カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Veppam】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2011/08/03 21:07   >>

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 2年前にカンナダ映画の【Jhossh】でニティヤ・メーナンを見たときは鮮烈な印象を受けた。彼女はバンガロール在住であり、また私のお世話になっている方(インド人)の姪っ子ということもあって、「身近なアイドル」として応援したい気持ちが強かったが、当時、まだ駆け出しだった彼女がまさかここまでブレイクするとは思わなかった。南インド女優も世代交代が進み、トリシャ、アシン、ナヤンターラなどの名前が古めかしく感じるほどだが、新進女優の中でもニティヤは成功しているほうだろう。特に今年に入ってからは【Alaa.. Modalaindi】(Telugu)、【Urumi】(Malayalam)、【180】(Tamil/Telugu)、【Violin】(Malayalam)などの話題作の公開が相次ぎ、興行的には良かったり悪かったりだが、言語や役柄の多様さからすると、称揚すべき活躍をしていると言えるだろう。
 そんなニティヤの新作がこの【Veppam】。【Veppam】はタミル映画だが、テルグ語ダビング版【Sega】も作られ、同日に公開された。本作は話題作に挙げられていたが、話題のなり方がタミル圏とテルグ圏では違うようである。タミル圏ではガウタム・メーナン監督がプロデュースし、彼の弟子のアンジャナ・アリー・カーンが監督デビューするということが話題だった。しかし、テルグ圏ではヒット作【Alaa.. Modalaindi】のナーニとニティヤのペアの再現ということに関心が集まっていたようである。
 「Veppam」/「Sega」は共に「熱さ」という意味らしい。

【Veppam】 (2011 : Tamil)
物語・脚本・監督 : Anjana Ali Khan
出演 : Nani, Karthik Kumar, Nithya Menon, Bindu Madhavi, Muthukumar, Shimmore, Jennifer
音楽 : Joshua Sridhar
撮影 : Om Prakash
編集 : Anthony
制作 : Gautham Menon, Madhan Kumar, Jayaraman, Venkat

《あらすじ》
 チェンナイ北部のスラム街。飲んだくれのジョーティ(Shimmore)は病気の妻を蔑ろにし、そのため彼女は服毒自殺してしまう。ジョーティは2人の息子、バーラージとカールティクを残して家を出て行く。子供たちは隣家の看板屋のオヤジに育てられる。
 それから18年、カールティク(Nani)は工学を学ぶ大学生となっていた。彼の面倒は兄のバーラージ(Muthukumar)が見ていた。カールティクは看板屋のオヤジの娘レーヴァティ(Nithya Menon)と恋仲だった。彼にはまた同じスラムに暮らすヴィシュヌ(Karthik Kumar)という親友がいた。
 バーラージとカールティクの父ジョーティは今や売春宿の経営者となっていた。彼はまた麻薬密売組織の女ボス、アンマージー(Jennifer)の仕事も請け負っていた。ジョーティは自分のビジネスにカールティクも引き込もうとしていたが、バーラージがきっぱりとそれを許さなかった。ジョーティは日常的に金に困っていたヴィシュヌとその父に触手を伸ばす。
 ある日、ヴィシュヌはヴィジー(Bindu Madhavi)という女性と出会うが、彼女はたまたまジョーティの売春宿の娼婦だった。ヴィシュヌとヴィジーは恋仲となる。それを知ったジョーティはヴィシュヌを利用しようと企む。彼はヴィシュヌにアンマージーから請け負った麻薬運びの仕事をさせようとする。ヴィシュヌはヴィジーを売春宿から解放することを条件に引き受ける。ヴィシュヌはカールティクにもこの仕事を手伝ってくれるよう依頼する。カールティクは強く反対するが、結局、友情のために引き受ける。
 ヴィシュヌとカールティクは指示されたとおりにバイクでポンディシェリーへと向かう。だが、ジョーティの話を立ち聞きしたヴィジーは、ヴィシュヌがこの後殺される運命にあることを知り、ジョーティの手下を使ってヴィシュヌに知らせる。カールティクとヴィシュヌはチェンナイへと引き返し、ヴィシュヌの部屋に隠れる。
 バーラージはカールティクがジョーティに接近しているのを悟り、部屋に戻って来ない弟を夜通し待ち続ける。明け方に一本の電話がレーヴァティの携帯に入る。それはカールティクがヴィシュヌ殺害の容疑で逮捕されたという連絡だった、、、。

   *    *    *    *

 上のあらすじは前半までしか書かなかったが、この後、ヴィシュヌを殺したのは誰なのか、ヴィシュヌとカールティクの運ぼうとした麻薬はどこにあるのか、主要登場人物たちの命運はどうなるのかを中心に、けっこうヒネリのあるストーリー展開が用意されている。
 私はそれなりに楽しめたが、レビューの評価は賛否が分かれ、どちらかというと失敗作扱いされている。「期待に届かず」、「ストーリー、脚本が弱い」、「題名とは裏腹にちっとも熱くない」といった批判が目立つ。

 確かに、全般的な印象として、いかにも新人監督らしいと言うか、意欲が空回りした作品のように見えた。例えば、アンジャナ・アリー・カーンは女性でありながら、どうしてスラムの犯罪物という、こんな男っぽいテーマを選んだのだろう? 【Aaranya Kaandam】(11)評の中で触れたとおり、現在、タミル映画界では「チェンナイ北部のスラム」を舞台にした作品がちょっとしたトレンドとなっている。そうした流れがあるにせよ、アンジャナ監督がわざわざチェンナイの恥部にカメラを持ち込んだ意図が分からない。映画を作るのに男も女もないとはいえ、殺伐とした非情の世界に女ながら切り込もうとした強い「動機」があると思うのだが、それが作品上にうまく表現できていないように見えた。

 脚本の不備という点では、各登場人物の造形と関係の描き込みが浅い。
 例えば、ヴィシュヌ(Karthik Kumar)と娼婦ヴィジー(Bindu Madhavi)のロマンスは、しっかり描いておかないと後の悲劇性が生まれてこないのに、歌一発で処理してしまった感じだ。カールティク(Nani)とレーヴァティ(Nithya)は恋人同士という設定だったが、これが最後まで膨らまされることなく、何事もなく終わっている。麻薬密売屋の女ボス、アンマージー(Jennifer)はまったく迫力がなく、悪役としては役不足で、これも本作の足を引っ張っている。最も理解しがたかったのは、バーラージとカールティクの兄弟と父ジョーティの関係で、兄弟にとってジョーティは母の敵であり、憎みても余りある相手であるはずなのに、近所に住んでいて、しばしば交流もあるというのは不自然だった。(そもそも、本作の主人公が誰なのかもよく分からなかった。)

 とはいっても、本作は腹が立つほど出来が悪いわけではなく、単純なストーリーでありながら、回想シーンの入れ方を工夫して、観客の関心を最後まで引き付けた点は評価できる。特に、映画全体をレーヴァティが海にずぶずぶと入る謎めいたシーンから始めたのはアイデアだったと思う。
 また、スラムに暮らす5人の若者(バーラージ、カールティク、レーヴァティ、ヴィシュヌ、ヴィジー)の兄弟愛や友情、愛情なども端正に描かれていて、嫌味がなく好感の持てる作品になっていたと思う。

◆ 演技者たち
 私の目には、どの登場人物も輝いて見えなかったのであるが、多くのレビューではまずまずの評価が与えられている。
 まず男から行くと、ヴィシュヌ役のカールティク・クマールは途中で殺される役なので、この程度のプレゼンスでよかったと思うが、ナーニにはもっと活躍の機会を与えるべきだったと思う。むしろ、脇役であるバーラージ役のムトゥクマールのほうが印象度が高く、やはり登場人物設定のバランスの悪さを感じた。
 (写真トップ:左よりカールティク役のNani、ヴィシュヌ役のKarthik Kumar、レーヴァティ役のNithya Menon。)

 レーヴァティ役のニティヤは、すっかり評判となった表情豊かな演技は今回も活きている。ただ、貧民街の娘という設定なら、今のタミル映画のスタンダードからして、もっと汚しをかけるべきだったと思う。そのほうがニティヤの目がもっとギラギラ輝いたはずだ。
 実は、本作のクランク・インはずいぶん前のことであり、撮影はおそらく【180】より早い時期に行われたものと思われる。【180】では体が弛んで見えたニティヤだが、幸い本作ではそうでもなかった。
 (写真下:スラムの娘という役柄にもう一工夫ほしかったNithya。Naniと。)

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 ビンドゥ・マーダヴィは娼婦の役ということで、公開前から話題となっていた。蓋を開けてみると、悪くはないが、特に衝撃性もなかった。
 彼女はなぜか最近では珍しいAP州生え抜きのテルグ女優ということで、私的には応援したいと思っている。【Avakai Biryani】(08)や【Bumper Offer】(09)での活発な娘役が印象的だ。
 (写真下:えくぼが特徴的なBindu Madhavi。Karthik Kumarと。)

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◆ 音楽・撮影・その他
 音楽はジョーシュア・シュリーダルの担当。曲自体は良く、音楽シーンもまずまずの出来だと思った。しかし、挿入のタイミングが悪く、唐突で、せっかく良い音楽シーンを準備しても、効果は上がっていなかった。
 私は、音楽シーンが唐突に入るのはダメで、ストーリーの流れの中で必然的に入れられるべきだ、という意見には与しておらず、「必然的」かどうかより、全体の中で「効果的」かどうかが問われるべきだと思っている。そういった観点から、本作には拙いものを感じた。

 オーム・プラカーシュの撮影は良かったが、アップをもっと多様して、ショットにメリハリをつけてほしかった。
 ロケ地は主にチェンナイで、音楽シーンにマーマッラプラムとコダイカーナルが使われている。

 本作の製作費は約2,500万ルピーと、かなり安く上げている。しかもこれは公開を待たずに配給権とテレビ放映権ですでに回収されているらしい。

◆ 結語
 【Veppam】は迫力を欠くスラム犯罪物。上映時間も2時間を切る小品ということで、話題の1作ではあったが、新人アンジャナ・アリー・カーン監督の習作ということにしておこう。彼女にはこれにめげずに頑張ってほしい。

・満足度 : 2.5 / 5
 

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コメント(11件)

内 容 ニックネーム/日時
>私は、音楽シーンが唐突に入るのはダメで、ストーリーの流れの中で必然的に入れられるべきだ、という意見には与しておらず、「必然的」かどうかより、全体の中で「効果的」かどうかが問われるべきだと思っている。

この点、全く我が意を得たり、でございます。「突然踊りだす/歌いだす」と言って馬鹿にして笑ってる人たちと、「最近は自然な感じになってるんだ」と言って躍起になって反論してる人たちのやり取りは相変わらず絶えることがないようですが、どっちも同じ穴の狢って感じ笑。
Periplo
2011/08/03 23:00
おお、こんな隅っこのほうまで読んでくださってたんですね。ありがとうございます。

「必然」とか「論理」のくびきの中になんでイマジネーションが閉じ込められなければならないのか?ってことですよね。
日本人鑑賞者はもうどうでもいいような気がしていますが、本家インド人鑑賞者(批評家)でさえ見失っている人が増えてきて、あちゃ〜、です。
 
カーヴェリ
2011/08/04 20:56
>新人アンジャナ・アリー・カーン監督の習作ということにしておこう。

ご本人を見るともう少し点数が甘くなるかも知れませんよ。女優にしても通用しそうな美人ですから。しかし女流監督というだけでも珍しいのに、ムスリム女性というのは(少なくともサウスでは)前例ないのではありますまいか。

>本家インド人鑑賞者(批評家)でさえ見失っている人が増えてきて

ニティヤ自身もソングは必然性ないから嫌いだと言ってましたね。本人は結構踊り巧いのに。
メタ坊
2011/08/06 16:34
>ご本人を見るともう少し点数が甘くなるかも知れませんよ。女優にしても通用しそうな美人ですから。

はい、ビデオで見て、可愛らしいというのは知っていました。それで、けっこう採点を甘くしたつもりなんですが、、、。

>ニティヤ自身もソングは必然性ないから嫌いだと言ってましたね。

ああ、そう言や、そんなこと言っていましたね。
この映画ではニティヤのダンスらしいダンスはありませんでしたが、きれいに撮ってもらっていましたよ。
 
カーヴェリ
2011/08/08 01:43
こんにちは
日本からこのページを拝読しています。日本人です。
実は私、この映画に出ました。(エキストラですが)
ポンディシェリーをうろうろしていたら、呼び止められたのです。
日本で見る方法があればよいのですが。
m
2012/11/14 13:06
横入りですがこの映画、DVDが通販で入手可能ですよ。字幕なしですが。

http://www.myindiashopping.com/movie.php?lang=T&mov=13982
メタ坊
2012/11/20 14:48
mさん

すみません、コメント、ほったらかしにしていました。(実は忘れていた。)
さすがに日本人が映っているかどうかまで目が行きませんでしたが、せっかくなので、登場しているといいですね。

「うろうろ」なら、私も大概インドのあちこちでうろうろしていますが、映画に出ませんか、なんて言われたことないです。
うらやましいです。
 
カーヴェリ
2012/11/21 01:33
メタ坊様
ありがとうございます。見てみます。字幕なしでも問題ないです!

カーヴェリ様
ありがとうございます。実は登場しているようです。
帰国後、仕事で出張してきたインド人に「見たわよ」と言われ、その際の服装などを当てられましたので、恐らく出ているのではと。。。ちょっとだけですが、せっかくの機会でしたのでDVD購入できたらと思います。
Karthikはインド的基準では非常にハンサムな方でした!
m
2012/11/21 19:59
よかったですねぇ。
私、これのDVDはまだ持っていないので、パイレーツであろうが字幕なしであろうが、1枚手に入れて、見てみますね。
カーヴェリ
2012/11/23 17:19
カーヴェリ様

ずいぶん前にこの件について書き込みさせて頂きました。
Veppamに出ていた者です。
あれから無事にDVDを購入できました。
昨年末も、インドに1か月ほど滞在する機会がありました。この件で味を占めたのでどこかで撮影やっていないかなとうろうろしましたが、今度は不発でした(笑)
m
2015/01/08 17:29
お久しぶりです。
そして、おめでとうございます。
私、まだVeppamのDVDは手に入れていないのですが、どうです?登場していましたか?
何分目あたりに出ていたかお知らせください。
DVD購入後に確認してみます。
 
カーヴェリ
2015/01/09 20:30

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