カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Geethaanjali】 (Malayalam)

<<   作成日時 : 2013/11/22 02:06   >>

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 マラヤーラム映画の【Manichitrathazhu】(93)は、ひとりマラヤーラム映画内だけでなく、インド映画全体から見ても傑作の1本に数えられるだろう。ここから【Aaptha Mitra】(04:カンナダ)、【Chandramukhi】(05:タミル)、【Rajmohol】(05:ベンガリー)、【Bhool Bhulaiyaa】(07:ヒンディー)といったリメイク作品が作られ、さらに【Aaptha Mitra】から【Aaptha Rakshaka】(10:カンナダ)と【Nagavalli】(10:テルグ)という続編まで生まれた事実からして、同作品がいかに多くのインスピレーションをインドの映画人に与えたかが分かる。私も大好きな作品で、かつて【Aaptha Mitra】を観たとき、「カンナダ映画もここまでできるようになったか!」と歓喜していたら、それがリメイクだと知らされ、がっかり。その後、ご本家をいよいよDVDで鑑賞し、再びがっかり。【Aaptha Mitra】で喜んでいる場合ではないと思い知らされたからである(まぁ、【Aaptha Mitra】も違った意味で素晴らしいんだけど)。

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 その【Manichitrathazhu】のヒーロー、モーハンラール演じる稀代の天才精神科医、サンニ・ジョーセフ博士が銀幕に帰って来る、という触れ込みだったのが本作【Geethaanjali】。監督は「娯楽映画の業師」と私が密かに呼んでいるプリヤダルシャン。プリヤン先生は【Manichitrathazhu】そのものでもセカンド・ユニットで部分的に監督を担当しており、さらにリメイク【Bhool Bhulaiyaa】を送り出した人だから、【Manichitrathazhu】とサンニ博士に対する思い入れは人一倍強いだろう。というわけで、本作はマラヤーラム映画界の本年最大の話題作と見なされていた。
 なお、本作はすでに11月16日に日本の首都圏で1回のみの上映会が行われ、複数の日本人ファンも鑑賞したようである。こういう時代になったんだなぁと、その事実にも驚いたりする。

【Geethaanjali】 (2013 : Malayalam)
物語 : Seven Arts
脚本 : Abhilash Nair
台詞 : Dennis Joseph
監督 : Priyadarshan
出演 : Mohanlal, Keerthy Suresh, Nishan, Siddique, Nasser, Innocent, Madhu, Ganesh Kumar, Swapna Menon, Seema, Harisree Ashokan, Chris Gayle Kuttappan, Safa, Marwa, Suresh Gopi(特別出演), その他
音楽 : Vidyasagar
撮影 : S. Tirru
編集 : T.S. Suresh
制作 : G.P. Vijayakumar

題名の意味 : ギーターとアンジャリ(プロタゴニストの名前)
映倫認証 : U/A
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : ホラー
公 開 日 : 11月14日(木)
上映時間 : 2時間29分

◆ あらすじ
 ムンバイに暮らすアヌープ(Nishan)とアンジャリ(Keerthy Suresh)は相思相愛の仲で、結婚することが決まっていた。ある日、アンジャリの母(Seema)が入院したとの連絡が入ったため、彼女はアヌープと共に故郷のケーララに戻り、母を見舞う。母は意識もなく、口もきけない状態だった。
 アンジャリはアヌープと共に実家の古い屋敷に滞在することにする。実はアンジャリには自殺した双子の姉妹のギーターがいたが、この屋敷には今もギーターの遺品が残されていた。
 その夜からアンジャリの周りで怪現象が起きる。どうもこの屋敷にはギーターの亡霊が憑り付いているようで、アンジャリはその幻影に怯え、また、身に危害が及ぶような出来事も起きる。アヌープはアンジャリが精神に変調を来しているのではと案じ、知人のナグラン(Suresh Gopi)に高名な精神科医であるサンニ・ジョーセフ博士(Mohanlal)を紹介してもらう。
 はるばるペルーのマチュ・ピチュからやって来たサンニ博士は、早速彼一流のやり方で屋敷と関連人物の観察を開始する、、、。

・その他の登場人物 : ベービチャヤン(Madhu),タンビチャヤン(Siddique),タンガッパン(Innocent),その娘メーリ(Swapna Menon),ヴァースデーヴァン(Ganesh Kumar),カタリカートゥ司祭(Nasser)

◆ アナリシス
・上のあらすじは前半の途中(サンニ博士の登場)までで、映画全体のほんの3分の1ぐらいのところで止めた。これは、本作を観そうな日本人は大方鑑賞したしたはずなので、なにもネタばれに配慮したからではなく、こういうホラー・サスペンスの筋を終盤まで詳しく書くのは無意味かな、と思われたからである。

・各レビューに目を通したら、意思統一でもしたかのようにぼろくそな評価が並んでいた。大体、プリヤダルシャン監督の作品は、公開されるや否や、各方面からこき下ろされる傾向があるようだが、どうしてこんなことになるのだろう? もしやプリヤン先生って、「ギョーカイの嫌われ者」? とにかく、私的にはけっこう楽しく鑑賞できた。

・たぶん本作は、発想の斬新さや脚本の完成度という尺度で測ってはいけないのだと思う。感性的に見れば、怖さという点ではなかなかよくできたホラー作品だと思った。もっとも、ホラーの質としては、ラーム・ゴーパール・ヴァルマ監督がやって来たことを大きく越えるものではなかったけれど。

・本作は特にリメイクだとか翻案だとかいう但し書きはなかったと思うが、公開後、あちこちのレビューでパクリであることが指摘され、元ネタとしてタイ映画のホラー作品【Alone】(07)とそのカンナダ映画リメイクである【Chaarulatha】(12)、及びマラヤーラム映画の【Nadiya Kollappetta Rathri】(07)の名が挙げられている。【Nadiya Kollappetta Rathri】は観ていないので何とも言えないが、【Alone】と【Chaarulatha】に関しては「もろパクリ」だった。上のデータ欄では一応「オリジナル」に分類しておいたが、これをオリジナルと称するのは苦しい。
 (追記:DVDが手に入ったので、【Nadiya Kollappetta Rathri】も観た。)

・本作のプロットは2つあり、メイン・プロットは双子の姉妹(ギーターとアンジャリ)が一人の男(アヌープ)を巡る三角関係から発生する愛憎悲劇。サブ・プロットは物語の舞台となった古い屋敷の売却問題から発生するきな臭い事件。私はこのサブ・プロットが【Nadiya Kollappetta Rathri】から取られたのではないかと読んでいたが、鑑賞者の話によると、どうもそうではないらしい。
 (追記:本作が【Nadiya Kollappetta Rathri】に負うているのは、やはり「双子姉妹の三角関係」だった。同作品には「古典音楽学校を売却する」というプロットがあり、殺人の動機の一つになっているのだが、それが【Geethaanjali】のヒントになった可能性はある。しかし、ぴったりと対応しているわけではない。)

・話はそれるが、この【Alone】と【Chaarulatha】と本作【Geethaanjali】の見比べは、それぞれのモラル観とか映画的テイストの違いがよく表れていて、非常の興味深いものだった。ぜひセットでの鑑賞をお勧めする。

・特に感心したのは【Chaarulatha】で、プリヤーマニのプレゼンスもさることながら、モチーフに音楽(バイオリン)を取り入れた点や、クライマックスとエンディングを大幅に変えた点など、かなり良いアイデアが加えられている。本ブログに鑑賞記を上げたときは「プリヤーマニ以外見るとこなしの駄作ホラー」で片付けてしまったが、完全に私の評価ミスだった。

・話を戻して、私的に楽しく鑑賞できたと言っても、目の肥えたケーララの観客からすると、「本作が【Manichitrathazhu】の続編だとは絶対に認めない!」、「本作にどうしてサンニ博士が登場する必要があった?」という気持ちだろう。

・確かに、私の見たところ、【Manichitrathazhu】の良い点というのは、公開年の1993年というと、インドが経済改革を推し進めるために欧米自由主義諸国に門戸を開いた直後のことで、インド人の意識の中でも「伝統か西洋化か」で揺れ始めた時期であり、そんな状況下で、主人公のサンニ博士は西洋の近代科学的な「あらゆる心理学・精神医学の理論を越えたい」と言い、西洋精神医学にインドの伝統的宗教儀礼を絶妙に融合した療法でヒロインのガンガーを救うことに成功した、という点で、これはインドの伝統文化は西洋文化に決して劣るものではない、むしろ、西洋文化の不備を補えるものだ、というインド文化人の高らかな自負があったと思う。【Manichitrathazhu】はそういう高度な哲学を、ケーララの文化、気候風土にうまく織り交ぜて、見事に娯楽映画に仕立てていたと思うのだが、本作【Geethaanjali】にそんな深みはあったか?

・サンニ博士についても、本作の怪事件の「謎解き」をする人物が稀代の天才精神科医であるべき必然性は見えない。本作のトリックは比較的単純なものであり、この程度の事件なら地元の警官が解決してくれそうだし、演じる俳優もプリトヴィくんで十分だったと思う。(大体、サンニ博士も事件の核心的な真実はアンジャリの母に教えてもらっていたし。)

・さて、【Manichitrathazhu】とその一連のリメイクで、私はいつも「これはサイコ・スリラーか、お化け映画か」という疑問があった。P・ヴァース監督の【Aaptha Mitra】と【Chandramukhi】、及びその続編の【Aaptha Rakshaka】と【Nagavalli】は「お化け映画」で、【Manichitrathazhu】と【Bhool Bhulaiyaa】はお化けなど出ない「サイコ・スリラー」だったと思う。では、この【Geethaanjali】は?というのが、鑑賞前からの注目点だった。

・パクリ元の【Alone】と【Chaarulatha】は「お化け映画」だと言える。しかし【Geethaanjali】は、お化け映画にしないようなトリックを使っており、それが伏線の「屋敷売却」のプロットだったと思う。ただし、「幽霊など出なかった」とすると、説明できない現象(地面がせり上がるとか)もあったし、クライマックスから考えると、やっぱりお化け映画だったのかなぁ???

・一見して気付くのは、本作には水と雨のイメージが多用されていることだが、これはどうしてだか分からない。水のイメージで統一されているインド・ホラーといえば、タミル映画の【Earam】が思い付くが、あれも本作も犠牲者が「水死」しているという点で共通している。だが、それが水のイメージを生んだと言えるかどうかは自信がない。(実を言えば、元ネタの【Alone】からして水と雨のイメージが多用されているのだが。)

・何はともあれ、ホラー映画に使われる水のイメージは「冷たく暗い」ものだが、それがどうも南インドの気候風土とは相性が悪いような気がする。インドでは水や雨は乾きや暑さを癒す穏やかなもので、冷え冷えと凍て付くといったイメージはない。やっぱり南インドのホラー映画は、明るくごてごてしており、【Kanchana】(11)のような「笑えるホラー」か、いすからずり落ち必至の「トホホラー」が正しい路線だと思う。

◆ パフォーマンス面
・ラルさんの「サンニ博士」が見られるというのは喜ばしいことだが、上で触れたとおり、作品の質が質だけに、適切な土俵だったとは思えない。やはりこういう「千両キャラ」は、それに相応しい大一番で見たいものだ。

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・最重要人物である双子のギーターとアンジャリを演じたのは新人のキールティ・スレーシュ。容姿やオーラとフェロモンの出具合からして、A級ヒロインとしてやっていくのは難しいと思ったが、個人的には好みのタイプだ。クライマックスでアヌープ(Nishan)に何度も飛び付き、抱き付くシーンはいじらしかった。

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・アヌープ役のニシャンは「やっぱり、こういう役か」と思った。煮ても焼いても食えんなぁ、このお方。

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・ベテラン陣では、キリスト教司祭を演じたナーサルは、結局どういう役回りなのか分かりにくかったが、おどろおどろしい空気は醸し出していた。

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・ケーララが誇るオジサマ俳優陣では、シッディクは、この頭で登場されると、分かっていても彼だと気付くのに時間がかかった(左)。
 ガネーシュ・クマールもなぁ、この人、こんなに丸顔だったっけ(右)。

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・イノセントは良かったと思う。ファンにしてみれば、何よりも問題なく声が出ていたので、ほっとしたことだろう(右)。
 ハリシュリー・アショーカンは、こういうキャラクターを出すのがプリヤダルシャン監督らしいが、不発っぽかった(左)。

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・もう一人、サンニ博士の「遊び相手」を演じたスワプナ・メーノーンは、ごくフツーの南インドの娘さんで、私、好きになっちゃった。
 (写真下:超ベテラン俳優のマドゥ翁と。)

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・少女時代のギーターとアンジャリを演じた双子ちゃんは、なんと、故コーチン・ハニーファの双子の娘さん(Safa & Marwa)らしい。

◆ テクニカル面・その他
・ヴィディヤサーガルの音楽については、何とも評価しにくい。
 双子姉妹の回想シーンを織り込んだ音楽シーンは良かった。

・BGMや撮影など、技術面は一定の水準をクリアしており、ホラー作品としての体面は保っていた。

◆ 満足度 : ★★★☆☆
◆ 必見度 : ★★★☆☆

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 11月17日(日),公開第1週目
・映画館 : Vision Cinemas,16:00のショー
・満席率 : 4割

 (オマケ画像:このお方こそ「笑えるホラー」に出演すべき、といった風貌のプリヤン先生。)

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