カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Simha】 (Telugu)

<<   作成日時 : 2010/05/12 03:49   >>

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 ここ半年のテルグ映画界は湿っぽく、クリーン・ヒットが出ていない。今年に入ってからも、まずまずの興行成績を上げた作品といえば、ウェンキー主演の【Namo Venkatesa】、マノージ主演の【Bindaas】、シェーカル・カンムラ監督の【Leader】、ガウタム・メーナン監督の【Ye Maaya Chesave】ぐらいで、ブロックバスターはなかった。この間、他にも話題作はあったものの、NTRジュニア主演の【Adhurs】、ナグさん主演の【Kedi】、往年の名作のリメイクである【Maro Charithra】、アッル・アルジュン主演の【Varudu】はコケてしまった。
 もしかして、史上最悪の時期を経験したかもしれないトリウッドだが、しかし、映画ニュースによると、5月以降のサマーシーズンには話題作が相次ぎ、晴天に転ずるだろうとの中期予報が出されていた。それを裏付けるかのように、先陣を切って登場したプラバース主演の【Darling】はいきなりヒット、そして、今回紹介するこの【Simha】は公開早々にブロックバスター宣言と、すっかり梅雨明けした感がある。

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 それにしても、ナンダムーリ・バーラクリシュナの主演であるこの【Simha】がヒットとなった意義は大きい。
 ナンダムーリ家といえば、AP州では強力な勢力を誇る映画(&政治)の名門家だが、冷静に見ると、ここ数年はめっきりヒット作が減少している。稼ぎ頭であるはずのNTRジュニアは【Yamadonga】ぐらいで、大将のバーラクリシュナに至っては、AP州では子供さえ「バーラクリシュナの映画はつまらない」と揶揄するほどの不振ぶりだったらしい。
 いわば、支持者の期待を裏切り続けたナンダムーリ・ブランドだったわけだが、この【Simha】はそんなファンの鬱憤を一気に晴らすかのごとき大爆発となったようだ。

【Simha】 (2010 : Telugu)
物語・脚本・台詞・監督 : Boyapati Srinu
出演 : Balakrishna, Sneha Ullal, Nayantara, K.R. Vijaya, Saikumar, Aditya Menon, Rahman, Kota Srinivasa Rao, Namitha, Venu Madhav, Dharmavarapu Subramanyam, Krishna Bhagawan, Ali, Brahmanandam, LB Sriram, Jhansi
音楽 : Chakri
撮影 : Arthur Wilson
アクション : Ram & Laxman, Stun Siva
編集 : Kotagiri Venkateswara Rao
制作 : Paruchuri Kiriti

《あらすじ》
 大学教授のスリーマン・ナーラーヤナ(Balakrishna)は、不正を犯す輩には鉄拳制裁を加えずにはいられない正義の人だった。ある日、例によって路上で悪漢らを成敗しているとき、スリーマンのパンチが救急車で搬送中の昏睡状態の老人(Saikumar)に当たってしまう。しかし不思議なことに、そのショックで老人は意識を回復する。
 スリーマンの大学にジャーナキ(Sneha Ullal)という学生が転入して来る。彼女はキャンパスでのスリーマンの行いを見て惚れてしまい、彼にまとわり付く。ある時、悪漢らがジャーナキを拉致しようと試みるが、スリーマンが救い出す。ジャーナキはスリーマンに自分が悪漢に追われている訳を話す。
 ・・・
 ジャーナキはヴァイザーグ地方のボッビリという町の出身だった。彼女の父(Rahman)は当地の豪族ウィーラケーサワドゥ(Saikumar:実はスリーマンが昏睡状態から起こしてしまった老人)と商取引をしている人物だが、利害関係のもつれから、ジャーナキをウィーラケーサワドゥの息子ゴーピナート(Aditya Menon)と結婚させなければならなくなる。だが、ゴーピナートはジャーナキの兄を殺してしまうほどの凶暴者だったため、とてもこの縁談を受け入れられない彼女は逃げ出してしまったというわけである。
 ・・・
 スリーマンは彼女を励まし、自分の家に招待し、祖母(K.R. Vijaya)に会わせる。祖母はすっかりジャーナキを気に入る。
 だが、ゴーピナートとその一味はジャーナキを連れ戻すために執拗に追跡を続け、とうとうスリーマンの家にまでやって来る。スリーマンと悪漢の間で乱闘が起きるが、その場にある男が現れ、誤ってスリーマンの祖母を刺してしまう。スリーマンは反撃しようとするが、祖母が制止する。実は、その男はジャーナキの父で、しかもスリーマンの死んだ父ナーラシムハ・ナーラーヤナの義弟だったのだ。祖母はスリーマンに、それまで秘密にしていた父の過去を語って聞かせる。
 ・・・
 時は30年前。ボッビリの王家の末裔であるナーラシムハ・ナーラーヤナ(Balakrishna)は当地で医者をしており、住民から非常な尊敬を集めていた。この町ではウィーラケーサワドゥの一族が悪事の限りを尽くしていたが、見兼ねたナーラシムハはウィーラケーサワドゥの二人の弟を葬り去る。これに憤ったウィーラケーサワドゥは、罠を仕掛け、ナーラシムハとその妻ガヤトリ(Nayantara)を殺害してしまう。しかし、自身もナーラシムハから受けたパンチのせいで、昏睡状態に陥ることになる。祖母は忘れ形見のスリーマンに同じ道を歩ませないため、故郷を離れ、父の過去を秘密にしていたわけである。
 ・・・
 スリーマンはこの話を聞き、憤る。そして、父の敵ウィーラケーサワドゥまだ生きていること、しかもそれがジャーナキの敵でもあることを知り、復讐のため、父が死んだ地へと赴く、、、。

   *    *    *    *

 凄まじい映画だった。
 久々にガツンと頭を叩かれるようなテルグ映画だった。
 かつては「デカンには血の雨が降る」と言われたものだが、本作でも降りも降ったり、戦争映画でもないのに、驚くべき数の死体の山が築かれた。
 インド映画を観たことのない人が、たまたまAP州を旅行中にこの映画を観てしまったとしたら、「やっぱりインドは怖いとこだ」とうなされるか、逆にテルグ映画にはまってしまうかのどちらかだろう。
 おそらくテルグ映画以外では絶滅してしまったタイプのバイオレンス物なのだが(否、一説によると、バーラクリシュナの作品でしか観られないとも)、こういう映画を観るために大勢の人々が集まり、しかも「楽しんでいる」というテルグ人とは、一体何者だ!

 ・・・でも、面白かったんです。

 内容的には、想像どおりバーラクリシュナの仁王立ち物だったが、今回は父子の二役を演じ、それぞれで大暴れだった。こういう確信犯的な正義漢はあっぱれとも言えるが、実際に近くにいると困るなぁとも思った。(もちろん、映画限定の存在なのだが。)
 アクション・シーンは、えげつなさと迫力で際立った見せ場となっている。
 冒頭一発目のアクションは、スリーマンが左手をジーンズのポケットに突っ込んだまま、右手一本で易々と悪漢を片付けるもので、その軽やかさに笑ってしまった。しかし、後のアクションでは腕チョパ、首チョパと血なまぐさくなり、特に首チョパは「逆さ落とし空中首チョパ」という難易度の高い技を披露している。

 ストーリー的には、複雑で凝っているように思えたが、後で振り返ると単純なものだった。しかし、「因果応報」をバネになかなかよくできたストーリーで、特に「父のパンチが敵を眠らし、息子のパンチがそれを起こす」というアイデアは面白かった。【Bhadra】(05)や【Thulasi】(07)でもそうだったが、大規模な回想シーンを2度ほど入れた構成というのは、ボーヤパーティ・シュリーヌ監督の得意とする語り口なのだろう。
 物足りないと思ったのは、コメディー陣が少なからず出ていながら、すべて無駄に終わっていること。
 スリーマンとジャーナキのロマンス展開もはっきりせず、ストーリー展開のきっかけとしてはうまく機能していたが、情緒を高めるという効果はあまりなかった。

◆ 演技者たち
 もちろん、バーラクリシュナのためのバーラクリシュナ映画ということで、彼がどこまで気張れるかが成否を分けるが、2時間50分、ほぼ出ずっぱりでも気を抜いた部分はなさそうだった。
 父は医者、息子は大学教授という設定の二役だったが、その役柄設定は重要ではないようだった。上手いのか下手なのか分からない演技だったが、演技というより、ヒーローとしての思い込みの強さが観客を納得させていたように思う。
 (写真下:怒ると怖いが、笑うと可愛いバーラクリシュナ。)

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 ヒロインはスネーハ・ウッラールということになるだろう。
 【Ullasamga Utsahamga】(08)で印象的なテルグ映画デビューをし、トリウッドでも重宝される顔となったスネーハ・ウッラールだが、さすが本作のように濃い面々に混じってしまうと、まるで小学児童のような心許なさだった。
 (写真下:スネーハ・ウッラールと【Ullasamga Utsahamga】については、近日中に改めて触れる予定。)

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 その点、ナーラシムハの妻を演じたナヤンターラは、短い出番ながら、抜群の存在感と上手さを見せていた。

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 ナミターも出ていたのだが、ストーリー的にはまったく重要ではなかった。お色気とコメディーの担当だったが、コメディーの比重が高かったかな? (そもそも、彼女の大学講師という設定だけで十分コメディーだった。)

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 なぜかマラヤーラム映画界からサーイクマール、アーディティヤ・メーノーン、ラフマーンのトリオが出ていた。ラフマーン(ジャーナキの父役)はそうでもなかったが、悪漢親子を演じたサーイクマールとアーディティヤは良い出来だった。マラヤーラム映画界は可愛い子ちゃんだけでなく、悪役の供給地としても注目か?
 他には、K・R・ヴィジャヤのお婆さま、ジャンスィの田舎女が印象に残った。

◆ 音楽・撮影・その他
 音楽はチャクリの担当だが、こういうしんどい映画の場合、音楽シーンは一服タイムになってしまうので、まともに聴いていなかった。しかし、あまり良いとも思えなかった。
 ただ、バーラクリシュナのダンスは見ものだ。上手いとか下手とかは別として、もう50歳になろうかという年齢で、これだけ高度なダンスができる、または、やろうという意思があるのには感服するばかりだ。

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◆ 結語
 【Simha】は、冷たい目で見れば時代遅れで、荒唐無稽な噴血アクション映画なのだが、バーラクリシュナ個人の久々のヒット作ということだけでなく、アンチ・ヒーローのシネコン映画が勢力を増しつつある時代に、大衆ヒーロー映画陣営が放った爆弾的作品として、その存在意義は大きい。
 こうしたテルグ映画に馴染んでいない人にはまったく苦しいと思うが、そうでなければ、けっこう楽しく鑑賞できるだろう。

・満足度 : 3.5 / 5
 

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