カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Uttama Villain】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2015/05/07 20:45   >>

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 カンナダ俳優のラメーシュ・アラウィンドといえば、私がこちらへ来た90年代末にはすでに人気も評価も確立された俳優で、私も贔屓のスターの1人に数えていたが、監督業に手を染めるようになったころからスターとしての人気が落ち始め、ここ数年、ほとんど景気の良い話は聞かなかった。そんな彼が親友のカマル・ハーサンと組んでタミル映画を監督するという情報はかなり以前から流れており、起死回生の快心作を生むのではという期待がある一方、ラメーシュの手腕で大丈夫なのかという不安もあった。ただ、出演者の顔ぶれを見ると、殊に昨年12月に他界した名監督のK・バーラチャンダルも出演しているとなると、作品の出来がどうであっても、観ておきたい1本だった。
 (写真下:K・バーラチャンダルとラメーシュ・アラウィンド。ちなみに、ラメーシュはバーラチャンダルの作品で映画界デビューしている。)
 
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【Uttama Villain】 (2015 : Tamil)
物語・脚本 : Kamal Haasan
監督 : Ramesh Aravind
出演 : Kamal Haasan, K. Balachander, K. Viswanath, Nasser, Pooja Kumar, Andrea Jeremiah, Parvathi Menon, Urvashi, Jayaram, M.S. Bhaskar, Ashwin, Parvathy Nair, Chithra Lakshmanan, Shanmugarajan, その他
音楽 : M. Ghibran
撮影 : Shamdat
編集 : Vijay Shankar
制作 : S. Chandrahasan, N. Subash Chandrabose

題名の意味 : 善き悪役
映倫認証 : U
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : ドラマ
公 開 日 : 5月1日(金)
上映時間 : 2時間51分

《 あらすじ 》
 マノーランジャン(Kamal Haasan)はタミル映画界のスーパースターだが、もう若くもないのに、娘のような年頃の女優と歌って踊って恋をしてというスター・イメージに必ずしも満足していなかった。彼の日常には妻のヴァーララクシュミ(Urvashi)、息子のマノーハル(Ashwin)、義父で強力なプロデューサーのプールナチャンドラ・ラーウ(K. Viswanath)、忠実なマネージャーのソック(M.S. Bhaskar)、愛人の女医アルパナー(Andrea Jeremiah)らがいた。
 新作公開の祝賀パーティーの場で、マノーランジャンは衝撃の事実を二つ知らされる。一つは、25年前に別れた恋人のヤーミニーが当時自分の子を宿しており、その生まれた娘がマノンマニ(Parvathi Menon)という名で立派に成人していること。もう一つは、自身に脳腫瘍が見つかり、余命いくばくもないということだった。
 この二つの事実はマノーランジャンを25年前の、まだスターダムを駆け上がる前の状態に帰らせた。彼は高名な映画監督のマールガダルシ(K. Balachander)を師と仰いでいたが、義父プールナチャンドラと犬猿の仲だったため、疎遠となっていた。マノーランジャンは最後の1作はマールガダルシの作品に出たいと願い、義父や妻には内緒でマールガダルシに会いに行く。師は最初はこの申し出を断るが、マノーランジャンの病気のことを知り、引き受けることにする。
 最後の1作として製作が始まったのは「善き悪役(Uttama Villain)」という題名の、8世紀のタミル地方を舞台にしたコメディー・フォークロアだった。それは、ひょんなことから「死を超克した者(ムルテュンジャヤ)」と呼ばれるようになったテイヤム演者のウッタマン(Kamal Haasan)と、義兄を謀殺して王位を簒奪した悪徳王ムッタラーサン(Nasser)と、亡王の娘で撥ねっ返りの王女カルパガワッリ(Pooja Kumar)を巡る物語だった、、。

・その他の登場人物 : ジェイコブ・ザカリア(Jayaram),インディラ(Parvathy Nair)

   *    *    *    *

◎ テーマ : ★★★★☆
◎ 物 語 : ★★★☆☆
◎ 脚 本 : ★★★★☆
・ケーララ州に伝わる土着の憑依系宗教儀礼の「テイヤム(Theyyam)」を題材としているようだったので、特殊な「芸道物」かとも予想したが、そうではなかった。ストーリー的には、本作でテイヤムを取り上げる強い必然性はなかったようにも思える。

・二つの時代が描かれていると言っても、最近流行のヒーローの輪廻転生物ということでもなかった。単に現在の映画スターと監督が8世紀を舞台にした映画を作るというだけのことだった。しかし、この8世紀の物語の登場人物たち――テイヤム演者のウッタマン(Kamal Haasan)、王ムッタラーサン(Nasser)、王女カルパガワッリ(Pooja Kumar)――もヒラニヤカシプ、ナラシンハ、プラフラーダの物語を演じる場面があり、この歌舞劇が終盤で重要な役割を果たしている。この「映画中の映画中の演劇」という三層の入れ子構造がたぶん本作の要で、非常に効果を上げている。

・で、結局、本作は何を描きたかったのかというと、「死/不死」ということだろう。当然の如く、人間は死にゆく運命にある存在で、誰もがそのことを知っているのに、死を恐れ、死にゆく身を嘆き、不死を願う。だが、スーパースターのマノーランジャンは、自分の余命が数えるほどであることを悟ったとき、その運命を受け入れ、遺作として通俗的な娯楽映画を避け、師マールガダルシと共に観客の心に残る作品を作ることを選ぶ。なんとなれば、肉体が滅んでも、優れた「芸」は不滅だからである。

・皮肉なことに、死にゆくマノーランジャンが劇中劇で演じることになったのは、「不死(Mrityunjaya)」と呼ばれていたウッタマン。彼は不死を願う王ムッタラーサンに捕えられ、不死の秘訣を問われる。しかし結局、そのムッタラーサン王のほうが、不死の願望とは裏腹に、ウッタマンとカルパガワッリに殺される羽目になる。ここでのモチーフに使われたのが、死の恐怖の克服がテーマでもあるヒラニヤカシプとナラシンハの神話。このアイデアは面白かった。

・映画全体がここで終わり、ウッタマンの「不死ほど哀れなものはない、終わりのない物語を誰が聞いてくれようか」という台詞(詩句)で締め括られる。人生には結末があるから面白いんだ、という意味だと思うが、こういう諦観的な死生観がストーリーテラーの立場から表現されていて、興味深い。

・本作はまた別テーマとして、ここ2,30年のタミル映画の在り方に対する批判みたいなものも込められているように見えた。俳優マノーランジャンの運命は25年前の出来事を転機にがらりと変わる。彼は恋人のヤーミニーと別れ、ビッグビジネス志向の大物プロデューサー、プールナチャンドラの娘ヴァーララクシュミと結婚し、義父の後ろ盾で「大スター」の位置を得、「ヒーロー」を演じ続けることになる。だが、彼の芸術的な本能は燻っており、病気と娘マノンマニの出現で、敬愛するマールガダルシの映画に出ることにする。この流れは、巨大な娯楽マサラ映画の隆盛で、内容本位の芸術的映画が抑えられてきたタミル映画史の比喩とも取れる。マノーランジャンが劇中劇で「ヒーロー」ではなく「悪役」を演じるというのも、彼の2人の子供のうち、隠れていたのが娘(女性)だったというのも、示唆的だ。今後はマノーハル(たぶん娯楽映画の比喩)とマノンマニ(たぶん芸術的映画)のどちらもが等しく重要で、肩を並べてやって行かなければならない、ということが仄めかされて映画が終わっている。

・期待した「テイヤム」のほうだが、私が知っているテイヤムとはずいぶん違うものだった(同じなのはメイクと衣装だけ)。これは映画的に意図的に変えたのか、または、8世紀にはテイヤムはあんなふうに長閑な宮廷舞踊的な行われ方もあったのか、私には分からない。

・むしろ、テイヤム以上に印象的なのは、劇中劇「Uttama Villain」の場面で用いられた語りの様式「ヴィッル・パートゥ(Villu Paatu)」のほうだ。これはケーララ南部、タミル南部に伝わるものらしく、弓のような楽器(?)を使う独特のものだった。
 (写真下:本作でもこのお方たちが出演していたように思える。)

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・映画の出来としては、テンポが遅いとか、ラニングタイムが長いとかの批判もあるようだが、私は全く気にならなかった。むしろ、ラメーシュも適切なスタッフを持たされると良い映画が撮れるということを証明したようなものだと思っている。しかし、そうは言っても、本作はやっぱりカマル・ハーサンがラメーシュに撮らせた映画ということになると思う。(大体、キャストからしてカマル好みだし。)

◎ 配 役 : ★★★★☆
◎ 演 技
・カマル・ハーサン(マノーランジャン/ウッタマン役) ★★★★★
 さすが自作自演だけあって、良かった。ダンスも、冒頭のオヤジ・スターとしてもっちゃり踊る場面も、古典を踊る場面も、どちらも素晴らしい。
 (写真下:ヒラニヤカシプ役のカマル。プラフラーダ役のプージャ・クマールと。もはや素顔は分かりませんが。)

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・プージャ・クマール(女優/カルパガワッリ役) ★★★☆☆
 目立つ役で、なかなか面白く演じていた。ただ、やっぱりこの人の表情、ボディーランゲージはハリウッドっぽい。

・ナーサル(ムッタラーサン役) ★★★★☆
 情けない僭主をコミカルに演じている。上手い。

・K・バーラチャンダルとK・ヴィシュワナートについては何も言うまい。

・マノンマニ役のパールワティ・メーノーンは限定的な出番だったが、非常に良かった。アルパナー役のアンドリアはもっと女医らしい服装をしてほしかった。もう一人、パールワティ・ナーイルは可愛そうな役だった。

◎ 音 楽 : ★★★★☆
◎ BGM : ★★★★☆
◎ ダンス : ★★★★☆
・古典系の音楽には力が入っていた。

・ヴィッル・パートゥの楽団を紹介する場面で音楽監督のM・ギブラーンが顔を出している。

◎ 美 術 : ★★★★☆
◎ 衣 装 : ★★★★☆
◎ 撮 影 : ★★★★☆
◎ 特殊効果 : ★★★☆☆
◎ 編 集 : ★★★☆☆
・こういうものかもしれないが、トラ、ネズミ、鳥などのVFXがイマイチだったように感じた。

◆ 完成度 : ★★★★☆
◆ 満足度 : ★★★★☆
◆ 必見度 : ★★★★☆

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 5月3日(日),公開第1週目
・映画館 : INOX (Jayanagar),09:50のショー
・満席率 : 3割
・場内沸き度 : ★★★☆☆
・備 考 : 英語字幕付き

 (オマケ画像:この場面ではうるっときた。)

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