カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Raj - The Showman】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2009/08/26 21:57   >>

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 プレム監督のカンナダ映画。
 【Kariya】(03)でのデビュー以来、【Excuse... Me】(03)、【Jogi】(05)と3作続けて大ヒット作を放ち、‘ハット・トリック監督’の異名を持つプレムだが、第4作の【Preethi Eke Bhoomi Melidhe】(08)では「Prem's World」も「New Philosophy」も不発に終わり、フロップに沈んでしまった。
 この第5作では、やはりサンダルウッドのヒット請負人、プニート・ラージクマルをヒーローに据え、目指すは大ヒット以外にない、という構えだ。
 実は、本作はプニートの父、故ラージクマルの誕生日(4月24日)に合わせて公開したかったようだが、製作が遅れに遅れ、やっとこさの公開である。音楽はすでに爆発的にヒットしており、待望の超話題作となっていた。
 (写真上:主演の2人、Puneet RajkumarとPriyanka Kothari。)

【Raj - The Showman】 (2009 : Kannada)
物語・脚本・監督 : Prem
出演 : Puneet Rajkumar, Priyanka Kothari, Murali Mohan, Adhi Lokesh, Muniraju, Mamatha Rao, Thulasi Shivamani, その他
音楽 : V.Harikrishna
撮影 : S.Krishna
制作 : Suresh Gowda, Srinivasa Murthy

《あらすじ》
 田舎の羊飼いの息子、ムトゥ(ムトゥラージ:Puneet Rajkumar)は熱狂的なラージクマルのファンで、映画スターになることを夢見ていた。ある日、ムトゥが友人たちとラージクマルの映画を観ているときに、大切な羊がいなくなってしまう。これが原因で父に家を追い出されたムトゥは、バンガロールに出て、大部屋俳優となる。
 ある映画の撮影中に、助監督(Murali Mohan)はムトゥに目を留め、自身の監督作品のヒーローに起用することに決める。
 早速撮影が始まり、ムトゥは大張り切りだったが、すぐに問題に直面する。ヒロインのパールヴァティ(Priyanka Kothari)が‘I love you’のセリフを言うのを嫌がり、降板してしまったのである。プロデューサーはパールヴァティ以外の女優を使う気がなかったため、映画はお蔵入りの危機に陥る。自分のヒーロー・デビューが怪しくなったムトゥは、パールヴァティを懸命に説得しようとするが、彼女は演技に関心がないと言って、拒む。
 ある時、刑務所内での撮影のために現場入りしたムトゥは、撮影が済んでも身分証明ができなかったため、囚人扱いされて刑務所から出られなくなる。
 やっとこさ誤解が解けて解放されたムトゥは、パールヴァティの家に向かうが、彼女は別の問題に直面していた。彼女には父方の従兄(Adhi Lokesh)と母方の従兄(Muniraju)がいたが、どちらも彼女に惚れており、求婚していた。二人の従兄は共にヤクザで、服役していたが、同日に出所し、再びパールヴァティに纏わりつき始めたのである。たまたまこの騒動に出くわしたムトゥはパールヴァティを連れて逃走する。
 二人の従兄から逃れる過程で、パールヴァティはムトゥを愛するようになり、映画のセリフ‘I love you’を言うことを引き受ける。喜んだムトゥは彼女を連れて監督の家まで行くが、監督はもう映画は撮らないと告げる。たまたまムトゥが俳優であることを知った従兄が、監督を脅迫していたからである。だが、ムトゥは自分の過去を語って聞かせ、監督を説得する。
 こうして映画の撮影が再開されるが、やはり二人の従兄が撮影現場に乗り込んでくる、、、。

   *    *    *    *

 これまでのプレム作品といえば、くどくどしいストーリー・ラインに家族(特に母子)の重たいセンチメントが絡み、それがプレム独特のテイストで加工されており、一度や二度観ただけでは消化吸収しにくい作風だという印象を私などは持っているのだが、それからすると、この【Raj - The Showman】はなんともシンプルで軽い。よっぽど【Preethi Eke Bhoomi Melidhe】の失敗に懲りたのか、まるで今までの「Prem's World」を忘れてしまったかのような方向転換である。(部分的には、例えば「刑務所のくだり」などにはプレムらしさが現れている。)

 ただ、シンプルなのもここまで行くと「ストーリーがない」と言わざるをえず、事実、鑑賞者の多くから聞かれる意見は「内容がない」ということで、評判は良くない。ストーリーが薄い分、音楽シーンとアクション・シーンは分厚く凝っており、プレムはストーリーを練る情熱をなくしたか、または音楽とアクションを基軸に物語を展開しようと意図したかのどちらかだろう。何であれ、作話や脚本という観点からは評価できない。物語の設定やアイデアは面白いだけに、それをもう少し熟成させることはできなかったのだろうか。(ちなみに、あらすじは時間軸に沿って書いたが、映画では2度の大きな回想シーンが組み込まれている。)

 とは言うものの、観点を変えれば本作はなかなか面白いとも言え、鑑賞後の後味は悪くなく、私はけっこう満足できた。映画的な面白さという点では、プレムの狙いはまずまず当たったのではないだろうか。
 その「プレムの狙い」というのは、インド娯楽映画らしい映画を撮ることで、この場合、徹底して「ヒーロー志向」の作品を作ることだったのではないかと私は推測している。事実、プレム自身が本作のことを「ラジニカント作品のような娯楽映画」だと語っている(題名の【Raj - The Showman】もラジニカント主演の【Sivaji - The Boss】と対になっているのに注目)。
 もともとインド娯楽映画の主流といえば大スターを起用したヒーロー志向の映画であり、それは今も続いていると言って間違いではないと思うが、周知のとおり、近ごろはインド映画も多様化して、単純なヒーロー映画に懐疑的な眼差しを向ける(あるいは、まったく無視する)人々も現れている。その傾向そのものは問題ではないが、単純ながら、家族揃って鑑賞した後にほっこりとした良い気分に浸れる、映画を観るという行為そのものが人々の「寿福」に繋がるような作品が少なくなったのも事実だ。それで、プレム自身もややその傾向に与してきた感もあり、彼自身がここらで一つ、インドの娯楽映画とは何だったのかということを改めて問い直してみたのがこの【Raj - The Showman】なのではないか、と私は見ている。

 そのための「鍵」として使われたのが、死してなおカリスマ的人気を誇るラージクマルだ。本作の主演はそのラージクマルの息子のプニートだが、実はラージクマル自身が真の主役なのではないかと思えるほど、映画全体が彼に対するオマージュで貫かれている。
 例えば、プニート演じるムトゥラージは熱狂的なラージクマルのファンと設定されており、映画中に何度もラージクマルへの言及がある。そもそも、役名の‘Muthuraj’からしてラージクマルの本名であり、ヒロインの名前‘Parvathi’も実は彼の妻の名前(Parvatamma)である。
 この作戦は功を奏し、劇場内の観客の沸き方はプニートに対する声援にラージクマルに対するそれが重なって尋常ではなく、特にプニートがラージクマル作品の音楽シーンを数曲物真似するシーンでは、映画館の天井が落ちて来るのではと思えるほどの大歓声だった。
 この辺、虎の威を借りてしまったかな、という嫌いが無きにしも非ずで、また、ラージクマルと縁も所縁もない人々には面白さがさっぱり分からない映画ともなりかねないのだが、ただ、カンナダ人が、幼いころからカンナダ映画を通して見てきた映画的感興とは何だったのか、ということを追求して行けば、その回答例として本作のような作品が出来上がったというのも肯ける。
 (写真下:SANTOSH劇場前に出現した巨大なラージクマル親子像。本作の性格をよく表している。)

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◆ パフォーマンス面
 本作のプニートは素晴らしい。パフォーマンス、存在感、熱意と、どれも際立った高さを見せている。
 そりゃあ、父の重みを背負っての演技なので、下手なことはできないのだが、「サンダルウッドのエース・スターはオレだ!」ということを証明してみせている。
 本作でのボサボサ・ヘアースタイルはあまり評判は良くないが、私は悪くないと思っている。
 (写真下:ジャヤマラやジャヤプラダなど、ラージクマル作品のヒロインを務めたオバサマたちに囲まれて、ここだけはお坊ちゃまとなったプニート。)

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 ヒロインのプリヤンカ・コーターリは、ラーム・ゴーパール・ヴァルマ監督の作品でお馴染みの顔だが、残念ながら本作では気の毒な使われ方だった。ドラマ中での役柄は誰でもできる、誰がやっても同じという特徴のないものだったが、その代わり音楽シーンではきれいに撮ってもらっており、まったくプレムは音楽シーンのイメージだけで彼女を選んだかのようだ。(下)

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◆ テクニカル面
 ハリクリシュナ担当の音楽は、大ヒットしているのももっとも出来だ。もちろん、これでグラミー賞が取れるといった次元の話ではないが、カンナダの衆を沸かせるには十分な曲が並んでいる。

◆ 結語
 本作はおそらく、カンナダ映画の今年一番の話題作だったと思われるが、面白さや完成度から判断して、その期待に達しているとは言いがたい。ラージクマルをネタに用いたという点で、興味深く、客も集めるとは思うが、この手は二度と使えないとプレムは肝に銘じるべきであろう。

・満足度 : 3.0 / 5
 

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