カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Saroja】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2008/09/20 22:44   >>

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 ウェンカット・プラブ監督のタミル映画。
 ウェンカット・プラブは昨年公開された【Chennai 600028】でデビューした監督だが、私は観なかったため、まったくノー・マークだった。だが【Chennai 600028】は若者層の支持を集めて大ヒットし、監督自身も出演者たちも一気に注目の的となったようだ。
 【Saroja】は彼の監督第2弾ということで、【Chennai 600028】とほぼ同じスタッフで作られたようだ。

【Saroja】 (2008 : Tamil)
物語・脚本・監督 : Venkat Prabhu
出演 : Siva, Premji Gangai Amaran, S.P.B.Charan, Vaibhav Reddy, Vega, Prakash Raj, Jayaram, Sampath Raj, Nikita, Kajal Agarwal, Brahmanandam
音楽 : Yuvan Shankar Raja
撮影 : Sakthi Saravanan
美術 : Vithesh
編集 : Praveen K.L., Srikanth N.B.
制作 : T.Siva

《あらすじ》
 チェンナイに住む4人の若者たち、アジャイ(Siva)、ガネーシュ(Premji Gangai Amaran)、ジャガパティ・バブ(S.P.B.Charan)、ラーム・バブ(Vaibhav Reddy)は、インド対パキスタンのクリケット・マッチを観戦しようと、ヴァンに乗って一路ハイデラバードを目指す。ところが、ハイウェイではオリッサから来たタンクローリーが横転しており、途中で立ち往生する。

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 ちょうどその頃、ハイデラバード在住の富豪・ヴィシュワナタン(Prakash Raj)は、娘のサロージャ(Vega)が何者かに誘拐され、身代金を要求されていた。ヴィシュワナタンは親友の警官・ラヴィチャンドラン(Jayaram)に捜査を依頼する。
 アジャイたち4人は埒が明かないと見て、ハイウェイを外れて別道を通ることにする。しかし、途中で道に迷ってしまい、人里離れた場所に出る。とうに日も暮れ、暗闇の中で、彼らの車は人をはねてしまう。その男は警官で、すでに何者かに撃たれた後だった。アジャイたちも急な銃撃に遭い、彼らは慌てて近くの廃工場へと逃げ込む。だが、そこはサンパット(Sampath Raj)率いるギャングたちのアジトで、誘拐したサロージャを幽閉している所だった。
 ヴィシュワナタンは脅迫電話のとおりに身代金を持参し、指定された場所へ行く。しかし、背後に警察がいることがばれ、サロージャとの交換は成立しない。
 4人は近くに鉄道が走っているのを知り、廃工場から抜け出し、列車に飛び乗る。しかし、ジャガパティ・バブが工場に財布を落として来たのに気付き、乗り遅れてしまったため、他の3人も降りることにする。
 4人は財布を取りに工場に戻る。ギャングに財布が見つかると、ジャガパティ・バブの身元が分かってしまうからである。財布は見つかったものの、その後、ガネーシュは3人とはぐれてしまう。だが、彼は捕らわれのサロージャを発見する。再び合流した4人はサロージャを連れて脱出しようとするが、ギャングたちの激しい追跡に遭う。
 ヴィシュワナタンはサンパットの要求に応じ、身代金を持ってラヴィチャンドランと共にアジトへと向かう、、、。

   *    *    *    *

 上のあらすじを読んだだけでは正統的なサスペンス映画を想像するだろうが、実際に本作を観てみると、まったく違った印象を受けるに違いない。
 とにかく笑えるのである。
 インド映画はサスペンス物でもコメディーが入るのは普通のことだが、これはコメディーの比重がぐっと高くなっており、緊張の合間に息抜きが入るというより、サスペンスとコメディーががっぷり四つに組んだような形だ。
 そうなると、緊張とお笑いのバランスが取りにくくなり、たいてい失敗してしまうものだが、それがうまく行っているのが本作の強みだ。
 しかも、そのお笑いの質というのがフレッシュなもので、おそらくタミル映画のアクション物、サスペンス物をずっと見続けてきた人なら、本作がタミル映画の定式をいちいち裏切り、パロっているのに気付くだろう。クライマックスのどんでん返しだけ、「やっぱりそうか!」というようなもので残念だったが、それさえ、裏切ると見せかけて裏切らないという、それ自身が一つの大きな裏切りかな、と邪推してしまうほどの、変化球に満ちた作品だった。(ただし、このどんでん返しについては、評価は分かれると思う。)

 この「お笑い」の感覚については、私はインド版「若者のタメ口文化」と呼んでもいいのではないかと思っている。いわゆるヤングスターたちが集まって、酒など飲みながらチャッティングする中でギャグやジョークが生まれる。本作のコメディーはそんなネタの連鎖だったのではないかと思う。
 で、それは先日紹介したテルグ映画の【Ashta Chamma】でも感じたことで、インド映画のお笑いの質も変わりつつあるのかな、と思う。(それがインド・コメディーにとって好ましい変遷かどうかは分からないが。)

 ストーリーは単純なものだが、登場人物たちの設定やストーリー展開のきっかけ・引っ掛けは結構細かく配慮されている。なかなかよくできていると思っていたら、4人組の若者が事件に巻き込まれるという着想はハリウッド映画の【Judgment Night】(93)という作品から取られているようだ。

 監督のVenkat Prabhuは、Gangai Amaranというタミル映画界の有名な歌手・音楽監督の長男で、自身も音楽監督になるべく勉強したようだが、俳優・歌手を経て、結局は監督として才能開花したようだ。

◆ パフォーマンス面
 ガネーシュ役のPremji Gangai AmaranはそのVenkat Prabhu監督の弟で、主にコメディアンとして活躍しているが、やはり作曲とプレイバック・シンガーもやる。(本作でも1曲歌っている。)
 ところで、この2人の父、Gangai Amaranはインド映画音楽界の巨匠・Illayarajaと兄弟で、本作で音楽を担当しているYuvan Shankar RajaはIllayarajaの息子なので、Venkat Prabhu、PremjiとYuvan Shankar Rajaは従兄弟同士ということになる。
 アジャイ役のSivaは【Chennai 600028】で注目された一人で、俳優としてのキャリアは少ないが、「Radio Mirchi」でジョッキーをやっている人らしい。
 ジャガパティ・バブ役のS.P.B.Charanは高名な歌手・S.P.Balasubramanyamの息子で、やはり歌手で(本作でも1曲歌っている)、プロデューサーとしても【Chennai 600028】を制作している。
 こうやって見ると、音楽畑の人が寄り集まって作った映画のようで、だから本作が音楽的だと安易に言いたくはないが、しかし、本作の快適なノリは概念的・言語的というよりは遥かに音楽的で、やはり音楽にどっぷり漬かった人のセンスが出ているのかなぁ、と思わないこともない。
 ついでに書いておくと、4人組のラーム・バブ役のVaibhav Reddyはテルグ映画の監督、A.Kodanda Rami Reddyの息子らしい。(この役名は、女の子が泣いて嫌がるランバブ「Ram Babu」だったが、何か意図があるのだろうか?)
 (写真トップ:左よりSiva、Vega、Premji、Vaibhav Reddy、S.P.B.Charan。)

 脇役陣では、プラカシュ・ラージ、ジャヤラム、それにギャングのリーダー役のサンパットは、それぞれ彼ららしい演技だった。(ちなみに、本作はテルグ語版も同時製作されており、そちらではジャヤラムの役はシュリハリがやっているようだ。)
 ブラフマナンダムもコメディーで出ており、笑える一幕を作っていた。

 ヒロインは3人で、誘拐されるサロージャはVega、、、という知らない人。
 サンパットの情婦役のニキタは古典的な情婦像で、しっとりとしたお色気が薄暗いアジトの中で映えていた。(写真下:Sampath Rajと。)

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 もう一人、カージャル・アガルワルはアジャイ(Siva)の婚約者の役で、ほとんどチョイ役。なかなかトップに出られない彼女だが、今後話題作が控えており、そろそろブレイクかも?

 なお、本作には映画界やテレビ界の人が多数カメオ出演していたが、ほとんど私の知らない人だった。やはり【Chennai 600028】で注目され、【Subramaniyapuram】にも出演していたJai、それにYuvan Shankar Rajaも出ている。(Venkat Prabhu監督自身も顔を出しているらしいが、分からなかった。)

◆ テクニカル面
 最後になってしまったが、本作の技術的レベルの高さには瞠目すべきものがある。
 まず、Yuvan Shankar Rajaの音楽はキレている。このサントラCDはオススメ。音楽シーンの映像も面白い。
 そして、映画全編の80%は夜のシーンでありながら、落ち込まなかった撮影と編集も評価すべきだが、何よりも殺伐とした「廃工場」のセットが見ものだ。

◆ 結語
 【Saroja】は、特に濃い内容があるとも言えない娯楽映画だが、とにかく3時間十分に楽しめる。「脱力系サスペンス」とも呼べる、新しい感覚のインド映画を観てみたい人にはオススメだ。できれば、大スクリーンで観たい。

・満足度 : 3.5 / 5
 

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