カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Paiyaa】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2010/04/15 02:10   >>

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 リンガサミ監督、カルティ(スーリヤの弟)主演、そして、「ミルク・ホワイト・ビューティー」こと、タマンナーがヒロインのタミル映画。
 いやぁ、私はカルティのことをせいぜい「スーリヤのマネージャー」ぐらいが適当だろうと思っていたのだが、今年の初めに公開された【Aayirathil Oruvan】が当たり、一躍コリウッドの新ヒーローとしてブレイクしてしまった。この【Paiyaa】も順調に客を集めているらしい。やはり、こういう田舎顔が今のタミル映画のトレンドなのか?(もっとも、本作の場合、客の7割はタマンナー目当てだと思われるが。)
 本作の話題は、もちろん、タミル映画界の人気アクション映画監督、リンガサミの【Bheemaa】(08)以来の新作ということだが、他にも、カルティが初めてまともな服を着た青年の役を演じるということもあった。というのも、【Paruthiveeran】(07)でも【Aayirathil Oruvan】でも、ルンギを纏った汗臭い田舎男の役だったからであるが、こういうことが話題になるカルティとは何者ぞや、はては、タミル映画とは何ぞや、と思わないでもない。
 参考に、本作は【Awara】という題名でテルグ語ダビング版が作られ、そろそろ公開されるはずである。リンガサミ監督は当初テルグ語のリメイク版を作る予定だったが、【Aayirathil Oruvan】のテルグ語ダビング版【Yuganiki Okkadu】がAP州でもヒットしたため、「カルティで行ける」との判断の下、ダビング版で手を打ったらしい。

【Paiyaa】 (2010 : Tamil)
物語・脚本・監督 : N. Lingusamy
出演 : Karthi, Tamannaah Bhatia, Milind Soman, Sonia Deepti, Jegan
音楽 : Yuvan Shankar Raja
撮影 : Madhi
編集 : Anthony
制作 : Subash Chandrabose

《あらすじ》
 シヴァ(Karthi)は楽天的な若者。工業大学を出た後、バンガロールで就職活動をしていたが、仕事はなかなか決まらなかった。シヴァはそんなことお構いなしだったが、友人たちは彼のために親身になって動いていた。そんな折に、彼は美しい女性、チャール(チャルラータ:Tamannaah)を目撃し、一目惚れする。
 シヴァは知人から車を借りていた。ある日、その知人がバンガロールに戻って来るので、車を返しがてら、バンガロール駅まで出迎えに行く。だが、偶然その場にチャールが男に手を引かれてやって来る。男はシヴァをタクシー運転手だと思い、チェンナイまで行くよう指示する。シヴァは、行き掛かり上、二人を乗せて出発する。
 だが、給油のためにガソリンスタンドに立ち寄り、男が車を降りた隙に、チャールはシヴァに車を出すよう要求する。訳の分からぬまま、シヴァは男を置き去りにし、出発する。チャールはムンバイに行きたがるが、空港でも鉄道駅でもムンバイ行きに乗れなかったので、結局シヴァが車でムンバイまで運ぶことにする。
 旅の途上でチャールはシヴァに事情を説明する。彼女は実母と死別しており、阿漕な継母とはうまくいっておらず、今回、継母に無理やり結婚させられそうになったところを逃げ出した、というわけだった。

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 シヴァにとっては願ってもないハッピーなドライブとなったが、喜んでばかりもいられなかった。チャールの継母が寄こした悪漢たちがシヴァの車を見つけ、追跡を始めたのである。また、それだけではなく、ムンバイのヤクザの一団もシヴァを見つけ、追跡を始める。シヴァは以前、就職活動のためにムンバイを訪れた際に、バッリ(Milind Soman)率いるヤクザの連中とひと悶着を起こし、以来、復讐のターゲットとなっていたのである。
 二人はなんとかムンバイに到着する。チャールは母方の祖母の許に身を寄せるつもりだったが、住所も電話番号も分からず、手がかりは「ラージャン・グループ」という会社の名称だけだった。だが、ムンバイにいたシヴァの友人、ポーチ(Jegan)のおかげで、祖母の居場所が分かる。シヴァはチャールを祖母の許に送り届ける。
 結局、恋を打ち明けることもできなかったシヴァだが、空しくムンバイを去ろうとしたとき、ふと、所在なげに路上に立ちつくすチャールを目撃する、、、。

   *    *    *    *

 実は、この日はアッル・アルジュン主演のテルグ映画【Varudu】を観るか、この【Paiyaa】を観るかで迷ったのだが、【Varudu】があまりにも評判が悪く、対して【Paiyaa】のほうはまずまずの評価だったため、こちらを選んだ。もしや典型的な南インド・アクション映画の秀作として、スカッとした気分を味わえるんじゃないかと期待もしたのだが、私が観たところ、そんなに面白くもなかった。渋い評価を下しているレビューが正解で、持ち上げているレビューは要するにカルティ売り出しのために一肌脱いだだけだろう。娯楽映画としてなんとか合格、といったところか。

 なんとも軽い。気楽に観られる。それは構わないのだが、気楽すぎて全然緊張感がなかった。去年【Sarvam】【Kanthaswamy】を観たときにも感じたことだが、どうも近ごろのタミル・アクション映画は軽量化・軟弱化・ファッション化が進み、ギトギト、ゴテゴテしたものはもう流行らないかのようだ。(映画がおもしろくさえあれば、それもOKなのだが。)

 登場人物の設定、背景、ストーリーは使い古されたものだ。リンガサミ監督はあえて常套手段を取ったふしもあるのだが、それでもストーリー展開にもっと工夫がほしかった。(特に、2グループの悪漢が主人公たちの車を発見するくだりは不自然だった。)
 唯一変わっているかなぁと思えるのは、映画の7割ぐらいは主役ペア(シヴァとチャール)が車で移動しているシーンであること。カー・チェイスは平均的な出来だが、国道をバックして悪漢から逃れるシーンは面白い趣向だった。(ちなみに、車は黒の三菱ランサー。)
 悪漢との格闘シーンも平均的なもので、特に目を見張る迫力はなかった。

 そんな訳で、アクション映画としては凡作だと思うが、実は本作の謳い文句はロマンティック・アクション映画ということで、そのロマンティックな部分が結構うまく行っているのである。
 もちろん、熱烈ラブストーリーというわけではなく、棚ボタ式に好きな娘を後ろに乗せることになり、かといって告白もできず、座り心地の悪さを感じながらハンドルを握るシヴァの微妙な気持ちと、旅が進むにつれて次第にシヴァに信頼感を寄せるようになりながらも、この男が自分のことを愛しているなんててんで気付かないチャールの様子が、なかなか面白く描かれていたのである。

 もう一つ、リンガサミ監督が陳腐とも言える道具立てを使ってまで提示したかったのは、爽快なアクションや正義のメッセージではなく、「男たるもの」、正確には「タミル男たるもの、かくあるべし」という、「青年像」だったのではないか。
 映画の中でカルティ演じるシヴァは、都会育ちの割には要領が悪く、無骨で、女性に対してはシャイだが、ここぞというときに見せる腕っ節はやたら強いという人物として描かれている。で、車の中でシヴァに理想のタイプを聞かれたチャールは、「仕事が肝心、、、」とソフトウェア会社勤務の今どきのスマートな男性像を答え、シヴァは(ちっ、オレと全然違うじゃん)と失望を感じるのだが、ひょんな経緯から、そういうスマート・ガイを車に同乗させることになったとき、その男のあまりの軽薄さにチャールもうんざりする、というエピソードが描かれていた。
 シヴァのような青年象は、伝統的にインド映画によく現れたキャラクターだが、近ごろのソフトウェア族の増殖により、野暮ったいものになりつつある。本作でのリンガサミ監督の一番の狙いは、そういう風潮に対して、今一度「インドのますらお」を理想化して見せることだったのではないか、と思える。(ちなみに、題名の「Paiyaa」は「Boy」という意味。)

◆ 演技者たち
 作品としてかなり物足りないものを感じながらも、私が本作を駄作だとか失敗作だとか言わないのは、主役ペアのパフォーマンスがなんとか映画の面白さを支えていたからだ。
 特にシヴァ役のカルティは、上では茶化してみたものの、予想以上に魅力があり、驚きだった。
 演技やダンスには不器用なものを感じるが、この男の庶民的な愛嬌というのはまったくタミル人の好みそうなもので、タミル映画界の既存の娯楽スターの多くが鮮度を落としている中、新鮮な顔としてしばらくは重宝されそうだ。

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 ヒロインのタマンナーについては、今回も期待どおりの可愛らしさで満足した。
 役どころとしては、少し前までトリシャがやっていたような役で、別段難しいものでもないのだが、やはりこの娘の感情表現は抜群に上手く、この薄っぺらい内容の映画を観ても何か得したような気分になれるのも、ひとえにタマンナーのおかげだ。(特にクライマックスの表情変化に注目。)
 ‘Behindwoods’のランキングによると、去年のタミル映画ベスト10の中に3本もタマちゃん出演の映画がランクされており、彼女のトップ・タミル女優としての勢いがよく分かる。
 というより、目下、南インドには女優が2人しかおらず(正確に言うと、確実に集客が期待でき、オファーが殺到しているアイドル女優のことだが)、それはタミルのタマンナーとテルグのアヌシュカらしい。今年もこの勢いは続きそうだ。

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 【Ayan】(09)でタマンナーの兄役を演じていたジェーガンが、本作では主人公のムンバイでの友人役をしていた。コミカルな役どころで、彼の話すでたらめなヒンディー語が客席を沸かせていた。

 主人公の女友達役をやっていた女優が、どこかで見た顔だと思っていたら、【Happy Days】(07)や【Vinayakudu】(08)でお馴染みのテルグ女優、ソニアだった。タミル映画で見ても、あのちりぢりヘアーは迫力がある。

 悪役はミリンド・ソーマンという、北から来たモデル系の俳優だった(スコットランド生まれらしい)。こういうスマートな悪漢像がやはりトレンドとなっているようだ。(下)

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◆ 音楽・撮影・その他
 ユワン・シャンカル・ラージャの音楽はOK。
 シヴァがチャールを乗せてムンバイへとスタートする場面(Poongatre Poongatre)、雨の中、滝の近くで踊る場面(Adada Mazhaida)、悪漢から逃れ、一息ついた夜のロマンティックな場面(Suthudhe Suthudhe Boomi)の3曲が印象的。
 絵的にもきれいに撮れている。

 映画の舞台はバンガロールからムンバイにかけてだが、最初のバンガロールの場面は一部はバンガロールで撮影されているものの、一部は別所だった。バンガロールの鉄道駅とされていた所も実はバンガロールではなく、たぶんマイソールの駅だと思う。
 バンガロールからムンバイに至るルートは完璧に架空のもので、海や滝や山があり得ない順序で出て来ていた。主役ペアが途中で立ち寄る滝はケーララ州にあるAthirappilly waterfallsという滝らしい。非常にきれいな滝で、よく映画のロケにも使われているらしい。

◆ 結語
 タマちゃんのファンなら、もしくは、カルティのブレイクを素直に祝福したい人なら観てもいいかなぁ、という微妙な線だが、観なきゃ損というわけでもない。リンガサミ監督にはもっと力強い作品を次作では期待したい。

・満足度 : 2.5 / 5

 (オマケ画像:村の子供たちと遊ぶタマちゃん。)

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