カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Goa】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2010/02/13 00:56   >>

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 ウェンカット・プラブ監督のタミル映画。
 ウェンカット・プラブといえば、デビュー作の【Chennai 6000028】(07)と続く【Saroja】(08)がヒット作となり、今最もホットな注目を浴びている若手監督の一人だが、その独特の作風はタミルの若者層の広い支持を集め、タミル・ニューシネマの旗手と目されている。
 私も上に挙げた2作はお気に入りで、第3作の登場を待ちわびていた。
 タイトルの「Goa」は、説明するまでもなく、かつてのヒッピーの聖地、今でも外国人ツーリストで賑わうインド屈指のビーチ・リゾートのことだが、その特殊な空間でタミルの若い映画人たちが何をやらかしてくれるか、非常に楽しみだった。
 ちなみに、制作はラジニカントの娘、サウンダリヤがやっている。

【Goa】 (2010 : Tamil)
物語・脚本・台詞・監督 : Venkat Prabhu
出演 : Premji Amaran, Jai, Vaibhav Reddy, Sneha, Piya, Melanie Marie, Aravind Akash, Sampath Raj, Vijayakumar, Jerome, Prasanna(特別出演), Silambarasan(特別出演), Nayantara(特別出演)
音楽 : Yuvan Shankar Raja
撮影 : Sakthi Saravanan
編集 : K.L. Praveen, N.B. Srikanth
制作 : Soundarya Rajinikanth

《あらすじ》
 マドゥライ近郊のパンナプラム村にサーミ(Premji Amaran)、ヴィナイ(Jai)、ラーム(Vaibhav Reddy)というバカな若者がいた。彼らは村の掟を破って14度も村から脱走しようとしたため、村のパンチャヤットは、今後一切彼らがお互いに顔を合わせてはならぬという決議を下す。この窮屈な状況を脱するために、3人はヴィナイの友人のいるマドゥライへと逃れる。その際、サーミは寺院から貴重な宝飾類を盗み出す。
 ところが、ヴィナイの友人はゴアで知り合った白人女性と結婚式を挙げるところだった。友人はそのままロンドンに移住する予定だと告げる。これを聞いた3人は、自分たちも外国人女性を見つけ、結婚し、海外に移住しようと、トラックに乗ってゴアを目指す。
 ゴアのビーチで右往左往していた3人は、ジャック(Aravind Akash)という若者と出会う。ジャックは彼らにゲストハウス・オーナーのダニー(Sampath Raj)を紹介し、寝食のサポートをする。また、夜にはゴア名物の‘パーティー’へと連れて行く。ジャックとダニーは、田舎から出て来た野暮な3人をゴア仕様の若者に改造する。
 ヴィナイは歌手のロシニ(Piya)と出会い、お互いに惹かれ合うものを感じる。
 また、サーミはジェシカ(Melanie Marie)という女性と再会する。実は、彼はマドゥライの結婚式場でジェシカと会っており、一目惚れしていた。その彼女が偶然このビーチに来ていたのである。サーミはジェシカと話すために英語を特訓する。しかし、ジェシカのほうもタミル語を練習していた。サーミが英語でプロポーズしようとしたとき、逆にジェシカのほうがタミル語で恋を打ち明ける。
 ロシニは、自分の誕生日にヴィナイを呼び出し、気持ちを込めた歌をプレゼントする。しかし、ヴィナイはそれを聴き終わらないうちに出て行く。ロシニは失望する。
 ところで、ジャックはダニーとホモの関係だったが、ダニーがなにかとサーミに親切にするのを見て、ひどく焼きもちを焼いていた。ジャックはとうとう爆発するが、ダニーになだめられ、誤解が晴れる。
 本来、女たらしのはずのラームがやけに静かだと思っていたら、陰でこそこそ動いていた。ヴィナイはラームがロシニと付き合っているのではと疑うが、彼はまったく違う女騒動に巻き込まれていた。
 ・・・ラームはカジノの女経営者、スハシニ(Sneha)と知り合い、とんとん拍子に仲が進展し、結婚式まで挙げていたのである。ところが、彼女は強欲で自己中心的なとんでもない女で、ラームは暴力さえ振るわれていた。彼はスハシニから逃れたい一心だったが、困ったことに、サーミが盗んだ寺院の宝飾類を彼女に預けたままだったのである。・・・
 この経緯を聞いたサーミとヴィナイは、友人たちの協力も得て、船上カジノの金庫にしまってある宝飾の奪還作戦を決行する。そして、なんとかそれを取り戻す。
 やがて、ジェシカの帰国の日になるが、彼女は飛行機に乗らず、サーミと暮らす決意をする。また、ヴィナイもロシニにプロポーズし、彼女の心を勝ち取る。3人の男は2人の女を伴い、故郷の村に帰る。そこでラームは美しい女性(Nayantara)を見出す。ゴアのスハシニは新たな男(Silambarasan)を餌食にしようとしていた。

   *    *    *    *

 ウェンカット・プラブ作品といえば、独特の力の抜き方が魅力で、【Chennai 6000028】は「脱力・スポ魂」、【Saroja】は「脱力・サスペンス」と、本来なら緊張感が必要とされるジャンルの映画を見事にコメディーに転覆していたのだが、本作もウェンカット・プラブらしい軽々とした面白さに満ちていた。ただ本作の場合、「Goa」という地がそもそも脱力ゾーンであるせいか、終始おめでたい休日ムードが支配的で、どうもジョーク、パロディーのオンパレードになってしまった感がある。力の入れどころとして、ゲイのエピソードと船上カジノ潜入作戦を用意したのだが、浮いてしまった感じがあり、緊張と緩和という点では前2作ほどの鮮やかさはなかった。

 映画の中にジョークやパロディーが出て来るというより、それらの氾濫、万華鏡のような散りばめられ方だ。
 その一つ一つは、私のセンスでは、けっこう面白いのだが、新旧タミル映画やハリウッド映画からの引用がほとんどなので、元ネタを知らないと苦しいかもしれない。特にラストのオチ、ゴアのスハシニ(Sneha)が新しい男と抱擁している場面は、タミル映画の【Manmadhan】(04)を観ていないとさっぱり分からないだろう。(つまり、スハシニのような悪女は、逆に連続殺人鬼に成敗されるぞ、というオチなのだが。)

 それにしても、本作のように、落ち着きないリズムの上にカラフルなパロディーやジョークが乗っかっていくというスタイルの作品を観ていると、ウェンカット・プラブというのはまさにテレビ時代の申し子なんだなぁ、という気がする。
 インドでは、多チャンネルの衛星テレビが広く普及しており、テレビっ子はインド産であれ海外発であれ、映画であれ音楽であれ、実に雑多な番組を等距離に、しかも断片的に見るという楽しみ方をしている。部分部分の一瞬に面白さがあるというウェンカット・プラブの作品は、そういう衛星テレビ時代の若者の感覚に合っているのかな、とも推測される。

 もっとも、彼の描く若者像そのものがタミルの若者たちの共感を呼んでいるのは確かだろう。
 ウェンカット・プラブ作品の主人公は、スーパースターによる一人のスーパーヒーローではなく、あまり有名でない俳優が演じる普通の青年、否、普通よりも出来の悪そうな青年がぞろぞろ出て来る、といったものだが、彼らが嫌味なく、ちょっとアブナイところはあるものの、基本的に人畜無害で、実にカワユいものとして描かれている。そういう登場人物に普通の若者たちが共感を覚え、スクリーンから自分たちの存在や行為の具体的なイメージを得ているのかな、とも思えるのである。(「スーパーヒーローに対する憧れ」ではなく、「ダメなヒーローに対する共感」というのが、近ごろのインド映画のトレンドの1つだと考えてもいいだろう。)

 本作の基本コンセプトについては、監督自身が語っている次の言葉に尽きている。「誰でもいろいろなことを期待しながら人生を送っているが、時として期待していなかったことが起きる。しかし、そっちのほうが期待していたことよりずっと良い場合もある。」
 この楽観的なスタンスが本作の魅力の源だ。

◆ パフォーマンス面
 主役のプレムジー(サーミ役)、ジャイ(ヴィナイ役)、ヴァイバヴ(ラーム役)はウェンカット・プラブ作品ではおなじみの顔。
 (写真トップ:左よりVaibhav、Premji、Jai。)

 気合いが入っていたのはプレムジーで、【Chennai 6000028】や【Saroja】ではボケ役、いじられ役だった彼も、本作では中心人物として、映画をリードしている。かなりおいしい役だった。
 しかし、私的に納得できないのは、、、、彼の相手役のヒロインがMelanie Marieというオーストラリアの女優なのだが、私もインド版「美女と野獣」はよく目にしてきたが、これはトップランクに位置する。この二人がカップルとして、しかもすんなり結ばれるなんてことがあっていいのか? 実に不埒な展開だった。(写真下)

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 ちなみに、彼女の役名は「ジェシカ」だが、制作サイドはこの役に本気でハリウッド女優のジェシカ・アルバを使いたかったらしい。

 才能がありながら、ソロのヒーローとしてまだ成功していないジャイだが、本作では悪くなかった。
 ただ、私の視線は、当然、ジャイよりも相手役のピヤーに注がれていたので、彼についての詳しいコメントは別の機会に譲る。
 それにしても、ピヤーちゃん、可愛かったっす。(下)

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 案の定いじられ役だったヴァイバヴは、演技がどうのこうのと言うより、これまたスネーハとのあり得んコンビが面白かった。 
 スネーハさん、サド嬢ぶりがなかなかナイスだった。(下)

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 衝撃と共に登場し、主役たちを喰っていたのが、ゲイのジャックを演じたアラヴィンド・アーカーシュだ。とにかく、彼の‘違った’ムード、焼きもちの表現は、演技として上手かったと言うより、「ホンモノ」にしか見えなかった。
 相方、ダニー役のサンパト・ラージも上手かった。(実は、二人併せてジャック・ダニエルになっている。)
 ちなみに、真偽は定かではないが、タミルの娯楽映画でゲイがこれほどフォーカスされたのは初めてのことらしい。(おかげで、このお気楽コメディーにA指定が付いている。)
 (写真下:真ん中がAravind Akash、右がSampath Raj。)

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◆ テクニカル面
 ユワン・シャンカル・ラージャの音楽は楽しく、悪くはないのだが、【Saroja】ほどのまとまりはない。曲数(9曲)が多すぎるように思えた。

 ロケは、冒頭の田舎のシーンは実在のPannapuram村で、これはウェンカット・プラブ監督の家族の出身地であるらしい。
 ビーチのシーンはゴアそのものと、マレーシアのランカウィ島が使われたらしい。

◆ 結語
 こういう作品は、インドの若者がどんなことから自由になりたいのかが分からないと、なかなか面白さも理解しにくいかもしれない。それでも、私は日本の皆さんにウェンカット・プラブ的「休日」の世界を味わってもらいたいと思う。けっこう、アホでっせ。

・満足度 : 3.0 / 5
 

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