カーヴェリ川長治の南インド映画日記

アクセスカウンタ

zoom RSS 【Vazhakku Enn 18/9】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2012/05/26 19:46   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 1 / トラックバック 4 / コメント 2

画像

 バーラージ・シャクティヴェール監督のタミル映画。
 バーラージ・シャクティヴェールの名は記憶になくとも、【Kaadhal】(04)を撮った監督だと言えば、ピンと来る方も多いだろう(といっても、絶対数は少ないはずだが)。彼は2002年に【Samurai】で監督デビューしているので、もう10年選手なのだが、その後、【Kaadhal】、【Kalloori】(07)と、全部で3作しか発表していない。【Kaadhal】は大ヒットしたし、所謂「タミル・ニューウェーブ・シネマ」の草分け的作品ともなった傑作だが、次の【Kalloori】も、ヒットこそしなかったものの、忘れがたい印象を残す名品となった。私は幸い彼の作品は3作とも観ているが、残念ながらすべてDVD鑑賞。今回が初めての劇場での生鑑賞となる。ちなみに、本作はタミル・ナードゥ州では5月4日に公開されており、バンガロールでは2週間遅れの公開となった。
 ところで、何の先入観か、私はバーラージ・シャクティヴェール監督のことをお若い方だと思っていたが、今回調べてみたら、すでに48歳で、こんなオジサンだということが分かった。

画像

 題名の「Vazhakku Enn 18/9」は「事件番号18/9」という意味らしい。

【Vazhakku Enn 18/9】 (2012 : Tamil)
物語・脚本・台詞・監督 : Balaji Sakthivel
出演 : Sri, Urmila Mahanta, Manisha Yadav, Mithun Murali, Muthuraman, Chinnasamy, Rithika, Rani
音楽 : R. Prasanna
撮影 : S.D. Vijay Milton
編集 : Gopi Krishna
制作 : N. Subash Chandrabose, Ronnie Screwvala

《あらすじ》
 チェンナイのとあるアパートで傷害事件が発生する。被害者はジョーティ(Urmila Mahanta)という若い女性で、そのアパートの一戸でメイドとして働いていた。捜査に当たった警官クマーラヴェール(Muthuraman)は、まず容疑者として、アパート近くの軽食屋台で下働きしている青年ヴェール(Sri)を取り調べる。
 ・・・
 ヴェールは村で貧しいながら平和に暮らしていたが、家族の金銭上の問題から町に出稼ぎに出、スナック菓子店で働くことになる。その後、両親は事故死するが、菓子店のオーナーはそのことをヴェールに知らせなかった。後にそれを知ったヴェールは、怒りと絶望から店を飛び出し、行く宛てなくチェンナイの路上で倒れてしまう。幸い彼は中年女性に救われ、近くの軽食屋台で下働きとして働くことになる。
 仕事にも慣れ、ちゃっかりした弟分もできたころ、ヴェールはジョーティに出会う。ジョーティはスラムの住人で、近くのアパートでメイドをしていた。ヴェールはジョーティに母の面影を見出し、すっかり惚れる。しかし、出会ったときの印象が悪かったため、ジョーティの母はヴェールを嫌い、事あるごとに彼に「警察に言うぞ」と言っていた。
 ヴェールはたまたまジョーティの写っている写真を手に入れ、それを財布にしまっていた。ところが、ある時その財布を落としてしまい、偶然ジョーティに拾われる。ヴェールはジョーティが写真のことを知ったのは確実だと思い、警察に訴えられるのではと恐れる。すると、本当に警察に連行されたというわけであった。
 ・・・
 クマーラヴェールは次に、ジョーティが働いていた家の一人娘アールティ(Manisha Yadav)に事情を聴く。
 ・・・
 プレカレッジに通うアールティは、両親は厳しかったが、背伸びしたい年頃だった。アールティと同じアパートにディネーシュ(Mithun Murali)というやはりプレカレッジの学生がいたが、彼はアールティに目を付け、言葉巧みに接近する。アールティはディネーシュの人柄を信じ、すっかり気を許してしまう。だがディネーシュの目的は、携帯電話のビデオでアールティのエロティックなシーンを盗撮することだった。ディネーシュはアールティをビーチリゾートに誘い、ロッジで服を着替える彼女を隠し撮りする。だが、後にその動画を知ったアールティは、ディネーシュに「警察に訴える」と脅迫する。ディネーシュはアールティを車ではねようとするが、失敗する。次に彼はアールティの顔に硫酸をひっかけようとするが、アールティではなく、ジョーティがその犠牲者となってしまう。
 ・・・
 次にディネーシュが警察に呼ばれ、取調べを受ける。種々の証拠、状況から、ディネーシュがこの傷害事件の犯人であることは明らかであった。だが彼は大臣の庶子であったため、警官のクマーラヴェールは買収されてしまう。クマーラヴェールはディネーシュの代わりに、ヴェールを犯人にでっち上げる。
 ヴェールの弟分は、無実のヴェールが投獄され、裁判にかけられているのを知る。彼はスラムのジョーティに会いに行き、ヴェールが実はジョーティを愛していたこと、この事件では無実であることを伝える。
 ヴェールに判決が言い渡される日、ジョーティは裁判所に姿を現す、、。

   *    *    *    *

 いやぁ、泣けた。私好みの作品だわ、こりゃ。

 バーラージ・シャクティヴェール監督の作品は、デビュー作の【Samurai】(ヴィクラム主演)こそシャンカル監督作品の水割りのような虚構性の強い娯楽映画だったが、【Kaadhal】からがらりと作風が変わり、【Kalloori】共々、リアリスティックな悲劇として特徴付けられる。本作もぴったりと後を継いでいる。しかし、【Kaadhal】はなおドラマ的だったのに対し、本作はよりリアルさを増しているし、【Kalloori】のストーリー構成のまずさに対して、本作は語り口も上手い(監督は脚本を完成させるのに15ヶ月費やしたらしい)。
 何と言うか、やるせないような心の痛みを覚えるクライマックスなのだが、絶望感のうちにも一筋の救いの光明が感じられ、それが美しく、清々しい。観終わった後の感覚では、【Mynaa】(10)に似ているとも言えるし、【Angaadi Theru】(10)や【Aadukalam】(11)に似ているとも言えるし、または、なぜかカンナダ映画の【Gooli】(08)も思い浮かんだ。
 本作を復讐物と言うのは適当ではないと思う。しかし、私はこれまで実に多くのインド映画の復讐物を観てきたが、主要登場人物のクライマックスでの復讐的行為に対して、本作ほど映画館内が沸いた例はそんなに思い浮かばない。

 バーラージ・シャクティヴェール監督から期待されるとおり、本作は単純な娯楽作品ではなく、メッセージ色の強いものとなっている。しかも、本作では、現代のインドに関して、実にいろいろな問題が問われている。貧富の差、都市と村落のギャップ、児童労働、セクシャル・ハラスメント、子供の教育、若年層のモラルの動揺(荒廃とまでは言わないが)、権力者(政治家、警官)の腐敗、等々、本作は2時間程度の短い作品でありながら、これらの事柄がまるで動物園の檻のように効果的に配置されている。
 普通、これだけ社会のネガティブな側面を見せられたら、気が滅入るものだし、インド人観客もそっぽを向きそうだが、本作はどうやらヒットしているらしい。それはやはり、弱者に対するバーラージ・シャクティヴェール監督の肯定的な視点が共感を呼んでいるからだろうと思う。本作は弱者(貧者=ヴェールやジョーティたち)と強者(富者=アールティやディネーシュたち)のコントラストが見事に描かれているが、監督はより弱者のほうに温かい眼差しを向けている。ヴェールはほとんど乞食と差がないような生活をしているのに、明るさと素直さを失わないし、ジョーティはスラムに暮らし、メイドとして生計を立てていながら、悪びれることなく、背筋を真っ直ぐに伸ばして歩く。この力強さを大黒柱として立てたところに、本作の成功の秘訣があるのだろう。対して、お金持ちの二人、アールティはふっと背伸びをしようとして自ら危険を招いてしまったし、ディネーシュは現代インドの都市型アッパークラス問題児のサンプルのような描かれ方だった。
 映画全体がまるで現実の事件を見ているかのようなリアルさだったが、特定の事件のセミ・ドキュメンタリーとかではなさそう。ただし、クライマックスは何らかのニュースから想を得ているらしい。

◆ 演技者たち
 【Samurai】以外、スター俳優は使わず、新人か新人に近い俳優(または素人)を使ってきたバーラージ監督だが、本作ではさらに徹底している。見事に知らない人ばかり。だが、演じ手の選定は効果的。それぞれが作品中に非常にうまく収まっていた。しかし、この中から明日のスターが現れると期待する必要はないだろう。
 主人公ヴェールをやったのはSriという人。なんとも形容しにくいキャラクターだった。詳細は分からないが、タミル語のテレビドラマに出演したことがあるらしい。
 (写真下:メイクアップは「3日ぐらいシャワーを浴びない」こと?)

画像

 悪役とも言えるディネーシュをやったのはMithun Muraliという人。可愛い顔して言葉巧みにアールティを誘惑する様は一端のワルだった。なかなか上手く演じている。映画はすでにマラヤーラム映画に3本ほど出演しているらしい。(下)

画像

 バーラージ監督は女優の魅力をうまく引き出すことにも定評があるが、本作の二人の女の子も印象的だった。
 まず、メイドのジョーティを演じたのはUrmila Mahantaという人。かなりの地味キャラだが、クライマックスのおかげで忘れがたい役柄となった。この人は現在、有名なPune Film Instituteの学生さんらしい。名前や容貌から、南インド人じゃないなと思っていたら、アッサムの人だった。
 (下:左が映画中のジョーティ。右が素顔(?)のウルミラさん。)

画像

 プレカレッジの学生アールティを演じたのはManisha Yadavさん。役柄は隙だらけの危ういティーンエイジャーで、同年代の娘を持つ親が本作を観たならば、心配で心配で不眠症に陥るに違いない。しかし、スケベ親父の立場から言わせてもらうと、制服の下からこれほど熟れ頃の色気を発散させていたならば、盗撮の一つもしたくなるというものだ。ドバイに売り飛ばされなかっただけでも有り難いと思え! ちなみに、この人はバンガロールのモデルらしい。
 (下:左が映画中のアールティ。右はモデルらしいマニーシャーさん。それにしても、このムチエロ・バンガロール・モデルを制服に詰め込んだところなど、バーラージ監督に脱帽!)

画像

 悪徳警官クマーラヴェール役のオジサン(Muthuraman)も絶妙の顔だ。(下)

画像

◆ 音楽・撮影・その他
 音楽は2曲ほどしかなかった。もちろん、豪華なダンスシーンなどはない。
 音楽とBGMを担当したのはR. Prasannaという人で、カールナーティック音楽の有名なギタリストらしい。映画の音楽監督としては本作が初仕事とのこと。
 評価はしにくいが、情念たっぷりな音楽だった。

 撮影はS.D. Vijay Miltonという人の担当。特記事項は、本作は通常の映画用カメラを用いず、キヤノンのデジタル一眼レフカメラ「EOS 7D」で撮影したということ(RGV監督のテルグ映画【Dongala Mutha】と同じアイデア)。人工照明は用いず、天然光だけで撮影されたとのこと。

 気にかかったのは、登場人物として有力政治家(大臣)がいたが、その顔にずっとモザイクがかかっていた。なぜ?

◆ 結語
 現代インドの縮図を見るような作品。ラジニカーントの映画こそがタミル映画だと思っている方には用なしかもしれないが、映画作品としての出来は良い。タミル・ナードゥ州では商業映画として好成績を上げているが、映画祭に出品したとしてもおかしくないだろう。私からはお勧め作としておく。

・満足度 : 3.5 / 5
 

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
なるほど(納得、参考になった、ヘー)

トラックバック(4件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
【Aadhalaal Kadhal Seiveer】 (Tamil)
 8月30日から9月1日の週末は、サリーム・アフメド監督の【Kunjananthante Kada】、ブレッシー監督の【Kalimannu】、シャーマプラサード監督の【Artist】といったマラヤーラム映画の話題作がバンガロールで一挙に公開され、どれか1つは観たかった。特に【Kalimannu】は女優シュウェータ・メーノーンのリアル出産シーンが見られるという前情報だったので、ぜひにと思っていたのだが、物理的理由で3作とも不可。マラヤーラム映画では先日はラール・ジョース監督の【Pullipu... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2013/09/12 02:11
【Drishyam】 (Malayalam)
 1ヶ月インドを離れていたせいで、未見の話題作が山積! ポンガル公開の作品は、タミルの【Jilla】と【Veeram】、テルグの【1 Nenokkadine】と【Yevadu】がいずれも面白いという評判の上に、大ヒット。加えて、年末公開されたカンナダ映画【Shravani Subramanya】もガネーシュ久々のスーパーヒットとなったようで、押さえておく必要がある。こりゃあ、分身の術を使うか、あるいは会社をずる休みでもしない限り、はけないな。 ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2014/02/24 00:00
【Akira】 (Hindi)
 本ブログは「南インド映画日記」ということだが、ボリウッド映画でも南インドと関係のあるものなら、例えば南インド映画のリメイクとか、監督や主演クラスの俳優が南インドのタレントとか、物語の舞台の多くが南インドとかなら、ぜひ書く方針だった。しかし、【Chennai Express】(13)を最後にヒンディー映画はご無沙汰だった。それ以降も南がらみの映画はいくつか観ていたが、北と疎遠になるにつれ、書くのが億劫になってしまったわけである。 ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2016/09/08 20:59
【Urvi】 (Kannada)
 シュルティ・ハリハラン、シュラッダー・シュリーナートという今サンダルウッドでホットな2人に加え、シュウェーター・パンディトという、3人の女優が主役の映画ということで話題になっていたが、トレイラーも刺激的で、超楽しみな1本だった。 ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2017/03/21 20:46

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
カーヴェリさん好みの作品でしたか、良かったですね。

>絶望感のうちにも一筋の救いの光明が感じられ、それが美しく、清々しい。

的を射た描写だと思います。ただれた顔がパラッと見える最後は印象的でした。

>気にかかったのは、登場人物として有力政治家(大臣)がいたが、その顔にずっとモザイクがかかっていた。なぜ?

実は私も気になっていました。最後の最後には明かされるんだろかと思っていたら、結局そんなことはありませんでしたね。

2012/05/28 04:28
実在する大臣の誰かに似すぎちゃって、問題になったのかもしれませんね。視覚的にはあまりよくなかったです。
 
カーヴェリ
2012/05/29 10:01

コメントする help

ニックネーム
本 文
【Vazhakku Enn 18/9】 (Tamil) カーヴェリ川長治の南インド映画日記/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる