カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Azhagarsamiyin Kudhirai】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2011/05/21 02:46   >>

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 タミルのスシンディラン監督はデビュー以来【Vennila Kabaddi Kuzhu】(09)と【Naan Mahaan Alla】(10)をヒットさせ、注目の若手監督の一人となっている。【Vennila Kabaddi Kuzhu】はスポ根物と田舎リアリズム物をミックスしたような爽やかな作品だったが、【Naan Mahaan Alla】は大都市チェンナイの暗部を描いたスリラー物で、がらりと雰囲気を変えて来た。3作目の本作【Azhagarsamiyin Kudhirai】がどういう路線で来るか気に掛かるところだが、再び目線を田舎に向けたようだ。本ブログでもタミル映画界における田舎リアリズム映画の隆盛について何度も言及してきたが、このトレンドはまだ続きそうな気配である。
 題名の「Azhagarsamiyin Kudhirai」は「アラガルサーミの馬」という意味。アラガルサーミというのは、主人公の青年の名前であると同時に、タミルで信仰されている土着神の名前でもある。
 原作はバースカル・シャクティという人の書いた小説らしいが、この人は【Vennila Kabaddi Kuzhu】でも【Naan Mahaan Alla】でもライターとしてスシンディラン監督に協力している。

【Azhagarsamiyin Kudhirai】 (2011 : Tamil)
物語・台詞 : Bhaskar Sakthi
脚本・監督 : Suseenthiran
出演 : Appukutty, Saranya Mohan, Prabhakaran, Advaitha, Azhagan Tamizhmani, Soori, Aruldas, Devaraj
音楽 : Ilayaraja
撮影 : Theni Eashwar
編集 : Kasi Viswanathan
制作 : P. Madhan

《あらすじ》
 舞台はテーニ近郊のマッラヤプラム村、時は1982年。
 この村では年に1度、アラガルサーミ神を白い木馬に乗せ、村中を練り歩くという祭礼を行っていた。これをすると雨に恵まれると信じられていたからである。だが、有力者たちの派閥争いのせいで、しばらくこの祭りが行われていなかった。その間、村は旱魃に苦しみ、子供たちが出稼ぎに出なければならないほどだった。
 村長のペルマール(Azhagan Tamizhmani)は僧侶の提言を受け入れ、祭礼を執り行う決意をし、準備を進める。だが、祭りの前に、重要な木馬が忽然となくなってしまう。
 この事件で僧侶の権威が失墜し、新しい僧侶が担当となる。彼は3日以内に木馬が見つかると予言する。それはまったく口から出まかせの予言であったが、驚いたことに、本当に馬が、しかも木馬ではなく、生きた白馬が現れたのである。村人たちはこれをアラガルサーミ神の化身だと信じ、大喜びする。
 ところが、この村にアラガルサーミ(Appukutty)という名の男が近隣のアーガマライ村からやって来、その馬は自分が所有するものだから、返してくれ、と訴える。貧しいアラガルサーミは、この1頭の馬を頼りに、荷物運びをして生計を立てていた。また彼は、ラーニ(Saranya Mohan)という名の、自分とは不釣合いな可愛い女性との結婚も決まっていたが、その結婚の条件に馬も含まれていたのである。だが、その馬が行方知れずになったため、結婚も延期になっていた。
 アラガルサーミにとってかくも重要な馬であったが、これをアラガルサーミ神の化身だと考える村人は簡単に返そうとしない。すったもんだの末に、祭礼が終わったら馬を帰すという合意が交わされるが、ことはそう簡単には行かなかった、、、。

   *    *    *    *

 またまた一本取られてしまった。一本が褒めすぎだとしても、技ありぐらいのインパクトはある。

 スシンディラン監督は、豪快な作品を撮るタイプではないが、細やかな文学的タッチの映画を撮らせれば非常に上手い。本作はストーリー的には単純で、前半はけっこう退屈だったりするのだが、後半はかなり面白いと言える。もともと南タミルの田舎出身のスシンディラン監督のこと、こういう牧歌的情緒はお手の物なのだろう。結果的に、心地よい一服のお伽噺に仕上がっている。

 本作の成功ポイントは、物語の時代を1982年に設定したことだろう。
 都会ではどんな携帯電話のサービスがお得であるとか、どのカードを使ってどこのモールで買い物すればどれだけポイントが貯まるとかが市民の関心事になりつつある現在のインドから見れば、馬と神様と雨が関心事とは、なんと素晴らしいことだろう。ちょっと昔のちょっとした田舎ではこれが普通のことであり、インドとはこういう国だったのだ。これは確実に都市部に暮らす現代人に何かを思い出させてくれると思う。(もっとも、今でも農村部では雨が降る降らないは最大の関心事だと思うが。)

 近ごろ、南インド映画でも10〜30年前、または独立前後の近過去を描いた作品が目に付く。アメリカに追いつけ追い越せというスローガンがあったわけではないだろうけど、近代化を志向し、前を見続けていたインドとインド映画が、ちょっと一息入れて、後ろを振り返る、ということだろうか。反動とか後退というよりも、適当なペース調整だと見るべきだろう。

 タミルの田舎リアリズム映画には、田舎の後進性を風刺・批判するものと、田舎の素朴さ・健全さを再発見しようとするものがあり、スシンディラン監督はどちらかというと後者だと思われる。だが、一面的に田舎を肯定的に捉えているわけではなく、本作でも村人の盲信などが風刺の対象となっており、村長や僧侶などが滑稽な役回りを担わされていた。村長の息子がまったく神様を信じない人物として描かれているのも興味深い。現代の都会人から見れば、時間的地理的にやや距離感のある物語でも、こういう人物を導入することにより、現在との接点を意識させてくれるからである。

◆ 演技者たち
 主人公アラガルサーミを演じたアップクッティは、スチルを見て分かるとおり、驚きのヒーロー像だった。こういうチビ・デブ・色黒・もじゃもじゃ頭の男が主役を張れる(しかも娯楽映画で)というのがタミルという地の豊かなところだろう。
 演技云々というより、本作の主人公として120パーセントの嵌り方だった。この人の本職は俳優なのかどうかも分からないが、とにかく【Vennila Kabaddi Kuzhu】にも出ていたのは記憶している。
 (写真トップと下:Appukutty@アラガルサーミと愛馬のアップ。)

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 その婚約者ラーニを演じたのはサランニャ・モーハン。
 都会娘もできそうな彼女だが、なぜか田舎娘役が印象に残る。今回も短い出番ながら板に付いた素朴娘ぶりで、エレガントでさえあった。(下)

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 もう一つのエピソードとして、マッラヤプラム村の村長の息子と僧侶の娘のロマンス(異カースト間の恋愛)があったのだが、演じたのはプラバーカランとアドヴァイタというお二方。どちらも知らない人だった。
 (写真下:物語はこのお二方の我がままから始まったのだが。)

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 その他の脇役陣もまったく知らない人たちだったが、ドラマの中にはうまく溶け込んでいた。

◆ 音楽・撮影・その他
 音楽は巨匠イライヤラージャの担当。歌は3曲しかなかったようだが、これらがまた素晴らしい。
 オープニングで流れるのはショパンかと思われるほどの美しいピアノ曲だったが、劇中での音楽シーンの曲は十分田舎くさい。ハンガリーの楽団を擁したらしいBGMはリッチな音で、南タミルの田舎小噺物にはもったいないなぁ、とも感じられた。

 撮影、並びにカメラに捉えられた光景も文句なしに美しい。

 物語の舞台となった村は、テーニの近くの「Mallayapuram」という設定になっていたが、これが実在する村かどうかは分からない。一方、アラガルサーミの居住地である「Aagamalai」は、実際にペリヤクラム(Periyakulam)にある村のようだ。

◆ 結語
 やはりオフビートなタミル映画となり、人気スターも豪華なダンスシーンもないので、どこまで一般受けするかは分からない。しかし、私からはお勧め作としておく。映画祭などで流してもよさそうな作品だ。

・満足度 : 3.5 / 5
 

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