カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Veera Parampare】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2010/11/09 21:42   >>

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 S・ナーラーヤン監督、アンバリーシュとスディープ主演のカンナダ映画。
 このブログでS・ナーラーヤン監督を紹介するのは初めてだが、カンナダ映画界では才人として知られた著名映画監督だ。作風はオーソドックスなもので、保守的なカンナダ人の価値観を代弁するような作品が多いようだ。監督とプロデューサーとして有名だが、俳優としてもちょくちょく顔を出し、なかなか味のある演技を見せている。根が器用な人で、本作でも制作、監督、作話、脚本、台詞、作詞、音楽監督をこなしている。
 本作はツイン・ヒーローの作品で、アンバリーシュとスディープという異色の取り合わせ。スディープについては何度か言及しているので、アンバリーシュ(写真上)についてだけ簡単に説明しておくと、マイソール近くのマンディヤ出身のベテラン大物俳優。200本以上の映画に出演し、主演作品も多いが、悪役からスタートしたほどの個性の強さを活かして、脇役を演じていることも多い。‘Rebel Star’の異名を持つ人気俳優であったが、政治家(国民会議派)に転身してからは映画出演がめっきり減った。政治家としては、連邦議会議員(下院)に選ばれ、マンモーハン・シン政権の下で下級大臣まで務めたこともあるのだが、昨年の総選挙で落選し、再び銀幕でお目にかかる機会も増えてきたというわけだ。余談だが、確かな筋の情報によると、大変な大酒呑みらしい。
 本作はそんなアンバリーシュのテーラーメイドな作品として話題になっていた。
 「Veera Parampare」は、「偉大な家系」といった意味。

【Veera Parampare】 (2010 : Kannada)
物語・脚本・台詞・監督 : S. Narayan
出演 : Ambarish, Sudeep, Aindrita Ray, Sudeep Tho, Vijayalakshmi Singh, Sharan, Shobharaj, Kote Prabhakar
音楽 : S. Narayan
撮影 : R. Giri
編集 : P.R. Sundarraj
制作 : S. Narayan

《あらすじ》
 ヴァルデー・ガウダ(Ambarish)はとある村を治める豪族。非常な有徳者で、農民たちの生活を徹底して守り、彼らから神のように尊敬されていた。警察さえ、彼の屋敷に入るときは、敬意を表して制服を脱ぐほどだった。
 ヴァルデーにはテージャ(Sudeep)という用心棒がいた。テージャの父(Shobharaj)は、テージャがまだ子供のとき、ヴァルデーを敵の襲撃から守るために命を落としていた。それ以来18年間、ヴァルデーはテージャを我が子のように育て、テージャもヴァルデーに対して忠誠を尽くしていた。しかし、ヴァルデーの妻(Vijayalakshmi Singh)は、夫がテージャを重用するのを快く思っていなかった。彼女には甥っ子がおり、家督を継がせたいと思っていたからである。
 近隣の村にバイレ・ガウダ(Sudeep Tho)という有力者が住んでいた。彼はヴァルデー・ガウダのライバルで、土地開発の利権を得るため、ヴァルデーの村の土地を狙っていた。彼は政治家や役人を買収し、土地を接収させようとするが、ヴァルデーに阻まれる。またバイレは、幾度となくヴァルデーの命を狙うが、それもテージャに阻まれる。
 サプナ(Aindrita Ray)という都会の娘がテージャに惚れ、まとわりつく。二人の関係を知ったバイレ・ガウダ陣営は、策を練り、サプナをヴァルデーの甥の花嫁候補としてヴァルデー家に紹介する。早速お見合いが行われるが、その席上でサプナは、花婿としてヴァルデーの甥ではなく、テージャを選ぶ。ヴァルデーの親族は不快感を示すが、ヴァルデーはテージャを息子にすると宣言し、二人の結婚を認める。
 新しい警察署長が赴任して来る。この署長はバイレの息のかかった者で、ヴァルデーに対して挑戦的な態度を取る。
 ところで、ヴァルデーには一人娘のガウリがいたが、恋人と勝手に結婚してしまったため、絶縁状態となっていた。しかし、ガウリはテージャと密かに連絡を取っていた。そんなガウリが重病で危篤状態にあるという知らせがテージャの耳に届く。テージャは、ガウリが死ぬ前に一度父を見たいと言ったので、病院の集中治療室から連れ出し、屋敷の外からヴァルデーの姿を眺めさせる。だが、その場でガウリは息絶えてしまう。テージャはヴァルデーを呼び出し、娘を火葬するよう促す。
 しかし、テージャのこの行為が問題となり、彼は殺人容疑で警察に逮捕される。ヴァルデーは濡れ衣を晴らすために警察署へ行こうとするが、バイレ・ガウダに買収された身内にナイフで刺され、病院に運ばれてしまう、、、。

   *    *    *    *

 いや、おったまげた。ある程度予想はしていたものの、ここまで正統的なカンナダ映画が飛び出してくるとは思わなかった。オールドファッションな映画なのだが、ここに堂々と描き出された「カンナダ人気質」に対しては、古くさいというより、潔さを感じ、正直、気持ちよかった。

 ここで「カンナダ人気質」と言ったのは、「土地と農民は最も大切なもの」、「村の共同体の中では上下関係を基本とする人間関係は尊重されるべき」といった価値観のことで、これならカルナータカ州に限らず、インドの村落部に普通に見られることだろうから、伝統的な「農村共同体の価値観」と言うべきなのだが、こと映画という文脈になると、他州の映画に比べてカンナダ映画には、こういう守旧的な価値観が直截的に表明されている作品が頻出しているように思われたので、あえて「カンナダ人気質」という表現を用いた。

 例えば、ヴァルデー・ガウダとテージャの主従関係。主は主らしく惜しみなく従に愛情を注ぎ、従は従らしく徹底して主に忠誠を誓うという封建的な人間関係であり、大衆芝居っぽく陳腐でもあったのだが、演じたアンバリーシュとスディープの好演もあって、非常に美しく見えた。こういう人間関係の美徳というのは、ドゥルヨーダナとカルナの例を引くまでもなく、インド人の好むものであり、また、あらゆる人間関係の基本型の一つとして重視されもしてきた。

 ヴァルデー・ガウダの人物像も興味深い。カンナダ映画にも繰り返し登場してきたような典型的な村落部の首長なのだが、見ている世界は農村、価値あるものは農業で、土地と農民を守り、代わりに農民から神のように尊敬されている。農民の生活を脅かすものは悪と考え、その土地とは無縁のグローバル産業の侵入には徹底して抵抗する、そんな人物として描かれている。
 そして、「この土地」を愛し守るということが「カルナータカの地」を愛すという愛州精神へと繋がり、ヴァルデーの人物像がカルナータカ州のアイコンへと飛躍していくところが面白い。
 下の動画は本作の中盤に出て来る音楽シーン‘Nanna Mannidu’なのだが、これを映画館で見たときはのけ反った。アンバリーシュの胸からカルナータカ州の州旗(黄と赤の二色旗)が飛び出すところに注目。



 それで、しばらく前から気に掛かっていたことと関連してきたので、ついでだから書いておく。それは「誰が州旗を担うか?」ということだ。
 カンナダ映画を観ていると、音楽シーンの中でヒーローがカルナータカ州旗を持って、またはカルナータカ州の地図を背景にダンスをしているシーンによく出くわす。ヒーローといっても誰でもいいわけではなく、カルナータカを代表するようなトップ・スターに限られる。その役目を長らく担っていたのはラージクマールで、下の音楽シーンは代表的なものだ(【Akasmika】(93)より‘Huttidare Kannada Nadalli Huttabeku’)。
 http://www.youtube.com/watch?v=E4dc07ChUWI

 実は、ラヴィチャンドランも州旗/州地図は好んで用いており、【Sipaayi】(96)や【Malla】(04)などで派手な愛州賛歌を作っているのだが、大衆のウケはあまり良くなかった。例えば、下の動画は【Malla】の‘Karunade’だが、ラヴィが振り回す長い州旗の端が地面に触れた(=冒涜)ということで、顰蹙を買った。
 http://www.youtube.com/watch?v=viix7P1cfKw

 ラージクマール亡き後、その役目を受け継いだのはヴィシュヌヴァルダンだった。そして、昨年ヴィシュヌ翁が没した後は誰か?と思っていたら、やはりこの人、シヴァラージクマールが出て来た(写真は今年公開の【Cheluveye Ninne Nodalu】より)。

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 ゆくゆくはプニート・ラージクマールが州旗の担い手になるだろうし、またはスディープも有力候補か?と思っていたところ、本作のアンバリーシュを見て、「おお、この方がいたじゃないか」と気付いたわけである。

 さて、何が言いたいかと言うと、トップ・スターが州旗を担って州の象徴として描かれるというのは、ボリウッド映画は別として、他州の映画にもあってよさそうなのに、あまり見かけず、すると、こういうことが頻出するカンナダ映画というのは特殊な性格を持ったもので、それがカンナダ映画がカンナダ人以外には分かりにくく、またカンナダ映画産業界が排他的な性格を持つのと無縁ではないのかな、などと思ったりするのである。どうも私には、カンナダ映画というのは、単純に娯楽や芸術をサービスするものというより、マクロ的には州民意識の統合、ミクロ的には伝統的な倫理観を家族が確かめ合う場にする、そんな役割を演じているように思えるのである。

◆ 演技者たち
 アンバリーシュはもはやこんな役しかできない(というより、やらない)と思われるが、さすがに貫禄十分、絵になっていた。アクション・シーンもあり、体は全然動かないはずだが、なにせこの体躯、痛そうなパンチを繰り出していた。

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 スディープも、あくまでアンバリーシュを立てる役回りだったが、寡黙で、親方に忠実な任侠の徒を完璧に演じていた。カッコよかった。

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 ヒロイン、サプナ役のアインドリタ・レイは、ストーリー上、重要になる場面もあったが、まぁ、アンバリーシュとスディープの前では付け足しのようなものだった。ただし、音楽シーンではさすがにアイドル性が光っていた。

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 ヴァルデー・ガウダの妻を演じたのはヴィジャヤラクシュミ・シンという女優だが、この人は有名なS・V・ラージェンドラ・シン・バーブ監督の妹で、監督としても【E Bandana】(08)と【Male Barali Manju Irali】(09)の2作を撮っている。

◆ 音楽・撮影・その他
 音楽・歌詞もS・ナーラーヤン監督自身の担当。特に新鮮な曲でもないのだが、なんか良かった。

 映画は長すぎる。上映時間2時間40分のうち、20分ぐらいカットすべきだ(特に、ガウリのエピソード)。

◆ 結語
 カンナダ映画の純血種といった作品で、特にお勧めはしない。しかし、「カンナダ映画とは?」ということが気に掛かる人には、必見作となる。

・満足度 : 3.5 / 5
 

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
州旗にまつわる考察、大変興味深いです。前から気になっていたのですが、印度の場合ほとんどの州に法律で定められた州旗が存在しないようですね。
http://flagspot.net/flags/in_index.html

カルナータカのものですら、正式な州旗ではなく「事実上の州旗」のようです、確信はありませんが。

たとえばケララだと、一番目にするのは赤旗だったりします(笑)。
Periplo
2010/11/10 02:17
はい、確かにあの黄と赤のバイコロールは正式なカルナータカ州旗ではありません(カルナータカ州旗というものはないです)。ただ、11月1日(州立記念日)などにあれが辻々に翻っている様を見ると、浸透度、定着度はかなりのものであることがうかがえます。(ケーララでは州立記念日に何を掲げるんでしょうか?)

今のところ何とも言えませんが、カンナダ映画のほうが、あの旗を州旗としてシンボル化してしまった可能性はありますね。
 
カーヴェリ
2010/11/10 10:42

アンバさまの写真に釘付けでございます。

DVDリリースされたら是非とも
家長っぷりと見事な体躯でのパンチを拝見しとうございます。
今後はアンバ様の作品もチェックしなければ!
あいや〜
2010/11/11 11:16
あいや〜様
コメント、ありがとうございます。
ここに喰い付いてくるとは思いませんでした。
気合いの入ったオッサンですからね、心してかかってください。
 
カーヴェリ
2010/11/12 01:20

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