カーヴェリ川長治の南インド映画日記

アクセスカウンタ

zoom RSS 【Engaeyum Eppothum】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2011/09/30 21:17   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 8 / コメント 0

 訳あってしばらくインド映画が観られない状況だった。9月はこれが3本目と、不本意な月であったが、やっと通常の状態に戻りつつあるので、再び馬力を上げて鑑賞していきたい。
 その間、南インド映画にそれほどの話題作・必見作がなかったのが幸いだが、それでもカンナダ映画、マラヤーラム映画に観ておきたい作品はあった。もしまだ観ることができるものがあれば、鑑賞して本ブログで紹介したいと思う。

画像

 さて、今回紹介するタミル映画【Engaeyum Eppothum】の話題と言えば、【Ghajini】(05)でお馴染みの映画監督A・R・ムルガダースがプロデュースしているということだろう(初のプロデュースらしい)。「Fox Star Studios」というプロダクションとの共同制作ということになるが、この会社はアメリカの「20世紀フォックス(20th Century Fox)」と「STAR (Satellite Television Asia Region)」の合弁企業で、インド映画はこれまで【My Name Is Khan】(10)や【Stanley Ka Dabba】(11)、【Dum Maaro Dum】(11)などのボリウッド映画を送り出してきたが、南インド映画界には初進出となるようだ。
 まぁ、そんなことは私にとってどうでもよく、私が本作を楽しみにしていた理由は、あんまり売れていないけれどお気に入りの女優2人、つまり、アンジャリとアナンニャが出演しており、男優でも、これまたあんまり売れていないけれどちょっと応援したい2人、つまり、ジャイとシャルワーナンドが出演しているということだ。
 監督はM・サラヴァナンという人で、新人らしい。
 題名の「Engaeyum Eppothum」は「どこでも、いつでも」という意味。
 (写真トップ:ジャイくんとアンジャリちゃん。)

【Engaeyum Eppothum】 (2011 : Tamil)
物語・脚本・台詞・監督 : M. Saravanan
出演 : Jai, Anjali, Sharvanand, Ananya, その他
音楽 : C. Sathya
撮影 : R. Velraj
編集 : Kishore Te.
制作 : A.R. Murugadoss, Fox Star Studios

《あらすじ》
 チェンナイとトリチーを結ぶ国道45号線上のヴィルプラムという町付近で、反対方向から来た2台のハイウェイバスが衝突事故を起こす。これらのバスの乗客にはガウタム(Sharvanand)とアムダ(Ananya)、カディレーサン(Jai)とマニメガライ(Anjali)もいた。(以下、回想)
 ・・・
 大学の工学部を卒業したアムダは、就職試験を受けるため、故郷のトリチーからチェンナイへと出て来る。しかし、案内してくれるはずの従姉が急用で迎えに来られなかったため、アムダはチェンナイのバススタンドで途方に暮れる。彼女はたまたま居合わせた青年(ガウタム)に助けを請う。ガウタムにとってはとんだ厄介事だったが、彼はこの田舎娘を目的の会社まで連れて行き、さらに従姉の家まで送り届ける。
 アムダは当初この都会男に強い警戒心を抱いていたが、次第に打ち解け、別れ際に「トリチーのアムダ」だと告げる。
 ・・・
 トリチーに暮らす機械工のカディレーサンは、近所に住む看護婦のマニメガライに惚れていたが、告白などできず、遠めに眺めるだけだった。ところがある日、マニメガライがカディレーサンの部屋にやって来、そこから二人の交流が始まる。実はマニメガライもカディレーサンに惚れていたが、勝気な彼女は彼に様々な「恋人試験」を課す。カディレーサンにとっては踏んだり蹴ったりの経験であったが、最終的にマニメガライはカディレーサンに素っ気なく「I love you」と告げる。
 ・・・
 アムダは一旦トリチーに戻るが、例の青年(ガウタム)のことを強く愛していることに気付き、再びチェンナイまで彼を探しに行く。しかし、名前さえ分からなかったため、再会することはできなかった。やむを得ずアムダはトリチー行きのハイウェイバスに乗り込む。
 皮肉なことに、ガウタムもアムダのことが気にかかっており、入れ違いでトリチーまで彼女を探しに来ていた。だが、彼女の所在がつかめなかったため、やむを得ずチェンナイ行きのハイウェイバスに乗り込む。
 一方、カディレーサンとマニメガライも、故郷にいるカディレーサンの母に結婚の承諾を得るため、チェンナイ方面行きのハイウェイバス(ガウタムと同じバス)に乗り込む、、、。

   *    *    *    *

 最近のタミル映画は変化球を投げてくると考えてほぼ間違いないので、こちらも身構えて鑑賞するわけだが、それでもまさか冒頭シーンでバスが衝突するとは思わなかった。
 風変わりな構成を持つ、評価の難しい作品と言えるが、しかし面白い。

 2組の男女(カディレーサン&マニメガライ、ガウタム&アムダ)のエピソードが中心で、カディレーサンとマニメガライとガウタムを乗せたトリチー発チェンナイ行きのバスと、アムダを乗せたチェンナイ発トリチー行きのバスが同日のほぼ同時刻に出発し、中間地点のヴィルプラムで衝突するというだけの、実に単純なプロットだ。
 実は、この4人の他に、何人かのバスの乗客のエピソードも印象深く描かれており、物語は多元的な視点で語られている。そして、彼らの幸福などが一瞬にして無に帰してしまう事故が起きるわけだが、その事故の様子と続く場面の描写が非常にインパクトの強いものなので、ちょっとしたパニック映画とも思えた。
 それにしても、中心の2組のロマンスがあまりにも突出しており、また面白く描かれているので、やっぱり恋愛映画には違いないのである。それで、一本の作品として見た場合、どっち?と、統一感のないものを感じるが、しかし全体として面白く鑑賞できるので、ユニークなテイストを持つ佳作だと評価してもいいだろう。

 おそらく、観客(私も含めて)が本作に最も惹かれる部分は2組のロマンス展開だろう。
 トリチーから出て来た保守的な田舎娘アムダとチェンナイの今どきのソフトウェア技術者ガウタム、朴訥な機械工カディレーサンと勝気で言いたいことをずけずけ言う看護婦マニメガライ、この別個の2組のエピソードが実に自然に、繊細に、ユーモアたっぷりに描かれているのである。「自然」といっても、日常茶飯のありふれたものではなく、どこか奇妙なケースなのだが、かといって現実離れしたものではなく、微妙な線で動く面白い脚本だった。

 加えて、パニック映画的要素では、このバス事故の様子とその原因の描写を見れば、やはりインドの道路インフラの不備と交通(運転)マナーの悪さを思わずにはいられない。それがそのまま本作のメッセージとも取れるが、監督も今さら「インドの道路交通事情は地獄に等しい」などと言うつもりはないだろう。しかし、CGを使った事故の瞬間の映像はあまりにもリアルなので、ハンドルを握る者がこれを見たなら、多少なりとも心を入れ替えてくれるかもしれない。それは楽観的すぎる希望だろうけれど、本作は視聴覚芸術の映画として、できる限りの努力はしていると思った。

◆ 演技者たち
 本作はけっこう登場人物が多いのだが、メインの4人以外は知らない俳優ばかりだった。その知らない俳優たちも印象的だったが、なんといってもジャイ(カディレーサン役)、アンジャリ(マニメガライ役)、シャルワーナンド(ガウタム役)、アナンニャ(アムダ役)が良かった。4役の人物造形がそれぞれの俳優のイメージに合っており、特に演技をしなくてもいいのではと思えるほどだった。

 まずジャイからいくと、田舎の素朴な工場労働者は嵌まり役。コーヒーショップ「Barista」でのとんちんかんは笑えた。
 【Chennai 600028】(07)と【Subramaniyapuram】(08)のヒットでブレイクするはずだったが、その後ヒーロー路線を歩もうとして失敗した彼は、やはり本作のような等身大の庶民の若者がよく似合う。本作のヒットで多少なりとも自分の特性をつかんだのではないだろうか。

 アンジャリはやはり良い。まともに彼女を見たのは【Kattradhu Thamizh】(07)と【Angaadi Theru】(10)ぐらいだが(前回紹介した【Mankatha】はほとんどカメオ出演)、映画中の彼女には胸を打つものを感じる。本作でもラストで見せた泣きの演技にはこちらも泣けた。
 (写真下:お人よしのジャイと口撃的なアンジャリ。二人の関係はさしずめ「宮川大助・花子」か。)

画像

 シャルワーナンドは非常に男前だったと言っておこう。相変わらず黒マジックで描いたような眉毛が本作のガウタムの真っ直ぐな性格とよくマッチしていた。
 彼の作品もまともに見たのはテルグ映画の【Gamyam】(08)と【Prasthanam】(10)ぐらいだが、こうしたオフビートな作品にはなかなか重宝する顔だ。

 アナンニャは、マラヤーラム映画【Seniors】(11)の学園アイドル役を見て「だめだ、こりゃ〜」と思ったが、本作では光っている。やっぱり彼女はこのような田舎娘役が良い。はて、現在のタミル・ナードゥ州トリチーにここまでのおぼこ娘がいるかどうかは疑問だが、「都会 vs 田舎」という南インド映画の一大テーマがよく浮かび上がっていたと思う。もっと色黒で肌がてかてかと光り、鼻の下にうっすら髭が生えていたなら、完璧な南タミル田舎娘になったのだけれど。
 あんまりアナンニャの映画も観ていないので断言できないが、彼女にとっては【Naadodigal】(09)に匹敵する代表作になるんじゃないだろうか。
 (写真下:アナンニャさんとシャルワーナンド氏。)

画像

 この4人はいずれもセルフダビングしているらしい。ジャイはタミル人なので問題ないとして、シャルワーナンドとアンジャリはテルグ人、アナンニャはケーララ人なのに、訛りとかは大丈夫だったのだろうか?
 近ごろ南インド映画界でもセルフダビングが増えている(むしろ「復活」と言うべきか)というのは注目すべき現象かもしれない。

◆ 音楽・撮影・その他
 音楽とBGMを担当したのはサティヤという人で、サラヴァナン監督と同様、この人もデビューのようだ。しかし、けっこう良い音楽を提供している。本作のプラスポイントだ。

 撮影はヴェールラージという人で、しょっちゅう見かける名前ではないが、おそらくタミル映画【Aadukalam】(11)やカンナダ映画【Savari】(09)を担当した人と同一人物だと思われる。チェンナイよりもトリチーのシーンのほうが味わい深く撮れていたと思う。
 全般的にナチュラルな映像だが、上で触れたとおり、衝突事故の瞬間を描いたグラフィックス映像はワンポイントで効いている。本作の見どころだ。

◆ 結語
 【Engaeyum Eppothum】は一風変わったコンセプト映画の佳作。内容的に邦人インド映画ファンにとって必見作というわけではないが、観たら観たで面白く鑑賞できると思う。映画館で観たいのはもちろんだが、台詞の勝った作品なので、字幕付きDVD等を待ってもいいかもしれない。

・満足度 : 3.5 / 5
 

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(8件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
【Vathikuchi】 (Tamil)
 コリウッドのヒットメーカー、A・R・ムルガダース監督は「Fox Star Studios」と共同で【Engaeyum Eppothum】(11)をプロデュースし、ヒットさせた。その同じ制作グループによる第2弾が本作【Vathikuchi】。  監督はP・キンスリンという人。【Engaeyum Eppothum】と同様、やはり新人監督の起用となったが、どうやらこの人はムルガダースの弟子らしい。  さらに、主役のディリーバンという人も新人だが、この人はムルガダースの弟らしい。  ム... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2013/04/03 10:16
【Theeya Velai Seiyyanum Kumaru】 (Tamil)
 現在、スーリ監督、シヴァラージクマール主演のカンナダ映画【Kaddipudi】が上映されており、これはシヴァンナの久々のヒット作となったので、早く観たくてうずうずしているのだが、その前にタミルの話題作【Theeya Velai Seiyyanum Kumaru】が公開されたので、先にこちらを観て来た。 ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2013/06/20 23:32
【Raja Rani】 (Tamil)
 以前にもどこかで、こうやって毎週のように南インド映画を鑑賞していても、私個人の鑑賞本数には限りがあり、細かな状況把握などはできない、というようなことを書いたが、特にタミルとマラヤーラムは鑑賞作品を選ぶのさえ苦労するほど分かりづらい状況となっている(テルグもそうだが、テルグの場合、マイナーな作品群が人気スター/監督の大作の陰に隠れて、「分かりづらい」というより、そもそも「見えない」)。例えばタミルでは、9月6日に【Varuthapadatha Valibar Sangam】という作品が公開... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2013/10/09 02:06
【Vadacurry】 (Tamil)
 タミルのウェンカト・プラブ監督といえば、まだまだ若手だと思っていたら、いつの間にやら師匠格になっていたらしく、この度弟子の一人(サラヴァナ・ラージャンという人)が監督デビューすることになった。それが本作【Vadacurry】で、私的には必見作に数えていなかったが、スワーティも出ているし、元「ポルノ女優」のサニー・レオーネもアイテム出演するということなので、観て来た。 ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2014/07/03 20:38
【Run Rajaa Run】 (Telugu)
 前回紹介した【Jigarthanda】のカールティク・スッバラージ監督も短編映画作家として出発し、商業映画界入りした人だが、【Kadhalil Sodhappuvadhu Yeppadi】(12)と【Samsaaram Aarogyathinu Haanikaram】(14)のバーラージ・モーハン監督も同じような経歴を歩んでいる。このお二方の作品は興行的にも成功しているし、一味違った作風が南インド映画界に新風を呼び込んでもいる。 ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2014/08/07 21:04
【Geethanjali】 (Telugu)
 本作を紹介したい理由は、これがはっきり「Horror Comedy」と謳っていること。  気のせいか、近ごろ南インド映画絡みで「ホラー・コメディー」または「コメディー・ホラー」という言葉が目に付き、1ジャンルとして確立されそうな気配である。そもそもインドのホラー映画というのは伝統的に怖くなく、お笑いの要素の混じる独特なものだったが、マラヤーラム映画【Manichitrathazhu】(93)の一連のリメイク作品(カンナダの【Apthamitra】やタミルの【Chandramukhi... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2014/08/28 00:54
【Massu Engira Masilamani】 (Tamil)
 デビュー作の【Chennai 600028】(07)から【Saroja】(08)、【Goa】(10)までは「わ゙か者」映画の作り手として冴えを見せていたウェンカト・プラブ監督だが、スターを起用した【Mankatha】(11)と【Biriyani】(13)は、つまらないというわけではなかったが、どこか締まりのない作品になってしまい、軽い失望を味わった。彼の6作目となる本作は、またも人気スター(スーリヤ)が起用されているということで、嫌な予感がしなくもない。ただ、コミック・ホラーという謳... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2015/06/04 21:21
【Chakravyuha】 (Kannada)
 日本ではファンの皆さまがスーリヤ主演のタミル映画【24】で盛り上がっているときに、私はとりあえずそれは次週以降に回すことにし、プニート主演のカンナダ映画【Chakravyuha】を片付けることにした。  本作の話題は、タミル映画界から【Engaeyum Eppothum】(11)でお馴染みのM・サラヴァナンを監督として迎えていることで、音楽監督もS・S・タマンが就いている。つまり、非カンナダ系のスタッフによるものだが、何てことはない、本作はサラヴァナン監督自身の【Ivan Vera... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2016/05/11 21:11

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
【Engaeyum Eppothum】 (Tamil) カーヴェリ川長治の南インド映画日記/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる