カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Simpallag Ond Love Story】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2013/04/06 12:35   >>

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 本作は1ヶ月前に公開されたものだが、公開直後から評判が良く、現地人からお勧めの声が相次いだ。私も早く観たかったが、2週続けて満席の壁に阻まれ、やっと先週末に観ることができた。
 監督はスニ(スニール・クマール)という新人だが、監督だけでなく、キャストもスタッフもほぼすべて新人という、フレッシュな顔ぶれによる作品(唯一の有名人として、シュリーナガラ・キッティがカメオ出演している)。内容的にもフレッシュなものを期待したい。

【Simpallag Ond Love Story】 (2013 : Kannada)
物語・脚本・台詞・歌詞・監督 : Suni (Sunil Kumar)
出演 : Rakshit Shetty, Shwetha Srivatsav, RJ Rachana, Nela Narendra Babu, Srinagara Kitty(特別出演)
音楽 : B.J. Bharath
撮影 : Manohar Joshi
編集 : D.I. Sachin
制作 : Hemanth

題名の意味 : シンプルなあるラブストーリー
映倫認証 : U
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : ロマンス
公 開 日 : 3月8日(金)
上映時間 : 2時間10分

◆ あらすじ
 写真家のクシャール(Rakshit Shetty)にはラジオ・ジョッキーの妹ラチャナ(RJ Rachana)がいた。ラチャナはボーイフレンドとの結婚を望んでいたが、そのためにはまず独身の兄を片付けなければならない。ラチャナは、ボーイフレンドの妹で医者のイティと兄を結婚させようと考え、クシャールをイティの暮らすコダグ県ポーリベッタへと行かせる。
 妹に教えられたポーリベッタの屋敷に到着すると、はたしてクシャールは医師と称する女性(Shwetha Srivatsav)に迎えられる。彼は彼女を見て、気に入る。二人は互いに過去の失恋話を語り合い、すっかり意気投合する。しかし、いくつかの手掛かりから、クシャールはその女性が医者のイティでないことに気付く。実は彼女はイティの知人のクシで、イティが留守だったため、ちょいと彼女のふりをしたというわけであった。
 クシャールはこのクシの態度に一瞬むかつくが、それでも彼女のことをいたく気に入っていたため、イティではなくクシと結婚しようと考える。ところが、翌朝になってクシャールはさらに驚く。クシがクシャールのことをまったく覚えていなかったのである。実はクシは前向性健忘症を患っており、イティの患者だったのである、、、。

◆ アナリシス
・先に鑑賞した人から聞いていたので、ある程度予想していたが、まさにプロタゴニスト(クシャールとクシ)が饒舌に喋りまくるという、セリフ主体の映画だった。セリフはダジャレやダブルミーニングに満ちたもので、本作の真の面白さは現地人(しかも、都市部の比較的若い世代)にしか分からない。

・新人のスニ監督はどうやらウペンドラの弟子らしい。「饒舌」の根拠が分からないでもないが、しかし、本作から受ける印象としては、ウペンドラよりヨーガラージ・バット監督の作品に近い。ウペンドラにしてもヨーガラージ・バットにしても、溢れ出るセリフが命であるような作品を作っているが、どうもカンナダ映画界にはセリフ主体の「饒舌映画」といった伝統があるようだ。(グル・プラサード監督とジャッゲーシュのコンビによるコメディー映画もそう。この伝統は、たぶん、少なくともシャンカル・ナーグまで辿れると思う。)

・映画は「映像芸術として映像で語るべき」という観点からは、台詞本位の映画は一等価値が低いと思われ、私も台詞や字幕などの言語手段で安易に説明しているような作品は好きではないし、また、私のようにインドの言葉がよく分からないで鑑賞している者には、台詞映画は不利だとも言える。しかし実際には、「映像で語る系」の監督たち(名指ししないが)の作品を見ても退屈で困ることが多く、逆に台詞主体の作品なのに泣いたり笑ったりできることも珍しくない。やはり人間の声の響き、発話、対話にはドラマチックなものがあるのだろう。そんな訳で、本作もかなりセリフが分からなかったにもかかわらず、けっこう楽しめた。

・本作のストーリーはアメリカ映画【50 First Dates】(04:邦題「50回目のファースト・キス」)から想を得ているという指摘もあるが、あらすじを読む限り、本作は全然違っている。本作ではヒロインの記憶障害のモチーフはそれほど重要ではない。アイデアを借りたとしても、リメイクとは言えないだろう。

・上で、本作はヨーガラージ・バット監督の作品に近いと言ったが、同監督の作品ほどの文学性はない。また、スニ監督はウペンドラの弟子だとはいえ、ウッピほどの「口撃」性も風刺性もない。ひたすらドライで、カジュアルで、他愛なく、アホくさいと感じた。

・実は、私は本作を観て衝撃に近いフレッシュさを感じたのだが、それと言うのも、このドライさ、カジュアルさの故なのだ。はっきり言って、本作はカンナダ映画ではない。かと言って、ヒンディー映画でもハリウッド映画でもなく、よくよく見れば、やはりカンナダ映画なのである。正確には、「カンナダ人(否、バンガロール人)ならそろそろ作っても不思議ではない現代若者映画」と言うべきか。こんな言い方をすると、本作は垢抜けたモダンなロマンスだと思われるかもしれないが、全然そんなことはなく、本作は普通に野暮ったい。

・しかし、この「普通の野暮ったさ」は、日常的には超ありふれたものであっても、これが銀幕に登場すると、却って驚きとなる。私は本ブログでも何度か「インド映画はインドの若者の実際の姿を反映していない」という趣旨のことを書いた。その不審感は、タミル映画【Chennai 600028】(07)を観てある程度払しょくされたが、あそこに登場した若者像は「バカ者」だった。しかし、本作の登場人物は「バカ」という属性すら落ち、まったく普通の若者、私が日常的に出会う若者だった。ついにここまで来たか! よくぞこういうヒーロー&ヒロインで映画を撮ったもんだ。

・実は、本作は主筋であるクシャールとクシのロマンス展開の他に、クシャールとクシのそれぞれが語る過去の失恋話が回想シーンとして入り、こちらのほうが重要だったりする。しかし、その2つのラブストーリーも特に驚くようなものではなく、誰でも体験するような、シンプルなものだった。こういう内容の映画がヒットするとは! インド映画というのは伝統的に、現実にはどこにもいそうにない超絶的なヒーローと、豪邸に住む浮世離れしたヒロインを描き、庶民に夢と憧れを売ってきたようなものだが、本作は真逆を行っている。しかし、この映画がヒットしているということは、そういう伝統的なヒーロー/ヒロインをもはや必要としない層の人々がかなりの規模で拡大しているということを意味しているのだろう。

◆ パフォーマンス面
・主人公クシャールを演じたのはラクシト・シェッティという人。プロフィールとかは全然知らない。ほわわんとした感じの、やや間の抜けたツラがなかなか良かった。セリフも上手かった。
 (写真下:左。ヒロイン、クシ役のシュウェータ・シュリーワトサヴと。)

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・ヒロインのクシを演じたのはシュウェータ・シュリーワトサヴという人。これまたどこの誰だかまったく知らない。エラが張っていて、目と目の感覚が狭く、性格的にキツそうな顔立ちだが、スクリーン上で見るとそれなりに別嬪さんだった。これまたセリフは上手かった。

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・「Radio City」でラジオ・ジョッキーをしているラチャナさんが、そのままジョッキーのラチャナという役で出演している。これがかなり好印象。本作のセリフの快調なノリは、ラジオ番組のノリから来ているとも思われた。

・シュリーナガラ・キッティが劇中劇の登場人物という形で登場する。役柄は「ラブ・グル」ということで、ずっこけた。

◆ テクニカル面・その他
・音楽が良い。担当したのはB・J・バーラトという人だが、やはり全然知らない。音楽シーンもシンプルな作りだが、けっこうハートに触れた。

・主筋の舞台となったのはマディケーリのポーリベッタという村らしい。撮影は製作費の額に見合った質素なものだったが、それでも「雨のマディケーリ」は美しかった。

◆ 満足度 : ★★★☆☆
◆ 必見度 : ★★★★☆

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 3月30日(土),公開第4週目
・映画館 : Kamakya,11:15のショー
・満席率 : 3割
 

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