日 18:58
はじめまして。時々拝見しております。

私もプリヤーマニ好きです。

それだけを主張しに馳せ参じました。
と、言いつつ、この映画を見るかはわかりませんが……
カーヴェリ
2012年12月27日 00:46
見てくださいよーー!
メタ坊
2013年01月07日 00:32
見ましたよ。

字幕ないのと評判芳しくなかったこともあってメディア入手してからしばらく放置してたんですが、こんなんだったら真っ先に見れば好かったと思うほど気に入りました。

全篇で「かわいい」「美人」「色っぽい」というプリヤちゃんの3様態が惜しげもなく披露されるのですからファンが退屈するわけありません。私のはタミル語版だったですが字幕なしでも易々意味分りましたし、何せプリヤちゃんのセルフダビングが利いてる。やっぱあの声聴くとクラクラしますね。

カンナダ語映画らしいもっちゃりした造りでしたがホラーとしてもそんなに出来悪いかなあという気もしました。RGVの撮ったエクソシストのパクリ映画なんかの方がもっと退屈さったように思いますがね。
カーヴェリ
2013年01月08日 00:50
そんなに気に入りましたか!
プリヤーマニのファンなら楽しめるとは思いましたが、やっぱり駄作かなぁ、というのが評価としてあるんですが、、、こんな私って、プリヤーマニのファン失格?

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