カーヴェリ川長治の南インド映画日記

アクセスカウンタ

zoom RSS 【Vaanam】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2011/05/07 02:14   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 1 / コメント 0

画像

 今回紹介するタミル映画の【Vaanam】は、テルグ映画の昨年のヒット作【Vedam】のリメイク。オリジナルと同じくクリシュ(Radhakrishna Jagarlamudi)監督がメガホンを取っている。
 【Vedam】は、南インドではまだ珍しいと言われるマルチスターを配した「グランドホテル方式」の映画で、たいそう話題となったが、タミル版【Vaanam】も同様に公開前から注目を集めていた(もっとも、マルチスターといっても、シンブ、バーラト止まりであるが)。5組のまったく関係のない登場人物たちが、たまたま大晦日に同じ病院に辿り着き、恐るべき事件に遭遇するというストーリーで、そのキーロールをシンブ(Silambarasan)、バーラト、アヌシュカ・シェッティ、プラカーシュ・ラージ、サランニャ・ポンワンナンが演じている。
 ところで、クリシュ監督のデビュー作【Gamyam】(08)は、やはり【Kadhalna Summa Illai】(09)としてタミル版リメイクが作られ、ヒットしたらしい。そんな次第で、タミル人がクリシュ監督の世界を理解するハードルはそう高くないと思われるが、果たして【Vaanam】も好成績を残せるか。
 (写真上:左よりアヌシュカ、シンブ、バーラト。)

【Vaanam】 (2011 : Tamil)
物語・脚本・監督 : Krish (Radhakrishna Jagarlamudi)
出演 : Silambarasan, Bharath, Anushka Shetty, Prakash Raj, Saranya Ponvannan, Jasmin Bhasin, Vega Tamotia, Sonia Agarwal, Santhanam, Ganesh Janardhanan, Jayaprakash, Ravi Prakash, Radha Ravi, Dhandapani
音楽 : Yuvan Shankar Raja
撮影 : Nirav Shah, Gnanasekaran
編集 : Anthoy
制作 : Ganesh Janardhanan, R. Ganesh

《あらすじ》
 バンガロールに暮らすバーラト(Bharath)は恋人のラーシヤ(Vega)ら5人でロックバンドを組んでいた。バーラトの母は彼に祖父や父と同様軍人になってもらいたいと願っていたが、彼はロックスターになる道を選ぶ。バーラトのバンドはニューイヤー・コンサートに出演するためチェンナイへ行くことになるが、飛行機に乗り遅れてしまったため、車で移動することにする。

画像

 ラクシュミ(Saranya Ponvannan)はトゥートゥクディの村で機織をしている貧しい寡婦。彼女の義父は借金を抱えていたが、返済できないため、金貸し屋は彼女の息子を取り上げ、塩田での強制労働に従事させる。大金を得る道は自分の腎臓を売るしかなかった。ラクシュミと義父はブローカーの指示で、チェンナイの病院へ行くことにする。
 スルルペートで売春婦をしているサロージャ(Anushka)は、ピンはねされる上、自由のない今の娼館を抜け出し、自分で売春ビジネスを始めようとしていた。彼女はブローカーと連絡を取り、ヒジュラのカルプーラムと共に夜中に娼館を脱出し、チェンナイ行きの列車に乗り込む。
 コインバトール在住のラヒーム(Prakash Raj)は正しい男であったが、イスラム教徒というだけで嫌がらせを受け、ヒンドゥー教の祭礼のときに受けた暴力で妻のザーラ(Sonia Agarwal)が流産するという悲劇も経験していた。ラヒームには行方知れずの弟がいたが、彼がチェンナイにいるとの情報を得る。ラヒームはチェンナイに出、弟探しを始める。しかし、その過程でテロリストと誤解され、警官(Ravi Prakash)に逮捕される。

画像

 チェンナイのスラムに暮らすラージャ(Silambarasan)は、しがないケーブルTVの技術者だった。彼はプリヤ(Jasmin Bhasin)という富豪の娘と付き合っていたが、スラム民であることを隠し、自分も富豪の息子だと偽っていた。だが、プリヤに高級ホテルでのニューイヤー・パーティーに参加するよう誘われ、会費の4万ルピーを準備しなければならなくなる。困ったラージャは、引ったくりをして現金を得ようとする。

画像

 チェンナイに到着したサロージャは、駅で怪しまれ、警察にしょっ引かれる。また、ラージャは、結婚パレードをしている新婦から金のネックレスを引ったくろうとし、逮捕される。サロージャとラージャは警察署で会い、言葉を交わす。二人はすぐに釈放される。

画像

 テロリストの嫌疑を受けたラヒームは、取調べを受けた後、車で搬送される際に逃げ出そうとする。だが、警官に足を撃たれ、病院に運ばれる。
 サロージャとカルプーラムはブローカーと会い、新しい売春宿へ行くが、しかしこのブローカーが以前の娼館のオーナーと通じており、元の木阿弥であることを悟る。ブローカーの運転する車に乗っていたサロージャは脱出しようと暴れるが、そのせいで車は他の車と激突しそうになり、事故を起こす。サロージャは怪我をしたカルプーラムを病院まで連れて行く。
 バーラトたちの車も、山あり谷ありしたものの、なんとかチェンナイに到着する。しかし、いきなり他の車(サロージャらの乗っていた車)と衝突しそうになり、事故を起こす。バーラトは、妊婦がこの事故に巻き込まれて怪我をしているのを発見し、ラーシヤと共に彼女を病院に運び込む。
 他方、紆余曲折の末、ラクシュミの腎臓摘出手術も終わり、義父はブローカーから現金を受け取る。その場面を目撃したラージャは、病院にいるこの老人からお金を奪い取る。しかし、高級ホテルの受付まで来た彼は、良心の呵責に苛まれ、プリヤに真実を告げ、老人にお金を返すために病院へと戻る。

画像

 こうして運命のいたずらで同じ病院に集まった5組の登場人物だが、この後思いがけない事件に巻き込まれることになる、、、。

   *    *    *    *

 オリジナルの【Vedam】を観たときもじんときたが、リメイク版の【Vaanam】も等しく感動した。リメイクといっても、クリシュ監督自身がストーリーを考え、脚本を書き、メガホンを取った作品を、もう一度言語と俳優を変えて撮ったものなので、オリジナルと言ってもよく、誰かのヒット映画を安易にコピーしただけのものとは訳が違う。しかも、クリシュ監督ならよもやぴったり同じものは作るまいと予想できたが(どんな人物か知らないのにこんな予想をするのもおかしいが)、やはり適宜変更が加えられており、改良版とも言える出来となっている。

 テーマとストーリー構成に変更はなく、全般的に同じなのだが、2点で大きく改変されていた。
 一つは、イスラム教徒のエピソードだが、リメイクではラヒーム(プラカーシュ・ラージ演じる)が行方不明の弟を探すという展開に変わっていた。これはクライマックスで大きく絡んで来、よりショック度を増すようになっている。
 もう一つは、クライマックスで死ぬのは、オリジナルでは2人だが、リメイクでは1人になっている。どうしてクリシュ監督が1人を生かしたのかは分からないが、もしかしたらオリジナルに対して「結末がネガティブすぎる」といった批判があったのかもしれない。どちらが良いかは鑑賞者によって異なると思うが、私はインド映画であるならあまり人は殺さないほうがいいと考えている。

 上に挙げた具体的な違いと同じくらい、作品全体から受ける印象も違っている。まったく、俳優がアッル・アルジュンからシンブに、マノージ・バージペーイーからプラカーシュ・ラージに変わるだけで、こんなに雰囲気が変わるとは! また、舞台がアーンドラ・プラデーシュ州(主にハイダラーバード)からタミル・ナードゥ州(主にチェンナイ)に変わるだけで、がさついた感じが増しており、これも面白かった。

 題名の「Vaanam」は「空」という意味らしい。どうしてこの映画が「空」なのか分かりにくいが、これに関連してクリシュ監督は面白いことを言っている。すなわち、この物語は古代インド哲学で言う五大元素(地・水・火・風・空)を中心に展開するもので、シンブが「空」、バーラトが「風」、プラカーシュ・ラージが「火」、アヌシュカが「水」、サランニャが「地」を象徴しているらしいのである(こちら参照)。「なるほど、そうか!」と言いたいところだが、実際のところ、この説明を聞いたところで、どうしてこの映画が「空」なのかはよく分からないのである。
 また、オリジナルの【Vedam】評の中で私は、「題名の『Vedam』は、リグ・ヴェーダなどの『ヴェーダ』のことなのだが、どういう意味で、また、どういう意図でこの言葉を使っているのかは分からない」と書いたが、上の説明から察するに、要するにクリシュ監督は、5人の登場人物(五大元素)が交錯する物語を通して、「ヴェーダ(知識)」によって構成される世界というものを描きたかったんだろうなぁ、という推測ができる。しかし、これとて凡人にはちっとも分からないし、アッル・アルジュンやシンブの親衛隊にしてみれば、「分からない」というよりも「関係ない」といった次元だろう。

◆ 演技者たち
 スラムに暮らすラージャ役のシンブは意外に上手く演じている。【Vinnaithaandi Varuvaayaa】(10)で評判を取り、周りからやんややんや言われて、「演技派俳優」になったと錯覚し、思い上がって名前を「STR」に変えるまでした勢いのままのパフォーマンスだった。
 シンブに絡むサンタナムとガネーシュがまた良く、タミル映画らしい活気のある場面を形作っている。

 ラージャの恋人プリヤ役はJasmin Bhasinというデリー出身のモデルさん。当初この役はスネーハ・ウッラールがやることになっており、スチルまで公開されていたのに、どうした理由でか彼女に代わっていた。オリジナルはディークシャ・セートがやっており、どっちもどっちだが、リメイクのJasmin Bhasinはセリフの言い方が気持ち悪かった。もっと良い声優はいなかったのか、と思ったが、どうやらこれはJasmin Bhasinのセルフダビングだったようだ。

 バーラト役のバーラトはまずまず。その恋人ラーシヤ役のヴェーガはまったく目立っていなかった。
 ラヒーム役のプラカーシュ・ラージは上手い。その妻ザーラ役はなんとソニア・アガルワールで、セルワラーガヴァン監督と離婚した後の銀幕復帰第1作となる。彼女は結婚後の太ったままの体形なのだが、妊婦という設定が幸いしたようだ。
 娼婦サロージャ役はオリジナルと同じアヌシュカ。まったくオリジナルとおなじ出来で、フォルムを使い回ししたのでは、と思ったほどだ。友人のヒジュラ、カルプーラムも同じ人が演じていた。
 ちなみに、娼婦サロージャがいた娼館の所在地は、オリジナルではAP州のアマラプラム、リメイクではスルルペート(Sulurpet)となっていた。このスルルペートもAP州の町だが、タミル・ナードゥ州との州境にあるらしい。
 サランニャ・ポンワンナンもオリジナルの再演で、上手いところを見せている。もう1人、差別的な警官を演じたラヴィ・プラカーシュもオリジナルと同じ。

◆ 音楽・撮影・その他
 音楽は、オリジナルのキーラワーニのものはイマイチだと感じたが、本作はユワン・シャンカル・ラージャが担当しており、かなり良い。‘Evan Di Unna Pethan’という曲(シンブ自身が歌っている)が現地で爆発的にヒットしているが、私は絵的にアヌシュカとシンブの並んだ‘No Money No Honey’のほうが好きだ。

◆ 結語
 クリシュ監督の気合いを感じるセルフ・リメイク作品。お勧めできる。

・満足度 : 4.0 / 5

《 勝手トレイラー 》
画像
バーラト「♪あの時〜、同じ花を見て、美しいと言った二人の、心〜とこぉころが〜、今はもう、、、♪ グスッ、、、帰って来いよぉ、シッダくん!」










 

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
なるほど(納得、参考になった、ヘー)
面白い

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
【Mankatha】 (Tamil)
 ウェンカット・プラブ監督、アジット主演のタミル映画。  ウェンカット・プラブは私の好きな監督で、ある意味尊敬さえしている。もっとも尊敬といっても、かつて(あくまでも「かつて」であるが)マニ・ラトナム監督に対して抱いていたような「畏敬」の念ではなく、私が長年心底観たいと思っていたタイプのアホなタミル映画を創出してくれたという点で、一目置いているという意味である。  ウェンカット・プラブ監督の作品は、私は以前にどこかで「スプーフ(パロディー)映画」だと書いたが、実はパロディーというよ... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2011/09/28 21:08

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
【Vaanam】 (Tamil) カーヴェリ川長治の南インド映画日記/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる