カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Kaaka Muttai】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2015/06/10 12:16   >>

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 映画賞を取った映画は何としても観たいわけではないが、このタミル映画【Kaaka Muttai】には観たい理由があった。1つ目は、本作はチェンナイのスラム民の生活を描いたものらしいということ(「インド貧乏物語」は、「インド田舎物語」と並んで、私のチェック対象)。2つ目は、【Polladhavan】(07)と【Aadukalam】(11)で成功したヴェトリマーランとダヌシュがプロデュースしていること。3つ目は、【Attakathi】(12)で端役ながら記憶に残ったアイシュワリヤー・ラージェーシュが出演していること。
 本作が一般公開されたのは先週末だが、すでに去年のうちに各地の映画祭に出品され、国家映画賞でも2014年の「Best Children's Film」と「Best Child Artist」(主演の2人の少年に対して)に輝いている。

【Kaaka Muttai】 (2015 : Tamil)
脚本・監督 : M. Manikandan
出演 : Master Vignesh, Master Ramesh, Iyshwarya Rajesh, Joe Malloori, Babu Antony, Ramesh Thilak, Yogi Babu, Krishnamoorthy, Silambarasan(特別出演), その他
音楽 : G.V. Prakash Kumar
撮影 : Manikandan
編集 : Kishore Te.
制作 : Vetrimaaran, Dhanush

題名の意味 : カラスの玉子
映倫認証 : U
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : ドラマ(風刺コメディ)
公 開 日 : 6月5日(金)
上映時間 : 1時間49分

《 あらすじ 》
 チェンナイのスラムに二人の幼い兄弟が母(Iyshwarya Rajesh)、祖母と共に暮らしていた。父は刑務所で服役中だった。当然一家は貧しく、鶏卵を買うゆとりさえなかったため、兄弟は近所の空き地の木に登り、カラスの玉子を取って、すすっていた。それで同じスラムに住むガキ連中から「カラスの玉子」とからかわれていたが、二人は意に介さず、自ら兄のほうは「デカ玉子」(Vignesh)、弟は「チビ玉子」(Ramesh)と名乗っていた。
 その近所の空き地にピザ屋がオープンし、タミル・スターのシランバラサンが来賓としてやって来る。兄弟はスターが美味そうにピザを頬ばるのを目撃する。また兄弟は家のテレビ(配給所でもらったもの)でもピザ屋のCMを見、結果、何としても「ピザを食べたい」と思うようになる。
 兄弟は学校へ行かず、線路沿いに落ちている石炭を拾い、それを売って小銭を得ていた。兄弟を可愛がっていた鉄道作業員の「フルーツジュース」(Joe Malloori)は、二人の望みを知り、こっそりと石炭の保管場所を教える。兄弟はそこの石炭を売り、ピザを買うための300ルピーを得る。
 しかし、二人はピザ屋で門前払いを食らう。着ていた服が粗末だったため、一目でスラム民だと知れたからである。そこで兄弟は新しい服を買うために、さらにあの手この手でお金を得る。そして高級ショッピングモールの入り口で、アッパークラスの子供からパニプリと交換で新しい服をもらう。
 その服を着てピザ屋にやって来た兄弟だが、やはり店長が入店を拒否し、兄のデカ玉子にビンタを食らわせる。同じスラムのガキがこの情けない光景をスマホでビデオ撮影する。意気消沈した兄弟が家に帰ると、祖母が亡くなっていた。デカ玉子はピザのために貯めたお金を葬式の費用として母に差し出す。
 ところで、このスラムに役立たずな二人組がいたが、たまたまガキの撮影したビデオを見、一儲け企む。二人組の片方(Ramesh Thilak)がピザ屋のオーナー(Babu Antony)に「スラム民を虐待するこのビデオをテレビ局に売るぞ」と言って、脅す。オーナーと仲間の政治家はそれを恐れ、10万ルピーで手を打つことにする。だが、行き違いで二人組のもう片方(Yogi Babu)がそのビデオを7千ルピーでテレビ局に売ってしまう。それが瞬く間にニュースで人権問題として報道され、大騒ぎとなる、、。

   *    *    *    *

◎ テーマ : ★★★★☆
◎ 物 語 : ★★★☆☆
◎ 脚 本 : ★★★★☆
・レビューに一通り目を通してみたら、ほとんどで「映画賞を取るようなインド映画は退屈なものと決まっているが、本作はその固定観念を覆すものだ」みたいに書かれていたので、笑ってしまった。なるほど本作は面白く、楽しかったが、それ以上に、タミル人のアート系映画に対するアレルギーが分かり、そっちのほうが面白かった。

・ただ私は、本作のような「賞も取れる楽しいタミル映画」の出現を歓迎している。7,8年前に興ったタミル・ニューウェーブの動きはもう終焉したが、代わって【Pizza】(12)や【Soodhu Kavvum】(13)に代表されるような「新娯楽派」とも呼べる動きが起きているのではないかと私は見ている。ただ、それだけではニューウェーブ作品の持っていた「メッセージ性」が吸収されていないので、もう一本別の流れが起きても不思議はないと思っていたら、去年、ランジット監督の【Madras】が現れた。この【Kaaka Muttai】もこの「アート風娯楽映画」の流れに連なるものだと思うし、今後これらの類作がいくつか作られるかもしれない(もう作られている?)。

・1時間49分の短い作品ながら、現代インド社会の諸相が手際よく盛り込まれている。基本テーマはスラムに暮らす貧民層の問題、経済格差の問題だが、二人の少年(兄弟)を中心に据えたスラム社会の様子がリアルに描かれていて、監督のM・マニカンダン自身がスラム出身者なのでは、と思ったほどだ。(ただし、私はチェンナイのスラムを直に見たことがないので、本当にあのようなのかは分からない。ちなみに、本作に描かれたスラムはチェンナイのどことは特定されていなかったと思う。)

・貧困と貧民の問題を扱っていながら、暗く、重くならず、告発調にもなっていないところが良い。それに、グローバル化、経済格差の問題が実にセンス良く、象徴的に表現されている。例を挙げると、スラムの近所に空き地があって、兄弟はそこの木のカラスの巣から玉子を取って食べるのだが、全部食べてしまわないで、カラスのために残してやる。しかし、企業家はその空き地にピザ屋(近代化の象徴)を建設するために、玉子を残すどころか、木ごと根こそぎ倒してしまう。また、兄弟は300ルピーのピザを食べることができないほど貧しいのだが、逆に、アッパークラスの裕福な子供たちは、道端で売っている10ルピーのパニプリを不衛生だという理由で親に買ってもらえない。

・本作の最も痛快な点は、こういうスラム民の問題を映画で扱う場合、ある種の作家は「人権問題」を盾に告発調の作品を作ってしまうものだが(またそういうのをインテリが好んだりするのだが)、本作ではその欧米風の「人権思想」さえ茶化しの対象としていることだ。スラムの少年が叩かれるビデオを見せられたピザ屋のオーナーと政治家は、人権問題として糾弾されるのを恐れ、あたふたとする。しかし、そのビデオがマスコミの手に渡ると、マスコミは待ってましたとばかりに「スラムの少年を虐待するとは! 差別だ、人権侵害だ!」と騒ぎ立てるが、実は視聴率狙いだったりする。さらにライバルの政治家もこの問題をライバルを蹴落とすチャンスとして利用しようとする。

・結局、マニカンダン監督は、西洋近代の人権思想はインドの貧困と差別の問題を解決する決定的な手段にはならないと考えているようだ。じゃ、何がスラム民の未来を約束するのかという点になると、台詞とかで言語的には語られていなかったが、おそらくスラム民自身の持っている活力に希望を抱いているようだった。本作に登場するスラムの人たちはもの凄くしぶとく、図太く、エネルギッシュに描かれている。あのハングリー精神と生きる知恵(したたかさ)があるならば、むしろ心配すべきは、スラムの子供の将来ではなく、パニプリを買ってもらえないアッパークラスの子供の将来ではないかとさえ思えた。

・話変わって、本作はちょっと変わっていて、主要登場人物の名前が言及されない。主役の兄弟さえ名前は一度も出て来ず、兄のほうが「Periya Kaaka Muttai(大きいカラスの玉子)」、弟が「Chinna Kaaka Muttai(小さいカラスの玉子)」だった。

◎ 配 役 : ★★★★☆
◎ 演 技
・ヴィグネーシュ&ラメーシュ(デカ玉子&チビ玉子役) ★★★☆☆
 子供の演技をどう評価したらいいか分からないので、3つ星にしたが、実際にはかなり良かった。このヴィグネーシュとラメーシュは、実際にスラム生活者だとも、本当に兄弟だとも書いてあるのを読んだが、どうなのかは知らない。ちなみに、他のスラムのガキたちはどうみても本物にしか見えなかった。

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・アイシュワリヤー・ラージェーシュ(母親役) ★★★☆☆
 スラムの苦労母としてやつれた小汚いメイクをしていたが、これは驚きの役作りだった(下)。

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 実際にはまだ26歳の可愛らしい女優(下)。

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 参考に、ワタクシの瞼に焼き付いてしまった【Attakathi】のアムダ役の動画を貼っておく。
 https://youtu.be/JmNLT-gV1VI

・お婆ちゃん(お婆ちゃん役) ★★★★☆
 兄弟の祖母役のお婆ちゃん、良かったよ。

・脇役陣では、鉄道作業員「フルーツジュース」役のジョー・マッルーリ(【Kumki】で部族長をしていた人)、ピザ屋オーナー役のバブ・アントニーが手堅く決めていた。

・スラムの役立たず二人組を演じたラメーシュ・ティラクとヨーギ・バーブも面白かった。

◎ 音 楽 : ★★★★☆
◎ BGM : ★★★☆☆
・歌は良かったが、BGMはちょっと重く、暗い感じになる部分があったのが残念だった。

◎ 衣 装 : ★★★☆☆
◎ 撮 影 : ★★★★☆
◎ 編 集 : ★★★☆☆
・撮影は要所要所で良いショットを決めていた。監督のマニカンダン自身が撮影しているとどこかのレビューに書いてあったが、しかし、そもそも監督のマニカンダンという人と、有名な撮影監督のマニカンダン(こちら)が同一人物かどうかは知らない。(たぶん別人だろう。)

◎ その他(覚書)
・兄弟が服を買いに行く高級ショッピングモールは「マイラップールのシティーセンター(Citi Centre, Mylapore)」と呼ばれていたが、これは実在するモールのようだ。

◆ 完成度 : ★★★★☆
◆ 満足度 : ★★★☆☆
◆ 必見度 : ★★★★☆

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 6月7日(日),公開第1週目
・映画館 : Gopalan Cinemas (RR Nagar),16:15のショー
・満席率 : 5割
・備 考 : 英語字幕付き

 

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