カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Bangalore Days】 (Malayalam)

<<   作成日時 : 2014/06/05 21:13   >>

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 恐ろしいもので、私がバンガロールに来てそろそろ16年になる。16年がどれくらいかと言うと、来た当時、うちの近所に「アイロンかけ屋」の親父がいて、路上でアイロンをかけているその親父の足下で小学校も行かずに寝転がっていた子供が、今やすっかり成人して親父の仕事を継いでアイロンをかけており、今度はその足下で親父が酒に酔って寝転がっているという、インド的大河ドラマが味わえるほどの年月である。長くいるからといって「I love my Bangalore」というわけでもないのだが、慣れ親しんだ生活空間として、この街に対してそれなりの愛着と一体感はある。

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 さて、【Manjadikuru】(12)や【Ustad Hotel】(12)で高い評価を得ている新進気鋭の女流監督アンジャリ・メーノーンが、ケーララの作家でありながら「バンガロール」の名を冠した新作を発表した。これにはファハド・ファーシル、ドゥルカル・サルマーン、ニヴィン・ポーリ、ナスリヤ・ナシーム、ニティヤ・メーナンら、マラヤーラム映画の新世代スターが顔を揃えており、スタッフも音楽監督がゴーピ・スンダル、撮影監督がサミール・ターヒルと、もう観なくてもどんな映画に仕上がっている分かるくらいである。
 私的には我が街「バンガロール」をアンジャリ・メーノーンがどう表現しているか、注目だった。
 (追記:【Ustad Hotel】はアンワル・ラシードの監督作品で、アンジャリ・メーノーンは脚本担当でした。以下もそうお読み変えください。)

【Bangalore Days】 (2014 : Malayalam)
脚本・監督 : Anjali Menon
出演 : Dulquer Salmaan, Nivin Pauly, Nazriya Nazim, Fahadh Faasil, Parvathi, Isha Talwar, Vijayaraghavan, Kalpana, Maniyanpilla Raju, Praveena, Prathap Pothan, Vinaya Prasad, Rekha, Sajid Yahiya, Nithya Menen(カメオ)
音楽 : Gopi Sunder
撮影 : Sameer Thahir
編集 : Praveen Prabhakar
制作 : Anwar Rasheed, Sophia Paul

題名の意味 : バンガロールの日々
映倫認証 : U
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : ドラマ
公 開 日 : 5月30日(金)
上映時間 : 2時間52分

◆ あらすじ
 ケーララ州のとある地方に暮らすクッタン(Nivin Pauly)とアルジュン(Dulquer Salmaan)とディヴィヤ(Nazriya Nazim)はいとこ同士で、子供の頃から大の仲良しだった。真面目なクッタンは大手ソフトウェア企業に就職が決まり、バンガロールに暮らすことになる。ディヴィヤはカレッジをトップの成績で卒業したものの、占星術師の忠告により、さっさと結婚することになる。彼女は先端企業に勤めるダース(Fahadh Faasil)という男と見合いをし、結婚式を挙げ、バンガロールに暮らすことになる。グラフィティ・アーチストでバイクレーサーのアルジュンは、バンガロールで何事かを成したいと思い、クッタンのアパートに転がり込む。
 ダースは仕事本位の男で、あまりディヴィヤにかまうことがなかった。それで彼女はダースとの結婚生活に疑問を感じるようになる。また、ディヴィヤ、アルジュン、クッタンの三人はバンガロールに移ってからも親しく交流していたが、それがダースの癇に障るところであった。
 ある日、クッタンは父(Vijayaraghavan)が入院した知らせを受け、急遽飛行機で帰省することになるが、その機内でミーナークシ(Isha Talwar)というエアホステスと出会い、一目惚れする。クッタンはその後運よくミーナークシと再会し、親しくなり、彼女のアパートに泊まりに行くようにもなる。しかし、彼女がまだ昔の彼氏と完全に切れていないのを知り、退散する。
 アルジュンはFMラジオ番組「グッドモーニング・バンガロール」を好んで聴いていたが、そのジョッキーのサラー(Parvathi)に関心を抱き、FM局を訪れる。そこで彼はサラーが身障者であることを知る。しかし、彼は彼女に強く惹かれるものを感じる。
 ディヴィヤとダースの関係は相変わらずぎくしゃくしたものだったが、ダースが留守のとき、彼女はダースの開かずの個室に入る。そして、そこに夫の昔の恋人の写真や記念物が所狭しと置かれているのを発見し、ショックを受ける、、、。

・その他の登場人物 : クッタンの母(Kalpana),ディヴィヤの父母(Maniyanpilla Raju & Praveena),サラーの母(Rekha),ナターシャ(Nithya Menen),ナターシャの父母(Prathap Pothan & Vinaya Prasad)

◆ ざっくりしたコメント
・都会に憧れ、田舎から都会に出て来た三人の若者が、それぞれアップダウンを経験しながら成長していくという、まさに旬のヤングスター、ドゥルカル、ナスリヤ、ニヴィンにお誂え向きの脚本だった。率直に言って、良い映画だと思うし、感動したし、アンジャリ・メーノーン監督作品らしく、非常に心地よかった。

・女流監督だから、と言うのはどうかと思うが、随所で細やかなセンスが光っている。例えば、映画開始から三人がバンガロールに出るまでの、物語の「起」の部分は活きていて、メインのディヴィヤ(Nazriya Nazim)の結婚式の場面はきれいに、コミカルに撮られている。これでつかみはOK。

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・三人の物語が緩やかに並行する形だが、クッタン(Nivin Pauly)とミーナークシ(Isha Talwar)の展開はコミカル、ディヴィヤとダース(Fahadh Faasil)の展開はシリアス、アルジュン(Dulquer Salmaan)とサラー(Parvathi)の展開は映画的に虚構性が強く、アクションなんかもあったりと、それぞれトーンを変えているのも面白い趣向だ。

・しかし、私は本作を観ていろいろ複雑な気持ちになったのも事実で、ここから意地悪オジサンになって言わせてもらうと、アンジャリ監督の作品というのは、【Ustad Hotel】もそうだったが、映画的・感性的には非常に魅力的で、感動もできるのだが、いざこうやってレビューを書こうと概念的に捉えようとすると、一体何だったんだ?と。メッセージ性というか、作家としての精神の強さが足りないような気もして、何だか「アッパークラスのお姉さまの夢」にお付き合いしているようにも思える。少なくとも、本作を観て「やられた」という感覚はない。

・老人、子供、身体障害者、動物を使って感動を煽るのは下策と言えるが、アンジャリ監督は好んでこの手を使っているし、本作でもそう。

・注目していたアンジャリ監督の「バンガロールの捉え方」だが、これにも肩すかしを食らった感じだ。バンガロールについてよく知らず、本作をご覧になる日本人の方に老婆心ながら言っておくと、本作で描かれているバンガロールは「バンガロールではない」。

・いや、確かに映像にはマジェスティックのバススタンドやバンガロールメトロなどの都市インフラ、実在するショッピングモールやレストランなんかが捉えられているのだが、リアリティーがない。例えば、本作で映し出された「MG Road」と私が実際に歩いて感じるMG Roadは全然違っており、確かにMG Roadに違いないのだが、「ここはどこ?」なのである。

・大体、バンガロールというのは、たとえカンナダ語話者が4割しかいないと言っても、カルナータカ州の州都であり、カンナダ人とカンナダ語に存在感のある街である。しかし、本作ではカンナダ人がほぼ登場せず、カンナダ語もほぼ聞こえて来ず、カンナダ映画のスターへの言及なども一切なし。メジャーであるはずのカンナダ色がここまできれいに無視されるとは予想もしなかった。

・登場人物の点でもそう。先端企業に勤めるダース、エアホステスのミーナークシ、ラジオ・ジョッキーのサラーなどは、確かに田舎にはいないタイプの人種だが、特に「バンガロールならでは」というわけではない。

・一点感心したのは、モトクロス・レースのモチーフ。これは私的にも盲点だったし、良いアイデアだと思う。しかし、モトクロスが「バンガロール名物」というわけでもない。

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・要は、アンジャリ監督はバンガロールを実体として捉えようという意図はなかったのだろう。彼女が描こうとしたのは、あくまでもケーララ州の地方出身者の目から見たイメージ的な「ロッキング・シティー」であり、空間的には、バンガロール郊外の(ケーララ人が比較的多い地区にある)「ゲーテッド・コミュニティー」を描いたにすぎないのだ。(もっとも、こういう地元色の薄いコスモポリタンな雰囲気とゲーテッド・コミュの存在はバンガロールの一特徴には違いないので、そういった点では「バンガロールらしい」と言えなくもないが。)

・バンガロールについては許せるとしても、内容的にも腑に落ちない点はある。本作のテーマは、都会に憧れる田舎の若者が大都会に出た結果、そこで何を失い、何を獲得し、何を再発見するか、ということだと思うのだが、ストーリーを点検すれば、ある大都会を舞台にする必然性もなかったように思える。一番象徴的なのは、ダースとディヴィヤの新婚カップルの展開。これは本作の最も重要なラインであり、アンジャリ監督も丁寧に描いているのだが、ちょっとおかしい。私は当初このダースという人物に、インドの大都会に出現した新人類、つまり「家族よりも仕事が大事/楽しい」という価値観を持った人物を見、これがディヴィヤ(田舎的な価値観を持つ)によってどう変えられるのか、ということが物語の焦点だと予想していた。ところが、実際にはそういうことではなく、ダースがディヴィヤにかまわなかった理由は過去の恋人ナターシャ(ニティヤ演じる)との一件に囚われていたからであり、ディヴィヤはダースの過去の囚われを解消するために尽力する。こういう「過去の囚われ」ということを主題にしたいなら、別に大都会もバンガロールもなかったろうにと思う。

◆ 演技陣へのコメント
・ドゥルカル・サルマーン(アルジュン役) ★★★☆☆
 役者としては大根だとも言われるが、こいつには華がある。本作でも十分カッコよかった。たぶん今最もバイクが似合うマラヤーラム俳優という点だけでも、当分飯を食っていけるだろう。

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・ニヴィン・ポーリ(クッタン役) ★★★☆☆
 やはりこの男は運が良い。バンガロールの大手IT企業に就職するケーララ青年って、彼のリアルライフまんまじゃないか。ほとんど役作りとか演技の必要はなかったと思われる。実際にこんなどんくさい田舎出のソフトウェア技術者はごまんといるので、笑ってしまった。
 (写真下:インフォシス勤務時代のニヴィンもこんな感じだったのだろうか?)

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・ナスリヤ・ナシーム(ディヴィヤ役) ★★★★☆
 特に言うことなし。本作でも目、眉、鼻、口を駆使したフェイスエクスプレションが効いている。可愛い。作品ごとに上手くなっている。

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・ファハド・ファーシル(ダース役) ★★★★☆
 ふ〜む、意外にも新世代スターのリーダー格になってしまったファハドだが、本作では貫禄さえ漂わせていた。登場時の劇場内の歓声も彼が一番大きかった(二番目はドゥルカル)。物語の終盤で大転回を見せるキャラクターだが、そこで笑ってしまわないように。

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・イーシャー・タルワール(ミーナークシ役) ★★★☆☆
 私がこの女優のファンになることはないと思うが、ムンバイ出身のモデル上がりの彼女にはスチュワーデス役は似合っていた。ダンスはできるようで、体の動かし方がきれいだった。

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・パールヴァティ(サラー役) ★★★★☆
 非常に感銘を受けた。ちりぢりのショートヘアに眼鏡と、一風変わった外見だが、色っぽかった。【Maryan】(13)でも書いたとおり、実力の割には大衆的人気を勝ち得ることができないまま、中堅女優になってしまった彼女だが、私は支持している。身障者という設定で、上で「下策」と書いたものの、本作の感動ポイントの1つではある。

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・ニティヤ(ナターシャ役)にも注目したかったが、ほんの友情出演だったので、評価できず。むしろ、その両親を演じたプラタープ・ポータンとヴィナヤ・プラサードがドラマを作っている。

・脇役陣はそれぞれ良かったが、クッタンの母を演じたカルパナーが印象的。田舎を出てバンガロールのフラットに移り住んでから、みるみる変容していく様が面白かった。

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◆ テクニカル面・その他(覚書)
・音楽 : ゴーピ・スンダル ★★★★☆
 音楽シーンでは2曲ぐらい良かったが、BGMのほうがさらに良い。モトクロス・レースのシーンでのピアノは意表だった。

・撮影 : サミール・ターヒル ★★★★☆
 観客をアンジャリ・メーノーン監督の魔術に陥れるに十分な映像だった。
 (写真下:こうやって並ぶと、アンジャリ監督の可愛らしさより、サミールのオモロ顔に目が行くなぁ。)

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◆ 完成度 : ★★★☆☆
◆ 満足度 : ★★★★☆
◆ 必見度 : ★★★★☆

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 5月31日(土),公開第1週目
・映画館 : Sangeeth,11:30のショー
・満席率 : 6割
 

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