カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Naa Bangaaru Thalli】 (Telugu)

<<   作成日時 : 2014/11/26 06:13   >>

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 テルグ映画というのは、昔も今もリッチな表現様式を誇るインド娯楽映画の見本といった感があるが、その分アート系映画には関心が薄いのか、国家映画賞なんかでは存在感が乏しい。そんなテルグ作品の1つが3つも国家映画賞を獲ったというので話題となったのが本作【Naa Bangaaru Thalli】。(国家映画賞だけでなく、Indonesian Film Festivalやアメリカのデトロイトで行われたTrinity International Film Festivalでも賞を獲得している。)

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 売春/人身売買を正面から扱った作品ということで、公開に先立ち業界人を招いたプレミア上映が行われ、鑑賞したサマンタやラーヴァンニャらの女優陣が賛辞を寄せている。
 監督はRajesh Touchriverというケーララ出身の社会派映画作家だが、本作品のキーパーソンとなるのはその妻のスニタ・クリシュナン。ベンガルール出身の彼女は社会活動家として知られ、「Prajwala」というNGO団体を通して売春やレイプ被害に遭った女性の救済・社会復帰を支援している。本作のストーリーはスニタが扱った事例を基に構成されているとのこと。
 (写真下:左端が監督のラージェーシュ。右から2人目の、サマンタの肩くらいまでの小柄な女性がスニタ。)

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 ところで、本作の公開にはよく分からないところがある。実は本作はマラヤーラム語とのバイリンガル作品で、マラヤーラム語版【Ente】のほうはすでに2013年の1月4日に公開されたようだ。それからすると、本作は2012年中に完成していたはずなのに、テルグ語版の公開がマラヤーラム語版より2年近くも遅れたのはなぜか。本作が受賞した第61回国家映画賞の発表は今年の4月にあり、それから数えても半年以上が経過しているのだから、ちょっと遅すぎる(同映画賞を受賞したカンナダ映画【December-1】のほうは早々と4月中に凱旋公開されている)。監督に対するインタビューを読むと(こちら)、テルグ映画界ではスター不在の映画は配給屋が付かなくて、みたいなことが語られているが、それにしても、なぜこの時期に降って湧いたみたいに、といった疑問はある。
 何はともあれ、音楽CD発表セレモニーにはメガスター・チランジーヴィも出席し、注目を集める形で公開に漕ぎ着けている。
 なお、本作の題名「Naa Bangaaru Thalli」は、言葉どおりの意味は「私の黄金の母」だが、親が可愛くて可愛くて仕方のない娘に対して使う表現で、「可愛い/大切な娘」といった意味になる。

【Naa Bangaaru Thalli】 (2014 : Telugu)
物語・脚本・監督 : Rajesh Touchriver
出演 : Anajali Patil, Siddique, Rathna Shekar Reddy, Lakshmi Menon, Neena Kurup, Anoop Aravindan, Sunil Kudavattoor, Warren Joseph
音楽 : Sharreth, Shantanu Moitra (BGM)
撮影 : Rama Thulasi
編集 : Don Max
制作 : Sunitha Krishnan, M.S. Rajesh

題名の意味 : 最愛の娘
映倫認証 : A
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : ドラマ
公 開 日 : 11月21日(金)
上映時間 : 1時間57分

◆ あらすじ
 アーンドラ・プラデーシュ州アマラープラムの村に暮らすドゥルガー(Anajali Patil)はソーシャルワーカーをしている父シュリーニワース(Siddique)から溺愛されていた。ドゥルガーは高校を州内8番の高成績で卒業したため、ハイダラーバードの大学に進学したいと希望していた。しかし父は、都会に出ると悪に染まるから、地元の大学に通うようにと言う。諦め切れないドゥルガーは父に内緒でハイダラーバードの大学の面接試験に応募する。
 ドゥルガーはクラスメイトのチャンディニの結婚式に出席した際、彼女の兄のヴィジャイ(Rathna Shekar Reddy)と知り合い、惹かれるものを感じる。ヴィジャイもそうだった。チャンディニの母とドゥルガーの母(Neena Kurup)の執り成しで、二人はめでたく婚約することになる。
 そうこうしているうちにドゥルガーはハイダラーバードの大学から面接試験の通知をもらう。ちょうどその時は父がハイダラーバードに出張中だったが、母の後押しで、ドゥルガーは列車に乗り込む。後に電話連絡を受けた父シュリーニワースは、ハイダラーバードの駅で娘を出迎え、ホテルの一室に泊める。
 ところで、シュリーニワースは地元の村と家庭内ではソーシャルワーカーを名乗っていたが、実は田舎出身の女をハイダラーバードの売春宿に送り込む人身売買ブローカーだった。彼のビジネスの元締はレッディ(Anoop Aravindan)というマフィアだったが、レッディはシュリーニワースが独立したがっていると疑い、思い知らせるために、ドゥルガーを誘拐し、売春宿に送り込む。
 ドゥルガーが送り込まれたのはパドマ(Lakshmi Menon)が管理している宿だった。ここでドゥルガーは次々と男を宛てがわれる。彼女はパドマに解放してくれるよう懇願するが、逆にパドマの口から父シュリーニワースの正体を知らされ、ショックを受ける。

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 シュリーニワースは娘が売春宿に送り込まれたと悟り、あちこちの宿を探し回る。そのうちの1つで雑用係をしていたムルガンという少年から、ドゥルガーがパドマの宿にいることを知らされる。ムルガンはパドマと電話で話し、ドゥルガーが今から郊外のリゾートホテルに運ばれるところだという情報をキャッチする。
 パドマとドゥルガーはリゾートホテルに到着する。シュリーニワースとムルガンも車で到着する。このホテルにはたまたま婚約者のヴィジャイも滞在しており、彼はドゥルガーを目撃して不審に思う。ドゥルガーの客はドバイの上客だったが、その男がドゥルガーに暴力を振るおうとしたため、パドマが制止に入る。しかし、その過程で男が死亡してしまう。パドマとドゥルガーは逃走するが、見張り役に追われ、パドマは射殺される。幸いドゥルガーはヴィジャイに救われ、シュリーニワースの乗って来た車を盗んで逃走する。ヴィジャイはドゥルガーをアマラープラムの実家へと送り届ける。遅れて帰って来たシュリーニワースは、自宅の玄関にいるドゥルガーに赦しを請おうとするが、、、。

◆ ざっくりしたコメント
・重たい社会問題を描くに当たって、ラージェーシュ監督はドキュメンタリー・タッチで来るか、商業映画タッチで来るか、注目だったが、上にリンク付けしたインタビューで監督自身が述べているとおり、多くの人に観てもらえるようにと娯楽映画のフォーマットで作っている。だからといって、コメディー・シーンや興味本位のレイプ・シーン、裸体の描写があるわけでなく、ストイックな作りになっている。

・マラヤーラム版が公開されたときは全く話題にならなかったようだし、批評家の評価も低い。ただ、私の感触では、マラヤーラム版は不当に扱われた感じがする。テルグ版は、映画賞受賞という既成事実もあり、プロモーションにも力を入れた結果、話題性は獲得している。それが観客の心理にプラスに働くだろう。しかし、それだけではないと思う。本作には社会問題の告発として十分に訴えかけるものがある。

・実は、人身売買/売春の問題はインドでは一般大衆も周知の事実であり、今さら映画で啓蒙されてもなぁ、というムードがあるかもしれない(「Prajwala」のホームページの記述によると、インドでは毎年20万人の女性(子供も含む)が新たに売春ビジネスに送り込まれているらしい)。こういう空気の中で、反売春、反人身売買の活動をする、映画を発表するという、スニタとラージェーシュの意志には頭が下がる。

・しかも、本作が映画だとして簡単に片付けられないのは、本作が「実話に基づく」とされていること。ドゥルガーを売春宿に叩き落す原因となったのが、愛され愛していた実の父親だった、という物語だが、これが実話だと思うと、やっぱりゾッとする。

・物語中のドゥルガーは、男が女に性的な悪戯をするのが絶対に赦せない人物として描かれている。これは本作の元ネタとなった実在の女性の人物像というより、スニタ・クリシュナン自身の思想が反映されているのかもしれない(スニタは15歳のときに集団レイプ被害に遭っているらしい)。

・村の少年が少女に性的悪戯をしようとして、ドゥルガーが叱り飛ばすが、その時少年が悪戯の理由として「テレビのショーで見たんだもん」と言うのが興味深い。

・毎年20万人もの女性が売春業に引き込まれる理由の1つに貧困の問題があるだろう。物語中でも描かれていたが、村の女性には仕事らしい仕事がないのである。それで「ソーシャルワーカー」のシュリーニワースに「うちの娘を何とかしてもらえんかね」と依頼することになる。その当のシュリーニワースにしても、おそらく仕事がなくて、家族を食わせるためにやむなくこの業界に足を踏み入れ、「社会の操り人形」として動くことになったんじゃないだろうか。

・「娘を何とかしてもらえんかね」と相談されたシュリーニワースが相手に「その娘はパスポートは持ってるか?」と確認するシーンが面白い。パスポートがあるなら、ドバイ等の海外へ飛ばすこともできるので、高値で取引できる。親(もしくは本人)が就職相談時に「パスポートはあるか」と聞かれたら、要注意ということだな。

・そのシュリーニワース自身は、娘のドゥルガーがハイダラーバードへ出たがるのを頑なに認めない。その理由はよく分かる。そのくせ、縁談が持ち上がり、婿候補のヴィジャイが仕事でアメリカへ移住する予定だと知ると、「それならOKだ」とあっさり認める。ハイダラーバードはアメリカより危険か?

・本作はドキュメンタリーではないが、通常の商業映画より重点的に裏業界の様子を描いているため、興味深かった。ハイダラーバードの売春宿にはたいてい「ロシア女」もいること、警察とつるんでおり、警官も重要な顧客であること、娼家同士は(たとえライバルであっても)かなり緊密な情報ネットワークで結ばれていること等。(政治家も有力な顧客であるはずだが、本作ではそれは前面に出されていなかった。)

・最も興味深かったのは、ドゥルガーが送られた娼館の女将パドマ。彼女も元々は学業優秀で無垢な村娘だった。ドゥルガーがパドマに懇願して「私はそういう女じゃないんです。高校を州内8番で卒業し、、」と言うのを受けて、「アタシは6番だったんだよ! それがアンタの親父に引きずり込まれて、この有様さ!」と暴力的にドゥルガーを働かせる。その一方で、ドゥルガーの気持ちも理解できるので、彼女のために涙を流す。この人物も実在したのかもしれないが、本作でもっとも映画的なキャラクターだった。

・クライマックスの、故郷の自宅に戻ったドゥルガーとシュリーニワースが対面する場面が見もの。

・本作はアートフィルムと商業娯楽映画の中間を行くものとして、こと娯楽映画として見るなら、同じく売春/人身売買をテーマにしたカンナダ映画【Jackie】(10)やタミル映画【Yuddham Sei】(11)より面白さがずっと落ちる。そして、ラージェーシュ監督(スニタと共に本作のプロデューサーでもある)が望むとおり、多くの人に観てもらいたいなら、【Jackie】や【Yuddham Sei】のほうが正解かなとは思う。しかし、ここでは映画的にどうだという評価は避けたい。どの道、現実世界では悪者をばったばったと倒してくれるヒーローは現れないのだから。

・じゃあ、この問題に対してどういう対策があるのかと言うと、難しいのだが、本作から感じ取れるメッセージは、一人一人が「確かに悪いこととは思うがなぁ、、」だけでは済ませない意志を持つこと、それと、ちょっとした想像力、つまり、自分の娘が、母が、妹が売春ビジネスを強要されているとしたら、と想像できる想像力を持つこと、ということだったと思う。

◆ 演技陣へのコメント
・アンジャリ・パティール(ドゥルガー役) ★★★★☆
 マハーラーシュトラ州ナーシク出身の女優らしい。本作で国家映画賞の「Special Mention」を獲得している。レビューでは評価は分かれているようだが、私は良かったと見ている。演技が上手かったというより、何より「役を生きていた」し、ラストで見せた表情も記憶に残る。(ただし、吹き替えはあまり良くなかった。)
 (写真下:父シュリーニワース役のシッディクと。)

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・シッディク(シュリーニワース役) ★★★☆☆
 マラヤーラム語とのバイリンガル作品とはいえ、どうしてテルグ映画にシッディクなのか、という疑問があったが、一見してシッディクにふさわしい役だということが分かった。ただし、特に演じるのに難しい役でもないので(クライマックスを除いて)、わざわざケーララからシッディクを呼んで来なくても、むしろテルグ語圏の観客を集めたいなら、テルグ脇役俳優を使ってもよかったかな、と思う。

・ラクシュミー・メーノーン(パドマ役) ★★★★☆
 上で書いたとおり、私にとって本作の感動ポイントだった。映画を観る前は、主にタミル映画界で活躍しているラクシュミー・メーノーン(【Kumki】や【Jigarthanda】のヒロイン)のことだと思い、混乱したが、同姓同名の別人だった。こちらのラクシュミー・メーノーンさんは大柄で男っぽい感じもするが、情の篤そうな女優だった。

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◆ テクニカル面・その他(覚書)
・音楽 : Sharreth, Shantanu Moitra (BGM) ★★★☆☆
 シャーンタヌ・モーイトラのBGMが国家映画賞の「Best Background Score」を受賞している。しかし私の耳には、映画賞を獲るほど良かったかな、という気はする。
 歌のほうはSharrethという人が担当しており、それほど良くもないのだが、エンディングの1曲はとても良い。

・撮影 : ラーマ・トゥラシ ★★★☆☆

・物語の舞台となったのは東ゴーダーワリ県のアマラ―プラム(Amalapuram)とハイダラーバードで、実際の撮影も同地で行われているようだった。ドゥルガーの出身地をAP州の東ゴーダーワリ県にしたのは、基になっている実話がラージャマンドリで起きたことだから、と監督は説明している。

◆ 完成度 : ★★★☆☆
◆ 満足度 : ★★★☆☆
◆ 必見度 : ★★★★☆

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 11月23日(日),公開第1週目
・映画館 : INOX (Malleshwaram),12:11のショー
・満席率 : 2割
・備 考 : 英語字幕付き 
 

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