カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Thaandavam】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2012/10/19 20:41   >>

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 A・L・ヴィジャイ監督、ヴィクラム主演のタミル映画。
 このお二方による前作【Deiva Thirumagal】(11)は、スーパーヒット作となっただけでなく、批評的にも高い評価を得、いくつかの賞も獲得している。周知のとおり、今年3月に行われた「大阪アジアン映画祭」にも出品され、見事グランプリに輝いている。もっとも、このレベルのマイナーな映画祭でグランプリを取ったこと自体はさして重要ではないのだが、この映画祭のためにヴィクラムとヴィジャイ監督が訪日したという事実は特記に値する(たまたま一時帰国していた私も同映画祭を見に行き、ちゃっかりヴィクラムらと記念写真を撮らせてもらった)。先日のシュリヤー・サランの訪日といい、インド映画人の視界にいよいよ日本が入ってきたという証左かもしれない。
 で、本作【Thaandavam】は、【Deiva Thirumagal】とプロダクション(UTV Motion Pictures)、音楽/撮影/編集などのスタッフ陣、主演俳優(ヴィクラム、アヌシュカ)が同じという、2匹目のドジョウ的な作品。ただし、【Deiva Thirumagal】が涙腺刺激ドラマだったのに対し、本作はアクション大作という触れ込みだった。アクション作品でのヴィジャイ監督の手腕にも注目したいところだ。
 題名の「Thaandavam」はシヴァ神の舞踊「ターンダヴァ」のこと。

 ところで、時事ネタを記しておくと、先月下旬よりカルナータカ州とタミル・ナードゥ州の長年の係争問題である「カーヴェーリ川取水問題」が再燃し、先週末よりカルナータカ州全域でタミル映画ボイコット措置が取られ、バンガロールでもタミル映画がまったく観られない状況となっている。そんな次第で、K・V・アーナンド監督、スーリヤ主演の新作タミル映画【Maattrraan】も観られず、痛い(ヒロインがカージャルなので、まぁいいかという気にもなっているが)。幸い、この【Thaandavam】はそれ以前に観たものなので、ここに鑑賞記がアップできた。

【Thaandavam】 (2012 : Tamil)
物語・脚本・監督 : A.L. Vijay
出演 : Vikram, Anushka Shetty, Amy Jackson, Lakshmi Rai, Jagapathi Babu, Nasser, Santhanam, Sayaji Shinde, Kota Srinivasa Rao, Saranya Ponvannan, Thambi Ramaiah, M.S. Bhaskar, Delhi Ganesh, Sujitha, Daniel Kish
音楽 : G.V. Prakash Kumar
撮影 : Nirav Shah
編集 : Anthony
制作 : Ronnie Screwvala, Siddharth Roy Kapur

《あらすじ》
 ロンドン在住のタミル人ケニー・トーマス(Vikram)は、1年前の2011年1月1日にロンドン市内で起きた連続爆弾テロの被害に遭い、視力を失っていた。そのため彼はキリスト教会でオルガン弾きをしていた。だが、その平和な昼の顔とは裏腹に、ケニーには秘密のミッションがあるらしく、ある女性から指示を受け、夜には殺人行為を働いていた。容疑者と思しき男をたまたま乗せたタクシーの運転手がサティヤン(Santhanam)というタミル人だったため、また容疑者もタミル語話者らしかったため、この殺人事件の捜査にはスリランカ・タミル系の警官ヴィーラカティ(Nasser)が当たる。
 サラー(Amy Jackson)はタミル人の父とイギリス人の母を持つハーフ。ミス・ロンドンに選ばれた彼女は、教会でキャンペーン活動を行っているときにケニーと知り合う。彼女は、風変わりだが純粋な心の持ち主のケニーに惹かれるようになる。ケニーもサラーを意識し始めるが、彼には複雑な過去があった、、、。
 ・・・
 ケニーは実はシヴァ・クマールという名で、インド警察のエリート警官であった。彼は情報局に所属し、対テロリストの特殊任務に従事していた。
 ある日、シヴァに縁談が持ち上がり、故郷のタンジャーヴールに帰省する。彼は結婚にはまったく乗り気でなかったが、相手のミーナークシ(Anushka Shetty)を見るなり考えを変え、結婚することにする。だが、新婚初夜のときに、シヴァはミーナークシから意外な申し出を受ける。眼科医で進歩的な考えの持ち主であるミーナークシは、田舎の両親に逆らわず結婚に同意したが、本来の順序は「出会いがあって、まず友達となり、その後恋愛を経て、結婚」であるべきだと言うのである。シヴァは彼女の考えを尊重し、勤務地のデリーでまず友人として彼女との生活を始めることにする、、、。
 ・・・
 タクシー運転手のサティヤンは、たまたま新聞に載っていたケニーの写真を見つけ、自分が乗せたのはこの男だとヴィーラカティに知らせる。ヴィーラカティはその情報を手掛かりに、ケニーがロンドン連続爆弾テロに関与したテロリストであること、また、彼は盲目であるが、エコーロケーションの訓練を受け、かなり自由に行動ができることなどをつかむ。そのことを伝え聞いたサラーは、ケニーの携帯電話のメッセージから、彼が次なる殺人に臨むところだと知る。サティヤンのタクシーで現場に急行したサラーは、果たしてケニーが標的の男を襲撃しているところを目撃する。そこへヴィーラカティら警官隊も到着したため、ケニーはサラーとサティヤンを人質にして逃走する。サラーとサティヤンはなんとか逃げ出すが、そこへギーター(Lakshmi Rai)という女性が現れる。彼女はケニーに殺人指示を出していた女であり、彼女の口からケニー(シヴァ・クマール)に関する真実が明かされる、、、。
 ・・・
 デリーでシヴァ・クマールは同僚のシャラット・クマール(Jagapathi Babu)と共にテロリストと爆弾製造に関する捜査を行っていた。だが、その過程でシャラットがテロリストに撃たれて怪我を負う。捜査を続行したシヴァは、このテロ・グループがロンドンに拠点を置いているらしいことをつかみ、覆面捜査のためアルジュン・ラートールという名でロンドンに乗り込む。現地での協力者がケニー・トーマスであり、ギーターはその妻であった。
 シヴァはケニーや他の協力者と共に爆弾製造のフローチャートを押収する作戦を決行する。だが、作戦を実行していく中で、シヴァは実は自分が大掛かりな罠にはめられていることに気付き、逆に犯罪者としてロンドン警察に追われる立場となる。シヴァはなんとかケニーを探し出し、事の真相と黒幕について知る。
 だが、犯罪者グループはシヴァを爆殺しようと図る。そして2011年1月1日(この日はシヴァの誕生日でもある)、ロンドンにやって来た妻のミーナークシとケニーが爆弾で死亡し、シヴァも盲目となる。シヴァは死んだケニーの代わりとなり、ギーターと共に復讐へと動くのであった、、、。

   *    *    *    *

 本作の公開は9月28日なので、もう3週間が過ぎ、評価もほぼ固まっている。ほとんどすべての評者が指摘しているのは、テンポが遅すぎるということで、私もまったく同感だ。ストーリー自体は面白く、構成もよく練られているのだが(特に回想シーンの入れ方)、これだけのそのそとスローペースで進むなら、アクション映画としては失格だ。これで上映時間2時間47分は受け入れがたい。
 アクション映画におけるA・L・ヴィジャイ監督の手腕という点では、きちんと丁寧な仕事をしていると言えるが、それが却って作品の勢いを止めてしまっている感じがした。近ごろのタミル映画によくあるパターンと同様に、面白いはずのストーリーをわざわざつまらなく映画化しているかのようだった。この点では、さして面白くないストーリーからでもしゃきっとした娯楽映画を作ってしまうテルグ映画を見習うべきだろう。

 ただ、犯罪スリラー映画としてはそれほど出来が良いとは思えないが、映画中に盛られた2点が個人的に興味深かった。
 1点目は、「ヒューマン・エコーロケーション」のモチーフだ。
 ヒューマン・エコーロケーションというのは、コウモリやイルカなどが鋭い音波を発して、その反響音から物体の存在を検知するのと同様のことを人間でもやろうというもので、目の不自由な人の適応手段として用いられるものらしい。下のスチルは、ヴィクラム演じるシヴァ・クマール(ケニー)がその訓練を受けているシーンで、彼の場合は「舌打ち音」を発して障害物を探知していた。こんなことが本当に人間にもできるのかなぁと思ったが、実際にこの技術をトレーニングしている団体もあり、その第一人者であるダニエル・キッシュ(Daniel Kish)という人も本作品中に本人役で登場していた(スチルの左の人がそれ。自身も目が見えないらしい)。とにかく、映画中でヴィクラムが発していた舌打ち音が印象的で、映画館を出る客の多くが真似をしていた。

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 もう1点は、アヌシュカ演じるヒロイン、ミーナークシの口から、結婚へのステップとして「出会い → 友達 → 恋愛 → 結婚」というフローが明確に語られていたことだ。これは日本人などには至極常識的な考え方だと思うが、周知の通り、インドの実社会では結婚がこのように連結的・時系列的に進むものと考えれらているわけではない。都市部の進歩的な層ならいざ知らず、一般的な庶民層では恋愛と結婚は別個のものという認識が強く、親は我が子の恋愛を結婚の障害物として厄介視し、子にしても恋愛というイベントを一度も体験せずに結婚する者も多い。だからこそ、現実を抜け出る夢の受け皿としてインド映画ではことさら恋愛結婚が美化され、恋愛と結婚のギャップを飛び越えるヒーロー/ヒロインが若者の同一化の対象になり得るわけだが、実のところ、そのヒーロー/ヒロインを取り巻いている平凡な「友人たち」こそが現実のインドの若者像だと考えていい。そんなわけで、本作も上述のような一見「非インド的」な結婚観を表明することで、却ってインド映画らしさが出ていた。
 それはさておき、私がここで評価したいのは、上述の「結婚へのステップ」という考えそのものではなく、このステップが実に上手くアクション映画のストーリーに組み込まれていたことだ。
 ミーナークシは、田舎者の超保守的な親の気持ちを尊重して結婚に同意するが、新郎のシヴァ・クマールには「友達からスタートしましょう」と告げる。実際には、眼科医としてのキャリアを優先したい彼女は、当初シヴァに対しては友達という認識さえなかったはずだが、次第にシヴァの人間性に惹かれるようになり、ついには愛に気付き、彼の誕生日にその気持ちを打ち明けようとロンドンに渡るが、あと一歩というところで爆死してしまう。ここで観客は「無念さ」を感じるわけだが、この気持ちがあるからこそ、シヴァの残酷な復讐行為も正当化でき、カタルシスを覚えることもできるのだと思う。

◆ 演技者たち
 ヴィクラムといえば、とにかく尋常から外れた人物を演じることが多く、「ミスター・ハンディキャップ」と呼びたくなるほどだが、今回は盲人。さすがにその演技は申し分なかったが、しかし、本作のヴィクラムは盲目の演技よりも、他の部分、例えばアヌシュカとのロマンス展開などで上手さを見せていた。本作の見どころ。
 (写真下:エリート警官と盲目のオルガン弾きを演じるヴィクラム。)

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 妻ミーナークシ役のアヌシュカは、特に難しい演技をしていたわけではないが、とにかく落ち着いていた。これほど腰の重さが味につながる女優は南インドでも久々だろう。

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 サラー・ヴィナヤガム役のエイミー・ジャクソンは、A・L・ヴィジャイ監督の【Madrasapattinam】(10)でヒロインに抜擢され、西洋人女優では掘り出し物っぽいが、本作では【Madrasapattinam】ほどの鮮烈さはない。ただし、やっぱりこの人の笑顔は可愛い。
 (写真下:「ベジタリアンの勧め」をするエイミー@サラー。)

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 ギーター役のラクシュミ・ライは、短い出番ながら、まずまずの印象度だった。
 (写真下:「出番待ち」のラクシュミさん。)

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 ナーサルとサンターナムはそれぞれ持ち味が出ていたが、彼らの演技そのものというより、こうあちこちでタミル人が出現するロンドンという街に一度行きたくなった。
 ナーサルはスリランカ・タミル系のイギリス人、サンターナムはMGRの熱烈ファンで、片言英語しか話せない純タミル人という設定だった。

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 ジャガパティ・バーブ、サヤージ・シンディ、コータ・シュリーニワーサ・ラーウのお三方は、ジャガパティ・バーブを除いて、テルグ語ダビング版のためのお愛想起用といった感じだった。

◆ 音楽・撮影・その他
 G・V・プラカーシュ・クマールの音楽はまあまあ。

 撮影は良いが、CGは平凡。アクションも現在の南インド映画の水準からすると、並の出来。

◆ 結語
 A・L・ヴィジャイ監督が十分評価できる手腕を持った映画監督だということはよく分かるが、本作の出来としては、材料もレシピも申し分ないのに、火加減を間違えてしまった料理のようだった。それは残念。ヴィクラムのファンなら押さえておく価値はある。

・満足度 : 2.5 / 5
 

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【Thalaivaa】 (Tamil)
 タミルのA・L・ヴィジャイ監督については、【Madrasapattinam】(10)を観て感銘を受け、また、【Deiva Thirumagal】(11)が去年「大阪アジアン映画祭」で上映された際にお目に掛かった縁もあって、注目したい監督に数えている。だが、これまでの作品のほとんどはリメイクかハリウッド映画の翻案だし、前作の【Thaandavam】(12)もいまいちな出来だっただけに、才能にはやや疑問が残る。  本作はそのA・L・ヴィジャイ監督がヴィジャイと組んだ期待の1作。ヴィジャ... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2013/08/29 03:04

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
大阪アジアン映画祭に来られていたということはお互い近くにいたんですね・・・私も無事ヴィクラム様に直接お絵かきをプレゼントできて最高でした〜
それにしてもヴィクラムさんのそっくりさんがそっくりさんではなかったなあ・・・ 遺体確認シーンで「別人やん」とつっこむインド人はいなかったんかいw
漁師N
2012/10/20 10:58
あら、漁師さんもいてはったんですね。
そういえばヴィクちゃん、うれしそうに似顔絵見せてはりました。
カーヴェリ
2012/10/21 00:44

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