【Madras】 (Tamil)

 以前、タミル映画【Soodhu Kavvum】(13)鑑賞記の中で、注目の新進映画プロデューサーとしてC・V・クマールとその処女作品【Attakathi】(12)の名を挙げておいたが、当時未見だった【Attakathi】はその後DVDで観ることができた。同作品はチェンナイ郊外の田舎町を舞台にしたラブコメ(というより青春映画)で、特に衝撃作ということもなかったが、監督のパー・ランジットの描く世界がリアルと言うよりもむしろラウ(英語の‘raw’だが、南インド人はまず「ラウ」と発音する)と言ったほうが適切なほど自然だったので、少なからぬ感銘を受けた。
 そのパー・ランジット監督の第2作がこの【Madras】。

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 スター不在のアマチュア作品のようだった【Attakathi】に対して、本作は主役ペアにカールティとキャサリンを起用し、予算もある程度持たせたもらったようだ。テーマ的にカワユかった前作に対し、本作は北チェンナイを舞台にした辛口の社会ドラマっぽかったので、このテーマに新鋭のランジット監督がどう切り込むのか、注目したかった。

【Madras】 (2014 : Tamil)
脚本・監督 : Pa. Ranjith
出演 : Karthi, Catherine Tresa, Kalaiarasan Harikrishnan, Vinod, Nandakumar, Ritwika, Hari, Rama, Jaya Rao, V.I.S. Jayapalan, Gaana Bala(特別出演), その他
音楽 : Santhosh Narayanan
撮影 : G. Murali
編集 : Praveen K.L.
制作 : K.E. Gnanavel Raja, S.R. Prakashbabu, S.R. Prabhu

題名の意味 : マドラース
映倫認証 : U/A
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : ドラマ
公 開 日 : 9月26日(金)
上映時間 : 2時間36分

◆ あらすじ
 北チェンナイはヴィヤーサルパーディの町で2派の政治グループが対立していた。1つはマーリ(Vinod)をリーダーとするもので、もう1つはカンナン(Nandakumar)が率いるものだった。この2派はそもそも同じ政党の1つのグループだったが、現リーダーの父の代に袂を分かち、以来、流血も辞さない関係が続いていた。
 カーリ(Karthi)はこの町の公団住宅に住むロワーミドルクラスの若者。この界隈では珍しく学があり、IT企業に勤務していたが、血の気が多いのが珠に瑕。また、近所の仲間とサッカーをするのが趣味だった。カーリの親友アンブ(Kalaiarasan Harikrishnan)は政治家志望の熱血感で、マーリのグループにいた。同じくカーリもマーリの支持者だった。
 カーリと同じ団地にカライヤラシ(Catherine Tresa)という女性が住んでいたが、カーリは彼女に惚れていた。カライヤラシは始めはカーリに拒絶的な態度を取るが、実は気があり、すぐに二人は相思相愛の仲になる。
 ところで、カーリの近所のビルの壁面に巨大な政治家の肖像画が描かれていた。それはカンナンの父クリシュナッパの肖像だった。実はこの区域はマーリの縄張りだったため、アンブとカーリはこの壁面の支配権を取り戻そうと壁に書き込みをする。これが引き鉄となって、2派の諍いが再燃する。そして、それはカンナンがアンブとカーリを殺害しようと刺客を放つところまでエスカレートする。アンブとカーリはなんとか難を逃れるが、この時、カーリは勢い余ってカンナンの息子を殺めてしまう。
 必ずカンナン側の復讐があることを恐れたマーリは、アンブとカーリに裁判所へ行って自首するように指示する。二人はそれに従うが、しかしカンナンの刺客は裁判所にも及び、アンブは殺され、カーリも怪我を負う。
 親友を殺されたカーリは憤り、カンナンに対して復讐しようとするが、家族やマーリになだめられる。そしてカライヤラシにも説得され、復讐心を鎮めたカーリは、彼女と婚約することにする。二人の間に束の間の平穏な時間が流れる。
 ところが、ひょんなことからカーリはアンブ殺害の真相を知り、衝撃を受ける、、、。

・その他の登場人物 : アンブの妻メアリー(Ritwika)

◆ ざっくりしたコメント
・上で【Attakathi】がラウな映画だと書いたが、本作はさらにラウ度を増していた。物語の舞台となったチェンナイ市北隣のヴィヤーサルパーディ(Vyasarpadi)がどんな町なのかは、行ったことがないので分からないが、おそらく映画に描かれているようなロワー/ロワーミドルクラスの人々が暮らす、ごちゃごちゃっとした所なのだろう。主人公カーリが住んでいるのはサティヤムールティ・ナガル(Sathya Moorthy Nagar)という地区にある公団住宅らしく、下の写真の上半分は本作とは関係のないサティヤムールティ・ナガルの実際の風景で、下半分は本作からのスチル。これを見る限り、きちんと現地で撮影していることが分かる。

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・パー・ランジット監督はこの辺りの出身者なのかどうかは知らないが、町の様子を非常に上手く描いている。
 例えば、下は下町の路地の様子。

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 こちらは近くのロイヤプラムの海辺の様子。

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 その他、団地の屋上から見える地域の風景が、本当はきれいではないはずなのに、「美しく」カメラに収められており、この点はヒンディー映画【Delhi-6】(09)に比肩できると思った。

・どうもタミル映画には「北チェンナイ物」と呼べるようなジャンルがあるらしく、本ブログでも【Baana Kaathadi】(10)や【Aaranya Kaandam】(11)を紹介した(その他、確認していないが、ミシュキン監督の【Chithiram Pesuthadi】やヴィシュヌヴァルダン監督の【Pattiyal】もそんな匂いがする)。それらによると、このエリアに住む人々は概ね貧しく、無教養で、騒々しいものと描かれ、路地にはローカル・マフィアが跋扈し、政治家も民主主義とはほど遠い「パワー政治」で人々をコントロールしているというふうに描かれており、そこから生まれ得る劇烈なドラマが映画の主題になっている。本作もそうで、敵対する政治グループの対立に巻き込まれた青年たちの受難と闘いがモチーフとなっている。

・しかし、本作の場合はアイデアが素晴らしく、ありがちな悲劇や復讐譚に終わっていないところが良い。まず以って、旧態のローカル政治の意識、手法を象徴するものとして、ビルの壁面に描かれたローカル政治家の肖像画(あるいは壁面そのもの)が実に上手く利用されている。インドでは政治家を描いた壁面や巨大な看板は珍しくないが、それをこれほどまでシンボリックに、重々しく、不気味に、また示唆的に利用した映画作品はちょっと思い付かない。
 (写真下:描かれているのはカンナンの亡父クリシュナッパだが、演じたジャヤバーランは実際の出番はごくわずかなのに、この絵のおかげで忘れようにも忘れられない。)

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・また、結論として、旧態のパワー政治の輪廻から脱却するために、「力には力を」の手法を捨て、子供たちへの「教育」の必要性を主張している点が良い。この結末は理想的すぎるようにも思えるし、唐突な提出の仕方だったが、監督の気持ちはよく分かる。カーリとカライヤラシが教える教室(実は例の政治家の肖像が描かれてあったビル内にあるのだが)に掛けられているアンベードカルの額絵にも注目。

・登場人物に目を向けると、本作はプロタゴニストから比較的端役に至るまで上手くキャラクター付けされており、演技者からしっかりした演技を引き出している。おかげで熱く緊張感のあるドラマになっているが、この点、ランジット監督は2作目ながら見事だったと言える。

・ついでに書いておくと、ヴィヤーサルパーディはサッカーの盛んな町らしく、登場人物たちもサッカーを楽しんでおり、アクション・シーンでもサッカーがモチーフとして取り入れられている。

◆ 演技陣へのコメント
・カールティ(カーリ役) ★★★★☆
 ほとんどのレビューでデビュー作【Paruthiveeran】(07)以来の好演だと評されている。私見では【Paruthiveeran】のカールティはそれほど素晴らしいとは思わないが、本作の彼は掛け値なしに良い。

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・キャサリン(カライヤラシ役) ★★★★☆
 いまいちパッとしないキャリアだったが、テルグ映画【Iddarammayilatho】(13)で注目された後、タミル映画デビューとなった。だが、本作では単なる新顔以上の印象をタミルの観客に与えたのじゃないだろうか。キャサリンについてはバンガロール在住ということ以外よく知らなかったが、どうもコッタヤム生まれのマラヤーリー・クリスチャンで、ドバイを経てバンガロールに移り住んだものらしい。本作では珍しく「Catherine Tresa Alexandar」とフルネームでクレジットされていた。

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・カライヤラサン・ハリクリシュナン(アンブ役) ★★★☆☆
 ほとんど知らない人だが、【Attakathi】でカメオ的な出演をしていた。本作では見てくれも演技も良く、脇役か準主役なら良い仕事をしてくれそうな予感がした。(写真下の左)

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・リトウィク(メアリー役) ★★★☆☆
 良い。バーラー監督の【Paradesi】(13)でも好印象だった。重要なことではないが、彼女の役名‘Mary’はタミル的には「メーリ」と発音されるが、他に「マーリ」という役がいるので、混同しないように「メアリー」にした。
 (写真下:本作のスチルではありません。)

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・その他、マーリ役のヴィノード、カンナン役のナンダクマールも面構えが良かったが、カーリの友人ジョニーを演じたハリという役者(?)がエキセントリックで凄かった。

◆ テクニカル面・その他(覚書)
・音楽 : サントーシュ・ナーラーヤナン ★★★★☆
 このお方は【Attakathi】、【Pizza】(12)、【Soodhu Kavvum】、【Jigarthanda】(14)を担当し、間違いなく有能な音楽監督だと思う。本作でも歌、BGM共に良かったが、特にガーナ・バーラーが歌う鎮魂歌に味があった。

・本作は歌もダンスもあるのだが、ちょっと変わった趣向で、ダンスは登場人物が踊るということがなく、「Blue Boys」というブレイクダンスのユニットが出て来て踊っていた。このBlue Boysが実在するグループなのか、本作品中の一登場人物なのかは分からない。

・撮影 : G・ムラリ ★★★★☆
 上で書いたとおり、北チェンナイの雑然とした町並を上手く捉えているし、薄暗い夜の場面(頻出する)も光と影を効果的に使っていた。

◆ 完成度 : ★★★★☆
◆ 満足度 : ★★★☆☆
◆ 必見度 : ★★★★☆

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 10月2日(木),公開第1週目
・映画館 : Poornima,10:30のショー
・満席率 : 1割以下
 

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