カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Aarakshaka】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2012/02/03 01:40   >>

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 P・ヴァース監督とウペンドラが【Aarakshaka】という映画を撮っているという情報は得ていたが、それがこんなに早く公開になるとは思ってもみなかった。実は、この日はシャンカル監督のタミル映画【Nanban】を観るつもりだったが、満席でチケットが取れず、代わりに、わずかに空席のあったこの【Aarakshaka】を鑑賞することにした。
 P・ヴァース監督はカンナダ映画では【Aaptha Mitra】(04)と【Aaptha Rakshaka】(10)を連続ヒットさせている。知ってのとおり、【Aaptha Rakshaka】は【Aaptha Mitra】の続編だが、本作も題名が「Aarakshaka」と似たものなので、「もしやパート3?」とも期待したが、そうではなかった。ちなみに、「Aarakshaka」は「警察官」という意味で、ウペンドラが初めて警官の役に挑むという前情報だった。(参考に、ウッピは【Shhh!】(93)でちらっと警官姿を披露している。)

【Aarakshaka】 (2012 : Kannada)
物語・脚本・台詞・監督 : P. Vasu
出演 : Upendra, Ragini, Sada, Sayaji Shinde, Rajesh, Adhi Lokesh, Seetha, Vijayakashi, Sharan
音楽 : Guru Kiran
撮影 : P.K.H. Doss
編集 : Suresh Urs
制作 : Krishna Prajwal

《あらすじ》
 カルナータカ州沿岸部の人里離れた場所に精神障害者収容施設があった。この施設に警官のアルン・クマール(Upendra)が捜査のためにやって来る。彼はある殺人事件を追っていたが、その目撃者がこの施設に入院しているという情報をキャッチしたからである。彼はまた、この殺人事件の犯人はおそらくスティーフン・ラージという男だろうということも掴んでいた。
 アルン・クマールは施設の所長(Sayaji Shinde)に目撃者とされる男との面談を要求するが、病状を理由に拒否される。その代わりに所長は、アルン・クマールが施設に滞在することを許可し、サポート役として女医のマーヤー(Ragini)を付ける。アルン・クマールは、所長をはじめとする施設のスタッフの不自然な態度から、彼らが容疑者のスティーフン・ラージを何らかの理由で隠匿しているのではないかとの疑念を抱く。
 アルン・クマールがスティーフン・ラージを追うのには別の理由もあった。アルン・クマールには妻のキャサリンがいたが、行方不明になっていた。その事件にスティーフン・ラージが関与していると思われたからである。アルン・クマールはマーヤーに自分の過去を話す。
 ・・・
 アルン・クマールには両親と兄のヴィシュヌがいたが、まだ子供のときに、疑い深い母(Seetha)は夫の浮気を疑い、アルン・クマールを連れて家出してしまう。以来、アルン・クマールは母と、ヴィシュヌは父と、それぞれ別々に暮らすことになる。
 長じて、アルン・クマールは警官になることを志す。ある時、彼は教会でキャサリン(Sada)という女性と出会い、結婚する。キャサリンは、かつて警官がテロリストに射殺される事件を目撃した恐怖心から、アルン・クマールが警官になるのを望まなかった。それで、アルン・クマールは警官にならず、警備会社を立ち上げる。
 アルン・クマールとその母は、キャサリンがスティーフン・ラージという男と電話で話したり、自宅の庭で会ったりしているのに気付き、二人の関係を疑う。そうこうしているうちに、キャサリンの行方が分からなくなってしまう、、、。
 ・・・
 アルン・クマールはこの施設で自分とそっくりの患者に出くわす。そして、それが兄のヴィシュヌだと見当付ける。彼は所長にその患者の身元を問い合わせるが、コンピュータ内の患者カルテには具体的なデータが一切なかった。
 捜査が一向に捗らないことに苛立つアルン・クマールは、深夜、立ち入り禁止とされていた病棟に忍び込む。そして、33番房に患者がいないことを知り、ここにスティーフン・ラージがいたはずだと推測する。翌日、再びその病棟を訪れたアルン・クマールは、今度は33番房に例の自分とそっくりの患者がいるのを目撃し、所長を問い詰める。しかし、所長はあくまでも33番房は空き部屋だと主張する。
 アルン・クマールは、やはり深夜に離れの診察棟を捜索する。そして、そこでマーヤーが首吊りしているのを発見し、驚愕する。さらにその傍らに死体を解剖しているスティーフン・ラージを見出す。彼はスティーフン・ラージを追うが、逃げられてしまう。
 アルン・クマールは所長に会い、マーヤーとスティーフン・ラージの件を訴える。だが、死んだはずのマーヤーはぴんぴんしており、スティーフン・ラージと思われた男も実は検死官であった。狐につままれるアルン・クマールの前に、一人の男が現れる、、、。

   *    *    *    *

 スティーフン・ラージとは何者なのか、キャサリンはどこにいるのか、アルン・クマールは真相を知ることができるのか、彼の前に現れた男とは誰なのか? 答えは本編を観てお楽しみいただきたい!

 急に観ることになったので、ほぼ何の予備知識もなしに観たのだが、かなりインパクトの強い映画で、ぎょっとした。上に載せた写真が本作のポスターだが、この写真から受ける印象と本編の内容はほぼ一致している。看板に偽りなしだ。(ただし、ポスターには‘Psychological Thriller’と‘His Blood is Green’の2つのタグラインが書いてあったが、前者はいいとして、後者は???。)
 内容としては、南インド映画でも時おり現れるサイコ・スリラーなのだが、ホラーの要素も強く加味されている。海辺に隔絶された精神障害者施設のイメージが不気味で、悪夢を見ているかのようだった。

 P・ヴァース監督の作品だが、「P・ヴァースらしからぬ点」と「P・ヴァースらしい点」がミックスする仕上がりだった。
 P・ヴァース監督らしからぬ点というのは、本作はストーリー全体がヒネリに満ちたトリッキーなもので、それを細かく回想シーンを挿入しながら見せるという複雑な構成なのだが、いつも大雑把な映画を作っているヴァース監督がよくぞここまで手の込んだことをやったもんだ、、、と感心していたら、後で本作はハリウッド映画【Shutter Island】(10:マーティン・スコセッシ監督)の翻案だということが分かった。な〜んだ。
 しかし、ここからがP・ヴァース監督らしい点になるのだが、その元ネタをハリウッド映画だとは分からなくなるぐらいに野暮ったい音楽シーンと陳腐なコメディーでデコレートし、麗しきマサラ・スリラーに仕立てている点はさすがだと思った。(それにしても、インド人はどうしてこうも異質・別種なものを何気にくっ付けるのが上手いんだろう?)

 こういうホラー・サスペンス物にメッセージ云々というのも野暮な話だが、一応カンナダ映画らしく教訓めいたものが込められていたので、触れておくと、、、ホラーというのは人間のネガティブな感情の表出だと思われるが、本作でテーマとなった否定的感情は「疑い」ということだった。物語はすべてアルン・クマールの母の「疑い」から始まっている。夫の浮気を疑い、別居することになった母の挙動がアルン・クマールの人格形成に深い影を落とし、後に思わぬ悲劇を生む原因となっている。インド映画では、カンナダ映画を例にとってみても、【Eradane Maduve】(10)のようなコメディーでも、【I Am Sorry】(11)のようなロマンスでも、本作のようなサイコ・スリラーでも、「夫婦間の信頼」は大きなモチーフとなり得るようだ。

◆ 演技者たち
 本作のウペンドラは、人物としては一人二役になるのだが、キャラクターとしてはありがちなインドの若者、警官、精神障害者、プラスαと、かなり忙しい演技を見せている。

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 初期のウペンドラ主演作品に馴染んでいる人には懐かしくなるような攻撃的なウッピが楽しめる。P・ヴァース監督はまったくウペンドラを当て込み、彼を生かせるような脚本にしている。それがあまりにツボにはまっているので、製作の各段階でウッピの意見も反映されたのではと思ったが、ウペンドラ自身はそれを否定し、本作は完全にヴァース監督の映画だと証言している(こちら)。

 ヒロインは2人。まずサダーのほうは、出番は限られていたが、クリスチャンの女性をなかなか爽やかに演じていた。(写真下・左)
 マーヤー役のラーギニさんは、殺伐とした精神病院になんでこんな肌を露出した女精神科医がいるのかミステリーだったが、まぁ、これもP・ヴァース監督の豊かなセンスの表れだと考えておこう。彼女は実は美人なのだが、あまり美人に見えなかった。もっとメイクを工夫すべきだろう。(写真下・右)

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 配役で効いていたのは、所長役のサヤージ・シンディだった。

◆ 音楽・撮影・その他
 音楽はグル・キランの担当。なんでも彼の75作目になるらしい。しかし、「どうした、グル兄!」と叫びたくなるような酷い出来だった。

 対して、撮影と編集は良好だった。
 精神障害者施設として使われた建築物がどこにあるものかは不明。(ケーララか?)

◆ 結語
 ハリウッド映画の翻案とはいえ、P・ヴァース監督にしては、カンナダ映画にしては、なかなかスリリングなサイコ・スリラー。気味の悪さもあって、二度は観たくならないと思うが、ウッピのファンなら一度観ておくべきだろう。

・満足度 : 3.0 / 5
 

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
マーティン・スコセッシの映画はサウスではよくパクられますね。ジャガパティ・バブのHomam (2008)もスコセッシのThe Departed (2006)からの剽窃でした。まあThe Departedそのものが香港映画の無間道(2002)からのパクリなんですけどねw
メタ坊
2012/02/03 11:23
>マーティン・スコセッシの映画はサウスではよくパクられますね。

それは全く知りませんでした。
Homamは確かJDチャクラヴァルティの映画でしたね。なぜかDVDを持っているので、時間があるとき見てみます。
 
カーヴェリ
2012/02/03 21:56

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