カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Kaththi】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2014/10/28 01:57   >>

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 A・R・ムルガダース監督、ヴィジャイ主演の、お待たせ超話題作。
 改めて言及する必要もないが、このコンビには大ヒット作の【Thuppakki】(12)がある。本作ではヴィジャイが一人二役をやるということで、楽しみも倍増。
 キャストとして、ヒロインのサマンタの他に、ボリウッド俳優のニール・ニティン・ムケーシュ、ベンガリー俳優のTota Roy Chowdhuryが客演しているのも注目かもしれない。
 「Kaththi」は「刃物」という意味で、「Thuppakki」の「拳銃」に続いて、痛そうな題名。
 なお、本作は複数の(映画ファンにとってはどうでもいい)理由で公開日が揺れたが、なんとかディーパーワリに間に合った。

【Kaththi】 (2014 : Tamil)
物語・脚本・台詞・監督 : A.R. Murugadoss
出演 : Vijay, Samantha Ruth Prabhu, Neil Nitin Mukesh, Sathish, Tota Roy Chowdhury, その他
音楽 : Anirudh Ravichander
撮影 : George C. Williams
アクション : Anal Arasu
編集 : A. Sreekar Prasad
制作 : K. Karunamoorthy, A. Subhaskaran

題名の意味 : 刃物
映倫認証 : U
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : アクション/ドラマ
公 開 日 : 10月22日(水)
上映時間 : 2時間46分

◆ あらすじ
 コールカーターの刑務所からヴィヴェーク(Tota Roy Chowdhury)という囚人が脱獄する。警察は同刑務所の囚人カディル(カディレーサン:Vijay)に協力させ、ヴィヴェークを追跡する。カディルは持ち前の才覚で難なくヴィヴェークの足取りを辿り、結果、ヴィヴェークは捕まるが、カディルはまんまととんずらをかます。
 カディルはチェンナイへ行き、友人のダヌ(Sathish)と合流し、バンコクへ高飛びしようとする。ところが、空港でアンキター(Samantha)という女性に一目惚れしてしまい、電話番号まで教えてもらったため、海外脱出計画を取り止める。
 カディルは改めてアンキターに電話をかけるが、それが出鱈目な番号だったと分かり、地団太を踏む。ちょうどその時、ある男が何者かに銃撃される出来事に遭遇する。カディルとダヌはその男の顔を見て驚く。カディルに瓜二つだったからである。二人は意識不明のこの男を病院に入院させるが、この時カディルは自分の所持品をこの男のものとし、男をカディルに仕立てて、警察の目を混乱させようとする。この作戦はうまく行き、この男――ジーヴァー(ジーヴァーナンダム:Vijay)――は警察病院を経てコールカーターの刑務所に収監される。
 役人がカディルをジーヴァーと間違え、ある老人ホームへと連れて行く。それは本物のジーヴァーが運営しているホームだった。カディルはこのホームに渡る予定の250万ルピーを手にしたら、さっさと逃げる算段だったが、この時またしてもアンキターが現れる。彼女の祖父がここの入所者だったのである。カディルはしばらくここに留まることにするが、なぜか刺客に命を狙われたりと、不穏なものを感じる。
 その刺客を放ったのは世界的に有名な清涼飲料会社の社長シラーグ(Neil Nitin Mukesh)だった。カディルはシラーグの事務所に連れて行かれ、2億5千万ルピー払うからインドから出て行け、さもなくば老人たちの命が危ういぞ、と脅迫される。前金として鞄一杯の現金を手にしたカディルはすっかり高飛びする気になるが、老人たちにセレモニーの会場に連れて行かれる。それはジーヴァーを表彰するセレモニーで、カディルはここでジーヴァーという人物について知ることになる。
 ・・・
 ジーヴァーは社会活動家で、故郷タンヌートゥ村の農民の生活向上のために活動していた。この村は水が乏しく、村人たちは困窮していたが、ジーヴァーはこの地域に潤沢な地下水脈があることを探り当てる。だが、この事実は清涼飲料会社に知られ、策略で土地が横取りされ、工場建設が始まる。ジーヴァーと村人たちは抗議するが、逆にジーヴァーは逮捕され、憤った農民の中から集団自殺者が出る事態となる、、、。
 ・・・
 これを知ったカディルは、シラーグに金を返し、ジーヴァーに代わって農民たちと闘う決意をする。
 ジーヴァーと村人が起こした裁判の判決の日となる。判決はシラーグ側の姑息な手段により、村人側に不利なものとなる。
 弱ったカディルたちはマスコミに訴えようとするが、ニュース性がないとして、相手にしてもらえない。そこでカディルは名案を思い付く。それはカディルと村人(老人ホームの老人)たちがチェンナイに給水する水道管の中に座り込むという作戦だった。これは大成功し、給水がストップしたチェンナイでは大混乱が起き、大手マスコミも村人たちの実情と訴えを報道するようになる。だが、カディルは不安を感じていた。こうして有名になれば、本物のジーヴァーに気付かれるかもしれないからである、、、。

◆ ざっくりしたコメント
・批評家のレビューでは【Thuppakki】ほどではないというコメントも見られるが、口コミ評価では「面白い」、「良い映画」ということ以外、ネガティブなものは聞こえてこない。【Thuppakki】との比較は言いにくいが、社会派アクション映画としてはほぼ完璧な出来だと思う。

・娯楽アクション映画だが、強い社会的メッセージがある。そのメッセージの強度(取り上げたテーマの大胆さ、語り方の迫力)は、ムルガダース監督自身の作品では【Ramanaa】(02)に近いと思う。他との比較では、もうシャンカル監督の作品を挙げるしかない。

・ただし、シャンカル監督が好んだ「汚職」の問題は本作では比較的小さな扱いで、本作のテーマは水不足に悩む農民と彼らの生活を脅かす多国籍企業の横暴が中心となっている。前者の農民の問題は現実にインドの多くの地域で見られるものだが、後者の多国籍企業(この場合は清涼飲料会社)の問題に関しては、ムルガダース監督が具体的なケースを念頭に置いているのかどうかは知らない(ただ、コーラやペプシなどに対する抵抗感はインドでは日本より強いようである)。

・「水」というエッセンシャルなものをテーマにしたこと自体に監督の決意と成熟を感じる。インドに旅行/滞在したことのある方なら分かると思うが、世界的に見ても水の豊かな日本に比べて、インドはよっぽど水不足の地で、蛇口をひねっても水が出ないということは珍しくない。都市生活者の場合ならまだなんとかなるが、農業で生計を立てている農民にとって水不足は死活問題となる。雨が降らないといった自然的な理由なら諦めもつくが、わざわざ大企業が利潤を上げるために貴重な水(地下水)を奪うことはない。

・こうした過剰な搾取に反対する考え方はジーヴァーの他のセリフにもよく表現されている。ジーヴァーは共産主義者と設定されているが、妹に共産主義の定義を問われて、「イドリを5つ食べることができる人は、5つだけ食べて、6つ目は他の人に分け与えること」と答えている。

・この水の問題を映画的に表現するためにムルガダース監督が考えたアイデアは「水道管内での座り込み」。これにはおったまげた。そんなことが可能かと言うと、四六時中水が供給されている日本と違って、インドでは給水は時限的なので、できるのである(例えば、バンガロールでは2日に1度しか水が来ない。チェンナイでは毎朝早朝の2,3時間だけの給水らしい)。

・他にもいろいろな社会問題が盛り込まれていたが、私的に興味深かったのは「外国人労働者のパスポート等の取り上げ」の問題。カディルと村人たちが裁判でシラーグ側と渡り合うためには、マレーシアやドバイに出稼ぎしている村の同胞を証人としてチェンナイに呼ぶ必要があったが、雇用主がパスポート等を取り上げているため、出国できないのである。雇用者が出稼ぎ労働者のとんずらを防ぐためによくこういうことをしているが、良いとは言えない。

・そうした社会的メッセージだけを軸に考えると、本作はわざわざヴィジャイが一人二役をする必要がなく、カディルという登場人物も要らないのである。ジーヴァーだけで1本の映画ができる。しかし、娯楽映画として見た場合、ヴィジャイが大学院出の社会活動家をストレートに演じたとしても、旨味がない。ヴィジャイ映画なら、やっぱりカディルのようなワルに暴れてもらわないと。

・しかも、カディルの活躍がうまく行けば行くほど、観客は「いつ本物のジーヴァーが現れるか?」ということが頭をよぎり、絶えずハラハラするのである。この辺のストーリー構成は上手い。

・上手いといえば、本作の語り口は緩急の付け方が上手い。コミカルなシーンかな、と思いつつ見ていたら、さっと緊張感のある場面へと移行したりする。(ネタバレしないように、具体的な説明はしないが。)

・ムルガダース監督らしい遊び心としては、平面図を見るだけでその場所の三次元構造が分かるというカディルの特殊(?)能力。こりゃ、ちょっとしたチッティだな。

・上で「ほぼ」完璧と、欠点を匂わす書き方をしたのは、疑問点、賛成できない点が何点かあるからだが、1つだけ挙げておくと、クライマックスのヒーローと悪役(ニール・ニティン・ムケーシュ演じる)の対決場面だ。ここは別の見せ方/決め方があったはずだし、ジーヴァー/カディルはずっと裁判を前提に闘ってきたのだから、こうじゃない展開のほうが良かったと思う(まぁ、「カッティ」なので、刃物をモチーフとしたかったのは分かるが)。

・しかし、このクライマックスで終わってしまうわけでなく、ここからさらにエンディングでひと山あるのである。このエンディングがまたインド映画的浪花節(変な言い方だが)で、泣ける。

◆ 演技陣へのコメント
・ヴィジャイ(カディレーサン/ジーヴァーナンダム役) ★★★★☆
 ヴィジャイの二役物といえば、たぶん過去に【Azhagiya Tamilmagan】(07)と【Villu】(09)の2作があったと思うが、二役のコントラストの面白さという点では【Azhagiya Tamilmagan】が一番かな。ただ、本作は二役の妙というより、ヴィジャイそのものの演技力を評価したい。【Thalaivaa】(13)を観たときにも感じたが、大衆を前にしての力強い長台詞が言えるというのは大きい。

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・サマンタ(アンキター役) ★★☆☆☆
 音楽シーン以外、大きな見せ場はない。しかし、文句を言うことはできない。インド・アクション映画のヒロインは伝統的にこんなもんだったし、彼女は数年前までトリシャーがやっていた役割を忠実に辿っているわけだから。ところで、サマンタの胸って、あんなに大きかったかなぁ?

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・ニール・ニティン・ムケーシュ(シラーグ役) ★★★☆☆
 多国籍企業インド法人社長兼悪漢として、全く問題なかったし、新鮮味も感じたが、ボリウッドで主役もしたことのある俳優にやらせるほどでもなかったかなぁ、とは思う。ただし、この役をやるために体を絞ったとか、タミル語のセリフをセルフダビングしているとか、そのプロ意識の高さには感服する。

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・もう一人の北インド俳優、Tota Roy Chowdhuryにも期待したが、全くの無駄遣いとしか言いようがない。

・サティーシュ(ダヌ役) ★★★☆☆
 サンターナムがやってもいい役だったが、本作では地味にサティーシュくんで来た。作品に変にアクセントが付かず、良かったかも。

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・本作は笑える部分がたくさんあったが、実はコメディアンが1人もいないという異色のタミル映画。ムルガダース監督自身がカメオ出演していたが、彼が一番コメディアンだったかもしれない。

◆ テクニカル面・その他(覚書)
・音楽 : アニルド・ラヴィチャンダル ★★★★☆
 恥ずかしながら、鑑賞中はずっとユワン・シャンカル・ラージャーの音楽だと思っていて、「さすがユワンくん」とか唸っていたが、アニルド・ラヴィチャンダルだった。【3】(12)と【Velaiilla Pattathari】(14)ではそれほど強い感銘は受けなかったが、本作は良い。まだ24歳ということで、これからが楽しみだ。

・音楽シーンは、ムルガダース作品にしては挿入のタイミングは普通だったが、個々の作りは悪くない。私的には、リッチなセット、グラフィックスを駆使したものより、1曲目の空港でのコミカルなアイデアのものがタミル映画らしくて好きかな。

・撮影 : ジョージ・C・ウィリアムズ ★★★★☆
 聞き慣れない名前の撮影監督なのでグーグルで検索したら、真っ先にアメリカの生物学者が出てきたので驚いたが、こちらはニーラヴ・シャーのアシスタントをやっていたカメラマン。【Raja Rani】(13)でも担当している人だった。空間の立体感をよく感じさせる良い撮影だったと思う。

・アクションはアナル・アラスの担当。コンセプトも面白いし、仕上がりもシャープ。アクション・シーンの1つに2人の女性が出てくるが、1人は「Tamiko Brownlee」という日本人と南アフリカ人のハーフらしい。

・コールカーターの場面では、言語は【7aum Arivu】(11)や【Thuppakki】と同じように、ヒンディー語かベンガル語の元のセリフの上にタミル語の声をかぶせるという手法を取っていた。

◆ 完成度 : ★★★★☆
◆ 満足度 : ★★★★★
◆ 必見度 : ★★★★☆

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 10月24日(金),公開第1週目
・映画館 : INOX (Jayanagar),10:00のショー
・満席率 : 6割
 

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タイトル (本文) ブログ名/日時
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
清涼飲料水工場が起こした環境汚染といえばケーララのコカコーラ事件が思い浮かびますね。確か最高裁まで行ったんでしたっけ。

サマちゃんのバストは…(ryu
メタ坊
2014/10/28 04:21
思い出しました。評判悪いですね、コカコーラは。それでもがんがん操業しているところをみると、さすが多国籍企業、パワーは映画のヒーローの比じゃないですね。
カーヴェリ
2014/10/28 10:18

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